二〇二四年 二月二十三日
「フッ!」
ブレイドは斧を振ってモンスターを倒していた。この前のダンジョンで手に入れた武器の確認をするためである。
「すごいな。この武器は……」
そう言って手に持っている剣を見てそう呟いた。
その両手剣は黄色から赤色のグラデーションを持っていた。
「『パランジャ』か……」
今の自分は両手剣をメインに片手斧、短剣のスキルを集めていた。
この両手剣はこの前の五十層のダンジョンで手に入れた両手剣である。ちなみに斧の方は《カルパヴリクシャ》で手に入れた。
今日は新しく手に入れた両手剣の調子を確認していた。
「戻るか……」
そうして戻るために歩き出した時、近くで悲鳴が聞こえた。
「悲鳴……一体誰が?」
ブレイドは悲鳴の聞こえた方に走り出すと視線の先では少女が三体のドランクエイプに襲われていた。
「初めての実践だな」
ブレイドはそう思うとソードスキル『ファイトブレイド』で一気にドランクエイプを一掃した。
「威力は申し分ないな……」
そう呟いていると後ろにいた少女が少し震えて地べたに座っていた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……でも、ピナが!」
「…すまない。君の友人は助けられなかった……」
今にも泣きそうな少女を見てブレイドは咄嗟に彼女の守るように手を出し、片手斧を持った。
「誰だ!」
森に向かってそう叫ぶと中から一人の青年が出て来た。
「俺だ、キリトだ」
そう言って出て来たのは黒を基調とした服装に背中に黒い剣を持つキリトだった。
「何だ、キリトだったか……」
そう言ってブレイドは斧を革製のホルスターにしまうと軽く手を振った。
キリトはブレイドの後ろにいた少女の持っていたものに目を向けた。
そこでブレイドはキリトに事情を話すと彼はブレイドの後ろにいた少女に話しかける。
「ごめん、ちょっと君。そのアイテムを見せてもらえるかい?」
そう言ってキリトは少女の持っていた一枚の羽を見た。
「これは…〈ピナの心〉……成程、君の友人を助けられるかもしれないな」
「ほ、本当ですか!?」
少女は驚いた様子でキリトに聞いていた。するとキリトは詳しい話を説明していた。
「四十七層に『思い出の丘』って言うダンジョンがある」
「あぁ……聞いたことあるな。その丘の天辺に咲く花が使い魔専用の蘇生アイテムって話」
「ああ、そのことだ」
「四十七層…私のレベルじゃ……」
少女はそう言って二人の間で俯いてしまった。
「これが花だけとかなら私が取ってきて良かったんだが……あいにくとテイマー本人が行かないとその花は咲かないと言う…」
「おまけに三日以内に行かないと〈心〉は〈形見〉になってしまう」
「そんな!」
少女はキリト達の話を聞いて落胆してしまっていた。その様子を見てキリトとブレイドはお互いに顔を見合わせると小さく頷いた。
「キリト、予備の武器はあるか?」
「ああ、この子くらいだとタガーか?」
「じゃあ、こっちはブーツとアーマーだな」
そう言ってキリト達は少女にアイテムトレードを申請させるとキリトとブレイドは少女に武器と装備を渡した。
「えっ、これは……」
「これだけあればレベル8くらいは底上げできる。私達と一緒に来れば行けるだろう」
「勝手に行くこと決めんなよ…まあ、元から行く気だったから良かったが……」
そう言ってキリトは若干呆れていると少女が二人に話しかけた。
「あの……どうしてそこまでしてくれるんですか?」
少女が若干警戒しながらそう聞くとキリト達は若干恥ずかしそうに答えた。
「私は、困っている女性だったから助ける……ただそれだけだ」
「俺もブレイドとほぼ同じだな。まあ、強いて言えば……」
「?」
それでキリトは少し微笑んで少女に話した。
「君が、妹に似ているからかな……」
キリトと最後の言葉に少女は笑っていた。
「(妹か……)」
ブレイドはキリトの言葉を聞いて現実世界の事を思い出していた。
「(妹…じゃないが元気にしているんだろうか……)」
ブレイドはそんな事を思いながら空を眺めていた。
「あ、そう言えば名前まだ言ってなかったですね。私、シリカって言います」
「俺はキリトだ」
「私はブレイドだ」
街の戻る途中。三人はお互いに挨拶をしていた。
「あのー、ブレイドさんはどうして『私』って言うんですか?」
「ああ、癖というものかな。気分が悪かったら普通に話すが……」
「あ、大丈夫です。ただ、不思議に思っただけですから……」
そう言ってシリカはブレイドを少し面白そうに見ながら視線を戻していた。
「そういえば、なぜ君だけあそこに居たのかな?」
「えぇ…実はパーティーメンバーとアイテム分配で揉めてしまって……一人であの森を抜けようとして……」
「道に迷ってああなったと……」
「はい……」
「成る程……」
ブレイドはシリカの話を聞きながら三十五層のフリーベンという街に到着する。
街に着いたシリカ達はそのまま宿を目指していた。その時だった……
「あら、シリカじゃない」
「…どうも」
「へぇーえ、森から脱出できたんだ。良かったわね」
真っ赤な髪にカールした。名前をロザリアと名乗っていた。
「……」
「(こいつは……思わぬ掘り出し物だな)」
キリトの様子からしておそらく何か用事があるのだろう。
そんな事を思いながら明らかに怪しいロザリアを見ていた。
