「こりゃぁ、何と…暗黒神ベクタとやらはお嬢ちゃんにご執心の様だな。まさか全軍で追っかけてくるとは……」
「無視されるよりはマシです」
そう言い、アリスは後ろに立つ砂埃を見ていた。エルドリエの死についてははベルクーリさん達は僕が滝刳に乗っていた事から何となく察したと言う。アリスはどこか上の空と言った様子でエルドリエさんの死を受け入れられていなかった。
一方でエルドリエの死は衛士達に多大なる士気の高揚を産んだ。身を挺して敵の攻撃を守った整合騎士に報いるのだと……
「それで、今後の方針だが…基本的には囮部隊の整合騎士全員が倒れるまでひたすら敵を引っ張り、戦力を削いでいく。それで良いな?」
そう言うとアリスは頷き掛けた。
「はい、戦力を削ぎつつ、最終的に暗黒神ベクタを撃破すれば。相手も休戦交渉をして来るでしょう」
そんな予測を立てているとアリス達は身を隠せそうな灌木地帯を見つけ、そこに一旦飛竜を下ろしていた。
「よし、偵察ご苦労!部隊にその地点へ移動する準備をさせてくれ。それと、お前さんの飛竜もそろそろ疲れている筈だ…たっぷり餌と水をやっておけよ?」
「はっ!」
そう言うとレンリさんは敬礼をして去って行った。それを見たベルクーリさんはふと思った事を口にした。
「小父様?」
「いやぁ…記憶を奪い、天命の自然減少を停止させることで整合騎士を作る……シンセサイズの秘儀なんてものはとても許されるものじゃないが。
しかし…もうああゆう若者が騎士団に入ってこないのは残念というか、惜しいことだなと思ってな」
そんなベルクーリの哀愁漂う雰囲気をユージオは両断する。
「それは違います。たとえ、シンセサイズの秘儀なんて施さなくても、人界を守ると言う考え方だけ受け継げばいいと思いますよ。整合騎士になりたいと言う人は大勢いますから……」
「…そうかい」
少し嬉しそうにベルクーリさんは言うと僕はふとある気配に気づいた。それはベルクーリさん達も気づいたようだった。
よってくる砂塵をじっと見つめて参ったなとベルクーリさんが言った。
「ありゃ、拳闘士だな……」
「拳闘士?」
初めて聞く言葉に首を傾げると、ベルクーリさんは教えてくれた。
「ああ、裸の拳での攻撃なら傷を受ける癖に、剣で斬られることは拒否しやがるんだ」
「拒否する…?」
それはつまり、剣の攻撃が効かないと言うこのなのだろう。だから僕が青薔薇の剣を使おうかと進言しようとした時、
「……私が行きましょう」
「「っ!?」」「ひっ!?」
僕たち三人が思わずギョッとし、後ろを振り向くと其処には長身痩躯で濃い灰色の髪と、同じ色の鎧に身を包んだ女性騎士が立っていた。無表情で立つ、彼女はシェータ・シンセシス・トゥエルブ。囮部隊に加わった最後の整合騎士だった。
少なくとも僕は初めて聞くシェータさんの声にびっくりしているとアリスですらギョッとしていた。あの顔は多分ほんとに初めて彼女の声を聞いたんじゃないのだろうか。すると彼女は串のように細い剣である《黒百合の剣》を持つとそのままばを後にして拳闘士の方に向かって行った。
それまでの動きに僕たちは何も言い出せず、ベルクーリさんだけが彼女を見て『まぁ、あいつなら何とかなるだろ』と言い残して移動する準備を始めていた。
少しして、シェータさんと拳闘士の一人が対峙し、シェータさんは剣を持って技を使い、拳をぶつけてきた一人の拳闘士の腕を縦半分に切っていた。
「あれは……」
「彼女の技だ。そして黒百合の剣はその技を最大限高める為の最高の剣だ」
「すごい…あんなに殺意を殺して敵と対峙している……」
「俺もあいつのことは何十年と見続けてきたが、あの娘の考えていることの全部を知ることはできなかった……」
聞けばあの黒百合の剣はかつてダークテリトリーで起きた内乱で生き残った唯一の生命、一輪の黒百合が元になっていると言う。内乱で発生した神聖力を根こそぎ吸い取り、優先度が最も高い神器らしい。
「さぁ、シェータが拳闘士を抑えている間に俺たちは本隊の迎撃準備に行くぞ」
「「はいっ!」」
そう言うと僕たちは待ち伏せの為に遊撃部隊が向かったであろう南の灌木地帯へと向かった。
キンッキンッ!カァンッ!
