翌朝、和人からメールがあった。
『直葉にバレた!明日奈達が試合を見るかもしれない』
メールを受け取った修也はため息を吐くと今日のBoB本戦の参加メンバーをまとめた資料を漁っていた。
「恐らく今日の本戦に死銃も参加するはずだ……死銃らしき人物が出たのが十一月なら……恐らく今大会が初出場のはず……」
そう呟きながら修也は画面を並べて今大会に出る新参プレイヤーを見ていた。当然キリトと自分、シノンは排除して名前を見ていた。
「《銃士X》に《ペイルライダー》後は…《
どれも怪しいといえば怪しい。最初の銃士XのXは容疑者を表す隠語だし、ペイルライダーもヨハネの黙示録の死を司る騎士であるし、ステルベンもドイツ語で死を意味する医療用語である。一概に全員怪しく、これは直接会うしか方法がないと思っていた。
「ふぅ…どうしたものか……」
修也が顔を上に向けて悩んでいるとマキナがコーヒーをお盆に乗せて入ってきた。
「マスター、お茶を、持って、来ました、よっ!」
足元のおぼつかない様子でコーヒーを渡してきたマキナは修也に文句を言った。
「マスター、もっと部屋綺麗にしてくださいよ」
「誰も来ないから問題ないだろう」
そう言って見渡した自分の部屋は多種多様の積み上がった資料と夥しい数の付箋が壁中に貼り付けられ、本棚には買ってきた古本や洋書、専門書が多数置かれており、ベットには積み上げられたコピーされた紙、部屋の隅にあるラックには多くのモデルガンが置いてあった。その横にあるのは椅子型のマキナの充電器だ。さらに本棚にある専門書も入り切らずに床に積み上げられているのもあった。
まさに、お部屋というよりも汚部屋となっていた。
「もう!マキナが掃除をしても直ぐにこうなるんです。ちょっとは綺麗にする事を考えてください」
「ベットで寝れないならリビングのソファーで寝れば良いじゃないか」
「……ダメだこりゃ」
マキナが本気で眉間に手を当てて困惑していると取り敢えず寝れるとこだけでもとベットの上に乗っかっている紙をまとめているとマキナはベットに置かれた製図用紙に赤鉛筆とボールペンで書かれた物を見ていた。
「(これは……)」
マキナがそれを手に取って図を見ていると修也が上から抜き取るようにその紙を持って行った。
「マキナ、こっちはやっておくから机の方を頼む」
「あ、分かりました」
そう言って机の上の紙をまとめて片付けていたマキナを見て修也はホッとしていた。
「(また怒られてしまうからな……)」
修也は小さくぼそっと呟くと製図用紙を見ていた。
数時間後、部屋の片付けを終えて少し綺麗になった部屋を見て修也は時間を確認した。
「もうこんな時間か……マキナ、私は出かけてくる」
「分かりました。いってらっしゃい。マスター、お気をつけて」
そう言うと修也は家のことを任せてバイクを走らせた。
病院に到着し、安岐看護師と会うと昨日と同じように電極が貼られ、修也は一足先にGGOにログインをしていた。
「今日はこれを使おう。ついでにコレだな」
フリューゲルは銃を持ちながら装備を見ているとログインした時の音が聞こえ、男の娘キリ子がログインをした。
「よう、来たようだなキリ子」
「何ちゅう言い方すんじゃい」
キリトがツッコミを入れるとフリューゲルは茶化しながらキリトのアバターをいじる。
「見た目まんまだろう。アスナに連絡入れてやろうか?」
「それだけは勘弁してくだしあ!!アスナさんが爆発してまう!!」
綺麗な土下座をしたキリトを見て面白がっているフリューゲルは武器をしまうと街を歩いていた。
「ようシノン。今日は早いんだな」
「貴方もよ、フリューゲル」
そう言ってフリューゲルはシノンと総督府で出会って話をしていると後から追いかけてきたキリトがシノンに話しかけた。
「よ、シノン。よろしく」
「……よろしくって?」
妙に馴れ馴れしい様子のキリトを訝しむ目をシノンはしていた。無理もない、コイツの距離感は少し他人と外れているからな。現実世界とも……。
「そりゃお互いにベストをつすそうって話さ」
「そう……」
そうして試合前に三人は早めのエントリーを済ませた。
「じゃあ、時間もあるし。少し近くの店に行こう」
「え?」
「奢りだ。このアホのレクチャー代として」
そう言ってフリューゲルがキリトを指差すとシノンはため息をついた。
「貴方も大概迷惑かかっているのね」
「ご尤もだ」
「あはは…すみません……」
呆れたシノンはまあ、奢ってもらえるならばと近くの店に入って適当に飲み物を注文しようとした。
「……なあ」
「分かっている、絶対昨日のお前の試合だな」
そう言っているのは店の店内が騒がしい事だった。話の大半がキリトに関することで見た目と予選で光剣を振り回していた事だろう。クールビューティーなバーサーカーなんて言われている始末だった。
「応援してね」
「「「「ウオォォォォォォオオッ!!!」」」」
「何バカなことやっているんだ……」
シノンは試合前から疲れた様子のフリューゲルに思わず同情してしまった。
