自分が産まれてはや十八年。時の流れというものはとても早く感じるもので、自分は今実家の執務室でペンを片手に書類を片付けていた。
ノーランガルス北帝国の二等爵家に養子として迎え入れられた私、ブレイド・ソド・ワラキアは外を眺める。
「……」
少なくとも自分はこの街の匂いが嫌いだった。
腐った卵のような不快な匂いのするこの街は爵位を持つ貴族が下の者を罵り、それを他の者が平然だと思っている事に憤りを覚えてしまう。
その違和感に自分は疑問が浮かんでしまう。
「(民は反抗をしないのだろうか……)」
いわゆる日陰族と言われる自分にはわからないが、民は反抗する気配も見せていないので、そこに疑問を抱かざるを得なかった。
「…少し旅に出るか……」
ブレイドは興味本位でそんな事を考えると従者に馬の用意をさせた。
詩乃は電話に出ない修也に憤りを覚えていた。
今まで何回もコールをしているが、一切出ないことに疑問や怒りを覚えていた。
「(なんで出ないの……?)」
詩乃は親友が大変な事になっていると言うのに……。
現在、和人が笑う棺桶の残党。金森淳に襲われ、危篤状態となって入院した後。その後行方不明になってしまった。明日奈や直葉などが捜索を行っているが、一向に見つかる気配はなかった。
てんやわんやしている時に、一番頼りになるのが修也だと言うのに、今はそんな彼とも連絡ができなかった。
一人、マンションの部屋で意気消沈しているとピコンと一件のメールが届く。修也かと思い名前を見ると、そこには珍しい人物からのメールが届き、添付された地図もあった。ついでに、そこに行けば修也や和人に会えるとも書かれていた。
「行かなきゃ……」
メールを見た詩乃はすぐさま行動に移る。
荷物もそこそこにマンションを出て、そしてそのまま指定されたヘリポートまで移動するとそこには一機のヘリと四人の人物が待っていた。
「藤吉さん!真之さん!」
「ああ、待っていた」
「いきなり呼び出してすまん」
「シノのん!」
「明日奈まで……?!」
其処には藤吉、真之、明日奈の三人は詩乃を待っていた。周りには護衛もおり、全員が集まった事を確認するとそのまま扉を開けた。
「みんな来なさい。詳しい話は機内で」
「「は、はい……!!」」
いつに無く真剣な声色で藤吉が言い、詩乃と明日奈は言われるがままにヘリに乗り込んだ。
ヘリが飛び立ち数十分後。詩乃達は心配した様子で藤吉を見る。今座っている席の反対側に藤吉と真之が座り、二人は詩乃達と共に同乗している女性に話していた。
『申し訳ありません神代博士。急な呼び出しに答えてくれた事に感謝いたします』
『いえ…それよりもなぜ私が呼ばれたのかが疑問でして……』
『それは無論、あなたに関係する話があるからです』
そう言うと真之が窓を見ながら全員に言う。
『もう直ぐ見えて来るはずだ…《オーシャン・タートル》がな……』
そう言うと大海原に聳え立つ、巨大な建造物を確認する。それを見た真之は思わず吐き捨てる。
『良くもまあ、こんなデカブツの建造に予算が通ったもんだ……』
『それは同感だ』
現職の総務大臣が言っちゃってるよ……。
そんな苦笑をしながらヘリは着陸をする。すでに多数のスーツに身を纏った大人達が待機しており、慣れた手つきでヘリの扉を開ける。三人はそれぞれヘリから降りると多数の護衛に囲まれてヘリポートを歩く。
「お待ちしておりました。閣下」
「閣下はよせ。今日は私的な用事なのだ」
「はっ」
幾多ものゲートを通過する中、詩乃と明日奈はその施設をじっと見ていた。
そんな中、真之を見て何人もの人がギョッとした様子を見せて敬礼をしていることに少し疑問を感じていた。
「すごい厳重……」
「すでに三回ほど金属ゲートを通っておる。君たちはそんな事をしないと思っているがね」
この人は一体何者なんだ?