同時刻、灌木地帯では感高い音が響く。その元では暗殺者が複数首から血を流して倒れていた。
「チッ、せっかくのお楽しみを邪魔しやがって…」
そう愚痴るのはヴァサゴ・カルザスだった。
彼は死詛蟲が失敗したのを見て、ガブリエル・ミラーに提案し、補給部隊を急襲する為にこの場所に来ていた。何人かの衛士を殺した後、補給部隊にいた少女をどう殺そうかと思った時。連れて来た暗殺者がいきなり首から血を出して死んだ。その首元にはトマホークが刺さっており、一瞬視界がそっちに行った時に上からサーベルを持った赤いフードを被った何者かが己の首を狙おうと直進していた。咄嗟に剣で受け止めるも強い衝撃が走った。
「こいつは…ヴォーパル・ストライク……テメェ、何者だぁ?」
それはよく見た技で、ヴァサゴは襲って来た赤フードに問いかける。その姿はSAOで憎たらしい程よく見た相手によく似ていた。すると赤フードは何も言わず、サーベルを持って刺突して来た。
「返事は無しかよ…良いゼェ、まずはお前からだ」
そう言い、狂気の笑みを浮かべるとヴァサゴは曲刀ソードスキル〈スカーレット・ファウンテン〉を受け止める。
ジジッ
技を受け止めるとヴァサゴは赤フードの影で隠された中に見えた赤い瞳をみた。ヴァサゴはそれを見て一瞬だけ固まった。その時、
「ゴハァッ!」
接近し、剣を抑えられた直後に体術〈朔既〉を入れられ、ヴァサゴは足を取られながら後ろの木に激突する。
ドンッ!と音を立ててヴァサゴは叫ぶように言う。
「いってぇ…SAOじゃ感じなかったこの痛み……良いゼェ良いゼェ。最高だなこの世界!!」
「……」
赤フードはそんなヴァサゴを見ていると灌木に声が聞こえる。
「そこのあなた!!何をしているんですか!?」
「!?」
一瞬だけ声のした方に赤フードが顔を向ける。視線の先にいたのは黒髪と赤髪の少女達であり。その瞬間、ヴァサゴは赤フードの顔向けて剣を入れようとした……
その時だった。
「っ!?空がーーー」
明るい
乳白色の光の粒子。其れが雪のように舞い降りる。ヴァサゴは奇妙な戦慄を感じながら顔を持ち上げる。
その光の中に人の形をした何かがいた。光に包まれて、その容貌は見えないが、光を纏うその姿は・・・
「ステイシア…様……?」
黒髪の少女がそう言い、降りてきた少女に畏怖すら感じた。そんな少女は右手を前に伸ばす。すると信じられない事が起こった。
「じ、地面が…!!」
ガタガタと地震の様に大地が揺れ、生き残っていた仲間が突如出来た谷の中に真っ逆さまに落ちた。仲間が死に、残ったヴァサゴに少女は再び右手を出す。ここぞと言わんばかりに赤フードがサーベルを持ってイルミナント・エタニティを繰り出す。マトモに八連撃を喰らい、暗黒騎士は足元に開いた谷底に落っこちた。
「マジかよ…おい、マジかよ…アイツは……
《KoB》の閃光じゃねぇか」
そう言い残しながらヴァサゴは落下して行った。
光が収まり、現れた少女に目を見開いて驚くロニエとティーゼ。現れた少女にティーゼが問いかける。
「あなたは…神様ですか……?」
その問いに少女は少し間を置くと答えた。
「…いえ、私は神様じゃないわ。私はただ…キリトという人を探している為にこの器を借りただけの人よ……」
「「っ!!??」」
いきなりキリトの名前が出てきた事にロニエ達は驚きを隠せなかった。
「あの…あなたのお名前は……?」
ロニエが聞くと、その女性は答えた。
「私はアスナ。あなた達同じ人間。キリト君と同じ世界から来た人間よ」
「こちらです」
ロニエはそう言い、アスナをキリトのいる馬車に案内した。アスナは馬車の幌を両手で開けるとアスナはその馬車の奥で車椅子に座る一人の青年を見つけた。
彼も極秘ではあるが、情報を持っていると言う事で馬車の列に並べていたのだ。彼への治療法も見つかるだろうと言うカーディナルの望みにかけて……。
「……キリト君」
痛々しいほどに痩せ細った体の両手には一本の黒い剣と一丁の銃があり、キリトはアスナの声を聞くと反応を示した。
「ぁ……」
掠れた声が溢れる。
カタカタと椅子が揺れ、体全体に力が強張る。顔に二筋の涙が流れた。
「キリト君……いいよ、もういいよ!!」
自分の愛する人を優しく、強く抱きしめる。自分も彼と同じようの目頭が熱くなる。
心に開いた深い自責の思いは自分のセルフ・イメージおも破壊されてしまった。
アスナは其処で改めて自分の中に満ちるのを意識する。
この世界を守る。キリト君達が愛したこの世界を……。
最後にもう一度キリトに抱きつくとアスナは立ち上がる。
「ありがとう。あなた達が、キリト君を守ってくれたのね」
そういうとアスナはロニエ達を見て感謝の意を示した。