ブレイドとアスナは情報交換を終えるとブレイドはアスナを見ながら言った。
「じゃあ、自分はこれで失礼するよ」
「……え?」
いきなりの事に驚くとブレイドは言った。
「これから行く場所に先回りして安全の確認をして来る」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
アスナが驚きの声をを出すも、ブレイドは野営地を駆け出した。
「じゃあ、後は頼んだぞ」
そう言うとともにブレイドは野営地を飛び出してしまった。残ったアスナは呆然としているとユージオがアスナに近づいて来た。
「ブレイド、アスナさん。食事を…ってあれ?」
「ユ、ユージオ君…実は……」
アスナはユージオにブレイドが先に行ってしまった事を伝えるとユージオも思わず口を開けて呆然としてしまっていた。
ブレイド、あとでシノのんにビンタされなさい。
野営地を出たブレイドはフゥと一息吐く。
「危なかったな……」
そう言うとブレイドは天幕にいたベルクーリを思い出していた。彼はブレイドを見て少し自分を怪しげに見ていたのを思い出していた。ブレイドは野営地を出るとそのまま南側にある小さめの丘を目指していた。
「さて、敵もどう出てくるか……」
片手に望遠鏡を持ちながらブレイドは乾いた大地を走っていた。
此処はオーシャン・タートルのサブコン。そこに来客・・・と言うのが正しいのだろうか。通信用画面から声がした。
『……了解しました。以後、アンダーワールドの監視は私が担当いたします』
「ああ、頼んだぞ」
画面越しに藤吉がそう言うと後ろで菊岡や比嘉が藤吉を見て言った。
「宜しいのですか。閣下?」
「どうもこうも襲撃された時点でアンダーワールドの秘匿は瓦解しておる。だったら相手が何かしでかさんか常時監視させなければならん。マキナ、何らかの数値に変化があれば報告を」
『畏まりました。…現在の所、アンダーワールドのFLA倍率の低下を確認しました』
「何だとっ!?」
「ほれ見ろ。何かしでかすと言っただろう」
真之はそう言い、マキナの報告を聞いていた。二人は衛星電話を使い、まず修也のマンションに電話を入れた。
そこでマキナを呼び出し、修也や詩乃に次いで権限を有する藤吉がアンダーワールドの監視を依頼。ザ・シードを伝ってオーシャン・タートルに辿り着いていた。どれだけ天才でも人間には限界がある。そこで藤吉達はアンダーワールドの秘匿を諦め、常にすべてのことを監視できるマキナを呼び、相手の思考を探る事にしたのだった。
「奴さん…まさか外からプレイヤーを入れる気か……?」
「まさか…」
「いや、可能性としてはある。
相手の狙いはアリス。それ以外はどうなったって良いから破茶滅茶にする気だろう。此処の空間に倫理コードなんて存在しない。大方『倫理コードのない本格的殺戮ゲーム』と称してネットに公開するだろうな。FLAが等倍になれば容量的にアミュスフィアでもコンバート、若しくはダウンロードも出来るしな」
一瞬でそんな事を予測する藤吉に菊岡達は舌を巻いていると真之が圧突拍子もない提案をした。
「そっちがその気ならこっちも情報戦と行こうじゃないか。コッチには優秀なの子がおるしな」
そう言うと真之はマキナを見るとマイクに手を当てていた。その時の彼の顔は思慮深い、長年の経験が生きていた目をしていた。
ブレイドが野営地を飛び出して一夜明けた頃。朝食を貰っていたアスナは突然なった笛の音に驚いた。前日の夜にいわゆる女子会の様なものですっかり気の緩んでいた自分は少し慌てながらも野営地北側に向かった。
「なるほど、敵のリアルワード人は相当なもんだな」
そこには敵軍がアスナの作った底無しの谷を端と端を繋いで作った荒縄の上を綱渡りさせている光景だった。もちろん命綱などなく、落ちればそこには死が待っていた。