二人は真之にそんな感情を抱いてしまっていた。そんなこんなで通路を歩いていると【第一制御室】と書かれた部屋に到着した一行は部下の一人が慣れた手つきでパネルを触り、動かしていた。
「ああ、間違ってもこの先にいつ責任者に飛びかかるようなことはしないでほしい」
「は、はい」
「分かりました……」
詩乃はなんと無くだが、ここに修也がいるんじゃないか。そして、何か重要な事をしているのではないかと感じていた。
そして扉が開くと中には見知った人物がいた。
「ようこそ。《オーシャン・タートル》へ。歓迎は出来ないけど」
そこには和人が普段から『胡散臭い』と称する官僚……菊岡誠二郎がいた。
「やれやれ、なんと言う格好をしている」
開口一番、真之が呆れていた。今の彼の姿は青い浴衣姿に下駄履きというこの建物に似つかわしくない格好であった。
「貴様にはもう一度教育をさせた方がよさそうだな」
「それはご勘弁を。
「阿呆め、貴様のような弛んどる者がいる限りワシは生涯現役だ」
『勘弁してくれ』と言いたげに菊岡が肩をガックリと落とす。真之はそんな菊岡に視線を当てると彼に向かって言った。
「菊岡誠二郎二等陸佐。後で話がある。付き合え」
「……了解しました」
やや疑問げに菊岡は返事をすると今度は藤吉を見る。
「しかし、驚きました。まさか閣下がこんな場所まで来るとは……」
「ふん、今回はあくまでも私的な用事。この子達も護衛として連れてきている」
「護衛……なんとも
先輩?詩乃はそう疑問に思うと藤吉が見透かした様に言う。
「何、俺と菊岡は義父の教えを貰った兄弟弟子だ」
「こんなおっかない二人と同じと言うのも恐ろしい話だよ」
そう言う菊岡は乾いた笑いをするが、ビクビクしている様にも感じた。
色々と情報が多すぎて混乱しているが、凛子が一番最初に把握をすると今度は部屋にいたもう一人の方に視線を向ける。
「何か、スゴいっすね……」
「あれ?……比嘉君、貴方もいたの?」
「ええ、まぁ……」
凛子を見ながら少しおちゃらけた様子の男性が凛子を見る。比嘉は、凛子やあの茅場晶彦が所属していた重村徹大教授の研究室、《重村ラボ》の学生だった男だ。そんな彼がここにいる事に凛子は少し疑問に思っていた。
「……さて、色々と話した所だが。詩乃君達に話さなければならないな」
「「?」」
藤吉がそう言うと菊岡がゲッとした表情を見せる。
「……言うんですか?」
「当たり前だ。何のためにこの子達をここに連れてきたと思っている」
藤吉の鋭い視線を向けられ、菊岡は大きくため息をつくと明日菜達に事情を詳しく話し始めた。
和人が現代の医療では治療不可能な事態に陥っていると言う事。しかし、ここで使われている《ソウル・トランスレーター》、通称STLと呼ばれる機械で、フラクトライトと呼ばれる魂の様なものを活性化させる治療法をおこなっていると言う。
そこで、此処のの施設が《高適応性人工知能》……A.L.I.C.E.と呼ばれる人工知能を開発していると言う事であった。
そしてそこで明日奈達は人工知能を使って軍事AIの開発をおこなっていると言う事も理解した。
「(修也さんの言ったとおりだ……)」
明日奈は前に和人から聞いた修也の話を思い出す。
『人類史上最も科学が発展してきたのは《戦争》という二文字があったからだ。敵に勝つため、味方の被害を抑えるために、敵よりも強い
だが、核兵器は威力があまりにも大きすぎる。後々の被害も馬鹿にならない上に費用もかかる。今の核兵器はその高威力ゆえに
そこで次に戦争の主役となったのはステルス性だ。いかに敵のレーダーに見つかりにくくするのかが肝となり、その上被害も無くしたいと考えて開発されたのが無人攻撃機、《UAV》。しかし、これには電磁波に弱いと言う欠陥がある。
被害をなくし、尚且つ電磁波にも負けない無人機を作るには……軍事用AIの開発が必要不可欠と言うわけだ』
明日奈は修也の話を思い出すと思わず歯噛みをしてしまった。詩乃もそれに気づき、明日奈の方を優しく掴んで、声をかけていた。
「大丈夫?」
「えぇ……大丈夫」
明日奈は気をしっかり保つと菊岡を睨みつける様に見ていた。その横で藤吉が言う。
「君の思っていることはおそらく間違っていないだろう。しかし、彼らはあくまでも
「っ!……」
明日奈は咄嗟に藤吉を見ると彼はこの日本という国を守る一人の国務大臣としての目で映像に映る街を見ていた。
その様子を一日後ろから見ていた詩乃は思わず聞いてしまう。
「藤吉さん……」
そう聞くと藤吉はハッとした様子で詩乃を見てああ、と言った様子で言った。
「ああ、済まない。詩乃君にも言わなければならない事があったな……」
そう言うと藤吉は凛子の方を向いて言う。
「神代博士。これは貴方にも関係がある話です」
「わ、私にですか?」
「ええ、そうです」
藤吉はそう言うと明日奈達に聞く。
「詩乃君、明日奈君。君は修也の話はどこまで知っている?」
「え?」
「えっと……」
二人はいきなりの質問に少し戸惑いながら自分が知っている限りの修也の話をする。
話を聞き終えた藤吉ははぁ、と一息ついて真之に方を見た。
「やはり伝えていなかった様です」
「まぁ、そうだろうよ。普通なら言える筈がなかろう……」
二人はやはりと言った様子で顔を見合っていた。明日奈達は疑問に思っていると藤吉は二人に言う。
「これは、二人には言わなければならない事だ。…本当であれば彼自身から聞いて欲しかった話だが……」
そう言うと菊岡が藤吉にスッと紙を渡した。
「どうぞ」
「ああ、すまない」
紙を受け取った藤吉はそのまま詩乃にそれを渡した。
「これは……」
「修也の経歴…その全てだ」
そこには驚くべき経歴が乗っていた。