洞窟から出た二人は少し離れた所に向かうとサテライト・スキャンを待った。
午後九時四五分、サテライト・スキャンを確認した二人は名前を見ていた。
今確認できる名前はここにいる二人と何人かのプレイヤー。しかし、廃墟都市にいたプレイヤーは相打ちだろう、一気に二人とも消えてしまった。
「相打ちか……」
今マップに映っていないのはシノンとステルベンだけだ。確実にステルベンが死銃だろう。そしてそれ以外に残っているのが……
「『闇風』か……」
なかなか面倒な相手が残った。と思いながらフリューゲルは何も写さなくなった端末をしまうと洞窟に戻った。
「どうだった?」
洞窟に戻るとシノンが早速状況を聞いてきた。
「残っているのはここにいる三人と死銃、そして『闇風』だ」
「また面倒なのが残ったわね……」
シノンとフリューゲルが頭を抱えていると何も知らないキリトが聞いてきた。
「その闇風ってどう言うプレイヤーなんだ?」
「ようはALOの私だ、AGIを極めた高速プレイヤーだ」
「げっ、それは面倒だな……」
フリューゲルの簡単な説明にキリトは思わず声に出てしまった。
「ねえ、《死銃》の現実世界の共犯者は私の家にいるんでしょ?だとしたら闇風が死ぬ可能性はないんだから、この際囮になってもらえば?貴方達が自分を危険に晒さなくてもいいじゃない」
「もし、死銃の狙いが『闇風』だったらどうする」
「あっ…そっか……」
フリューゲルの答えにシノンは思わず言葉に詰まってしまうとフリューゲルは作戦を伝えた。
「計画を話す。キリト、君は西から来る『闇風』を迎え撃て」
「俺が?」
「前例にないプレイヤーは動揺を生む。対策もしにくいだろうから適任だ」
「了解だ」
「シノンは私の後衛。恐らくは接近戦になる。正確な射撃を頼む」
「分かった」
シノンも同じように頷くとフリューゲルは背中に背負っていたコンテナの接合部に手をかけると金属の音と共にコンテナが下に滑り落ちた。
「最終局面だ。派手に行こうじゃ無いか」
そう言って落としたコンテナの蓋を開けた。そこには大量にベルトリンクされた弾薬と何種類かの箱型弾倉が入っていた。その中身に思わずキリトが声に出てしまった。
「何これぇ……」
「君たちが見たがっていたコンテナの中身だ。移動速度が若干落ちる代わりに大量の予備火器、弾薬を持ち運べる」
そう言うとコンテナから何かパーツを取り出すとそれをパンマガジンを外したRPー46に装着し、コンテナからベルトリンクした弾薬の束を入れてレバーを引いていた。
「これでこっちの準備は終わった。キリト!」
「ん?」
「これを使え」
そう言ってフリューゲルはキリトに光剣を投げた。光剣を受け取ったキリトは満足げに光剣を触っていた。最初期に買ったが完全にお蔵入りしていた物を持ってきたのだ。擬似的に二刀流となったキリトとヘカートを持つシノンにフリューゲルはストレージからアンツィオ20mm対物ライフルを渡した。
「これって……」
「私の使う狙撃銃だ。弾薬はコンテナにある」
「良いの?」
「問題ない。ただ,反動が大きいところだけは注意しろ」
「……了解」
シノンはフリューゲルから受け取ったアンツィオ20mm対物ライフルを背に持つとコンテナから弾倉を二個ほど取り出した。
自分の二倍近くある大きさの狙撃銃はSTRを高めている自分でもなかなか重く感じた。
これでさっきの狙撃が出来たのかと思うと納得だった。
「じゃあ、移動するぞ」
そう言うとフリューゲルはコンテナを背中にくっつけて洞窟を出て行った。
洞窟を飛び出した三人はそれぞれ別の方向に向かった。キリトは西側に、シノンは南側に、自分は真っ直ぐ砂丘を登っていた。
「(北側にはバギーを止めて射線を切った。西からくる闇風はキリトが抑えた。南側は岩山で登るにしても時間がかかる。だとすれば東側だな……)」
赤いモノアイを灯らせながらフリューゲルはシノンへとバトンを繋ぐ為に意識を集中させた。
風の吹く音
砂が巻き上がる音
急激に体温が下がる感覚となり、意識に周りの情報が
「……」ザザーッ!パシュッ!
