トンキーに乗って飛行を開始して数分、高度一千メートルを飛んでいるトンキーにブレイドは思わず感嘆の声を出した。
「凄いな……」
するとトンキーは鋭角を畳み、急激にダイブへと突入した。
「「「うわあああああああ!!」」」
「「「きゃああああああ!!」」」
「ヤッホーーーーーーー!!」
悲鳴をあげるメンバーと一人楽しんでいるリーファは広い背中にかかる風圧に必死で耐えていた。
なんで落ちているのかは分からないが次第に雪に包まれた大地が鮮明に映り出し、地表で何が起こっているのかがよく見えた。
「お兄ちゃんあれ!」
リーファが指差した先では眩いフラッシュ・エフェクトが続けて炸裂し、重低音のサウンドが遅れて聞こえてきた。
「あれは……」
そこには人型邪神と三十人以上いる大規模レイドパーティーがトンキーと同じ象水母型邪神を攻撃していた。
「どうなっているの……?誰かあの人型邪神をテイムしたの?」
「いや、邪神級モンスターのテイムはどれだけ底上げしても0パーセントだ」
「あれはなんつぅか……
下で起こっていることに困惑していると後方に光の粒が音もなく漂い、凝縮し、一つの人影を作り出した。それは、ローブのような長めの衣装を纏い、背中から足許まで流れるような金髪で、優雅で超然とした美貌の女性だった。しかし、その大きさはここにいる者達の倍以上はあった。
「でっ…けぇ……」
思わずクラインがそう呟くのもわかる。すると女性は口を開いた。
「私は《湖の女王》ウルズ」
巨大な金髪の女性は、続けてブレイド達に呼びかけた。
「我が眷属と絆を結びし妖精達。そなたらに、私と二人の妹から一つの請願があります。どうかこの国を、霜の巨人族の攻撃から救ってほしい」
するとユイがキリトに話していた。
「パパ、あの人はNPCです。でも、少し妙です。コアプログラムに近い言語エンジン・モジュールに接続しています」
「……つまり、AI化されているということか?」
「そうです、ブレイドさん」
ウルズはそれを待っていたかのように、真珠色に煌めく右手をふわりと広大な地下世界に向け、話を続けた。
「かつてこの《ヨツンヘイム》は、そのたたちの《アルヴヘイム》と同じように、世界樹イグドラシルの恩寵を受け、美しい水と緑に覆われていました。我々《丘の巨人族》とその眷属たる獣たちが、穏やかに暮らしていたのです」
ウルズが右手を上げると、ブレイド達の視界の景色が一瞬で変化した。
周囲の氷は嘘のように消え去り、代わりに草木と花々、そして清らかな水に満ち溢れた広大な湖が現れた。
水面から盛り上がる世界樹の太い根の上には、丸太に組まれた家で作られた街があった。心なしか、その風景は地上の《央都アルン》に似ている。
ウルズが右手を下ろすと、幻の風景も消え去った。あまりに急激な変化に皆が驚いている中、ウルズは超然とした、しかしどこか悲しそうな眼をしながら、さらに話を続けた。
「ヨツンヘイムの更に下層には、氷の国《ニブルヘイム》が存在します。彼の地を支配する霜の巨人族の王《スリュム》は、ある時オオカミに姿を変えてこの国に忍び込み、鍛冶の神ヴェルンドが鍛えた《全ての鉄と木を断つ剣》エクスキャリバーを、世界の中心たる《ウルズの湖》に投げ入れました。剣は世界樹のもっとも大切な根を断ち切り、その瞬間、ヨツンヘイムからイグドラシルの恩寵は失われました」
ウルズが今度は左手を上げると、再び幻の風景が皆に映し出される。
金の何かが湖に投げ込まれると同時に、湖の水は一瞬で凍りつき、世界樹の根は天蓋方向へと収縮していく。あれほど綺麗だった草木や花々は枯れ果て、湖だった所は巨大な穴となってしまった。
ウルズが左手を下ろすと、また幻のスクリーンは消え去った。
「王スリュム配下の《霜の巨人族》は、ニブルヘイムからヨツンヘイムへと大挙して攻め込み、多くの砦や城を築いて我々《丘の巨人族》を捕らえ幽閉しました。王は、かつて《ウルズの泉》だった大氷塊に居城《スリュムヘイム》を築き、この地を支配したのです。
私と二人の妹は、凍り付いたとある泉の底に逃げ延びましたが、最早かつての力はありません。霜の巨人たちは、それに飽き足らず、この地に今も生き延びる我らが眷属の獣たちをも皆殺しにしようとしています。そうすれば、私の力は完全に消滅し、スリュムヘイムを上層のアルヴヘイムにまで浮き上がらせることが出来るからです」
「な……なにィ!ンなことしたら、アルンの街がぶっ壊れちまうだろうが!」
皆を代表してクラインが憤慨したように叫ぶと、ウルズはその言葉に頷き言った。
「王スリュムの目的は、そなたらのアルヴヘイムもまた氷雪に閉ざし、世界樹イグドラシルの梢にまで攻め上がることなのです。そこに実るという《黄金林檎》を手に入れるために」
ウルズはそこで言葉を区切ると、一旦視線を地上に向けて、眉を悲しげにひそめた。
「我ら眷属たちをなかなか滅ぼせないことに苛立ったスリュムと霜巨人の将軍たちは、遂にそなたたち妖精の力をも利用し始めました。エクスキャリバーを報酬に与えると誘いかけ、眷属を狩り尽くさせようとしているのです。しかし、スリュムがかの剣を余人に与えることなど有り得ません。スリュムヘイムからエクスキャリバーが失われる時、再びイグドラシルの恩寵はこの地に戻り、あの城は溶け落ちてしまうのですから」
「え……じゃ、じゃあ、エクスキャリバーが報酬っていうのは全部嘘だってこと!?そんなクエストありぃ!?」
