あの死銃事件から二日後。
朝田詩乃は現在キリトの運転するバイクに乗っていた。
理由としてはキリトの雇い主が私に話がしたいらしい。学校の目の前にバイクで来るとは思っていなかったが、目的地の銀座まで意外すとすぐに到着した。
「おーいキリトくんこっちこっち!」
「え、えっと……」
「すみません、
キリトが申し訳なさそうに言うと二人は菊岡と名乗る官僚の前の席に座った。
「あれ?赤羽くんは?」
「こんな危険な事件に巻き込んだ公務員には会いたく無いってさ」
「アハハ…こっちも把握していなかったのも悪いけどさ……」
そう言って苦笑している菊岡を横目に詩乃はメニュー表を見た。うわぁ、見た事ない値段だ……。
思わずメニュー表を閉じそうになるが、キリトが薦めるのでとりあえず適当に注文をすると菊岡が後の経緯を話していた。
修也が気絶させた新川恭二と《ステルベン》こと兄の新川昌一は逮捕されて、それぞれ警察病院と警察署に移送された。
その後、兄の昌一の証言から三人目の死銃である金本敦 SAOでの名前はジョニー・ブラックの存在が明らかになった。まだ金本は逮捕されていないらしいが、菊岡によれば捕まるのも時間の問題らしい。しかし念の為警戒は続けた方がいいとの事であった。
事件のきっかけは、兄の昌一があの透明化できるマントを入手してプレイヤーのリアル情報を盗み始めた事であった。
ちょうど同じ頃、弟の恭二がGGOでのキャラ育成に行き詰まり、かつてAGI万能論を唱えながら違うビルドを選択したゼクシードを深く恨んでいたらしい。
その事を恭二が昌一に相談すると、昌一はゼクシードの個人情報を恭二に教え、二人はゼクシードをどうやって粛清するかと議論しているうちに死銃計画の骨子が出来上がっていった。
その内容は大体がフリューゲルが予測したのと同じで、GGOで片方が目標を撃ち、もう片方が現実の目標を殺すというものであった。
話を聞き終え、喫茶店を後にした和人は菊岡の事で愚痴っていた。
「食えないやつだな……」
「さっきの官僚の話?総務省って言っていたけど……」
「ああ、
「どう言う事?」
詩乃が和人に聞くと和人はこの前の事を話した。
「この前会った時に奴の跡をつけたんだ。そしたら市ヶ谷で車を降りていたんだ」
「市ヶ谷?総務省って霞ヶ関にあるはずじゃ……」
「ああ、そして市ヶ谷にあるのは……防衛省」
「それって……」
嫌な予感が走ったが、和人は慌てて首を横にふった。
「あくまで憶測だ。警察と自衛隊ほど仲の悪い部署もないしな。だが……」
「……」
「前にフリューゲルが言っていたんだ。人の作り出したもので軍事転用されなかったものはほとんどないってね」
「フリューゲルが?」
「ああ、
ーー船は軍艦に
ーートラクターは戦車に
ーー車は装甲車に
ーー飛行機は戦闘機に
ーーロケットはミサイルに
ーーラジコンは無人攻撃機に
だからフルダイブの世界もいずれは軍事転用されるって……」
「……」
詩乃は和人の話を聞いていてどこか納得出来てしまった。たしかに今の話を聞けばいずれはVRも軍事転用されてしまうかもしれない。
すると和人はさらに話をしていた。
「産業革命以降の戦争はとにかく金が掛かるんだって。どこの国でもそれが問題になっていて、その予算をどうにか減らしたいって言うのが念頭にあるらしい。……シノン、今ここにスナイパーライフルがあったら撃てるか?」
「ええ、まぁ…出来る…わね。ゲームの時と同じ感覚だものね……」
「そう、VRでの経験は現実世界にも影響が出る。軍隊の訓練にもお金がかかるからそれをVRですれば……」
「その分のお金がかからない……?」
詩乃の言葉に和人が頷いた。
「そう、実際アメリカでは実験的にフルダイブで訓練をしているんじゃないかって言われている」
「そうなのね……」
そう話しながら和人達が駐輪場に着いた時、和人が聞いてきた。
「あ、そうだ。シノン、このあと時間あるか?」
「え?あるけど……どうかしたの?」
彼女は首を傾げると彼はある要件を言う。
「ちょっと合わせたい人がいるんだ。御徒町まで良いかな?」
「御徒町なら帰り道だから。良いわ」
「ありがとう。じゃあ、行こうか」
そう言うと二人はバイクに乗って御徒町に移動した。
御徒町の到着して、何本かの細い道を曲がりながら着いたのは【Daicy Cafe】とサイコロの付いた看板の下がった店だった。店先には『Closed』の札が下がっていた。
「用事ってここ?」
「ああ」
そう言って和人が扉を開けると店の中にそばかすが特徴の少女と茶色かかった少女が座っていた。
「おっそーい!待っている間にアップルパイ二切れも食べちゃったじゃない。太ったらキリトのせいだからね!」
「なんでそうなるんだ……」
すると茶色ヘアの少女が話に割り込んできた。
「それより早く紹介してよ、キリトくん」
「あ、そうだな。こちら、ガンゲイル・オンラインの三代目チャンピオン、シノンこと朝田詩乃さん」
「ちょっと……」
「で、あっちがぼったくり鍛冶屋のリズベットこと篠崎里香」
「なっ!何よその言い方!!」
思いもしない紹介の仕方をされ、里香が思わずパンチを喰らわそうするが軽くあしらわれ、床に転がっていた。
「んで、あっちがバーサクヒーラーのアスナこと結城明日奈」
「ひ、ひどいよー」
ふわりとした動作で明日奈は会釈をした。
