ソードアート・オンライン 赤色の記録   作:Aa_おにぎり

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#26 二羽の神鳥

「…始まった……」

 

整合騎士レンリ・シンセシス・トゥエニセブンは何かが飛ぶ音や爆発音を聞きながらポツリと呟く。

彼は左翼を担ういわば主力の指揮官だった。しかし、彼が今いるのは本来いるはずの最前列ではなく、後方の天幕の中だった。

 

逃げ出したのだ。

 

少し前に開戦直後の喧騒の最中に走り去り、無人の天幕を見つけてそこに隠れていたのだ。彼がそんな暴挙に出てしまったのは理由があった。

 

 

 

失敗作

 

 

 

最高司祭アドミニストレーターにそう言われた彼はトラウマを持っていた。自分の多くの人の命を背負える程の気持ちが持てなかった。自分はディープフリーズ状態から復活し、貴重な戦力として指揮官をする事になったが、逃げ出してしまった。自分は天幕で蹲っていると少女達の声が聞こえてきた。

 

「ティーゼ、見つかった?」

「ううん…」

「どこに行ったのかな…」

 

そう言いながら天幕に入ってきたのは三人の少女だった。だが、レンリの視線はその中央の赤毛の少女が引いている椅子にあった。車輪がついた椅子には一人の黒髪の青年が虚な目で座っていた。その手に持っている剣と見た事ない形をした棒状の物だった。レンリはこっそり見ていたつもりだったが、ティーゼに見つかってしまった。ティーゼが剣の柄に手をかけようとした時、レンリは掠れた声で手を上げた。

 

「敵じゃないよ。驚かせるつもりはなかったんだ、済まない」

「き、騎士様!?失礼致しました!」

「いや、驚かせてしまった僕の方が悪い…本当に済まなかった」

 

そう言い、謝罪の連続になりそうなところで、レンリが溢す。

 

「それに…僕はもう整合騎士じゃない。戦場から逃げてきたんだよ・・・今頃、僕が指揮する筈だった前線の部隊は大騒ぎだろう…死者だって出ている筈だ…なのに、ここから動けないでいる僕が騎士なんかであるもんか…」

 

そう溢すと赤毛の少女は名乗った。

 

「申し遅れました…私たちは補給部隊所属のマリー・クルディア初等錬士と、ティーゼ・シュトリーネン初等錬士…そして、こちらが…キリト上級修剣士殿です」

 

キリト

 

その名前は各所で有名だった。二人の仲間と共に最高司祭を討ち滅ぼした者の一人で、現在前線で戦っているユージオの友人だと言う。初めて見るその体は痩せこけ、本当にあの人を倒したのかと思いたくなってしまうほどだった。するとティーゼが自分にある願いをしてきた。

 

「騎士様、そうか私たちに力を貸してください。私達は三人でゴブリン一人を倒すのがやっとなのです。私達はキリト先輩をお守りする任務を与えられましたので」

 

そう言ったその時だった。

 

「う、うわぁぁぁぁ!!!」

 

つんざく様な悲鳴が聞こえ、四人はそれぞれの反応を示した。

 

「嘘、もうこんな所まで…!!」

「煙が…中から変な人影が!!」

「ロニエ!ティーゼ!来るよ!剣を!!」

 

すると煙の向こうから一匹のゴブリン、それも自分たちより一回り大きい体を持ったゴブリンが出てきた。

 

「ほおぅ、イウムの娘が三人…俺の獲物だぁ…!!」

「「「…」」」

 

三人が息を呑む。醜い見た目のゴブリンに剣先が震えていた。それを見たゴブリンは余裕そうにティーゼ達を見て舌舐めをする。

 

「ぐへへへへ、どう殺してやろうか…」

「さ、下がりなさい!それ以上近づけば、斬ります!」

 

そんな光景を見て自分はどうしようもできなかった。やることは分かっているのに、体が動かない。その時だった。

 

 

 

突如、ゴブリンの胸元から剣が突き出した。

 

 

 

「なんだぁ、こりゃぁ」

 

そう言うとともにゴブリンは倒れた。倒れたゴブリンの向こうに現れたのは青い軽装備の服装に身を包んだ一人の青年だった。

 

「みんな、大丈夫?」

「ユージオ先輩!!」

 

青年はユージオだった。レンリは思わずユージオを見つめる。するとユージオは自分を見て問いかけるように聞いた。

 

「レンリさん…ですか?」

「…ああ」

 

そう言うとユージオはレンリに向かって言った。

 

「左翼部隊は防備を固めました。しばらくはこれで保つはずです。しかし、ゴブリンの小部隊がすり抜けてここまで来ています。迎撃の準備をお願いします」

 

そう言われ、ユージオは剣を構えた。そんなユージオにレンリは問いかける。

 

「君は…どうして平然と剣を持てるんだい?どうして君は安易にゴブリンの命を積み取れるんだい?相手にだって人生があるはずなのに…」

 

その問いかけにユージオは間を置いた後に答える。

 

「…守りたいからですよ」

「?」

「友人や先輩、後輩や大切な人がいるこの世界を。…僕はずっと守られて来た。色んな人に…だから僕は他人の命を奪おうだなんて思ったこともありませんでした。だけど…大切な人たちを守るために時には相手の命を奪わなければいけない時もあるって知ったんです」

「…」

 

するとユージオは少し疲れた様子で答える。

 

