キリト達がウォロ先輩にやらかしてから数日後。卒業トーナメントでリーナ先輩が主席のウォロ先輩に打ち勝ったのだ。
これには少し驚いた。予想外の結果に賞賛をしているとキリトが先輩にゼフィリアの花を贈って、それで涙していた。一年を通して、彼はその優しさ故に人に好かれやすいと言うのがよくわかる。特にユージオとはまるで双子の様に仲がいい。
私は入学時の成績的にはキリト達の方が良いのでそこに敬意を表すると、二人から『手を抜いているお前だけには言われたくない!』と言われてしまった。
そして卒業式が終わり、私たちは二年生となる。その際に上級修剣士となるための検定試験を行う事となっている。
なお、この時にキリト達から『今年手を抜いたら二人でシバク』と脅されている。まぁ、今年は傍付きを選ぶ事ができるので手を抜く気はさらさらない。上位十二位以内に入れれば問題ないと思っている。
試験は神聖術の問題と実技、後は剣の実技であった。常日頃から『日陰者』と揶揄され、十二位に入った貴族達から蔑まれる言葉を言われることもしばしば……。
やれ、面倒な物だ。二等爵家だから表立って言わないが、噂くらいは耳に入ってる。むしろ知らないと思っているのか?だったら爪が甘い事甘い事。
やや呆れた様子でブレイドはサーベルを持って相手と対峙する。
「お久しぶりで御座います。ワラキア殿、今日はお相手できる事を光栄に思います」
そう言うのは散々キリト達を侮辱してきたライオス・アンティノスであった。正直顔もよく覚えていない奴だったが、その中には明らかな悪意を感じていた。
「(まぁ、適当にやっても行けるだろう)」
そう思い、サーベルを抜いて構えの姿勢を取る。相手は完全に油断しているだろう。噂だけを頼りに相手を見るのは間違いだと教える良い機会だ。
キリト達が見る中、中央に立つ試験菅が上げていた手を下げる。
「……始め!」
「ハァァ……!!」キィンッ!「……え?」
一瞬だった。ライオスの剣は弾き飛ばされ、首筋に鉄色の刀身が当てられる。血は流れていないが、一瞬で相手の首を撥ねられる位置にある。
「チェックメイト」
軍将棋の決め台詞を言うと試験官が我に帰った様子で言う。
「そ……そこまで!勝者、ブレイド・ソド・ワラキア!」
試験官の声と共に全員がどよめき出した。そんな中、キリトとユージオだけが小さく頷いていた。
「見えた?」
「ああ、バッチリとな」
キリトはそう答えると、ユージオは未だに唖然とした様子で今の試合を思い返していた。
「早かったね……」
「そうだな。アレに追いつくのは難しいな」
「キリトでもかい!?」
断言、とまでは行かないが、まぁ並の反応速度じゃあ難しいだろう。アレでいて神聖術まあまあなのだからチートと疑われてもおかしくはない。
ともあれ、主席候補の一人が一瞬でやられたことに会場は大いにざわついていた。後に戦意にも関わってくるレベルだ。見事に心をへし折ったブレイドはこれも作戦の内なのかと聞きたくなってしまった。
その後はやはり予想通りというべきか、ライオスが一瞬で蹴散らされた事で全員の調子が狂い、その恩恵はキリト達にも齎されていた。
「なぁ、これってお前の作戦なのか?」
「さあ?そこら辺は自分で考えてみると良い」
「あはは…ブレイドには敵わない気がするよ……」
食堂で三人が駄弁っている。その周りに人はおらず、他は全員端に追いやられていた。今まで日陰者と言って侮っていた人物が蓋を開ければどうだ。主席候補を一撃で葬り去り、神聖術もできる優秀な人物ではないか。それが畏怖の対象となって、今ではこうして静かな食事を楽しめている。
「能ある鷹は爪を隠す」
「まるで今のブレイドだね」
「そう褒めてくれるな」
「「いや、それはない」」
「……」
キリト達のツッコミにやや不満げなブレイドはトレーを片付けに向かい、キリト達も続いていった。
ブレイドの衝撃の一手でキリト達の成績も思っていた以上に伸び、二人とも三位と四位となった。二位は見知らぬ誰かで、キリト達をコケにして来たライオス達は下の方の成績になっていた。
何とも自業自得な結果だが、ライオス達はそれでも噛み付いて来たと言う。
爵位が上のブレイドには絶対に言えないから取り巻きと思われているキリト達にか……苦労をかけるなぁ、今度跳ね鹿亭の蜂蜜パイを買ってやろうか。そんな事を思いながらブレイドは食堂を後にしていた。
主席となったブレイドは『こんな首席はいらない。誰かに投げつけたい』と呟いていたが、それは流石にキリト達が止めていた。
そしてそのまま部屋の前で二人と別れるとブレイドは主席専用の個室部屋を開けて中に入るとそこで一人の少女の出迎えを受けた。
「お帰りなさいませ。ブレイド様」
「……先輩でいいと言っているだろう。マリー」
そこには茶髪のショートヘアに翡翠色の瞳を持つ一人の少女がいた。彼女の名はマリー・クルディア。六等爵家の令嬢であり、私の傍付き剣士である。
色々と情報を持っており、話していて頼もしい少女である。
傍付きは誰でも良かったので適当でいいと言ったがまさか少女になるとは……。
そんな野暮な事を思いながらブレイドは思考を止めるとマリーに話す。
「マリー、ここに置いてあった本は知らんか?」
「ああ、それならあの本棚です」
そう言い、マリーは整頓された本棚を指差す。その中から一冊の本を取り出し、ブレイドはマリーに言う。
「今日はもう戻って良い。ありがとう」
「分かりました。失礼します」
そう言うとマリーは部屋を後にする。部屋に残ったブレイドは本のあるページを開いたまま机の下からある布に包まれた物を取り出す。
それは緋色の木目に黒鉄の鉄柱を持ち、特殊な形状をした金具を備えていた。
それを両手に持ったブレイドはその独特な形状の金具に指を掛けると指を手前に引いた。
カチッ!
