ブレイドとキリトが二人で第三十九層をクリアした翌日。
アスナに怒られて疲れていたブレイドはある人物に呼び出された。
呼び出しを受けたブレイドは目の前にいる人物から勧誘を受けていた。
「……と言うわけで、ブレイド君。私のギルドに入ってみないか?」
今目の前にいる男は《ヒースクリフ》と言う最強ギルドと称される『血盟騎士団』の団長を務めているプレイヤーである。
『血盟騎士団』はアスナが副団長を務めているギルドでもあり、話は聞いていた。そこには当然、ユニークスキルの《神聖剣》の話もあった。
「ヒースクリフ殿のお誘いには感謝致しますが。お断りさせていただこうと思います」
「ほう……それは何故だね?」
ヒースクリフがどこか面白そうに聞き返した。
「私は自由に生きたいのです。組織に入れば必ず制約が入ってしまう。そうなれば自然と行動にも制限がかかってしまう」
「では、そう言った制約がなかったら君は加入してくれると言う事かい?」
ヒースクリフがそう問いかけるとブレイドはそれでも首を横に振った。
「そうだとしても私は加入しませんよ」
「理由は?」
ヒースクリフに問われ、ブレイドはその訳を話す。
「私自身、組織というものが苦手なのですよ。個人で自由に動くのが一番ですから」
「…そうか……」
ヒースクリフは少し残念そうにそう呟くとブレイドは部屋を後にした。
「では、私は失礼します。これから用事がありますので」
そう言い残して部屋を出るとそこではアスナがブレイドが出てくるのを待っていた。
「話は終わったの?」
「ええ、お断りしましたよ」
「キリト君と同じなのね。因みに理由は?」
白い衣装が特徴的はアスナは初めての頃とは見間違うほどに逞しい女性に変貌していた。正直同じ人物なのか疑いたくなる。
「組織に加入してしまうと自然とルールに縛られなければいけなくなってしまう。そうすると行動にも自然と制限がかかってしまう」
ブレイドがそう話す横でアスナは面白そうに話を聞いていた。
「まあ、第一私は『組織』とと言うものが好きでは無い。と言うのが根幹にある。さっき言ったことの言い訳にしかすぎないさ」
「あはは……なんかブレイドさんの言っている事が全部正しく聞こえて来ますね」
「そうだろうか?」
そう呟くとブレイドは血盟騎士団本部の外に出るとアスナと別れた。
「じゃあ、また。よろしくお願いしますよ」
「はい、今度は二人で迷宮区に潜らないでくださいね」
「ええ、分かっていますよ。もう正座は懲り懲りです」
そう言い残すとブレイドは解放した第四十層に向けて歩き出した。
数週間後、キリトと二人でボス戦をクリアしたブレイドは攻略組に混ざって攻略を進めていた。現在の最前線は第四十七層。着々と攻略を進める中、彼が最近趣味で通っている場所があった。
「あ、ブレイドさん!」
「ノーチラスか……と言うことは今日はここでやるのかな?」
「はい、今日はユナがここが良いと……後でメッセージを送ろうと思ったのですが……」
何処か恥ずかしげに話す彼にブレイドは建物の壁に背を預けて答える。
「成程、それじゃあ彼女が来るまで待つとしますか」
そうしてフレンドのノーチラスと軽い会話をしていると二人に声をかける一人の少女がいた。
「あ!ブレイドさん!来てくれたんですね」
「ええ、また貴方の歌を聴きに来ましたよ。ユナさん」
そう言ってブレイドが優しい口調で話しかけた少女ことユナはブレイドが来てくれた事に喜びを表していた。
彼らとは第四十層を攻略するとき、トラップにハマったプレイヤーを救出する為に入ったダンジョンで動けなくなったノーチラスと、敵のヘイトを集めていたユナを助けた事でお互いに交流を深めていた。
因みにその事件後、ノーチラスはブレイドの勧めで所属していた血盟騎士団を脱退している。
「いつも来てくれてありがとうございます」
「じゃあ、今日もよろしく頼むよ」
「はい!」
そしてユナが広場の真ん中に立ち、持っている楽器を弾きながら歌を歌い始めた。
ユナは修得者が殆どいない『吟唱』と言うスキルを持っている珍しいプレイヤーだ。だが、それを抜きにしてもユナの歌は綺麗だった。
「綺麗な歌だ。娯楽の少ないこの世界で、彼女の歌は砂漠のオアシスのようだな……」
