黄金の剣で出来た巨人に対峙する赤い影。
砲声と共に激しく灯る赤い光線。
巨人が持っている鎌を振る。しかし、それが当たることはなく。押されているようにも思えた。
その光景にキリト達は唖然としていた。
「すごい…あのソードゴーレムを一人で……?!」
「何が起こっているのですか……?」
「ブレイド……」
狙いはゴーレムに嵌められた三角柱。ゴーレムの心臓である。
「(ブレイドの事だからあれを破壊するのだろうか……)」
キリトはそんな推測を立てて呆然とするカーディナルに聞いた。
「カーディナル。何が起こっているんだ……?」
「わ、ワシに聞かれても彼奴が変わってしまったと言うことしかわからぬ……」
「変わった……?」
キリトが首を傾げると、カーディナルは驚いた様子で言う。
「そうじゃ、何かのきっかけであやつのアカウントは変わった。理由は定かではないがのう……」
今のブレイドの周りには赤い奔流が周り、
今まで押されていたソードゴーレム相手にタイマンでやり退けていた。実質的に一対三〇〇だと言うのに……。
その事に驚いているとカーディナルが付け加えた。
「あやつのアカウントは本来この場所にある筈のない物じゃ」
「どう言う事だ?」
「本来あれは……
「ダークテリトリー……!?」
ダークテリトリー、それは人界の外にある魔物の巣窟である。それはキリトでも知っていた。だからこそ疑問に思った。
「何でそんなものがここに……??」
「だから不思議に思っておるのじゃ。何故ここにダークテリトリーのアカウントがあるのかと……」
ドォォン!!
何処かの大砲かと思わせるほどの轟音が轟く。視線の先ではブレイドが
キンキンッ!!カラカラーーー
カチッ!
弾薬を装填したブレイドは戦闘の最中、呟く。
「ーー我に求めよ、
それはそこかの聖書の一文句の様であった。カツカツと革靴の音を立ててマスケットを持ってブレイドはソードゴーレム、そしてそれを操る最高司祭に近づく。
さらば汝に諸々の国を嗣業として与え地の果てを汝の物として与えん。
汝、黒鉄の杖をもて彼らを打ち破り、陶工の器物のごとくに打ち砕かんと。
されば汝ら諸々の王よさとかれ、地の審判人よ教えを受けよ。
恐れをもて主につかえ、おののきをもて喜べ。
子に接吻せよ。
恐らくは彼は怒りを放ち、汝ら途に滅びん。
その怒りは速やかに燃ゆベければ。
全て彼により頼む者は幸いなり」
聖書一節を唱えると腰に添えていたサーベルが赤く眩く光だし、ブレイドは鮮血の奔流を纏ってソードゴーレムの核を狙った。
「ーーリリース・リコレクション……!!」
その瞬間に、部屋に赤い奔流が大波となって全てに押し寄せた。
気づいた時、私は夜空の平原の上に立っていた。
空には数多の星がそれぞれに輝きを持って浮かび上がり、幻想的な空間を作り出していた。
「ここは……」
アリスは一人平原の上で呟くと空に一筋の赤い流星が流れ、それと同時に小さな幼女の声が聞こえた。
「はじめまして。もう一人の《私》」
「貴女は……」
「私もアリスよ。アリス・ツーベルク」
そこには一人、青い瞳を金髪で、水色のワンピースと白色のエプロンを着た少女が私を見ており、その子がアリスであるとすぐに分かった。
私はすぐさまこの体を本来の持ち主に返さねばと言う気持ちが強くなり、その少女に近づいた。
私、アリス・シンセシス・サーティーは彼女、アリス・ツーベルクにこの身体を返さなければ……。そう思っていると少女は彼女に言う。
「すごいね、あの人。この空間をこじ開けちゃうんだから」
「……」
あの人、と言うのはブレイドの事だろうか?ほんの少ししか話していないが、少し面白い人だと思っていた。見たこと無い武器でソードゴーレム相手に一人で戦うのだから……。
キリトやカーディナルさんが何か話していたが、私の目には一人で三百人の人間を相手できる彼の戦いぶりに驚愕と尊敬の念を抱いていた。
すると目の前にいるアリスは私に向かってあるお願いをする。
「そこで、私からお願いをしてもいい?」
「……何でしょうか?」
「元々、ここにあった整合騎士さん達の記憶と大事な人を使ってあのソードゴーレムは作られたの」
「!?」
アリスの言った真実に驚愕し、思わず目を細めてしまっていると少女は私の手を取って言った。
「剣になっちゃった人は戻らないけど。その人との記憶と思い出は返してあげることが出来る。あの人がこの空間と他の騎士達のいる場所を繋いでいるから。その仕事をお願いしたいの」
「それを……私にですか?」
「そう!貴女は他の整合騎士様達もよく知っているからね」
なるほど、それならば自分が適任か。と思うと、私は少女の手を意識した。すると辺りに光が舞い、少女と私の知識や記憶が徐々に混ざり込んで行く。
『これで、あったかも知れない新しい私になる』
『貴女は……それで良いのですか?』
『うん。消えるわけじゃ無いし、それに大事な人も居るしね』
『貴女がそう言うのであれば、問題ありません』
『じゃあ、行こうか!!』
『えぇ、貴女の思うままに……』
二人の意識は光の奔流に包まれていった。
『あぁ、神童様』
私はある景色を見ていた。それはとても遠い記憶。嫌なほど懐かしく思えてくる光景だった。
とある村で神聖術に長けていると言われ、拝められ、私は有頂天になっていた。しかし、そんな私を神童と見ようとせず、何処か憐れむ様に見ている人がいた。
『あぁ、可哀想に……』
そう言う彼が私は嫌いだった。嫌いだったから私は彼と一切話すこともなかった。
それは彼が死ぬまでずっとそうだった。しかし、そんな彼は私を見て最後にこう言った。
『いつか、君を殺してくれる人がいる事を待っているよ……』
そう言い残し、彼は事切れた。あの時は何を言っているのだと思っていたが、今になって自覚した。いや、自覚せざるを得なかった。
よりにもよってあのイレギュラーによって……!!