咄嗟に砂丘から駆け下がり、頭のあった場所に弾丸が走る。相手も砂丘から狙えないのか走ってくる感覚を感じた。
そしてフリューゲルの額に予測線が当たった。その時、予測線がスッと消えていた。
「(よくやった、シノン)」
それがシノンの狙撃によるものだと確信した。これで最低でも相手のL115の破壊には成功した。
ザザはSAOの時は刺剣使いであった事を思い出し、接近戦に備えてヒートホークをすぐ引けるように構えた。
「流石はSAO帰還者、腕が鳴るようだな」
「《赤い雷鳴》、絶対、殺す」
「出来るならやってみるが良い」
フリューゲルの挑発にザザは表情ひとつ変えずに刺剣を持つ。
「あの時、毒ピックではなく剣を刺すべきだったな」
「くくく、今更、後悔しても、遅い。あの女を、殺す!」
「その前に私を倒して見せろ。リッパー」
フリューゲルはザザの刺剣を注視しながら銃を構えた。
砂漠の一角では二人の戦闘が行われていた。
「なかなかな腕だな…ありゃブレイドより早いんじゃないか……?」
残骸の影でそう呟くのはキリトだった。現在彼は闇風とタイマンをしており、相手の速度が思ったより早い事に驚いていた。
下手をすればブレイドと同等かそれ以上の素早さかもしれない。
持っている銃の集弾率が高く、二刀流でも完全に防ぐことができなかった。
「このままじゃジリ貧だな……」
こんな時、ブレイドだったらどうしたのだろうか。このまま隠れて時間を稼ぐか……。
『前例のないプレイヤーは動揺を生む』
ブレイドの言葉にキリトはある事が思い浮かんだ。
予想外の事をすれば相手は動揺を生み、対応に遅れが出る。ならば……
「覚悟を決めるか……」
死闘を繰り広げている親友を思いながキリトは光剣を持つと岩陰から飛び出した。
狙撃に成功したシノンはもどかしい気持ちになっていた。狙撃自体には成功したが、相手の高い回避能力でサイレント・アサシンを壊しただけに過ぎなかった。
現在、砂漠上でフリューゲルが死銃との死闘を繰り広げている中、何も出来ないシノンは頭を回転させているとふと前にフリューゲルとした会話が思い浮かんだ。
『スナイパーが全体を見通して作戦を考えるのはスコードロンも生き残る確率が高いという事だ』
フリューゲルと組んでいた時シノンがフリューゲルに聞いた何気ない話たっだ。
『常に落ち着いて全体を見通すと案外面白い発想が浮かんだりするぞ』
フリューゲルとの話を思い出したシノンは不意に呟いた。
「面白い…発想……」
そう呟いてシノンはフリューゲルから受け取った狙撃銃を見る。さっきの狙撃でスコープが破損してしまい、遠距離で撃つことは難しかった。しかし……
「(これなら…行けるかも……)」
シノンはアンツィオ20mm対物ライフルを持つと現在死闘が起こっている方向に照準を合わせた。
現在、戦闘はジリ貧であった。元がラフコフの幹部であったために彼の刺剣能力は高く、近づけば攻撃を食らっていた。一応、アーマーで何割かダメージは抑えられているが、こっちは新規アカウントの影響で刺剣の攻撃を完全には避けきれなかった。
「流石は元ラフコフ幹部。伊達じゃないな……」
「随分と、腕が、鈍ったな、《赤い雷鳴》」
「愚か者が随分と言うものだ」
「何?」
そこでフリューゲルは彼に言う。
「君らの犯行はこうだ。この世界で銃を撃つ時、既に目標の目の前にいる他の一人が毒を打つ。部屋に侵入するときはマスターキーを使って侵入する。そうだろう?」
「ククク、やはり、気づいて、いたか」
「子供の様な発想で笑ったな」
「……何だと?」
まさかの言葉に驚いているとフリューゲルは小馬鹿にした様子で言う。
「そうだろう?自分がレッドプレイヤーでありたいが為に、ゲームの感覚を引きずって現実世界に持ってきてしまう。ゲームを辞められない子供の様な感覚だと言っているんだよ」
「……」
フリューゲルの一言で完全にキレた死銃は持っていた刺剣を持って一気に突撃をする。
