ソードアート・オンライン 赤色の記録   作:Aa_おにぎり

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#29 戦場の光

『戦力を分散させる』

 

ベルクーリから発せられた命令に守備軍は驚いた。てっきり防衛戦をずっと展開するものかと思われていたからだった。分隊に連れて行く編成はアリス、ユージオ、ベルクーリ、シェータ、レンリを筆頭に千人の衛士、二百人の修道士、五十人の補給隊となった。

物資の輸送には四頭立ての高速馬車が用意され、その中にキリトやティーゼ達の姿もあった。

アリスはレンリさんを見て少し心配げに見ていたが、僕が大丈夫たと言うと納得してくれた。

 

アリスの飛竜の後ろに座り、離陸するのを待っている間、僕はずっと気掛かりなことがあった。

 

「(エルドリエさん。どうしたんだろう……)」

 

いつもは饒舌で、僕の事を敵視することが多いエルドリエさん。それが今はいつになく寡黙だったのだ。その事に若干の疑問を感じつつも、ベルクーリさんが声を掛けた。

 

「よし、渓谷を出ると同時に竜の熱線を浴びせる。向こうには遠距離攻撃手段はほとんどないはずだが、竜騎士には気をつけろよ」

「「「「はいっ!!」」」」

「よし…出発だ」

 

そう言うとベルクーリさんが手綱を引いて彼の飛竜、星咬を飛ばした。地上では補給部隊や衛士達が走り、南にあるワールド・エンド・オールターを目指し出した。

飛竜に乗る直前、ベルクーリさんがファナティオさんに何か言っていたようで、ファナティオさんは少し驚いた様子を見せていた。一体何を話したのだろうかと思いつつ、僕はアリスを見ていた。その時だった。

 

「っ!?何、これ……」

「これは…術式の多重詠唱!?なぜ、この辺りの神聖力は尽きたはずでは!?」

 

するとベルクーリさんが吐き捨てるように言った。その中には驚愕も含まれているようだった。

 

「っ!?奴等…なんて真似を!?」

 

何が起こっているのかと思っているとベルクーリさんが答えてくれた。

 

「奴ら…足りない神聖力を補う為に味方を犠牲にしやがった……!!」

 

その事に驚愕する自分達。そして、自分たちの置かれた状況を把握した。狭い谷の中、無数の呪詛系遠隔攻撃が来ると言うことは避けられないと言う事だ。そして敵の大規模魔法が放たれ、眼前に迫りつつあった。

 

「…反転!急上昇!!」

 

ベルクーリさんが指示を出し、飛竜は急旋回する。四匹の飛竜はその身を翻し、悍ましい虫も反転した。しかし、

 

「ーーーいかん!!」

 

反転した虫は半分ほどしか居なかった。残りは後ろを走る補給部隊などに向かっていた。

 

「アリス!」「ええっ!」

「お前ら!その剣では…!!」

 

考えるよりも体が動いていた。僕たちはあの虫をどうにかしなければならない。なので少しでも注意を引く為に虫に接近しようとした。しかし、

 

「(このままじゃ…間に合わない……!!)」

 

そう思った時だった。五匹目の飛竜が流星のような勢いで谷の奥から飛び出して来た。それに乗っている人を見て僕たちは驚いてしまった。

 

「あれは…」

「エルドリエ!!」

 

突進して来たのはエルドリエさんだった。エルドリエさんは勢いを殺さず、そのまま直進して来た。その真意を感じた僕は叫んでしまった。

 

「エルドリエさん!あなたの武器では!!」

 

そう叫ぶとアリスもエルドリエさんが何をしようとしているのかを理解してしまった。しかし、エルドリエさんは剣を抜き、高らかに掲げた。

 

「古の大蛇よ!お前も蛇の王ならば、あれら如きの長虫の群れなど喰らい尽くして見せろ!!」

 

