午後八時三十分、試合が始まって三十分が経過した。
自分が最初に飛ばされたのは砂漠地帯。コンテナを背負って砂丘の岩山の上からMag−Fed 20mmライフルを構えて待っていた。
「……」ドォンッ!
有効射程が四.五キロもある化け物狙撃銃は千メートルの相手を組んでいたであろう仲間共々を吹き飛ばした。
「対艦ライフルかよ……」
その威力にフリューゲルは思わず苦笑してしまうとMag−Fed 20mmライフルを背中に差すように入れると今度はパンマガジンタイプのRPー46を持って砂漠地帯を走り始めた。
どうせ、死銃は拳銃を使って相手を死に至らしめる。そうそうやられる腕前ではないだろう。
そう考えてフリューゲルはサテライト・スキャンでシノンのいる場所を確認すると目につく敵を片端から倒していた。
「お兄ちゃんなかなか映らないね」
「キリトさんの事だから飛ばしてくると思っていたのに……」
「いやいや、あー見えて結構アイツ計算高いからどこかに隠れているんじゃねえか?」
リーファ、シリカ、クラインがアスナの借りている部屋で談笑しているとアスナが苦笑していた。
「いやぁ……キリトくんでも流石にそこまではしないと思う…けどなぁ……」
「そーですよ、パパならきっとカメラに映らないほど一瞬で後ろからフイウチですよ」
アスナの左肩に乗っているユイが相応とリズベットが苦笑していた。
「あはは……それはありそうね。銃じゃなくてしかも剣でね」
一瞬だけ全員がその姿を想像して朗らかな笑い声が響くとシリカの膝の上で小竜のピナが耳をぴくぴく動かしていた。
全員がアルブヘイム・オンラインでログインをしてGGOの中継を見ているとクラインがアスナに聞いていた。
「そういやあブレイドのやつも居るんだっけか?」
「え?ああ、そう言えばそうだったわね」
「へぇ〜、アイツも居るんだ。あの鉄仮面野郎」
「リズさん、鉄仮面って……」
シリカが思わずリズベットに苦笑しながら返事をしてしまっていた。しかしリズベットはそんなのも気にせずに学校での彼をブツブツと呟いていた。
「だって、いっつも授業の時も休み時間の時も、同じ顔しているもん」
「まあ、元々アイツは表情の起伏が少ないしな」
「そう言えばここゲームで最近見かけませんでしたね」
「このゲームにハマっているのよ」
そう言って映像の方を見るとシリカは納得した様子で頷いていた。
「なんかキリトが言うには別アカ作って入っているらしんだよね」
「へぇ〜、じゃあ名前が違うって事ですか」
「探し辛えったらありゃしない」
そう言ってクラインが呟き、映像が変わった時。その光景に全員が唖然としていた。
「「「「「何これぇ……」」」」」
そこには大量の爆炎とその爆炎に銃を放つ多数のプレイヤーがいた。
「(流石にまずいな……)」
砂漠の砂丘の影に隠れているフリューゲルは激しい攻撃を受けていた。
ドォンドォンドォンッ!
ダダダダダダッ!
バァンッ!
投げ込まれるプラズマグレネードに、多数の実弾。爆風で少しでも顔を上げれば一気にHPが全損してしまいそうだった。
「五対一はずるいだろ!!」
思わずそう叫んでしまうほどに今は不利な状況であった。キッカケは先ほどの砂漠地帯で二人組で組んだチーム三つと鉢合わせてしまい、絶体絶命のピンチとなっていた。砂丘に滑り込む直前に一人をやったが、それでも五人残っていた。
ザザーッ!
フリューゲルの声に誰か気づいたのかさらに攻撃は増し、危うく死ぬところだった。砂が大量に飛び散り、頭から砂をかぶっていた。
「…行くか……」
フリューゲルは投げられたグレネードに向けて拳銃を向けると放物線に乗っかって飛んでくるグレネードを撃ち抜いた。
パンパンッ!ドゴォォオオオン!!
空中で誘爆したグレネードの爆炎で敵の攻撃が止み、その一瞬をも逃さずにフリューゲルは砂丘の山から飛び出し、持っていたRP−46を持って突撃をした。
ダダダダッ!
「アッ!」
「ゴッ!」
「このっ!」ダダダダッ!
パァンッ!「ガァッ!」
三人を持って行き、そのうちの一人を盾にフリューゲルは片手で軽機関銃の引き金を引いた。
パァンッ!
