「これって……」
藤吉達に連れられてオーシャン・タートルに来た詩乃と明日奈。そこで二人は修也の過去を読んでいた。
「赤羽修也……旧姓
しかし十二歳の時に強盗にやって来た犯人を薪割り用の斧で撲殺し、急遽帰国。
十四歳の時に今度は青森の郵便局で強盗に対して発砲。その後に謹慎と称して再びアメリカに、その時にカリフォルニア工科大学に入学。わずか二年で大学を卒業すると言う快挙を成した。
大学卒業後は日本に帰国し、そしてそのままSAO事件に巻き込まれて、今に至る……」
おおよそ凡人とは思えない経歴に詩乃達は冷や汗をかいた。凛子は修也の経歴を聞いて困惑していた。
「茅場……?」
思わずそう呟くと菊岡が頷く。
「そう、茅場……彼の旧姓は茅場修也。つまり、あの茅場晶彦と赤羽修也君は血の繋がった兄弟と言うわけだ」
初めて知った。
少なくとも全員がそう思った。そして驚いた。衝撃の事実を目の当たりにして詩乃と明日奈は特に困惑していた。
「団長と…修也さんが……兄弟?」
少なくとも明日奈は修也と晶彦が共にしている時を見ていたが、そんな気配を見せたことは無かった。
詩乃は修也があの茅場晶彦の実の弟である事に驚愕と、困惑をしていた。
凛子は晶彦に弟がいた事に驚愕していた。
「比嘉君は……知っていたの?」
凛子は比嘉を見ながら心底驚いた目をして聞くと、比嘉も慌てて首を横に振りながら答えた。
「いや、僕も知ったのはこのプロジェクトに参加した時っす。それまでは一切知りませんでした。まさか先輩に弟がいたなんて……」
でも、顔を見た時に先輩の面影があると思いました。そう言い残し、比嘉は比較的落ち着いた様子で話した。
話を聞いたすぐと言う事もあり、三人は動揺していた。藤吉はそこで話をする。
「見てもらった通り、修也は俺と血がつながった子ではない。だが、俺の子である事に間違いはない」
「……」
詩乃達は唖然としてしまっていると詩乃が口を開く。
「あの…私を連れて来たのって……」
「ああ、そうだ。君には修也が最も心を開いている子として、修也の過去を知ってもらいたかった。それだけだ……。これを知って君が何を思うのかは君次第だ」
そう言うと今度は明日奈を方を向いて話す。
「明日奈君。君に知ってもらったのは修也の友人であることと、君があの事件で茅場晶彦に最も近い存在だったからだ」
そう言うと藤吉は菊岡に聞いた。
「今の修也の状態は分かるか?」
「ええ、前と変わらないとだけ」
「「!?」」
此処に修也がいるのかと。驚いてしまった。それと同時に詩乃が前のめりになって聞く。
「修也が、居るんですか……!?」
会いたい、そして聞きたい。そう思う詩乃に菊岡や、比嘉は珍しく苦い表情をする。
「……すまないが。彼は
「治療……?」
どう言う事だ。
そう思うと比嘉がある画面を見せる。
「これっすよ」
そうして見せた画面に三人が注視する。
「これって……」
「彼のフラクトライトっす」
そう言うと全員が目を見開いてその映像を見る。
「フラクトライトって……何もないじゃない!!」
そこには真っ暗な画面が広がっているだけであった。困惑する三人に比嘉が己の推測を混ぜて、この状況を説明する。
「そう、彼のフラクトライトはこうして見えていないんっす。普通、こう言ったのは死んでいる状態なっす。
でも彼は生きている。
普通に食事を摂り、呼吸し、生命活動を維持している。
此処からは俺の推測っすけど、フラクトライトがないのに生きているって言うのは彼のフラクトライトが観測外にいるか、フラクトライトが何かしらの影響で破壊されてしまったかのどちらかっす。つまり……」
「歩く死体……という事?」
凛子の答えに比嘉は頷く。それを見た詩乃と明日奈は驚愕し、絶望をした。
まさか、彼の心がこんな風になっているとは思わなかった。
「彼のフラクトライトは観測不能。活性値も分からない。そんな状況に和人君の一件もあって大忙しだ……」
