二〇二三年 十二月二十四日
クリスマスの今日、ブレイドは街を歩く男女二人組を気にもせずに街を歩く。
街の裏路地では男達が固まって暗い雰囲気を醸し出し、酒場で自棄酒をしていたりとなかなかな光景が広がっていた。
そんな光景を横目に自分はクリスマス限定イベントの攻略に乗り出した。
ボスの名前は背教者ニコラス。今回の目的はそのボスが落とすドロップ品《還魂の聖晶石》を手に入れる事である。
この《還魂の聖晶石》は死んだプレイヤーを復活させられる力があると言う。
だが、それでも一途の望みをかけてブレイドは第三十五層『迷いの森』を歩いていた。
「あれは…『聖龍連合』……。是が非でも蘇生アイテムを奪う気か……」
ブレイドは森の遠くから見えた複数人の姿を見て少しだけ目を細めると今の武器である片手斧を手に持つ。
「さて、加勢しに行きますか」
ブレイドはそう呟くと一気に森から飛び出した。
クライン達『風林火山』はキリトの後を追ってこの迷いの森までやってきた。
理由はキリトの雰囲気と、事前にブレイドから相談を受けていたからだった。
事実、キリトは一人でイベントボスを倒す……はっきり言って無謀にも近い事をやろうとしていた。
そしてキリトを呼び止めたところで、攻略組のギルド『聖龍連合』の部隊と鉢合わせた。
どうしようかと思ったその時、森から一人の赤い影が飛び出した。
「行けませんね。せっかくのドロップ品を横取りしようだなんて……これだから人というのは」
そう言って森から出てきたのは赤い服が目立つブレイドだった。
「ブレイド……」
と、クラインの横にいたキリトは咄嗟にブレイドの名を言うとブレイドは答えた。
「キリト……戻って来たら話がある……帰って来い」
「……分かった」
キリトはそう言い残すと森の奥に入っていった。その場に残った風林火山のメンバーとブレイドはそれぞれ武器を構えた。
「ぜぇ…ぜぇ…流石にこの人数は辛いな……」
『聖龍連合』を撃退したブレイド達は肩で息をつきながら地べたで横になると奥からキリトが戻ってきた。
「…キリト……」
キリトは片手に蘇生アイテム《還魂の聖晶石》をクラインに渡した。クラインと共にそのアイテムの効果を見た。
「HPがゼロになって
「……成程」
ブレイドはやはりと言った気持ちだった。あの人が考える事だ。やはりダメだったかと言う気持ちの方が大きかった。
そしてフラフラと歩くキリトに向かってブレイドは叫んだ。
「キリト…お前は生き残れよ」
ブレイドはキリトに向かってそう叫んだ。
キリトはフラフラとした足取りで迷いの森を去っていった。
年を越した二〇二四年 一月某日
年明け早々攻略組は第五十層を突破。順調に階層を進み続けていた。
現在の最前線は第五十二層。折り返し地点を過ぎ、ブレイドは第五十層に存在するダンジョンに潜っていた。
このダンジョンはブレイドが見つけたダンジョンで、経験値稼ぎには丁度いいと何度もダンジョンを周回していた。
このダンジョンはキリトやアルゴなどの最低限の人にしか教えていない為、人が来る事も少なかった。
ダンジョン名は『スヴァルガ』。ブレイドはダンジョンに出てくる雷を放つ蛇モンスターを狩っていた。
「今日はここまでにするか……」
ブレイドはダンジョンの最奥までモンスターを狩り終えた。このダンジョンのドロップ品は金剛杵と言うよく分からない物だったが、ここのダンジョンはなかなかの穴場であり、経験値が貯まりやすかった。
「これで何周目だろうか……ん?」
ブレイドが洞窟タイプのダンジョンの端を見るとそこには暗く、見ずらいが小さなトンネルのような横穴があった。
「こんな穴あったか……?」
少なくとも今まで何度もここを周回してきたが記憶にないその横穴。とても怪しかったが、ブレイドは直感的にこの先に何かあると感じ、頭を下げて腹這いになりながら横穴を進み始める。
腹這いになってどれ程進んだのだろうか。ブレイドは横穴の先にある開けた空間に出た。
開けた空間は乾き割れた地面に、地中のはずなのにジリジリと太陽が焼き付け、荒野のような雰囲気であった。
「ここは……」
ブレイドはその空間を見渡すと入ってきた穴は閉じられ、目の前にポリゴンが出現して巨大な大蛇が現れた。モンスター名は《ヴリドラ》。即座にブレイドは斧を構えた。
「ちっ、いきなりボス戦か……転移結晶は…使えない……」
