「まさかお前さんと共闘なんてな」
「俺もこんな事になるとは思わんかったさ」
そう言い、ベルクーリとシャスターはそれぞれの飛竜に乗りながら前を飛ぶ青年を見た。
「やれるのか?シャスター」
そう問うベルクーリはシャスターに聞く。これから相対するのは皇帝ベクタ。つまり、シャスターにとっては上司に反逆するようなものだ。右目の痛みに耐えられるのかと言う意味があった。
「問題ないさ。勝手だが、望みは託した。悔いは残していない」
「それなら結構だ」
そう言うとベルクーリはシャスターの覚悟を見ると時穿剣を鞘から抜き放つ。
飛竜で追いつけないのなら、飛べないようにすればいい。幸いにもこの時穿剣はそれをするにぴったりだ。
スゥと息を吸うとベルクーリはベクタの乗る飛竜を注視する。
武装完全支配術は天命を使用するが故に注意しなければならない。おまけに時穿剣は先の東の大門の戦いの影響で天命を消耗していた。
この技は精密さを必要としているので前を飛ぶユージオの飛竜に危険が及ぶ可能性があった。すると自信の飛竜である星咬が鳴くと、ユージオの飛竜が横にそれた。さすがだと思いつつ、ベルクーリは精神をこれでもかと集中する。
ベルクーリは身体の右側に時穿剣を立てて構え。そして、式句も無く解放術を発動させ、その刀身が微かな光を帯びた。
「時穿剣…裏斬!!」
ズゥンと重々しい音が響き、凄まじい速度で剣が降り遅された。青い残像が斬撃の軌道に乗って無数に輝くとそのまま消えた。
その瞬間、彼方の空で黒い飛竜の羽の根元が斬れ、飛竜は悲鳴を上げて落ちていった。
片翼が斬り裂かれた飛竜が最期の力を振り絞って軟着陸したのは、円柱形の奇岩が乱立する地帯だった。場所としてはこの地帯の中央の、高さ約九十メートル。直径約二十七メートルほどある岩の頂上だった。
自分を献身的に運んできた飛竜の事を記憶と思考から削除したガブリエル・ミラーは、足元に横たわっているアリスの事を気にしながら、岩山を下るかどうかを思考する。この世界にハーネスなんて便利なものもない上にこの世界の魔法なんて点で知らないのでここから飛び降りるのも得策じゃない。
クリッターの策もうまく行っているだろうと予測しつつ、ガブリエルは接近してくる影を見た。丁度いい、あの飛竜を奪うのだ。それに乗って果ての祭壇に行けばいい。そしたらこのアリスを心行くまで堪能するのだ。
鎧のベルト一つ外すのも、優美に、厳粛に、象徴的に。
「…もう暫く、そのまま眠っているといい。アリス……アリシア」
そう呟くとガブリエルは敵を迎え撃つべく、岩山の中央に歩いて行った。
「アリス…!!」
ユージオは飛竜を飛ばす。すると後ろから怒鳴り声が聞こえた。
「ユージオッ!!」
「っ!?」
後ろから聞こえた怒声にユージオは体がピクリとなる。
「この馬鹿野郎が!いきなり飛び出しやがって!!」
「す、すみません。体が先に動いてしまって……」
ユージオがベルクーリに謝罪をするとシャスターが言った。
「何、若い証拠だ。いずれ学べば良い」
「あ、貴方は?」
見慣れぬ漆黒の甲冑に首を傾げると、その男は名乗った。
「暗黒騎士団団長のシャスターだ。これから君と行動を共にする者だ」
「!!」
「まぁ、そう言うことだ。こいつは敵じゃねぇ」
ベルクーリはそう言うとベクタを捉えた。
「全員行くぞ」
「分かりました」「了解だ」
そう言うと三人は二〇〇メルはある高さから飛び降りたのだった。
ベクタは降りてきたフラクトライトを見て、疑問に思った。
「…なぜ、暗黒将軍がそっちにいる?」
そう問いかけるとシャスターは答える。
「より良き未来のために」
「未来?おかしなことを言う奴だ」
ベクタはそう言うと降りてきたシャスターとユージオを見ると、剣を抜いた。同じようにユージオ達も剣を抜き、構える。臨戦大勢の二人を見て、ベクタは背後の空を見た。