視界が晴れ。そこに見えたのは黄金の剣に崩れたソードゴーレムと、その前で立つブレイド。今の彼には黒い蝙蝠の羽の様なものが見えて、赤い奔流も未だ健在だった。キリト達はその光景に唖然としていると何処からか声が漏れる。
「ブレイド……!!ブレイド・ソド・ワラキアァァァァァァアア!!」
憤怒の声と共にアドミニストレータが無数の《熱素》を生み出す。今までに無いほど、憎悪に富んだその声にカーディナルが驚きの声を出していた。人を辞めた敵が最も人らしい
「クィネラ!」
「お前も……あの男と……あんな奴と同じ目を……するなぁぁぁぁぁぁああ!!」
そこから吐き捨てる様に叫ぶ。
「何故思い出させた!何故見せた!何故だ!何故だ!」
「そんなものに興味は無い。それが、最も大事な
叫ぶ彼女を哀れみ、見通す様な目でブレイドが言う。人の過去を知ることは難しいが、今の彼女を見て何を思っているのか何故か予想できてしまった。悟りを開いたように、優しく哀れんだ目で彼女を見た彼は壊れたマスケットを捨て、流星の剣を手に持つ。
「終わりだ、最高司祭。いや、クィネラ」
「黙れ!!」
アドミニストレータは夥しい数の《熱素》を生み出す。本来、指の数しか生み出せない筈のエレメントがこれでもかと宙に浮かばせる。しかし……
「うらぁぁぁぁ!!!」
その殆どを黒の剣士が持てる限りを尽くして防ぐ。槍状の黒い剣が熱素を喰らう。
「ここはまかせろ!!」
「あぁ……頼んだぞ」
キリト達はブレイドと目配せをすると二人は《武装完全支配術》を持って熱素を喰らい付いていた。
アリスは気を失ってしまった様で、カーディナルが彼女を守っていた。
「やれやれ、まさかこんな事になろうとは……」
カーディナルもキリト達と同様に生まれた熱素を回収する。ソードゴーレムが現れた時はどうしようかと思っていたが、頼もしい仲間ができたと思い、久しぶりに人の温かさを感じていた。
カーディナルは最高司祭に近づいて行く赤い青年を見ると少しだけ目を細めた。
「(彼奴……変なことでも怒らなければ良いが……)」
そんな事を感じながらカーディナルは行く末を見ていた。
ブレイドとアドミニストレータはぶつかり合っていた。ブレイドのサーベルが彼女の生み出した剣とぶつかり、障壁と火花を生み出していた。
「この世界は私のものだ!私が支配する!私の愛は世界を支配するまで終わらない!!」
「違うな、貴様は簒奪者だ。有頂天になり、自分という居場所を失っただけの哀れな一人の人間だ。貴様の欲望に過ぎない」
「愛は支配なり!お前達は私の
その時、彼女が生み出した剣にドス黒い霧がかかる。誰よりも哀れみ、優しく、暖かな目をした彼はあの時と同じであった。かつて、私を遠くから見守るだけで、後は何もしてくれなかったアイツが……
周りから崇めるか、恐るか、その二択しかなく。妹とも言う存在からは殺す目をされ、唯一彼だけが違う目をしていた。
あの時、何故私を怒ってくれなかったのか……
過去に封じた感情が蘇る。その途端、私は剣を落とした。今になって彼が何を思っていたのか分かってしまった。
そうか、私はこれを望んでいたのか……
こう言って欲しかったのか……
「(行ける……!!)」
その瞬間、ブレイドは勝ちを確信した。
しかし、その時。アドミニストレーターが笑った。
その意味に気づいた時、ブレイドは体を曲げようとした。そして……
「っ!?」
ーーーーーーザシュッ!
腹部を一本の剣が貫いていた。