「僕だってこんなこと本心では望んでいません。

だけど、守りたいものがあるから僕は剣を取るんです。現実はいつだって残酷で、非情です。だけど、そんな世界で這いつくばってでも生きるからこそ、そこに価値があるんだと思います」

 

その言葉には『覚悟』があった。とてもズッシリと来た。誰かを思う感情がこれほどまで強いのかと思うとレンリは思わず後退りしてしまう。

 

「あなたが剣を持つ理由はなんですか?守りたいものがあるからでしょう」

 

そう言われ、自分の脳裏に声が聞こえた気がした。それはかつての親友の声だった気がする。

 

『お前には出来る』

 

そんな声が聞こえた気がした。するとユージオはそんなレンリの様子を見て接近してくるゴブリンに向かって走り出した。

 

「では、また…」

 

そう言うとユージオは消えてしまった。咄嗟に外に出るとそこにが多数のゴブリンがおり、ユージオの姿は見えなかった。しかし、さっき言われた言葉が脳裏で再生される。

 

『守りたいものがあるからでしょう』

「守りたいもの…」

 

そう思った時、ふと自分の手に力が入った気がした。

 

「(あぁ、そうか…僕は…)」

 

そう思った時、今までとは違い、簡単に剣が抜けた。《雙翼刃》の刃がゴブリンを切り刻む。一瞬でゴブリンが倒されたことで周囲にいたゴブリンがレンリに意識を向ける。レンリは何がしたいのか分かった気がした。だからこんなにも剣が抜けるのだと。だからこそ、自ら高らかに名乗りあげた。

 

「ーー僕は、レンリ。整合騎士、レンリ・トゥエニセブン!このクビが欲しければ命を投げ出す覚悟でかかってこい!!」

 

かつて交わした、親友との約束を守る為に…

 

 

 

 

 

レンリは斬っていた。数多のゴブリンを切っていると死体の間を一人の大柄なゴブリンが歩いてきた。見た目からして明らかに他のゴブリンよりも装飾が多い。体のサイズで首長を決めるジャイアントと違ってゴブリンの首長は体格だけでは決まらないが、首長のゴブリンはその威を示すために多くの装飾品を身に着けるそうだ。

 

「お前がゴブリンの長か」

「ああ、山ゴブリンの族長コソギだ」

 

そう言うとコソギは辺りを見回す。

 

「あーあー、ずいぶん派手にやってくれたな。こりゃ、お前さんの首を取らんと割に合わんな」

「貴様の戦争もここまでだ!!」

「はっ、お前さんのやれるのか?」

 

そう言われ、レンリはスッと目を閉じて意識を集中する。

 

「(やってやるさ…)フゥ…」

 

息を整えるとレンリは構える。雙翼刃の弱点を無くす方法、それは武装完全支配術だった。この雙翼刃は左右の翼を失った神鳥だったと言う。その二羽の鳥は互いに体を繋いだ事で今までないないほど高い場所まで飛んだと言う。それはまるで今のレンリの様であった。過去に競い合った親友は剣技大会まで上り詰めた。だがそこで片方の翼は折れてしまった。しかし、記憶と思い出が彼にとって飛躍する引き金となった。

目を開くと両手に持つ二本の刃は大きく光だし、二羽の鳥が混じり合うように交差した瞬間。

 

「リリース…リコレクション!!」

 

レンリは記憶解放術を使った。解放された刃は夜空の星のように青く煌めかせた。

 

 

 

 

 

光が収まると、そこに頭と胴の分かれたコソギが倒れていた。雙翼刃を仕舞うとレンリは遠くの煙幕の中、そこに倒れる無数のゴブリンの遺体を見た。

 

「…侵入して来た敵は?」

「全部片付けたです!」

 

そう言うのは片手に短剣を持った少女、フィゼル・シンセンス・トゥウェニエイトだった。彼女はレンリが騎士のような顔つきになった事に感心しながらわざとらしく敬礼をした。するとレンリが答える。

 

「じゃあ…僕は部隊に戻るから、君たちも……」

「はぁい」

 

そう言うとレンリは自分の受け持つ部隊と合流するために走り出した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同時刻、渓谷内奥地のとある場所

そこでは鮮血が散っていた。

 

「ナンダアイツハ!!」

「ツ、ツヨスギル…!!」

 

ゴブリン達が見ているのは目の前にいる一人の男にあった。片手に血のついたサーベルを持ち、足元には多くの仲間の死体が転がっていた。この先にあるのは補給用の天幕と、治療所や砲撃陣地や司令所…この戦いで重要な場所が集まっていた。そこに辿り着く道を塞ぐように赤いフードを被った男は着いた血を振り落としながら角度によって色の変わる刀身を見せつける。

 

「……お命、頂戴致す」

 

そう呟くと赤いフードを被った男はサーベルを振って残ったゴブリンの頭を弾いていた。数分後、そこに残ったのはゴブリン部隊の骸だけだった。




『創世日記』132ページより
ヴラッドとソルントゥムが共に暮らしていたある日、ソルントゥムはヴラッドの様子がおかしな事に気づいた。
どこか挙動不審で、目も焦点があっておらず、彼に何か起こった事だけは理解できた。
ソルントゥムはステイシア様のところに赴き、ヴラッドを見てほしいと懇願し、ステイシア様と共に家に行くと其処にヴラッドの姿はなかった。

ヴラッドが消えてから数日後、彼は見つかった。恐るべき怪物となって…
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