菊岡が苦瓜を食べた様な表情を浮かべていた。
話を聞き終え、詩乃達はオーシャン・タートルの一室で呆然としていた。
「……」
「シノのん」
明日奈の呼び掛けに一瞬詩乃は体をぴくりとさせて驚いた後に明日奈を見直した。
「っ……どうした?」
「さっきからずっと呆然としていたから……」
「……ごめん」
友人を心配させてしまった事に詩乃は頭を反射的に下げてしまうと、アスナは軽く首を横に振りながら柔らかい口調で言った。
「謝らなくていいよ。私も、少しビックリしているから……」
本来であれば今すぐにでも和人のところに行きたいであろう明日奈は、それ以上に衝撃的な話を聞いた詩乃にを見てお互いに体を寄せ合っていた。
今にも泣き出してしまいそうな二人はお互いを慰め合っていた。
まさか何年も共に過ごした仲間の心が死んでいるなんて思わなかった。それに、明日奈は彼の心が死んでしまった原因が分かってしまったのも辛かった。
「(きっとあの時だ……)」
SAOが攻略された第七十五層での戦闘。
そこで彼はヒースクリフ……実兄である茅場晶彦を和人と共に討ち取った。その時に彼の精神は壊れてしまったのだろう。
今思えば彼は今までに自分の心をすり減らしてしまったのかもしれない。ラフコフ討伐の時ですら、彼
そのおかげでこちらの被害は皆無だった。
詩乃が修也と初めて出会ったと言う強盗事件の時も彼が詩乃の罪を背負った。しかし、背負い過ぎた罪が彼自身を殺してしまったのかと思うと、彼女は罪悪感を感じずには居られなくなってしまった。
「……明日奈」
「どうしたの?」
その時の詩乃の声はとても弱々しく、震えていた。今にも泣き出してしまいそうだった。
「私…知らなかった。修也の事、何にも……修也の過去も、修也の心が壊れていたのも……」
ポツリポツリと話される詩乃の言葉に明日奈は思わず修也のことを思い返してしまった。
「私、知っている様で何も知らなかったんだ……修也の事…私、信用されていなかったのかな……」
「それは無いと思うよ、シノのん」
「え……?」
詩乃の疑問に明日奈が言う。
「だって、修也さん。シノのんにだけ笑みを見せるじゃん」
下手くそだけど。
そう言い、明日奈はあの世界の修也をふと言う。
「修也さん。あの世界じゃ笑ったことなんて無かった。笑顔なんて見たことなかった。だけど、しののんと付き合い始めてから修也さんはシノのんに笑顔を見せる様になった。私はそれだけシノのんが修也さんから信頼されていると思ってる」
「…明日奈……」
「少なくとも修也さんも詩乃の事は信用していると思う。……まさか大学を卒業していた事にはビックリだけどね」
「……」
明日奈の言った言葉に詩乃は少しだけ元気をもらった様な気がした。
すると詩乃はベットから立ち上がると明日奈に手を差し出す。自分が慰めてもらったのだから今度は自分が明日奈の事を慰めなければ。詩乃はそう思うと行動に移していた。
「明日奈、行こう。二人の所に……」
そう言われた明日奈は一瞬呆然とするも、すぐに詩乃の手を取った。
「うん……そうだね」
詩乃達に話を終えた藤吉達はとある場所に菊岡を呼び出していた。
「何の御用でしょうか」
菊岡が偉く低い腰で藤吉を伺う。藤吉は若干呆れた様子で菊岡を見る。一等陸尉で退官した彼だが、今は現職の国務大臣。一等陸佐とは別の意味で立場が違い過ぎていた。
「御用ではない。これは貴様の注意不足が引き起こした事件だ」
そう言うと真之が菊岡を叱る様に言う。
「全く、貴様は大学校時代からそうだった。ワシが退官する時に言った事ができていない様だな」
「『壁に耳あり障子に目あり』……でしたか。教官殿」
菊岡がそう言うと真之は頷いた。
「そうだ、修也が言わなければ貴様は首が飛んでいただろうな」
文字通りな。
そう言い残した真之に菊岡は血の気が引いてしまった。すると、藤吉は菊岡に一枚の紙を差し出した。
「さて、これが貴様の犯した間違い……
無制限の外患誘致だ」