サドレー技師からギガスシダーで作った剣を受け取ったキリト達は学院の修練場に来ていた。
「貴様は何をやっていた……?」
「いやぁ…やっちゃった☆」テヘッ
そう答えるキリトにブレイドは呆れた目線を向ける。
「馬鹿か貴様は。罰として後で私の実験に付き合え」
「ヒィ…それは勘弁を……!!」
ブレイドの実験は過酷で、実験後は必ずぶっ倒れていたのでキリト達からすると最も重い罰だった。
「キリト、それが妥当だと思うよ……」
「お、俺に味方がいねぇ……」
闘技場の一角でそんな事を言い合う三人。
何故こんなことになったのか。話は二時間ほど時間を遡る。
サドレー技師の店から戻ったブレイドはユージオに神聖術のコツを教えていた。
「ありがとう、ブレイド。お陰で何とかなりそうだ」
「ああ、そう言うなら良かった。さ、今日も終わったから食事に行くか」
「うん、そうだね」
そう言い、二人は部屋を出ると何やらバタバタした様子で他の生徒達が修練場に向かって走っていた。
『おい!ウォロ主席が試合するって!』
『早く見に行こう!』
『相手は誰なんだ?』
『何でも黒髪の傍付きらしい』
黒髪の傍付きと聞いただけで嫌な予感がした。このまま放置したいと思っていたが、そうとは行かなかった。
「ブレイド、さっき言ってたのって……」
ユージオが呆れ半分。期待半分でブレイドを見る。『見に行こう』と……。
「……行きたいのか?」
「勿論!」
そう言うとブレイドはため息をした後、修練場に向かって走り始めた。
「…で、ウォロ主席に貴様がやらかしてこうなったと……」
「ええ、まぁ……そんな所でございます」
修練場の一角でキリトに問い詰めているブレイド。その後ろでまぁまぁと言って宥めているユージオ。別の所でキリトの免除を乞うリーナ先輩。
色々と大騒ぎになりながら結局キリトは実剣を持って一本先取制の懲罰試合をする事となってしまった。
「死にはしないだろうが。まぁ、頑張れ」
「おうよ。できるだけ努力はするさ」
そう言い残してキリトは修練場でウォロ主席と懲罰試合をしに向かった。自分達もその試合を見るために端で経過を見ていた。
修練場の椅子ではあのライオスとウンベールがキリトを嘲笑うかのように見ていた。
「(やれやれ、餓鬼だな)」
ああ言うのは大体が恨まれて死ぬものだと感じざるを得なかった。
そんな彼らを一瞬だけ見るとブレイドはキリトを見た。少なくともこの試合にキリトが勝てないだろうが。それでも少し楽しみであった。
「(さて、どうなるか……)」
キリトの持ち出したギガスシダーの剣(仮称:黒の剣)を見て、全員がどよめく。しかし、無理もないだろう。刀身まで黒い剣など普通見ないだろうからだ。ユージオの青薔薇の剣と言う神器ばっかり見ていると感覚がおかしくなってしまいそうであった。
そしてそれに勿論いちゃもんをつける阿呆貴族達、そしてそれにイライラするユージオを宥めながら試合を見届ける。
そしてウォロ先輩が構えた時、会場は静粛に包まれた。
「(何と言う気迫だ……これなら主席と言うのも納得できる)」
大剣を持ち上げてハイ・ノルキア流剣術秘奥義〈天山烈破〉(両手剣ソードスキル、アバランシュ)を構える。対するキリトはキリトはアインクラッド流奥義〈バーチカル・スクエア〉を構えていた。
「(やはり、キリトの技には見覚えがあるな……)」
静粛が場を包む中、ブレイドはそんな感想を抱いていた。
大剣を握り、対峙する彼の姿はどことなく既視感があった。
「(何だろうな。この既視感と懐かしさは……)」
少なくとも自分は両手剣を持ったことがない。そう思ったその時、ふとある光景が思い浮かんだ。
それはとある森の中。とある家の前で剣を振るう自分と、同じように片手剣を振る黒髪の青年の姿であった。
そして自分の手には黄金色の両手剣が握られ、片手剣相手に振っていた。
その光景はとても懐かしく思えていた。
その時、剣を握っていた青年の顔はーーー
「(キリト……?)」
その《記憶》に映った青年は目の前でウォロ主席相手に剣を振っている彼そのものであった。
「ーーーブレイド!」
「っ!」
「大丈夫?」
ユージオの声で意識が戻ったブレイドはユージオに状況を聞いた。
「すまない、少々考え事でな。状況はどうなっている?」
「試合は引き分けで終わったよ。今みんなで宴会をすることになっているから。ブレイドも早く来て」
「……了解だ。部屋でやる事をやってから行く」
「早く来てね」
「ああ、分かっている」
そう言うとユージオは修練場を後にしていた。気づくと今ここには自分だけが残っていた。そこまで集中してしまっていたかと思い、部屋に戻ろうとした時、自分は声をかけられた。
「ブレイド修剣士」
「……何でございましょうか。アズリカ先生」
私を呼び止めたのは自分達の講師であるアズリカ先生だった。私はいつもの表情で対応をするとアズリカ先生がブレイドに言った。
「ブレイド修剣士。今から付き合ってもらえますか?」
そう言い、アズリカ先生は剣を見せた。
「貴方の
それだけでアズリカ先生が何をしたいのか理解した。おそらく入学試験で手を抜いたことが何処かから漏れたのだろう。
アズリカ先生の性格を考えればそれは言語道断なのだろう。こうなった以上断ると言う選択肢はないわけで、私はアズリカ先生に念のため聞き返した。
「大丈夫なのですか?」
「ええ、既に許可は取ってあります」
そう言うとアズリカ先生と共に私はサーベルを持って誰もいない修練場でお互いに剣を構えた。ルールは先に相手の懐に潜り込めれば勝ち。神聖術の使用はなし。そんなルールで、私はサーベルに手をかけてアズリカ先生を見る。
「では、見せてもらいましょう。入学試験でコケにされた気分ですので……」
「…分かりました。では……」
サーベルを取り出し。赤く細い刀身を見せると私はアズリカ先生に急接近する。
キィンッ!