此処で攻撃をするのか、否か。アリスの迷いをベルクーリが断ち切った。
「異界人のアスナたちはともかく…これは戦争だ。このままダークテリトリー軍に情を懸けて、黙って見ていているわけにはいかん…この機を狙わないわけにはいかない……ユージオも分かっているな?」
「はい……」
「よし、ならば俺たちも動くぞ。……レンリ」
「はいっ!」
「お前の剣で片っ端から縄を切れ」
ベルクーリはそう命じた。
そこは地獄だった。いくら皇帝の命令とはいえこれは残酷すぎる。危険な綱渡りをさせられ、部下が幾人か谷に落ちて行く。
ーーこれでは犬死ではないか。
たかが光の巫女一人に皇帝は部下をただの駒としか見ていないようだ。これでは死んで行った者の家族にどう説明すれば良いのだ。迂回を提案したが、皇帝は全く聞き入れず、谷を進む事を命令する。
「(やるなら今しかないか…?)」
シャスターは痛む右目を耐えながら皇帝ベクタを見ていた。
「(やはり上手く使えぬか……)」
AIの知能は人界の方が高い様だ。自軍のユニットは七割が壊滅。だが、ベクタは
「(上手くやれよ…クリッター)」
「Shit!」
オーシャン・タートルのメインコンでクリッターは台を叩いた。ガブリエルの作戦でアメリカのVRサイトに暗黒騎士のアバターごとこの世界の情報をリークした。初めは懐疑的な意見がありつつも近年の規制が強いアメリカに鬱憤を持っていたユーザーの多くはそのデータをダウンロードした。
何万人ものユーザーをログインさせ、向こうで混乱を生じさせている間にアリスを奪取する博打にも近い作戦だったがクリッターはどんどん増えて行くダウンロード数にニヤニヤしていた。しかし、三万人近く行った所で突如としてダウンロード数が減り始めたのだ。
データも削除され、新しく出そうとした所でその直後に一瞬で削除される。ラースの人員が動いているとしか考えられなかった。どんなに逃げても必ず削除され、イタチごっこの様だった。
『敵に反撃が強すぎる…それに……』
クリッターはそう呟くと掲示板に載っているあるデータを見ていた。
『ペイン・アブソーバーによる人体への影響に関する論文』
その題材で書かれた論文は現在ネット中をざわつかせ始めようとしていた。発表はかの世界的医療メーカー『アスクレー』……医療機器の最先端を走るイケイケのこのメーカーがつい先程ネット上にアップした論文だった。測ったとしか思えないタイミングに、クリッターは相手にアスクレーの関係者がいたのかと苦い表情をするしかなかった。
『…現在、米国内にて確認できるダウンロード数は三万二千三名です。アンダーワールドへの不正アクセス件数は急速に増加中。ダウンロード数も同じようにまだ増えています』
「思いの外ダウンロード数が多いな……」
「こちらも対抗策を打たねばな……」
サブコンではマキナの出した数に渋い表情を浮かべるその後ろでは菊岡や比嘉、神代までもがマキナのスペックに畏怖を抱いた。
「これが…先輩の作った最高傑作っすか……」
「処理速度が桁違いだ。余りにも早すぎる……」
「……」
三人はそう呟き、目の前にいるおそらく世界最強であろう感情を持ったAIを見ていた。
マキナは修也の書いて置いてあった論文を見てすぐさまザスマンに連絡。了解を得たのちにアスクレー研究所の名前でホームページに『拡散希望』と書いて瞬時に十二カ国の言語に翻訳して公開。ダウンロードさせない方針を展開した。
『御父様、アクセス件数の増加に伴い、此方も公開するのはどうでしょうか?』
「しかし…論文が急速に広まっている今。人は集まるのか?」
『此方の時刻は午前四時四十分。現在ネットを見ている人には論文に気づかない可能性もあります』
「……どれくらい時間がかかる?」
『義妹とであれば三分十三秒で可能です』
「よし、すぐに始めてくれ」
「ちょっ……」
比嘉が『そんなの無理だ』と言おうとした瞬間、藤吉に睨まれ押し黙る。