「ゴフッ!」
「クッソォオオ!!」
残り一人となり、ヤケクソで最後の一人が《H&K HK416》を放っていた。地味にフリューゲルが欲しいと思っている銃なので後でこのプレイヤーに何処で銃を手に入れたのか後で聞こうと思っていた。
「ふぅ…案外何とかなるものだな……」
フリューゲルはDEADも文字が浮かび上がる中心でホッと息をついていた。
「……そろそろ移動しなければ」
これほどの大戦闘、音を聞きつけてさらに人が襲ってくるだろう。フリューゲルはそう呟くとマップ中央の廃墟都市まで走り始めた。
砂丘での戦闘を見ていたアスナ達は全員が同じ気持ちだった。
「「「「「(今の絶対ブレイド(さん)だ……)」」」」」
一連の動きを見てここにいる全員が同じ気持ちだった。ブレイドと接点の少なかったリーファですらそう思っていた。
「あんな動き……」
「ああ、絶対アイツだろうよ」
「プレイヤー名わかる?」
そこでシリカが手をあげた。
「あ、調べますね。えーっと……フリューゲル?って読むのかな?」
「そうだな、ドイツ語で羽って意味だな。英語をそのまま変えただけかよ」
「あんたドイツ語わかるの?」
リズベットが聞くとクラインはその訳を答える。
「大学でドイツ語選んでいたんだよ」
クラインがそう話すとアスナ達はホェーと言った様子でクラインを見ていた。
「なんだよ」
「いや、あんたもちゃんと勉強していたんだって思って」
「そりゃ、こっちは社会人だぞ。当たり前だ」
クラインはブランデーを飲みながら映像を眺めていた。
シノンとキリトは森から鉄橋を眺めて戦闘を見ていた。キッカケはシノンが端にいるダインを狙おうとした時、キリトがシノンを説得して戦闘の様子を眺めていた。すると死銃候補の一人《ペイルライダー》が橋の上で《ダイン》と戦闘をしていた。
ペイルライダーは三次元機動でダインをショットガンで圧倒していた。
「(すげぇ、あんな闘い方があるのかよ…このゲーム面白い……)」
仕事が終わったらフリューゲルと一緒にやるのも良いかもしれない。
キリトはそんな事を思いながら戦闘を眺めているとペイルライダーが突如倒れた。
「「!?」」
二人して何が起こったのか分からなかったがシノンがスコープを覗いたことでその理由がわかった。
「で、電磁スタン弾……!?」
「な、なんだそれ……?」
初めて聞くものにキリトは困惑していると、シノンはわかりやすく解説してくれた。
「簡単に言えば相手を麻痺させるための弾丸。値段が高い上にそこそこ大口径の狙撃銃じゃないと撃てないのに……!?」
それはいきなり現れた。橋の上にボロマントを羽織った骸骨のマスクに赤いライトを灯らせた幽霊のように不気味なプレイヤーだった。
「っ…いつからあそこに……」
シノンが無意識にそう呟くとボロマントの持っている武器を見て驚愕した。
「ーー《サイレント・アサシン》」
正式名称《アキュラシー・インターナショナル・L115A3》
サプレッサーが標準装備の対人用狙撃銃である。イギリス軍が保有する狙撃銃L96A1を置き換えるために発注され、死にゆく時の音が聞こえないことから《
噂では聞いていたが、まさか持っている人がいるとは思わなかった。ちなみに似たようなものでVSSというレア武器もあると言われていた。
シノンが驚いている中、ボロマントはL115を右肩に担ぎ、倒れたままのペイルライダーに近づいた。
そしてペイルライダーに近づくと徐に拳銃を取り出した。
「拳銃なんかでトドメを……?」
少なくとも拳銃なんかでHPを全損させることは出来ない。S&W M500ほどの威力ならいけるかもしれないが……。しかし、西日が強く、拳銃の種類まで判別はできない。
二人が困惑をしているとボロマントは胸の前で十字架を切る動作をした。
「……シノン、撃て」
「え?どっちを?」
キリトの張り詰めた声に思わず疑問に持つと切迫した声でシノンに叫んだ。
「あのボロマントだ。頼む、撃ってくれ!あいつが撃つ前に!」
キリトの声にすぐさまトリガーを引いた。
轟音と共に12.7mm弾が発射され、ボロマントに命中……しなかった。
「なっ……」
ボロマントの男はシノンが引き金を引いたのと同時に体を逸らせて避けていたのだ。
あり得ないことにシノンが絶句をしているとボロマントの男はスコープ越しに自分の眼を捕らえていた。
「あ…あいつ、最初から気づいていた……私たちが隠れていることに……」
「まさか!」
シノンは咄嗟にレバーを引いて引き金を引こうとしたが、避けられると思い、一瞬の迷いがあり、引き金を引くのを堪えてしまった。
その時だった。
パァン!!
自分達のいるほぼ反対側。ちょうど山岳エリアから弾丸が飛来し、ペイルライダーの直上で破裂した。
炸裂した金属片と爆炎はペイルライダーを包み込み、ボロマントを一歩飛び退かせた。
炎に包まれたペイルライダーは《Dead》の文字が浮かび、ボロマントは悔しげに見ていた。
「な、何が……」
ドォンッ!
シュンッ!パァンッ!
遠くから銃声が聞こえると今度はボロマントの近くで鉄橋の骨組みを貫通して、破裂した。
ダメージエフェクトを確認した、ボロマントは慌ててから飛び降りて姿を消した。
「今のって……」
「あっ!あそこっ!」
キリトが指さした先、目線でギリギリ見える範囲の岩山の上に、赤い影が見えた。
「あんな距離から!?」
「す、すげえな……」
キリトも思わずそう呟いてしまった。目線でギリギリ、それも彼のアバターが赤くて目立つからであり、もっと日が落ちていればおそらく見えなかっただろう。
そのくらいの距離から彼は狙撃をしていたのだ。距離にしておそらく二千メートル、世界クラスの化け物である。
「フリューゲル……」
彼女はそのアバターを動かしている名をつぶやくと夕焼けを背に、岩山に立つ赤い鋼鉄の戦士を眺めていた。