金属音と共に、一瞬だけ先が光るのを確認するとブレイドは頷いた。
「……問題ないな。あとは試験を行うだけだ」
今まで主に農具に関する研究ばかり行い、そこで新しい技術『火薬』と言うものを見つけた私はそれを使った新しい
昔起こったという爆発事故の原因を探り、この新しい物質を見つけた私は。実に四年の歳月をかけてここまで辿り着いた。
火薬の火付け方法は熱素による発火、もしくは風素による空気で押し出して発射する方法。
しかし、明らかに前者の方が威力が大きい。よって熱素で火薬点火による発射が最も効率的である。なんとなく私はこの動作方法に《エレメント式マスケット》と名付けてしまった。
それを私は机に置くとそれを厳重に仕舞う。代わりに棚から黒い粒状の物質と、蝋の塗られた紙と銀色の金属球を取り出す。
日没となった景色の中、彼はそんな事も気にせずに秤を持ってきて黒い粒子をサラサラと落としてそれを型にはめた紙に流し込む。それを鋼素で作った棒で軽く押し固めてその上に金属球を入れてまた固める。その作業を永遠と繰り返していた。
永遠と同じ作業を繰り返すこと数時間。すっかり夜になってしまった景色を見てブレイドはハッとして作った物と道具を片付ける。
この新しい武器は多いにダークテリトリーからの侵攻を抑える事ができるだろう。最高司祭はダークテリトリーからの侵攻はあるとお考えだろう。だとすればその対策も考えているはず。もしかするとこの発明は必要なかったかもしれないが、用心に越した事はないだろう。
「(とにかく、いずれこの新しい武器を試した後に皇帝陛下にでも売り込みをかけてみるか……)」
ブレイドはそんな事を思っていた。
翌日、ブレイドは安息日ということで部屋であの作業をしているとコンコンとと扉を叩く音がし、『俺だ。開けれくれ』というキリトの声が聞こえ、私は机に出していたもの全てをしまうと扉を開けた。
するとそこにはキリトやユージオの他に、彼らの傍付きであるロニエ・アラベルとティーゼ・シュトリーネン、そして私の傍付きのマリーがいた。
「お邪魔しまーす!」「跳ね鹿亭の蜂蜜パイ買ってきたよ!」
「お、お邪魔します……」
「し、失礼します!」
「おはようございます。ブレイド先輩」
そう言って各々別々の反応をする彼らに少々苦笑しつつも、彼らを部屋に招き入る。おおよそ何をしにきたのか想像できるが、とりあえず要件を聞いてみた。
「……で、わざわざ全員が集まって何のご用かね?」
「そりゃあ勿論……」
「「神聖術について教えてください!ブレイド先生!」」
二人は意気揚々とそう言うと、ブレイドは軽くため息をついた後に聞き返す。
「……ちなみにお代は?」
「この蜂蜜パイで」
「……よかろう。では、食べてから講義と行こう」
食べ物に釣られてブレイドは最初にパイを頂く。そしてその後に私は紙を取り出してそこに書き込みをし、それを全員が覗き込むように見る。
「まずはおさらいからだ。君達、神聖術には八つの素因があり、それぞれ《システム・コール》から始まる。そこまでは常識だ」
全員がうんうんと頷き、ブレイドは紙に《光素》《熱素》《風素》《凍素》《水素》《闇素》《鋼素》《晶素》と書き込む。ここからは教科書に書いていない少しオリジナルが混ざった講義だ。
「これらの素因は全てが繋がっていると言える。これらを組み合わせて併用することで、新たな方法で神聖術を使う事ができる」
そう言うとブレイドはそれぞれの素因を線で繋いだ。
熱素と風素を組み合わせれば冬に暖かい風を作る事ができる。
光素と晶素を組み合わせれば透明な灯りの完成。
そんな感じで組み合わせ次第で様々な事ができるというとキリト達も興味津々で見ていた。キリトの場合ほとんどが飯の話であったが、それを聞いて、マリー達が面白そうに話し合っていたのも見て少し満足感があった。そして、ブレイドによる講義を終えた後は談笑に浸っていた。
ブレイドはキリト達や、彼らの傍付き剣士達を見て久しぶりに研究以外での