「あら?あのトカゲはどうしちゃったの?」
「…ピナは死にました…でも!ピナは絶対に生き返らせます!」
「へぇ、て事は『思い出の丘』に行く気なんだ。でも、あんたなんかのレベルで攻略できるの?」
「(キリト、ここでコイツをサンドバックしていいか?)」
「(いやダメだろ。ここでやると色々とまずいぞ)」
ブレイドとキリトは目線で会話をするとブレイドが答えた。
「いいえ、あそこはそれ程難易度も高くはありませんし、私達がついているので無理とは言いませんよ」
「あんたたちもその子に誑し込まれたのかしら?」
「いえいえ、私は彼女の依頼を受けたものです。では、そろそろ行きましょうか。……ではまたいつか会いましょう」
キリト曰く、気持ち悪いくらい紳士的な態度でそう言い残し、ブレイド達はその場を後にした。
「…何で、あんな意地悪言うのかな……」
「シリカもブレイドもMMOは初めてか?」
「ああ」
そこでブレイドも頷くと少しキリトも驚いた様子だった。
「ブレイドさんもなんですか?」
「そうだ、VR自体はよくやっていたがな……」
何処か含みある言い方で答えるとキリトは何かあるのだろうと言うことで深入りすることはなかった。
「……どんなオンラインゲームでも、キャラクターによって人格が変わってしまうプレイヤーが多い。その中には他人の不幸を喜ぶ奴、アイテムを奪う奴……殺しまでする奴もいる」
「さ、殺人ですか……!?」
シリカは信じられないと言った様子であったが。残念ながら事実である。この世界でのPKは現実でも死亡してしまう。
茅場晶彦という人物を近くで見てきた自分だから言える。あの人の夢自体がこの世界なのだ。いくら器を作ったとはいえ、AIには限界がある。そのことを知った彼は一万人の人を巻き添えにして器の中身を埋めたのだ。
そして、未だに現実世界の死を受け入れられないような人たちが自分達の欲だけのために悪事を働くようになっているのだ。たとえ死ぬことが事実であったとしても……。
「シリカ、キリト。これは生きている上でも必要なことだが、人というのはほとんどが悪人だ。どんな人でも最終的に全員自分自身が一番だ。
自分の命を賭けて他人を救うなんてそれこそ映画に出てくる善人のヒーローくらいしか居ないさ」
ブレイドの話にキリトやシリカは興味深そうに話を聞くとキリトが呟いた。
「お前、一体何歳なんだ?」
「見た目相応の歳とだけ言っておく」
「あはは、ブレイドさんの話をもっと聞いてみたいです」
そう言ってさっきまで暗かった雰囲気は吹き飛び、この後は楽しい会話で終了した。
その日の晩、キリトと同じ部屋で泊まる事になったブレイドは部屋で武器の整備をしているとキリトが話しかけてきた。
「なあ、ブレイド」
「どうした。キリト?」
月光で薄暗い部屋でキリトはブレイドに聞いた。
「『赤ずきん』って聞いたことあるか?」
「『赤ずきん』……ああ、聞いた事あるな。中層域で犯罪者や殺人者を片っ端から牢獄に放り込んでいると言う謎のプレイヤー」
「ああ、俺も話を聞いた事がある。そして見た事がある」
キリトがそう言った時、ほんの一瞬だけブレイドの手が止まった。その一瞬をキリトは見逃さなかった。
「で、私にその『赤ずきん』の調査をしてほしいと?」
「いや、俺が聞きたいのはお前が『赤ずきん』じゃないかって話だ」
「……根拠は?」
ブレイドが聞くとキリトは自分なりの仮説を話す。
「まず、俺が見た『赤ずきん』は恐ろしいほど全てが素早かった。目標の発見から追跡、捕縛、撤退まで。全ての過程で素早かった。あんな速度で移動できるのは俺はブレイド以外に見た事がないからな。そうだろう、『赤ずきん』さん」
そう言うとブレイドはフッと少し笑うとあっさりと認めた。
「……いつからその事に?」
「これさ」
そう言ってキリトが見せたものを見るとブレイドは納得をしていた。
「なるほど、探索ログか」
探索ログはブレイドとキリトがお互いの位置を知るために買ったアイテムで、常にフレンド同士の位置情報を共有できるものだった。
そのアイテムは過去一週間の移動記録のも残されている。
「そう、これを使ってお前の後を追ったのさ。あとアルゴに高い金払って聞いた」
結局はアルゴから聞いたのかと内心ため息が漏れた。
「そうか……で、わざわざ私の裏稼業を暴いて……キリトの目的はなんだ?」
「ブレイドが何故こんなことをするのか。その真意を聞きたいから」
「それは……どうやら本心のようだな」
そう言うとブレイドは持っていた『パランジャ』をに壁に立てかけるとブレイドはキリトに向かって話した。その時の雰囲気は今までとは違い、まるで迷宮区のボスを相手している時のような重い雰囲気であった。
「これから話す事を君は信じるか?」
「…あぁ……」
やや汗が滴りながらキリトは頷くとブレイドは軽く息をついた後に口を開いた。
「……ならば、話そう。私がこんな事をしている理由をな」
こうしてキリトはブレイドから赤ずきんとして犯罪者や殺人者を狩っている理由を聞いた。
ブレイドからその理由を聞いたキリトの感情は戦慄と驚きで埋まっていた。
「……と言うわけだ。分かってくれたかい?」
「あ、あぁ……」
冷や汗が頬を伝うキリトを見てブレイドは少し肩の荷が降りたのかベットから立ち上がるとシリカに明日向かう『思い出の丘』について話すために部屋を後にした。