ルーリッド村を出て数週間後。三人はザッカリアという街に到着する。
ブレイドの記憶に関してはもう諦めたキリトはザッカリアの街で行われる剣技大会に出場する手続きを取っていた。
ブレイドの話で此処の大会で優勝すれば帝立研修学院に入る一番の近道であると知ったからだ。
ブレイドの提案で知り合いだと言う牧場に泊まり込みでお世話になる事にした。
「では、この子達を宜しくお願いします」
「ええ、任せてください。ブレイド様」
どうやらこのウォルデ夫妻はブレイドの家に肉や牛乳を卸している相手だと言う。その縁もあって俺たちは助けてもらっていた。
「二人とも頑張れよ」
「ああ」
「うん」
そう言うとブレイドは牧場を後にして行った。彼は彼でこの町で仕事があるのだと言う。
二等爵家のご当主ともなると、本来はこんな場所には来ない様な人なのだと言う。税の回収や、民の調子を伺ったり、魔物と対峙したりと、色々と忙しいのだと感じていた。そんな合間を縫って俺たちの様子を見たり、時には剣の相手をしてくれるのだから俺やユージオは萎縮しまくりである。
「さぁ、やろうか」
此処は牧場外の平原。その一角でブレイドとユージオが木刀(木を簡単に削った物)を持って対峙していた。中央にはキリトが立ち、審判係をしていた。
「……初めっ!」
「ハァァァァァァアア!!」カンッ!
ユージオが一気に接近し、ブレイドに木刀を当てる。鍔迫り合いとなり、何度かユージオがブレイドの木刀を当てたところでブレイドが攻勢に出た。
「ーーーフッ!」カァンッ!
勢いよく横に振られた木刀にユージオの手から持っていた木刀が吹っ飛ぶ。宙を舞った木刀は地面に突き刺さった。
「そこまでっ!勝者、ブレイド!」
「やぁー、また負けちゃった……」
吹っ飛んだ木刀を手に取ってユージオがそう呟く。最近は慣れてきた影響でブレイドにタメ口が言える様になったユージオに、ブレイドがさっきの試合の感想を言う。
「太刀筋は問題ない。後は速度だな。剣の動きを早めれば、相手に対応される事なく敵に攻撃ができる」
「成程……」
ユージオがそう言い、顎に手を当てる。それを見てブレイドが言う。
「明日は私も見ているから。頑張れよ」
「「えっ?」」
今の二人は頭を回転させてある結論に行き着く。
頑張れよ(負けたらわかっているな?)
「(あぁ…これ勝たんとやばいやつや(だ)……)」」
特に二等爵家ともなればその重圧はさらにのしかかった。二人はもし勝てなかった場合のことを想像すると思わずゾッとしてしまった。
「「(勝たないとやられる……!!)」」
二人はブレイドを見てそんな風に思っていた。
二人の労いを終えた私はザッカリアの街の戻り、自分の家が経営するザッカリアの商店に入る。
「明日は二人の剣技か……」
ブレイドはお忍びで大会に出ようと模索する。おそらく二人の実力だと優勝できるだろう。しかし、そこに邪魔が入らないとは限らない。だから私が赴いて指南している事を二人に画策しようとした者に教えた。『二人に手出しすれば何をされるか』ただでさえ、他の貴族達に覚えの悪い私はこう言ったザッカリアにいる貴族達にこうやって知らしめて行くしかない。
「まぁ、何とかなるか…あの二人であれば……」
ブレイドはそんな事を思いながら明日を迎えた。
翌日、大会会場に赴いた私は比較的普通の服で席に座って会場を見る。
すると既にそこではキリトとユージオが順調に勝ち進んでいる様子が窺えた。
「(あの太刀筋なら……)」
ブレイドは席に座りながら見ていた。
結局、キリトとユージオはそれぞれ二位と一位で大会を制し、ザッカリア衛兵隊への入隊を果たした。
「よくやったな」
「ふぅ、キリトには色々聞きたいことがあるけどね」
「まぁまぁ」
ザッカリアのワラキア家が経営する店でブレイドは二人を労っていた。
「まぁ、二人ともお疲れ様」
そう言い、ブレイドは飲み物と食事を差し出した。
「奢りだ、二人の優勝を祝ってな」
「「ありがとうございます!」」
そう言い、二人は出された食べ物を食すとブレイドはキリトに一枚の紙を差し出す。
「これは……?」
「央都の私の家がある場所だ。央都に着いたらまず此処に立ち寄ってくれ。使用人には話を通しておく」
「了解」
「分かった」
二人はお互いに頷くとユージオが聞いた。
「どうしてそこまで僕たちに気遣ってくれるんですか?」
そうユージオが問うと、ブレイドは少しフッと笑ってこう答える。
「何、偶には馬鹿な事をしたいのさ。人をあっと驚かせる様なことをな……まっ、それが男と言うものだよ」
そう言い残すとブレイドは席を立った。
「では、また会おう。次会うときは同級生だ」
「おう、またな」
「色々とありがとうございました」
二人はそれぞれ挨拶をするとブレイドとキリト達は暫しの別れとなった。
詩乃はガラスの向こうに横たわる想い人を見ていた。
今彼がいるのはオーシャン・タートル内にあるSTL、その一つだ。
「修也……」