対するアズリカ先生も初手の急接近に対応し、首を狙ってきたブレイドのサーベルを受け止めた。
「(早い……!!)」
「(これで無理だと言うか……!!)」
お互いに剣を交えた二人は一旦間合いを取った。
「なる程、早い動きです。一瞬でも対応が遅れていたら負けていました」
「この速度に間に合う先生も素晴らしいです」
二人はお互いにそう言うとブレイドが走りだす。音もなく接近してくるその走りに、アズリカも少々苦戦を強いられていた。
カンッカンッと金属音を立てて修練場で二人が戦闘を行う。
「(なかなかな腕です。これは『日陰者』だなんてもってのほかですね……)」
そんな事を思いながらブレイドの後を目で追う。ブレイドの速度は早く、アズリカは防御に注視せざるを得なかった。
「(そろそろ技を仕掛けなければ……)」
ブレイドはその時、ふと半分無意識でとある体勢をとる。それは遠い昔に習ったような感じがするとある
刀身が淡く光り、アズリカの剣を一撃目で弾こうとする。しかし、この攻撃をアズリカは耐える。しかしブレイドはその瞬間に二撃目を与え、アズリカの剣を弾いた。
アズリカが驚いた瞬間、アズリカの首にサーベルを当てた。
「私の勝ちですね」
「……ええ、そうですね。私の負けです」
修練場で、勝敗はついた。記録の残ることのないその試合は終わった。
ブレイドは剣をしまうとアズリカ先生に言う。
「では、私はこれにて失礼します。ユージオに宴会に誘われているので」
そう言い残し、ブレイドは修練場を後にする。残ったアズリカはさっきの試合を思い出しながら自分の剣をしまう。
「(さっきの剣には『記憶』がある。でなければ私の天命が
そう言い、彼と試合した時に起こった
「面倒ごとにならなければ良いですが……」
彼の部屋で彼が研究している謎の物に関しても特に詮索しようとは思わないが。いずれ彼が、何かやらかすのではないかと思っていた。
部屋に戻って荷物をしまったブレイドはそのまま宴会が行われている部屋に向かった。部屋に到着するとそこでは酔い潰れているユージオや、酒をかっ喰らって大喜びしているリーナ先輩達。
混沌、と呼ぶにふさわしい光景が広がっていた。
「……」
ここに来てブレイドはこの宴会に来た事を後悔していた。
咄嗟に扉を閉めて何も無かったことにしたかったが。再び扉が開き、そこにキリトが立っていた。
「待てよブレイドォ……」
「……何だね?」
「お前も参加しろよぉ…」
しかしブレイドは体を反転させようとした。
「また後でな」「オイ、マテヤ」
キリトに呼び止められてブレイドはため息混じりにキリトに言う。
「はぁ……どうした?」
ニヤリ「先輩〜、ブレイド君が来ましたよ〜!」
こいつ!先輩を巻き込みやがった!!
ブレイドはそっさに逃げようとするもキリトの腕を掴む力が強く、逃げようにも逃げられなかった。キリトはさぞ悪い笑みでこう言う。
「お前も道連れだ……!」
「チッ…(余計な事を……!!後で二倍にして返してやる!!)」
そんな事を思いながらブレイドは宴会場に突撃する事になった。
「ふぅ、皆さんどうしましたか?」
ブレイドの視線の先にはぶっ倒れている先輩方がいた。そのうちの一人、ゴルゴッソロ先輩がブレイドに言う。
「ワ、ワラキア殿は…さ、酒が……お、お強い事で……」ガクッ
そう言いそのまま気絶してしまった。何を言うか。たかがワイン
まぁ、毎日飲んでいたから強いと言うのもあるかもしれないが……。
おまけにキリトはいつの間にか居ないし……。
そんな感じでぶっ倒れて酒臭い先輩方やユージオをそれぞれ部屋に送り届けるとブレイドは酔い覚ましに花壇に出る。そこでは花々が光り、美しい景色を魅せ、一人の青年の手の中に収まる見る物を圧倒させる光景が広がっていた。
「……凄い」
世の中にはこんな事を出来るのか。そう思わずには居られなかった。そしてブレイドは視線の先にいるキリトに声をかける。
「今のは何だね?キリト」
「……分からない」
彼の手の先にはゼフィリアの蕾と、少し荒れた地面があった。
そしてキリトの少し沈んでいたような表情を見て、何が起こったのかを推測していた。
「(まぁ、おそらくあの馬鹿どもがやったんだろうな……)」
そんな軽い予測を立てながらブレイドはキリトにリーナ先輩の介護を頼むように伝えた。