その咆哮と共にエルドリエさんは飛竜共々空高く舞い上がる。そして、エルドリエさんは霜鱗鞭の真なる力を解き放った。

 

「ーーーリリース・リコレクション!!」

 

そう言うと剣が大蛇へと変わり、ベルクーリまでも追っていた蟲全てがエルドリエさんを追いかけた。

 

「エルドリエ!!エルドリエ!!」

 

アリスはそう叫ぶも、蟲は徐々にエルドリエに近づき、そして蟲が彼の体を蝕んだ。エルドリエさんは地上に被害が出ない高さまで上がったのち、力尽きたように落下し、そして……

 

 

 

蟲共々爆発に巻き込まれてしまった。

 

 

 

「エルドリエェェェェェ!!」

 

アリスがそう叫び、落ちてくるエルドリエさんの腕を一緒に掴む。そして地上に降りた。

 

「エルドリエ!?目を…目を開けなさい!?許しません…勝手なことをして…こんな形で私を置いていくなど……!!」

「…師、よ…ご無事で……」

 

その言葉にアリスは怒りと悲しみが混ざったぐちゃぐちゃな表情で叫ぶ。

 

「ええ…ええ!無事でしたとも…!そなたのお陰で…私も皆も…私は言った筈です!私にはそなたが必要なのだと…!」

「エルドリエさん!今、治療しますから!!」

「もう…遅い……ダメなのはもう…分かっている」

 

確かにその通りだ。だが、それでも何かやらなくてはと考えを巡らせていた。しかし、何もできないとうう事実に僕は歯を食いしばってしまった。涙が溢れてしまった。

 

「アリス様…貴女は……もっと多くの人に必要とされて、おられます…私は、それを…独り占めしたく…だから……」

「あなたが求めるものはすべてあげます!!だから、だから戻って来てください!!」

「もう、充分あなたにいただきました……ユージオ…」

 

そこでエルドリエはユージオを見る。いつもの敵視ではなく、今まで見た事のないほど柔らかな笑みで。

 

「はい…」

 

僕はエルドリエさんに言われ、エルドリエさんの顔を見る。エルドリエさんは僕を見ると優しそうに微笑みながら言った。

 

「ユージオ…アリス様と……幸せに…良い、未来を……」

「エルドリエ…エルドリエ!!」

 

その時、彼から言葉が消えた。

 

「………………」

 

その現実に、無情なまでに。あっけなく消えたその命に、アリスは堪える。

 

「嫌…嫌ぁぁぁぁぁ!!」

 

木霊する声に応えるものは誰もいなかった。エルドリエさんの体は光の粒子となり、砕けて空に舞い上がった。

 

ーーー戦場にまた、一つの光が空に舞い上がった。

 

僕はそれを見て、戦争というものを改めて実感した。どんな攻撃を受けても、それを憎しみで返すのは間違いだ。出なければ数十分前にアリスの出したあの魔法はどうなるのか。

 

「(だからこそ…)」

 

僕は青薔薇の剣に手を当てる。そして視線は谷の奥を見た。すると後ろで『グルル』と飛龍の鳴き声が聞こえ、振り向くとそこにはエルドリエさんの飛竜だった《滝刳》が僕をじっと見つめていた。

 

「……乗れと?」

『グルル』

「…ありがとう……」

 

そう言うと僕は滝刳に跨った。アリスは一瞬驚くもその理由を瞬時に察し、お互いに顔を見合わせた。

 

「…行こう」

「ええ」

 

お互いに頷くと二匹の飛竜は全速で谷を駆ける。

 

「(キリト、ブレイド…これで会っているんだろう?)」

 

ユージオはそう問いながらも谷を飛ぶ。やがて敵陣が見え、左側に暗黒騎士団を、右に拳闘士団、後方に予備兵力と思われるオークやゴブリン達を確認する。

 

「…見つけた!」

 

そして僕は暗黒騎士と拳闘士の間に挟まれた暗黒術師達を見た。さっき蟲を放った者達だ。容赦はしない。

 

