「アリスを守れ…?」
手紙に書かれていた事に疑問に思いつつ、ユージオは天幕に戻るとそこでは騒ぎが起こっていた。
「何があったんですか?」
僕はその場にいた一人に話を聞くと、どうやら僕が去った後、アリスのことを『光の巫女』と言って一人のオーガが倒れたらしい。そこれオーガがベクタが相手の指揮官をしているとも……。
「とても信じられません…敵の証言とはいえ、神が復活したなどと…」
「それは俺も同じ気持ちだ、ファナティオ……だが、嬢ちゃん。そのオーガが言ったことが真実…ダークテリトリーに暗黒神ベクタが降臨したとして、そいつが光の巫女を求めていたとして、その巫女が嬢ちゃんのことだと仮定してだ…問題は、それが今の戦況にどう影響するかだぜ?」
そう言われ、思わず黙ってしまうアリス。だけど僕は脳裏にある単語が浮かんでいた。
ワールド・エンド・オールター
其れはキリトが半年前に水晶板越しに誰かが言っていた言葉だ。
ーー東の大門から出てずっと南へ……
その言葉を思い出した。ブレイドがいない今、キリトのことを聞くには其処に行くのが最良かもしれない。そう思って僕が提案をしようとした瞬間、アリスが提案した。
「小父様、私が敵陣を破ってダークテリトリーの辺境へと向かいます。敵が《光の巫女》を欲するのなら、追ってくるはず。十分な距離をとった所で残る敵陣を逆撃、殲滅してください」
その提案にその場にいつ殆どの人間が驚きの表情をした。
「しかしそれでは…」
カーディナルが一瞬だけ渋い顔をする。するとベルクーリは一旦閉じた目を開くと言った。
「代理殿、これは良策と思われますが…」
「うーむ…」
暫し考えたのち、カーディナルは答える。
「仕方あるまい。しかし、この策を実行するのなら変更を加えてくれ。最低でも三、四割の戦力を分ける」
「し、しかしそれでは!!」
「いや、代理殿の判断は正しい。まだ戦力は多く残っている。敵を分断させる以上なるべく大きく動き必要がある。それに…」
するとベルクーリさんは僕を見ながら言った。
「横の青の坊主が意地でもついて行くだろうしな」
「えっ?!」「っ!?///」
するとベルクーリさんはさぞ面白そうに顎に手を当てながら自分を見た。
「まぁ、嬢ちゃんと青の坊主の話は置いといて……」
「(ああ、おいとかれるのね。まぁ、そっちの方が良いか)」
なんて思いながらユージオはベルクーリの話しを聞き、思わず唖然としてしまった。
「嬢ちゃんの部隊に俺もついて行くぞ」
「「……えぇっ!?」」
突然の話に僕たちは変な声が漏れてしまった。
暗黒術師ディー・アイ・エルは死を感じていた。自分の立てた策が失敗に終わり、尚且つ多くの兵力を失った。これで罰せられない理由があろうか。そう思っていた。シャスターは自分が殺すまでもなくディー・アイ・エルは死ぬと思っていた。しかし、皇帝ベクタはその術式に必要な暗黒力が血や天命で出来ると知るとディー・アイ・エルに聞いた。
「三千も使えば足りるか?」
「は…?」
「…(まさかっ!!)」
シャスターはベクタの見た方向に、彼が何を考えているのか分かって戦慄した。
「あそこに居るオークの予備兵力の内、三千も使えば足りるかと聞いている」
続いた言葉に、ディーですら愕然と両目を見開く。深甚なる恐怖。しかし、それはディーの頭に染み込むと甘美な陶酔へと変わった。
「…充分でございますわ」
ディーは無意識のうちに皇帝のブーツに額を押し当て、囁いた。
馬車を降りたディーを見ながらシャスターは先ほどの応答を思い返していた。
「(やはり皇帝…いや、あの男は我々を人ととして見ておらぬか…もしくは、命を知らぬようだな……)」
シャスターはベクタの吸い取られそうな心意を思い出しながら考える。あの男がいる限りこの戦争は終わらない。唯ならぬ決意を内に秘めながらシャスターは腹心の部下であるリピアを呼んだ。
「閣下」