「随分とユナのことを褒めているんですね」
「そうだろうか?」
ブレイドはそう言いながらユナの歌を聴き続けていた。
ライブが終わり、観客との握手を終えたユナはブレイドとノーチラスに寄ってきていた。
「相変わらずいい歌だったよ」
「有難うございます」
そう言うとブレイドはユナにチップを渡すと街に戻って行った。
ユナのライブを聴き終えたブレイドは街の中の食堂に入った。
ブレイドは食堂の隅の椅子に座っていたアルゴを見つけると、目の前の席に座った。
「アルゴさん」
「ン?おお、ブレ坊カ。早かったナ」
「ええ、すぐ来ましたんで」
そう言ってブレイドはコーヒーを注文するとアルゴがブレイドに紙を渡した。
「ほい、頼まれた仕事ダ。一千コルでいいヨ」
「有難うございます」
そう言うとブレイドはアルゴに千コル入った袋を渡すとお礼を言った。
アルゴは少しだけ曇った表情になるとブレイドに話しかけた。
「ブレ坊。こう言うのは疲れないのカ?」
「こう言う事はもう慣れていますから」
「これは慣れちゃいけない類いダ。ま、オレっちはブレ坊のする事に反対はしないがナ」
そう言うとアルゴは少し笑うと席を立って店を後にした。
残ったブレイドはアルゴから受け取った情報を読むと席を立ち、店を後にした。
第二十層 ひだまりの森
昆虫系モンスターが現れるこの場所で男は無我夢中で走っていた。
「はぁ…はぁ……」
男は自分の武器も落として、迫ってくる気配から逃げていた。
「畜生、『赤ずきん』がいるなんて聞いてねえよ!!」
男は
そんな彼は自分が犯罪者となった事をこれほど後悔したことは無かった。
『赤ずきん』
少し前から現れ始めた
話によれば恐ろしい速度で犯罪者を追い詰め、恐怖を煽った後に捕まると必ず監獄に送り込まれると言う。
彼が現れた影響で大きな犯罪者ギルドはその殆どが潰され、監獄に押し込まれている。
反抗すれば容赦なく殺されると言う。
赤ずきんと言うあだ名は赤いフードを被っていることからそう付いたらしい。
そして森の中を逃げ回っていた男はいつの間にか気配が消えている事に気づき、走るのを止めた。
逃げ切れた
その安心感でホッとしていた
……その時だった。
「……お疲れ様」
「っ……!」
男の首筋に短剣が当てられ、重々しい声が後ろから聞こえた。いつの間にか後ろにいた事に驚愕と恐怖が彼の頭を支配していた。
すると赤ずきんは男に問いかける。
「さぁ、選ぶと言い。このまま牢に行くか、ここで死ぬかを……」
究極の二択を迫られた男は何とか言葉を紡いだ。
「お…俺はまだ……し、死にたくねぇ……!!」
「そうか……」
赤ずきんはそう言うと男を崖に押し込み、後ろ手にロープを縛ると転移結晶で犯罪者を第一層にある監獄エリアに送り込んだ。
転移先では既に人が待っており、男は力無く監獄エリアに入っていった。
キリトはひだまりの森の中を探索していた。
本来攻略組が下層にくることはあまり推奨されたことでは無いが、今回はある人物を探す為に来ていた。
結果としてその目的の人物は探せた。森の端の崖に犯罪者を追い詰めてロープで縛って監獄まで送る動作にキリトは驚きの様子を見せていた。
今回の目的は『赤ずきん』と呼ばれている犯罪者狩りをしているプレイヤーに接触をすることだった。
その為にアルゴに高い金額を払って赤ずきんが出そうな場所を教えてもらい、何日か張り込んでいた。
「(動きに無駄がない…かなりの高レベルプレイヤーだな……)」
キリトはそんなことを思いながら赤ずきんを観察していると、赤ずきんは一瞬で視界から消えていた。
「っ!何処に行った……?」
思わずキリトは声に出して辺りを見回すも、そこに赤ずきんの姿は確認できなかった。
赤ずきんとの接触に失敗し、落胆しているキリトにブレイドが慰めていた。
「まあまあ、赤ずきんの存在が確認できただけでも十分じゃないか?」
「そうだがなぁ……」
そう言ってブレイドから差し出されたコーヒーをキリトは飲むとさっきの出来事を話した。それを静かに聞くブレイドは最後にキリトに優しく声をかけた。
「キリト……気晴らしに迷宮区にでも行くか?」
「……ああ、行ってやろうじゃないか」
キリトはいつになくやけくそ気味にそう返事をするとブレイドと共に迷宮区に向けて歩き始めた。