咄嗟にRPー46で攻撃を防ぐも銃身が割れてしまい、使い物にならなくなってしまった。咄嗟にRPー46を捨ててヒートホークを取り出す。
「(残るはHK45とM10か……)」
ヒートホーク片手にM10を片手に持つと死銃に向けて銃を放つ。死銃は刺剣で何発かを避けるも残りは切られ、余りダメージは入らなかった。
弾倉を交換する事も出来ないので、M10を戻すと渋い顔をした。
「(このままではジリ貧だ…どうしたものか……)」
その時、死銃に赤い線が当たった。方向からして恐らくシノンだろう。死銃は狙撃銃に警戒して大きく後ろに飛ぶ。
これはシノンが経験と閃きから生んだ
逃すわけにはいかない。
すかさずフリューゲルはヒートホークを持って死銃に急接近する。
今までに無いほど景色がゆっくり動き、光学迷彩で消えかけている中を左手にあるH&K HK45を二発放つ。
弾丸は二発あたり、勢いよくHPが減り、光学迷彩の効果が切れた。その事に驚く死銃にフリューゲルは右手のヒートホークで、斧を下から上に上げる。
ヒートホークが死銃の両腕を持って行った。
さらに減る体力にフリューゲルは畳み掛けた。上にあげたヒートホークをそのまま勢いを殺して上から振り下ろす。
脳天からヒートホークが突き刺さった。
不意に、あの時を思い出した。
家に来た強盗の頭を割ったあの時に……。
しかし、フリューゲルはヒートホークを下げる事を辞めず、そのまま一番下まで振り下ろした。
上から真っ二つにされた死銃は体力バーが完全になくなり、爆発を起こしたが斧を振り下ろした後に後ろに飛んだフリューゲルはほぼ無傷だった。
「終わったか……」
少なくともこの世界での戦闘の終わりを感じたフリューゲルはヒートホークを腰に引っかかるとそこに割れたスコープの付いたアンツィオ20mm対物ライフルとヘカートを持ったシノンが近付いてきた。
「やったのね」
「ああ、取り敢えずはな」
そう言うとシノンと赤目のザザを確認すると、そこには【Dead】の文字が浮かび、倒したことを確認したフリューゲルは一息ついた。
「ふぅ、取り敢えずキリト達の確認に行くか」
「そうね」
そう言ってお互いに砂丘を歩くとそこには二人の死体があった。一人はキリト、もう一人は闇風だった。闇風の胸にはキリトの光剣が、キリトは大量のダメージエフェクトがあった。
「相打ちか……」
「そう見たいね」
お互いに二人の死体を見るとため息を吐いた。
「はぁ、取り敢えずこっちでの仕事は終わったか……」
「そうね」
「まぁ、まだ気を抜かない方がいい。いくら死銃が倒されたとは言え、共犯者が逃げたのかどうか分からない。気を付けた方がいい」
「分かったわ」
フリューゲルの忠告にシノンは頷いた。フリューゲルの言葉は信用できるので、素直に聞き入れていた。
「でも、警察にはどうすればいいの?多分、信じてもらえないわよ」
「それはこっちでなんとかするが…住所とかをここで聞くのはな……」
「いいわ、教えてあげる」
「良いのか?」
すると当然と言わんばかりに彼女は言った。
「何か問題でも?じゃ無いと守ってもらいないし」
そう言うとシノンはフリューゲルに住所と本名を伝えた。
「私の名前は朝田詩乃。住所は東京都文京区湯島四丁目……」
「……了解。こっちもお茶の水にいる。すぐに行こう」
「え!?結構近くにいるのね」
「用事でな」
フリューゲルはそう言う内心、驚いていた。
「(これはたまげた。まさかシノンが詩乃さんとは……)」
フリューゲルは思わずシノンをじっと見ながらそう思っていると。シノンは忘れていたと言ってアンツィオ20m対物ライフルを返して来た。
そこにお土産をくくりつけて……
「お土産…グレネードか……」
「面白いと思うわよ?」
「ああ、そうかもな」
辺りが一瞬だけ、閃光に包まれると二人は大爆発に巻き込まれた。
試合時間:二時間四分三七秒。
第三回バレット・オブ・バレッツ本大会バトルロイヤル、終了。
リザルトーー《Sinon》及び《Flugel》同時優勝。