転移結晶が使えない事にブレイドは逃げることを諦めると手に片手斧を持ち、ブレイドは大蛇に攻撃を始めた。
まず始めに体術スキル『壁走り』と『高速移動』で《ヴリドラ》の背面から両手斧ソードスキル『ランバー・ジャック』を発動し、背中から二回転しながら切りつけた。
「決定打にはならないか……」
少しだけ減った体力バーを見てそう呟いた。そしてブレイドはヴリドラの攻撃を得意の高機動で避けると今度は持ってきた両手剣に持ち替え『サイクロン』を放ち、連続攻撃を加えた。
あれから何度も攻撃を加え続け、四本あった体力バーも残り僅かとなった。
ブレイドは両手剣からまた両手斧に持ち帰ると大蛇に最後の攻撃を仕掛けた。
「これで終わり……っ!」
攻撃も単純で案外簡単な敵だった、そう思った時。ヴリドラの動きに変化があった。
ヴリドラは口を開き、ブレイドに噛み付いてきたのだ。
「っ!グハァ!」
噛みつき攻撃で吹き飛ばされたブレイドは一気に体力バーが半分近く消えてしまい、咄嗟に回復ポーションを飲み干して回復をすると改めて両手斧を持った。
しかしブレイドは思わず顔を顰めてしまった。
「回復している……?」
それは、ヴリドラの体力ゲージが赤色から黄色に回復していたからだ。それから何度も体力バーを赤くするも、見た事ない攻撃をした後に回復をしていた。
「面倒な……(何か別の方法で倒さなければいけないのか?)」
そしてブレイドは思考を回転させた。現実世界で様々な文献を読んできた彼は記憶から思い出していた。
「(ヴリドラは確かインド神話に出てくる旱魃を起こす怪物。最後は確か……)」
ブレイドは記憶を思い出すとアイテム欄からさっきのダンジョンのドロップ品の金剛杵を取り出し、体力ゲージを赤くしたヴリドラの腹にに突き刺した。
『ギャギャギャァァァァァ!!!』
金剛杵を刺されたヴリドラは今までにないほど大きな悲鳴をあげると回復した体力バーを一気に減らし、ポリゴン片となって消えていった。
「…やれたか……」
そう呟き、ブレイドが一安心していると倒したヴリドラのいた場所からいきなり大量の水が溢れ出した。
「ワブッ!ゴポポポポポポポ……」
ボスを倒した後で疲労が溜まっていたブレイドは水の流れに逆らえず、そのまま飲み込まれてしまった……。
「ブレイド〜!」
「何処にいるんダ〜!!」
「ブレイドさ〜ん!」
第五十層アルゲード外の森林フィールドで、ブレイドの名前を呼ぶ声が聞こえていた。
「いた?」
「いや、見当たらない」
「何処にいったんだあいつは……」
森林の一角でキリト、アスナ、アルゴの三人が集まると頭を抱えていた。
「連絡できなくなって
「ああ、石碑にも生きていると書いてあった」
「最後の目撃情報はここらしいしナ。何処にいったのか……」
事の発端は三日前。攻略会議に参加しなかったブレイドにキリトが不審に思い、連絡をとったものの、返事がなく。おかしいと感じたキリトがアスナやアルゴに話をしてブレイドの捜索をしていた。
「うーん、前にブレイドが言ってたダンジョンも見当たらんしな……」
「え?あの穴場ダンジョン?」
「前にブレ坊が言ってたあれカ」
「もう何が起こってんだか……」
キリトが困惑しながら空を向くと、そう呟いた。今のブレイドはフレンドの居場所はマップにも表示されず、何処にいるのかすらも分からなかった。
生きている事は確実の為、そこは安心していた。
「とにかくブレイドさんを探しましょう」
「ああ」
「そうだナ」
そうして三人はまた分かれるとブレイド捜索のために森の中を探し回っていた。
SAO内のとある場所
「ブハァ!……ゲホッ!ゲホッ!」
ブレイドはどこかに流れ着いたと感じ、陸に上がり、一呼吸置いた。ヴリドラと戦い終えた後に大量の水に押し流され、そのまま気を失ってしまったようだった。幸いにも体力はそれほど減っておらず、索敵スキルで周りにモンスターがいない事を確認すると、取り敢えずは休憩を取る事にした。
「ゼェ…ゼェ……」
そしてある程度呼吸が落ち着き、視界がまともになってくるとブレイドはここがどこかの池の畔であると確認した。
「ここは……」
ブレイドが辺りを見回すとそこは第四十七層の『フローリア』のように花が咲き誇る小さな丘があった。
「『思い出の丘』見たいだな……」
ブレイドはそんな事を呟きながら丘を登っていくとそこには一本の木が生えていた。