「さて、こっちでも一応調べたが。シノン、この詐欺男に試合の説明をしてくれ」
「奢ってもらったからいいわよ」
そう言ってアイスコーヒを飲みながらシノンはキリトに説明をする。ちなみにキリトはジンジャーエール、フリューゲルはコーラを選んでいた。
「基本的に、三十人のプレイヤーがランダムに転送されて最後まで生き残った人が優勝よ」
「なるほど……」
「でも、参加者がそれを使って隠れ切るのを防ぐために《サテライト・スキャン》って呼ばれる偵察衛星が十五分に一回だけやって来る」
フリューゲルもシノンの説明に混じってキリトに教えていた。
「ちなみに、一プレイヤーとの距離は最低でも一キロは離れている」
「一キロ!?そんなに離れていて大丈夫なのか?」
「お前な……拳銃でも交戦距離は五十メートル、狙撃銃に至っては六百メートルの撃ち合いになる」
「そ、そんなに……」
交戦距離の長さに普段のゲームとの色合いの違いにキリトは驚いていた。
「そ、むしろそれ以上近かったら乱戦になってしまうわ」
「剣の感覚で考えるんじゃない」
シノンとフリューゲルはキリトに説明をするとフリューゲルはコンソロールを動かして三つの映像を二人に見せた。
「ちなみに、お前にいるかはわからないが今までのBoBの出場者だ」
「何でこんなの見せるのよ……」
「いや、こっちの重要な話でな……」
そう言い、キリトとフリューゲルはその名簿を軽く見ているとシノンが聞いて来た。
「フゥン……ねえ、もしかして昨日キリトがおかしくなった原因?」
シノンの鋭い質問にキリトはどう返答しようか悩んでいると。
「ああ、昨日。自分達にとって因縁の相手だ。本気で殺し合うほどのな……」
「何かパーティー中にトラブったとか……?」
「そんな甘いことだったら良かったがな」
「え?」
フリューゲルの言葉に思わずシノンは聞き返してしまった。
「本当の命をかけた殺し合いだ。奴らは人の常識から逸脱した…狂人だった……」
「そうだな…人の命を何とも思わない奴らだった……」
「命が無くなるのを知っていて、それを見て楽しむ。とも言うべき存在だな……」
迷いのない目でどこか忌々しげに話した二人にシノンはある予感がした。
「…あっ、変なこと言って悪い。忘れてくれ……」
「…『もし、その銃弾が、現実世界のプレイヤーを殺せるなら。それでも君は引き金を引けるか……?』」
「っ……!?」
キリトが思わず息を呑んだ。昨日の決勝で彼女に向かって行ったことをそのまま鸚鵡返しされたからだ。
「ねえ、まさか貴方たち…
「……ああ、君の予想通りだ。私たちは《SAO生還者》だ」
「……その…ごめん」
勘づいて口にしてしまった事に思わずシノンは反射的に謝ってしまう。こう言うところを見ると根は良い子というのが滲み出ている。
「もういい、あれは過去の事だ。どれだけ言っても過去は変わらないさ」
「そうだな……気にしなくていい」
一瞬の沈黙が響き渡り、重々しい空気になってしまうとシノンが口を開いた。
「……そろそろ待機ドームに行きましょう。装備の点検とかしないといけないから」
「ああ、そうだな」
「行くか……」
三人は立ち上がると控え室に向かうエレベーターに向かう途中、沈黙を破ったのはシノンだった。
「貴方たちにも事情があるのは分かったわ。けど……」
するとシノンが手銃を自分とキリトの背中に押し当てる。
「私との約束は別の話よ。昨日の決勝戦の借りは必ず返すわ……フリューゲルも、あなたたちは私が必ず倒す……だから、私以外のやつらに撃たれたら、許さないからね」
「もちろんだ」
「……分かった」
そう言うとエレベータが到着し、そこでシノンとは別れた。
「じゃあ、また試合で」
「ああ」「待たな」
そうして別れるとフリューゲルはキリトに今回の本戦に参加するメンバーを見せた。
「キリト、この中で《銃士X》《ペイルライダー》《ステルベン》が新規の三人だ」
「よく調べたな」
「事前に公表されているんだ。むしろ調べたりしないほうがおかしい」
そう言いながらフリューゲルは二人で死銃が誰なのかを予想していた。
「正直に言って全員怪しい。《銃士X》はXは容疑者の意味を表し、銃士をさかまさにすれば《しじゅう》になる。ペイルライダーも死を司る騎士の名。ステルベンもドイツ語で死を意味する病院用語だ」
「なるほどな……」
「情報提供はしたぞ。じゃあ、私は装備を整えてくる」
「ああ、分かった」
そう言い残すとフリューゲルは席を立ってどこかに去って行った。残ったキリトはフリューゲルからもらった情報を精査して、死銃が誰なのかを予想していた。
キリトと別れたフリューゲルは更衣室に入り、今回の試合で使う装備を装着していた。
「準備よし、あとは……」
フリューゲルはコンテナを使うことで知ったシステムの穴を使ってキリトたちが驚くような事をしようと考えていた。
しかし、そんなことよりもフリューゲルは優先することがあった。
「(死銃…必ず……)」
フリューゲルは思わず拳を強く握って精神を集中させているとアナウンスが入り、全身がどこかに飛ばされる感覚に包まれた。