六月二七日 GGO内 熱帯地帯
そこでは一台の装輪洗車が森林に隠れる様に止まっていた。
その車内で数人が通信機に耳を当てる。
『誘因に成功。後をお願い』
「了解した……クライン、出してくれ」
「あいよ」
クラッチを動かしてアクセルを踏む。エンジンが唸り、体が押される感覚になる。
「このまま直進したのち、二人は飛び降りて追跡」
「フリューゲルは?」
「こっちのやり方で行く……!!」
そう言うと運転中のハッチから赤髪軍服姿のフリューゲルは半身を覗かせる。そしてそのまま片手にPKPを持って車体にしがみ付くと銃を固定した。
「そろそろだ。全員衝撃に備えろ」
視線の先から見えた光景に全員が何処かに掴んでいた。
そしれそのままの速度で一気に森から一台の雲豹、『豹丸』(マキナ命名)が飛び出す。視線の先には三人のプレイヤーとシノンがおり、シノンの前に飛び出し、轢き殺す勢いで豹丸は着陸する。
「……」ダダダダッ!
ハッチからPKPを連射し、一人を持って行く。
「この先で曲がれ!」
「了解!」
「受け取れ〜!」ドンドンッ!
ショットガン片手にリズベットが二発発射し、森の中に逃げる一人の近くを通り過ぎる。
「おりゃりゃりゃ……!!」ドドドドドドドドッ
砲塔の後ろからブローニングM2重機関銃をシリカが撃つ。.50BMG弾は隠れていた敵の岩諸共吹き飛ばし、もう一人も逃走を図る。
「行け!」
フリューゲルがそう叫び、車から二人が飛び出す。紫の赤の光剣を灯らせて土煙の中に飛んで行く。
「敵はAKー74、グレネード持ち。不意打ちには気を付けろ!」
「「了解!」」
土煙の先に消えて行く二人を見送るとフリューゲルも車両を降りる。
「合流地点はーーーー。十分後にそこに来てくれ」
「あいよ。お前さんも気をつけろよ」
赤いバンダナが特徴のクラインが了解するとフリューゲルはアンツィオライフルを持って森の中を走って行った。
森の中でフリューゲルはアンツィオライフルを構える。59kgを両手持ちできるロマンはゲームならではだろう。
森の奥で隠れている集団に向かって引き金を引く。
「……」ドォォン!!
20mm炸裂弾は隠れていた集団を一掃した。他に敵影も確認できないのでフリューゲルは通信機に耳を当てる。
「こっちは終わった。他に敵影はなさそうだ」
『ーー了解。ごめん、こっちは逃げられたわ』
「問題ない。後方の部隊はやったと思う。そのまま集合地点に向かって帰るぞ」
『了解』
通信を切ったフリューゲルはアンツィオライフルを持ってその場を後にした。
熱帯地域の崖の上。そこには数人の黒服のプレイヤー達が屯し、一人の外人アバターが眼下に広がる戦闘を眺めていた。
「全チーム後退……グリット19から離脱しろ」
「あれが今日最後の獲物だろう?プレイヤー六人の損失……負け戦で終わっていいのか…ボス」
吸っていたタバコを捨て、肌が焼けた東洋風アバターの男が、金髪の男に問いかけた。
「あんなイレギュラーなスコードロンと戦っても訓練にはならない。本番の作戦に悪影響が出ても困るしな……行くぞ」
金髪の男はそう言って、その場を後にした。その言葉を受けた肌黒の男は指示に従い、その場を後にしようとした。
「(さっきの光剣といい……作戦指揮と言い……そうか……なら、再戦といこうぜ。黒の剣士、赤い雷鳴)」
フードを被り、キリトとブレイドに心の中でそう告げた男の目は、嗤っているようだった。
GGO内 SBCグロッケン内の酒場
そこではフリューゲルやキリト達がさっきの戦闘やGGOの感想を喋っていた。
「いやぁー、結構キツイわね。GGOって」
「ね、常に狙われているって言うのが緊張しちゃうね」
「でも、あの戦車に乗ってたら安全な気がするがな」
「「「「「同感」」」」」
同じテーブルに座っているフリューゲル、シノン、キリト、アスナ、リズベット、シリカ、クラインの七人は頷く。