「て、敵襲だ!!」「逃げろ!退避!退避!」

「ハァァァァァァアア!!」

 

敵陣の真ん中に飛び降り、剣を振る。混乱する場に僕達は容赦なく剣を振った。

 

「後方を狙え!今だ、撃て!」

 

アリスの指示の元、二匹の飛龍は奴らの退路をたった。

 

「ユージオ!」

「うん!」

 

互いに目を合わせ、僕は一瞬だけ降りて来た飛竜に飛び乗る。するとアリスが術式を唱えた。

 

 

「ーーーエンハンス・アーマメント!!」

 

 

そう言うと共に剣は幾つもの花となった。

 

 

 

 

 

ディーは混乱と信じられないと言った表情だった。死詛蟲術は無駄に一人の命を奪っただけで終わり、さらに自分の部隊を二人が急襲してきたのだ。

 

「クソッ、こんな所で死んでたまるものか!世界の王ともなるべきこの私が!!」

 

そう思うとディーは馬車から飛び降り、近くにいた術師の背中に爪を刺す。

 

「ディー様、何を…ぎゃあっ!」

「お、おやめくださ。ガァっ!」

「知るか!自分の命が大事だ!未来の王を守れ!!」

 

暗黒術師は禍々しい笑みを浮かべ、術を唱える。

 

物質形状変化

 

二人の命を引き換えに肉体を変化させる呪われた術だ。血肉を撒きながらその体は変化し、不定形の形となって溶ける。その体は弾力ある物と化し、その直後。山吹色の爆発が覆い尽くした。

天命が減る事も気にせず、アリスは記憶解放術を使う。鋭利な花弁が暗黒術師達を貫く。

生き残った百人ほどの術師は仲間の骸に目もくれずに逃げ出し、ユージオが追いかけようとした時。

 

「お前達!!」

 

後方からベルクーリさん達の飛龍が慌てて追いかけて、到着した。

 

「お前達!無理すんな!」

 

そう声をかけるベルクーリさん達にアリスが答える。

 

「ええ…大丈夫です。小父様、地上部隊の護衛の方。お願いします。私たちは囮の役割を果たします」

「お、おう…だが、無理はすんなよ」

 

そう言い、僕達は頷くと飛竜を飛ばす。僕たちは巨大な気配を感じながらその方へと向かう。そしてアリスが叫んだ。

心意によって増幅されたその声はありありと全てに聞こえた。

 

「我が名はアリス!整合騎士アリス・シンセシス・サーティ!!人界を守護する三神の代行者《光の巫女》なり!!』

 

そんなハッタリにも等しい声に反応するのかと内心思いながら僕は気配のする方を見ていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「アリス…アリシア……」

 

誰もいない馬車の中でベクタ…いや、ガブリエル・ミラーは先ほど飛竜に乗っていた金色の鎧を着た少女を思い出す。脳裏に幼き日に自身の手で殺害した少女、アリシアが美しく成長した姿に完全に重なった。幼き日に捕獲できなかった彼女の魂がアンダーワールドで生まれ変わったのだと、ガブリエルには確信できた。

 

今度こそ――…今度こそ、この手で捕らえねば。

 

あの娘のフラクトライトが入ったライトキューブを手に入れる。そして、そこにある魂を心ゆくまで味わい尽さねば。

ガブリエルはそう感じると部下に指示を飛ばした。必ずあの魂をこの手で感じる為に…。

 

「全軍、移動準備。拳闘士団を先頭に、暗黒騎士団、亜人隊、補給隊の順に隊列を組み、南へ向かえ。あの騎士を…神の巫女を無傷で捕らえるのだ。捕らえた部隊の指揮官には、人界全土の支配権を与える」

 

彼の目にはアリスの姿以外何も見えなかった。

 




軽く計算したら五〇話くらいまで行くっていうね……
えっぐ……
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