「で、アレが壁のエギルことエギル」
「おいおい、俺は壁かよ。俺にはちゃんとママから貰った立派な名前があるんだ」
巨漢の男は分厚い胸板に手を当てて言った。
「初めまして。アンドリュー・ギルバート・ミルズです。今後とも宜しく」
流暢な日本語で挨拶をしたエギルに思わず詩乃は驚きながら挨拶をした。
「さ、座って座って。色々とお話ししたいし」
明日奈がグイグイくるせいで詩乃は若干戸惑ってしまった。
そしてされるがままに飲み物を渡され、明日奈が詩乃に色々と話し始めた。
「ともあれ、女の子のVRMMOプレイヤーと知り合えて嬉しいな」
「本当だね。色々GGOとかの話を聞きたいな。友達になってくださいね、朝田さん」
そう言って手を差し出した明日奈の言葉に、詩乃は突然すくんでしまった。もし今後、あの事件の事が知れたら明日奈は自分の事を嫌悪の色で見るのだろうと思うと、その手を取る事ができなかった。
詩乃がごめんなさい、と言おうとしたその時、明日奈がゆっくりと口を開いた。
「…あのね、朝田さん……詩乃さん。今日、この店に来てもらったのは、もう一つ理由があるの。もしかしたら詩乃さんは不愉快に感じたり…怒ったりするかもしれないけど、私たちはどうしても、貴方に伝えたい事があるんです」
「え……?」
意味がわからないと思っていると隣に座っていたキリトが頭を下げた。
「シノン。まず、君に謝らなければならない。……俺、君の昔の事件の事をこの二人に話したんだ。どうしても彼女達の協力が必要だったから」
「えっ……?」
疑問と動揺で頭がいっぱいになった。
「なんで…そんな…事を……」
「君は会うべき人に会っていないと思ったから、色々と調べたんだ」
「会うべき…人……?」
詩乃が困惑をしていると里香が席を立って『PRIVATE』と書かれた部屋の扉を開いた。そこには一人の青年がメガネをかけて待っていた。
見たことあるその姿に詩乃が驚愕をした。
「後は彼から話を聞くと良い。君が会いたがっていた人だと思うから」
そう言うとキリトは扉を閉じて部屋に詩乃と青年だけとなった。
「久しぶり、といえば良いのかな?詩乃さん」
「え…あ……」
詩乃を知っている様子で語る彼に自然と彼女は震えていた。
「君があの時の女の子だったとはね、驚いてしまったよ」
「そう、そうですね……わ、私!私…ずっと謝りたかった…あの日の事を……」
そうして詩乃と修也はお互いにあの日の事を話し始めていた。
「しっかし驚いたわね〜、まさか修也が昔あんな事してたなんてねぇ……」
「本当、普段の物静かさからは考えられないね」
そんな事を言いながらカウンターで里香と明日奈が話していると和人が横で何かを考えていた。
「和人君、どうかした?」
「ん?あ、いや。ふと考えてさ……」
「何を?」
「修也の両親」
「なんでまたそんな事を?」
明日奈が疑問に思っていると和人は修也の話をし始めた。
「いやぁ、修也あってあまり昔話とか親の話をしないからさ。どんな人なのかなぁ……ってよ」
「あぁ〜」
「確かに、気になるかも」
そう言うとエギルが店にあるテレビを付けてニュースを見ていた。キャスターがニュースを伝えていく中、丁度GGOの事件が報道されていた。
『続きまして、今回起こったVRMMO事件に関するニュースです。十一月に都内のマンションで起こった……』
キャスターがニュースの台詞を伝えており、VRMMOの事件がまた報道されている事に和人達が眉を顰めていると映像が中継に変わった。
『……なおこの事件について、総務省の
「そっか…VRMMO関係は全部総務省の管轄だったっけ?…警察じゃないんだ……」
「なんかこの前修也さんが色々と教えてくれていたよね。なんかVRMMOに関する事件は全部総務省が引き受けることになったんだっけ?」
「SAO事件の時に作った……「仮想課か?」っ!」
「そうそうそれ!」
明日奈達がニュースを見ながら映像が切り替わると壇上に一人の男性が立ち、記者の問答に答えていた。
その男性を見た三人は思わず目を見開いてしまった。
「「「(修也……!?)」」」
少し灰色掛かった髪に金属的な色をした目、顎の形は違うし、顔にシワがあるが見た目は完全の少し老けた修也そのものだった。
「「「(まさか修也のお父さんって……)」」」
三人は同じ事を思いながら映像に映る男性の顔を見ていた。
二人きりになった詩乃と修也は現在、詩乃が大粒の涙をこぼしながら修也に謝っていた。
「ごめんなさい……」
「もう何年も経っているだろうに……」
「でも私…修也さんに……」
「いいんだ、あの時。強盗の息がまだあって君を隠し持っていたナイフで殺そうとして居たんだから……。君の安全が守られてよかったと思っている」
「え!?」
詩乃が驚くと修也はその当時の事を詳しく話した。
「君の放った一発は肺に命中した。それで倒れたらよかったが、最後の悪あがきで持っていたナイフで君に襲い掛かろうとしていた。それで四肢を撃って動けなくしていた」
「……」
唖然となりながら話を聞いていると修也は詩乃の頭を優しく撫でると詩乃に向かって言った。
「私はあの時の事を後悔はしていない。君を守れたのだから。むしろ君は気負い過ぎていたんだ。もう大丈夫、君はわざわざ言いに来てくれたのだから……」
「うっ…うぅ……」
詩乃が泣いているところを修也は彼女を優しく抱きしめていた。