本当はマキナ達も呼ぼうかと思っていたが、二人はALOでクエストを受けながらコンバートしたキリト達の荷物番をしてもらっている。
マキナ達に感謝しながらフリューゲルはさっきの戦闘を思い出す。
「コスト度外視の戦闘だったな……」
「ええ、単純に殺すことしか考えていなかった……」
「誰なんだろうな……」
「ねえ、あの人たち勝率100%って本当なの?」
リズベットが思わずそう聞くと、フリューゲルは片手にコーラを持って頷きながら答えた。
「集めた情報だとそうなるな。動きも統率されていたから何処かの軍隊の訓練の可能性もあるな。新兵の訓練にここはうってつけの場所だ」
「「「「……」」」」
フリューゲルの推測に一瞬だけ全員が曇った表情をする。確かに普段楽しんでいるゲームが軍事利用されていると思っていい気分ではないのは確かだ。フリューゲルは失言をしたと思っているとシノンが話題転換をした。
「……と言うか。キリトはなんで寝ているのよ」
「え?あぁ、なんか社会見学かなんかで疲れているみたいで……」
アスナがそう言うと、シノンがやや怪訝な目をしてキリトを見ていた。
「……また妙なもんにクビ突っ込んでるじゃないでしょうね?」
「巻き込まれるのはごめんだ」
「「「「アンタが言うな!!」」」」
全員の総ツッコミを受けて、フリューゲルは少し返答に困惑してしまった。
そしてその後はやって来てくれたキリト達に感謝の言葉と、アスナには近日中に会えるかとシノンが聞いていた。
ログアウトした修也は自室に篭って画面と睨めっこしていた。
「このくらいでいいか……」
修也は机の作業台に置かれた機械を見てつぶやく。それは五本指を持つ金属でできた手で、修也は動作確認をしていた。
「そろそろか……」
修也はその金属製の手を見るとそれを梱包してアタッシュケースに入れる。ケースのロックをかけて修也は自室を出るとそこでは詩乃が夕食を作っていた。
「明後日からいないから……」
「あぁ、ありがとう」
二人は夕食を取るとそのまま別々に風呂に入る。その後は自由時間となっている。その時は本を読んだり、修也が詩乃の勉強を見ていたりするが。今日は少し違った。
二人はソファに座りテレビをつけて映画を観ていた。
ソファに座り、二人は隣り合わせで映画を見ていた。
普段はあまりテレビを見ない修也だったが、詩乃が誘って来たので二人で見ていたのだ。
「……ねぇ、修也」
「何だ?」
映画を見ながら詩乃は修也に聞く。
「修也って、どうして私のことが好きになったの?」
そう問うと修也は少し考えたのち、こう答える。
「何故だろうな……」
彼自身もよくわかっていないような様子で答える。
「……一目惚れ?」
「それは違うな」
修也は即答すると詩乃は疑問に思う。
「分からないな…ただ、自分が君を好いていると言うのだけは事実だな……」
「ふーん」
詩乃は少しつまらなさそうに修也を見る。なるでナルシストみたいな言い方だ。
「(修也って大事にしてくれているけど…なんか避けている部分もあるのよね……)」
詩乃は修也にそんな事を思っていた。昔話と言っても死銃事件の時の話が一番古くて、他も曖昧な所が多く、あまり修也の過去を自分は知らない。
修也の恋人なのに……。
詩乃は何か後ろめたいことがあるのではないかと思ってしまう程に修也に対してそんな事を思っていた。それ以外に関しては本当にいい人なのだ。
詩乃としては他人をあまり巻き込みたくないと言うその性格が、なんだか疎外されているようで嬉しくなかった。
基本的に自分だけで解決してしまうような、自己犠牲などが過ぎているような、そんな感じか修也からしていた。
「(たまには相談してくれたっていいのに……)」
そんな感じで、詩乃はやや不満の感情を抱きながら修也を見ていると修也が詩乃の視線に気づいて声をかけた。
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
詩乃はそんな恋人を見ながらそんな事を思っていた。