トンキーに乗るリズの素っ頓狂な声に、女王は鷹揚と頷くと言った。
「恐らく、鍛冶の神ヴェルンドがかの剣を鍛えた時、槌を一回打ち損じたために投げ捨てた、見た目はエクスキャリバーとそっくりな、《偽剣カリバーン》を与えるつもりなのでしょう。充分に強力ですが、真の力は持たない剣を」
「ず、ずっるい!王様がそんなことしていいの!?」
「一度強い力を手に入れたらなかなか手放せなくなるものだ」
ブレイドの返事にウルズが頷き、話を続けた。
「そうです。しかし彼は、我が眷属を滅ぼすのを焦るあまり、一つの過ちを犯しました。配下の巨人の殆んどを、巧言によって集めた妖精の戦士たちに協力させるため、スリュムヘイムから地上に降ろしたのです。今、あの城の護りはかつてないほど薄くなっています」
そこまで言い終えると、ウルズは右手をブレイド達に差し出した。すると、手先から光が輝き出して、その中から緑色の石が嵌め込まれたネックレスが現れた。ネックレスは空中を移動して、リーファの前に来ると、彼女の手の上に乗った。
ウルズは、その大きな腕をまっすぐ上空の《スリュムヘイム》に差し伸べ、言った。
「妖精たちよ、スリュムヘイムに侵入し、エクスキャリバーを《要の台座》より引き抜いて下さい」
「なんか…凄いことになっちゃったね……」
思わずリーファがトンキーの背でそう呟く。リズベットも思わず目を細めながら言う。
「これって、普通のクエストなのよね?その割には話が大掛かりすぎると言うか……」
「動物型の邪神が全滅したら地上まで霜巨人に占領される、とか言ってたな」
「でも普通運営はこう言う告知は一週間前には出さないか?」
クラインの疑問にブレイドはある懸念が浮かんだ。
「なあユイちゃん」
「何ですか?」
「このALOに使われているカーディナルシステムはオリジナルのものか?」
「っ!そうです!」
「成程…それなら理解できるな……」
ブレイドが一人で納得していることにキリトたちから視線が送られた。
「どう言うことよ」
「説明求む」
「ああ、このALOはザ・シードからの派生系から生まれたゲームではないからオリジナル版のカーディナル・システムが使用されている」
「「「?」」」
キリト達が首を傾げながらブレイドの話を聞いた。
「オリジナル版のカーディナル・システムにはザ・シードのカーディナル・システムとは違い幾つかの権限が与えられている。その一つに《クエスト自動生成機能》がある」
「それって何なんだ?」
「簡単に言えば世界中にある神話や御伽話を拾ってそれを翻訳してストーリー・パターンを翻訳した後にクエストを無限に生成する権限だ」
「ンだとぉ!?じゃあ俺たちが散々パシらされたのはそのシステムが作ったやつってことかよ」
「そう言う事だ」
「どおりでクエストが多いと思ったわ。クリア時点で一万個を超えているんだもの」
「ちなみにパランジャを手に入れた時はインド神話が元だったな……」
山ほど浮かんでくる愚痴大会になりかけたのでキリトが話題を軌道に戻していた。
「……で、ユイ。このクエストはカーディナル・システムが自動で生成したものって事か?」
「はい、運営が何かしらの動作でカーディナル・システムを起動させた可能性があります。だとすれば行き着く所まで行く可能性があります。あの氷のダンジョンが地上まで上がり、アルンが崩壊、周辺も邪神級モンスターがポップ……いえ、もしかすると……」
ユイが恐る恐る囁いた。
「……私がアーカイブしているデータによれば当該クエストおよびALOそのものの原型となっている北欧神話は、いわゆる《最終戦争》に含まれるものです。ヨツンヘイムやニブフヘイム、さらにその下層のムスペルヘイムと呼ばれる灼熱の世界から炎の巨人が現れ世界樹を焼き尽くす……と言う…」
「「……《神々の黄昏》」」
リーファとブレイドが声を合わせてそう言うとブレイドは納得した表情を浮かべた。
「成程、オリジナル版カーディナル・システムの最後の任務は浮遊城の崩壊、つまりデータの消去というわけだ。そして今のALOには浮遊城が存在している。消去した筈のデータが残っている事にカーディナル・システムが気づいたのだろうな」
「「「「……」」」」
ブレイドの説明にキリト達がホェーと言った様子でブレイドを見るとブレイドはここでさらに言った。
「そして、サーバーの巻き戻しをするにはカーディナル・システムとは全く関係ないサーバーでバックアップを取る必要があるが、恐らく運営はやっていないだろうな……おまけに今日は年末の午前中でサポートセンターが閉まっているときた」
ブレイドの補足説明にキリト達は半分諦めた様子で、残りの半分はユイ並みによく知っていると言う驚きで微妙な表情を浮かべるとクラインが剣を掲げて叫んだ。
「こうなったらやるしかねえんだ!オッシャ!今年最後の大クエストだ!バーンと決めて明日のMトモの一面に載ったろうぜ!」
「「「「おぉー!」」」」
キリト達も武器を手に取り、巨城スリュヘイムに到着した。
「まぁ、その前にシノン達を待たないとな」
「お、おぅ……」
「早くいきたいのに〜!!」
「キリトが大勢呼ぶからだろうが……」
何ともずっこけた雰囲気の中、巨城の入り口でキリト達はシノン達を待つ事となった。
いつのまにかUAが一万行ってた……
読んでくださって感謝しかありません!!!