「これは……」
ブレイドがその木に触るとその木は光り輝き始め、アイコンが出てきた。
《カルパヴリクシャ(如意樹)》
《このアイテムを選択、もしくはオブジェクト化して手に持った状態でウィンドウを操作。もしくは「〇〇を願う」と言う事で発動する。
このアイテムはプレイヤーの願いを叶えることが可能》
説明文を読んだブレイドは頭の中にあることが浮かんだ。
「(もしかしてこれを使えば…現実世界に帰れる……?)」
ブレイドはそんな事を考えた。その時の気持ちはまるで水を得た魚の気分だった。
これを使えば帰ることができるかもしれない。そんな事を考えたブレイドは早速ウィンドウを操作して、「全プレイヤーのログアウトを願う」と記入。
記入を終えたブレイドは実行を押そうとした、その時。ブレイドの指は止まっていた。
「(だが……これを押したら…キリト達に会えなくなる……)」
ブレイドは実行をする直前でそんな事を考えてしまった。
確かに帰れれば幸せになる人たちが多いだろう。だが、ブレイドはそれが寂しくも思えた。
もっとキリト達と居ても良いかもしれない。どうせ、いつかはクリアするのだろうから今はいいのではないか。
第一、茅場晶彦がこんな簡単にログアウトなんかさせてくれないだろう。むしろそうだったら自分はあの人を殴りにいっているだろう。
あの人の事だから恐らく自分がラスボスになって何処かでプレイヤーに混じって観察をしているに違いない。
『ただゲーム見ている事ほど面白くないものはない』
現実世界であの人が言っていた事だ。そんな事を言う人だからおそらくプレイヤーに混ざってこのゲームをプレイしているに違いない。
そう考えてしまった事に自分は思わずふっと笑ってしまうとウィンドウを全削除していた。
いきなり目の前に水柱が上がった。
文字通り森をブレイドを探して走り回っていたらいきなり目の前に水柱が上がり、頭から水を思いきりかぶった。
「わっ!な、何だ!?」
水でビッチャリと濡れて驚いていると水柱は収まり、辺り一面が水浸しになり、水柱が噴き出た場所は池ができており、唖然としてしまった。
一連の出来事に呆然としているとガザガザという音が聞こえて森からアスナとアルゴが出てきた。
「なんかすごい落としたけど何があったの……って、どうしたの!?」
「ニャハハハ、キー坊。なんで濡れているんダ?」
「いやぁ…なんでかは俺も分からん……いきなり水柱が噴き上がってきた……」
そう言ってキリトは答えるとアスナが池を見て違和感を感じた。
「ん?何あれ?」
そう言ってキリトの足元を指差した。その時、
ザバァア‼︎
「……へ?」
キリトの足を誰かが掴んでいた。それを見たアスナは、
「い……いやぁぁぁぁあああああ!!!」
と悲鳴を高らかにあげて騒ぎ立て、隣にいたアルゴは
「あっ……モ、モ、モンスター!?」
と言って驚愕して咄嗟にクローを構えると池から人が顔を出した。
「ブハッ!あぁ〜…また、酷い目にあった……」
「ブ、ブレ坊!?」
アルゴは池から出てきたブレイドに驚いているとブレイドはアルゴに気がついて挨拶をした。
「ん?おぉ、アルゴか。久々だな」
そう言ってブレイドは地べたに手を置いて陸地に上がった。彼の装備はずぶ濡れで足元から水が垂れていた。
いきなり現れたブレイドにアルゴは驚いていた。
「はぁ、ずぶ濡れだな……」
そう言って来ていた赤い服を絞って水を切っていた。
アスナはアルゴに言われてモンスターと思っていたのがブレイドだとわかると驚いていた。
「えっ!?ブレイドさん!?」
「おぉ、アスナさんか。珍しいね、アルゴと一緒にいるなんて」
呑気にそう返事をするブレイドを見てアスナはホッとしているとブレイドの後ろで何も喋らないキリトを不思議に思った。
「キ、キリト……?」
アスナが恐る恐るキリトを見ると……キリトは立ったまま気絶してしまっていた。
「キ、キリト君!?」
そう叫びながらアスナがキリトを揺さぶるとキリトは意識を取り戻した。
「ハッ!俺は何を……っ!さっきのモンスターは!?」
そう言って剣を構え、錯乱していた。
「おーおー、何があったキリト」
「「あなたのせいよ(ダ)!!」」
この後、アスナとアルゴに今までの状況を説明され、全てを理解したブレイドはアスナ達に謝り、キリトを宥めるのに、ブレイドは苦労をするのだった。