負担より心配そうな声色でシャスターに呼び出した要件を聞くとシャスターは言う。
「リピア、俺に何かあった場合、暗黒騎士団を率いて人界軍に逃げろ」
「っ!?なーーー」
『何を言うのですか!?』と驚愕の声を出しかけたところでシャスターに口を塞がれる。
「ーーー俺はさっき、皇帝の真意を見たようだ。彼は俺たちを虫と勘違いしているらしい」
「っ…!?」
「少なくとも、俺たちが全滅しても《光の巫女》さえ手に入れればいいと思っている」
「そんなっ!!」
驚愕するリピアにシャスターは言う。
「少なくとも、皇帝を討たなければこの戦争は終わらない。だから…」
「閣下がそれをなさると?」
ならば自分も行くと言おうとした時、シャスターはリピアの肩をポンと叩いて彼女に言った。
「これから忙しくなる。そんな時に種族の隔たりなく愛せるお前のような存在は必要不可欠だ。だから、お前を連れて行く気はない」
そう言われ、リピアは若干の驚きの声を出した。
騎士となってから、月々の給金の殆どを投じて、未だ人買いの横行するダークテリトリーの僻地より親に捨てられた幼子を集め、学校に入れるようになる歳になるまで養育する保育所…言うなれば孤児院のような施設を運営しているという事実を知っていたと言う事に。
「リピア、君を愛した俺からの願いと命令だ。『生きろ』、生きてこの世界の行く末を見るんだ」
そう言うとシャスターは歩き出した。リピアは心の中でこれが最後とならない事を必死に願うのだった。
人目のない場所に移動したシャスターは何もない空間で名前を言う。
「……そこにいるだろう?…調停者」
そう言うと少しの間ののち、
「何か御用で?暗黒将軍殿」
補給用の馬車の影から調停者が現れた。するとシャスターは早速要件を伝えた。
「・・・人界側のベルクーリに話がしたい。依頼しても良いか?」
そう言うと調停者はシャスターに聞く。
「ちなみに理由は?」
「このままでは戦争は終わらない。ならばせめて生き残る確率が高い方法に頼ろうと思っただけだ」
「なるほど…そう言う事でしたか」
そう言うと調停者は答える。
「良いでしょう。私の本領発揮と言う事で。ああ、そちらから何も出さなくて結構です。これも融和へと進む一歩ですので」
そう言い、去ろうとした所でシャスターは聞いた。
「…最後にお前の名を聞かせてくれ」
そう言うと調停者は一瞬足を止めるとこちらを見返した。
隠れた帽子の目元から血のように赤い光が漏れた。調停者は俺を見るとその真意を察したようで、去り際に言い残した。
「……ノスフェラトゥと言います。では、またいつか」
「っ!?」
そう言うと調停者…もとい月神ノスフェラトゥはまるで霧のように消えてしまった。皇帝ベクタが降臨したから他にも何か起こるのではと思っていたが……。
予想外の相手にシャスターは驚愕を心に押し込みながら持ち場に戻って行った。
『創世記』第一章四節より抜粋
ヴラッドは銀の杭によって絶命した。その骸はステイシア様とソルントゥムの手によって綺麗にされ、静かに埋葬された。
ヴラッドを失い、ソルントゥムは外との関わりを断ち、人界の人知れない場所にて家を構えた。
それから六日後、ソルントゥムは家で寝ていると窓が開き、そこから一人の青年が顔を出した。
そこにいたのはヴラッドだった。ソルントゥムはヴラッドが起きた事に驚愕と喜びをあらわにした。ヴラッドはソルントゥムを見ると微笑みながらこう言った。
『ただいま』
そう言うとヴラッドはソルントゥムと再会を果たした。彼はソルントゥムと会う為に己の体を再生した。今まで吸って来た民の血を使い、彼は『吸血鬼』となって再び蘇ったのだ。その事にソルントゥムは喜びをあらわにし、二人はひっそりと再び共に暮らすようになった。
そして、いつしか二人は天に最も近い場所で暮らした事からソルントゥムは《太陽神ソルス》、ヴラッドは《月神ノスフェラトゥ》と呼ばれるようになった。