元傭兵に殺気を向けられては一般人の比嘉は何もいえなかった。そしてマキナは別途行動をしていたストレアの力を借り、人では追いつかないほどの速度でアンダーワールドの情報をネット上に公開した。
「これで、やる事は終わったか……」
その時だった。内線電話が鳴り響き、菊岡がそれに出ると暫しの応答の後、変な声を出していた。
「それで……やって来たこの名前は?」
『やって来た子は《リーファ》って言ってました』
そう言うと共に菊岡はガクッと肩を落としていた。
「…ったくよ……あんの馬鹿共。またとんでもないことに二人して巻き込まれやがって・・・自衛隊が作った仮想世界とそこに生まれたマジモンの人工知能アリスだぁ…?そんなもん、ゲームの領域を超えまくってるだろうが……」
そこはALOの新生アインクラッド22層にあるキリト達のログハウス。そこにはクライン、リズベット、シリカ、エギルがユイの話を聞いていた。アスナの携帯からことの全てを話したユイはアンダーワールドの全貌を説明し終えると頭を抱えていた。
「それって…その人工知能は私たちと変わらないって事?」
「その通りです。人の魂を解析して造られた、本物の魂。ラース内部では《人工フラクトライト》と呼ばれています」
「ラースとしては、その技術を当面国内外向けのデモンストレーションとして用いる意図のつもりですが……現在オーシャン・タートルを占拠している襲撃者たちは……もっと具体的な用途を想定しています」
「一体何者なんだよ、その襲撃者って奴は……?」
クラインが聞くと、ユイは深刻な目でその正体を答えた。
「…高い確率で、米軍か米諜報機関が関与しています……」
「べ、米軍って…アメリカ軍ってこと……!?」
「はい…もしアリスが米軍の手に落ちることがあれば、遠くない未来に無人機搭載用AIとして、実戦配備されるでしょう」
「……それで、キリト君達が今そこにいるってこと?」
「そうです。現在、ストレアやマキナが対応をしています。それにママとシノンさんはアンダーワールドにダイブしていて、パパやブレイドさんを守るために戦っています」
「そんな……!!」
シリカが驚きの声を出すとクラインがある提案をした。
「…俺たちもいけるのか?アイツらを助けに……」
その問いにユイは確認をした後、答える。
「行けます。ママ達のいる場所は《ザ・シード》を元にしていますから。それにマキナがネット上にアンダーワールドに行けるデータをアバターと一緒に公開しています!!」
「よし、ならばやる事は一つ。おれはSAO時代の仲間達全員に連絡を取る!」
「なら私はそれ以外の人を集めるわ」
「わ、私はその公開されたデータの話を!」
「俺はリズベットの手伝いだな」
そう言うと四人はそれぞれ当たり前と言わんばかりに席を立つ。
「あ、ユナに最初に連絡して。『来たら生歌を一曲』ってね」
「おー、そりゃあ釣れそうだ」
どこか楽しそうにする四人にユイは目を白黒させていた。
此処はGGOの首都グロッケンの広場。そこではストレアが壇上に立っていた。義姉の命令で自分は
「本当にめちゃ来た…義姉さんすげぇ……」
視線の先には多くのプレイヤーが銃片手に広場に集まっていた。そんな中、自分を見つけて他一人のプレイヤーが反応した。
「ストレア様だ!」
そう言うと他のプレイヤー達が一斉に自分を見ると広場が一斉にざわつく。それを見て驚きと呆れが混ざるストレア。
「(あんなので釣れるなんて…マスター、死なないと良いけど……)」
そう言い、ストレアは掲示板に書いた二つの内容を思い出していた。
「(『来た人には自分と義姉のツーショット写真をあげる』って言うのと、『フリューゲルを倒すチャンス!!』って書くだけでこんなに集まるなんて……)」
男はチョロいと言った義姉は恐ろしいと思いながら新たに一つ学んだのだった。