そう呟くのは自分が愛した一人の青年であった。
今日知ったさまざまな出来事にようやく落ち着いて来た頃合いであった。
修也が隠していた事……おそらく言わなかったのは
ーーあんな事をしでかした兄の血を引き継ぐ、悪魔の子と呼ばれるのが嫌だったんだと思う。
ーーそれで友人を失うのが怖かったんだと思う。
修也は自分達が起こっている以上にすごい人だった。
すごく優秀だった。
後々知れば、修也は大学を卒業するときにこんなお願いをしたという。
『私が卒業した事は外に漏らさないでほしい』
彼の要望通り、飛び級での卒業は徹底的に秘匿された。彼が大学を卒業している事を知るのはごくわずかな人間だけだという。凛子さんですら知らなかったのだから、本当に秘匿されていたのだろう。
おまけに修也は大学時代の友人……私がアメリカで知り合ったザスマン・シャザールさんが代表を務める、あの世界的医療器具メーカー《アスクレー》の義手製作部門に勤めていると言うではないか。
私も聞いたことがあるその会社に、明日奈も修也がいかにすごい人なのか理解できた。だけど……。
「なんで教えてくれなかったの……」
私は一人、疎外されているようで悲しかった。
「これ……何だかわかるっすか?」
「さあ?私も初めて見るわ」
ここはSTLを制御する機械室、その一つであった。その部屋の中で比嘉と凛子が制御盤に取り付けられたあるデバイスに疑問を抱いていた。
「……この機械室は修也君が作ったんすよ」
「あの子が……?」
首を傾げると比嘉は訳を言う。
「ええ、彼がこのSTLの設計を行ったすからね。なんでも簡略化をするための実験だとかで……結構自由にさせていたんすよ」
「じゃあ、これって……」
「ええ、修也君が取り付けたものなんでしょうけど……」
そう言う二人の視線の先には赤色の金属製の箱のようなものがスパゲッティチューブとなって張り出し、STLの制御盤に取り付けられていた。
「これ、外す事は……」
「出来ないっすね。このSTLは今修也君が使っているものですし……」
「そうよね……」
そう言い、二人は頑丈に固定されたそのデバイスを見て取り外しも難しいかと思っていた。
「まぁ、そんな訳で見て欲しかったのはこれっすよ」
「ふーん、あの子は何を考えているのかしらね」
「さあ?でも、先輩の弟っすから。案外突拍子もない事をしそうなんすよね……」
そう言うと比嘉も凛子も同じように苦笑してしまう。
否定できない。
実際、彼はアメリカで
その究極とも言えるのがあのマキナだ。人と変わらない動きをする、ある種の新人類。新たな生命とも言えるかも知れない機械でできたロボット。
見た目は十歳ほどの少女、中身は機密の塊。それは、誰もが欲しがる一種のオーパーツ。いや、パンドラの箱ともいうべきだろうか……。
そんな発明を軽々とやってのけてしまう彼は何を考えているのだろうか……。
想像がつかない、と言うのが二人の見解だった。
「やれやれ、天才という人は恐ろしいっすね」
「そう、ね……」
二人は今現在STLに入って治療のようなものを行なっている色々と規格外の青年を見ていた。
「嗚呼ぁぁぁぁあああ!!!!!」
ここはオーシャン・タートルの防音された一室。其処では男の悲鳴とそれを見届ける幾人かの屈強な男達がいた。
「案外耐えるな……」
「……強めろ。しかし、殺すな。死んでは元も子もない」
二人の男が指示を出すと周りにいたスーツ姿の者たちが一人の白衣を着た痩せた男に持っていた金属製の棒を当てる。
そしてまた悲鳴が上がり、男……柳生と呼ばれる研究員は弱った声で何かを呟く。
それを聞き取り、一人が部屋にいた藤吉の耳に囁く。
「ふんっ、やはりこいつが裏切り者だったか……」
「間違い無いだろう。……全く、修也がおらんかったら危なかった所だ」
その横で真之が言い、同じ部屋に居た菊岡はそんな二人に完全に萎縮してしまっていた。
「(これが、裏切り者に対する『愛国者』の報復か……)」
愛国者
それは今の防衛省で最も勢力を持つ集まりである。警察予備隊発足当時から存在し。日本という国を愛し、第一に考える一種のカルト教団のような者である。
しかし、その影響力は馬鹿にできず、今では政界でも勢いを持ち始めている。
少なくとも防衛省や警察庁のほとんどは愛国者で埋まっていると言って良いだろう。菊岡もそんな愛国者の一人である。
愛国者は日本という国を愛する思想を持つがために、国への裏切り者に対する仕打ちは想像しただけで恐ろしい。菊岡が考えたくもないと思う時点で其処はお察しいただきたい。
それはこう言った自衛隊が絡む事業に関しても言える事で、今まで似たような事業で何人かの自衛隊員や関係者が
菊岡はこれがまだ
今の日本に諜報員を罰する法律はない。
よって、諜報員にどんな事をしても
ただ、それだけの事なのだ。
菊岡は一瞬でボロボロになってしまった研究員を見て、これは自分への戒めだと思わずにはいられなかった。