目に入ったのは、眼前に迫った致死の流星。四つのスーパーアカウントの中で最大の天命を持つ《暗黒神ベクタ》の天命を全て削りきるほどの一撃。
ユージオとシャスターが敢えてガブリエルの視界に入り、その意識を少しでも引き付け、その視界の外より降下してきたベルクーリが必殺の一撃を見舞う。そのような計画を立てて彼らは行動していた。
その一撃には、ベルクーリの必殺の心意も込められている。カセドラルでユージオと戦った時すら、本気と全力を出し切っても漲らせる事の無かった殺気を込めている。
理由は怒りだった。ベルクーリ・シンセシス・ワンと言う男は、その長い生涯において初めて、愛剣に真なる怒りを込めるほどに激怒していた。アリスが攫われた事のみだけでなく、目の前の存在が現実世界と言う別の世界からやって来たよそ者であり、そいつが暗黒界人たちを戦場に駆り立て、本来無用だった筈の血を無理やり流させた。
『和平の準備を進めていた所に、ベクタが現れて全てが無に帰った』
半年間、どこに行っていたかと思えば戦争をしないために尽力し、無用な血を流させないための努力を一瞬で無駄にさせ、幾万もの命を貪った。ただ言えるのは一つ。
「(てめぇと言う人間の本性が、どうしようもなく悪だと言う事だ)」
だからこそ、散って行った命の重さを、此処で思い知れ。
「ぜぁぁぁぁああ!!」
高度十メルの地点で最後の一歩を踏み切る。あらんかぎりを込めた気合いと共に、皇帝の脳天へと斬撃を振り下ろす。その威力は大気すら灼き、アンダーワールドで発生した全ての剣技を超えるほどの威力。神といえども、一瞬で天命値を削り取ってしまう一撃を。
しかし刹那の瞬間、皇帝の身体が淀みない動きで、すぅと横に滑った。唯一退避できる空間へと、回避に必要なギリギリの距離を。究極の一撃が断ち切ったのは、宙にたなびいたマントだけで、直後に雷鳴じみた轟音と共に岩山の頂上に深い傷跡をつけ、巨大な岩山自体をも大きく震わせた。
「あれを躱すか…!?」
驚愕するシャスターとユージオを見る事なく、ベルクーリは皇帝の側面に回り込みながら着地、即座に横薙ぎの一撃。全身全霊の大技を空振りしつつも、次の攻撃に半秒とかからなかった。しかし、その追い打ちすらベクタは避けた。
だがそれで、ベルクーリは勝利を確信する。
放った一撃は躱されたが、それは未だ残っている。時穿剣の支配術《空斬》により、未来へと斬撃を残していたのだ。皇帝が回避のために動いたのはその斬撃が残っている方向であり、そこに背中から吸い込まれていく。
最初に豪奢な白金色の髪が広がり、額に嵌まる宝冠が微かな金属音と共に砕け散り、皇帝の両腕が高く高く掲げられた。ベルクーリの目には、黒を纏う長身の皇帝が縦に裂ける様が視えていた。
ただ、その光景は乾いた破裂音と共に砕かれた。
蜃気楼のように揺らめいていた不可視の斬撃が、皇帝の両手に吸い込まれるようにして消えた。それと同時に、皇帝の青い双眸がどす黒い闇色に染まり始め――その奥底に、ちかちかと瞬く無数の星のようなきらめきが見えた。
「…貴様は、人の心意を喰うのか!?」」
其れは星ではなく、今までこの男が吸い取ってきた、人々の魂が囚われている。そう確信したベルクーリの呟きは目の前の皇帝に、そして二人にも届いた。
「何だと!?」
「そんな…!?」
「シンイ…?……なるほど
寒々しい、生きた人間の気配が完全に抜け落ちた声を響かせる。その声にシャスターやユージオの剣を握る力が強くなる。すると彼はその唇を薄い笑みのように見える形へと歪めた。
「お前の心は、オールドヴィンテージのワインの様だ。とろりと濃密で、どっしり重く…長く残る後味。私の趣味ではないが…しかし、となればあの二人の味はどういうものかも含め、メインの露払いに味わうのも良かろう」
皇帝が腰に佩いた長剣を抜き放つ。現れた細身の刀身は青紫色の燐光に包まれ、皇帝が纏う不吉な雰囲気を一際強調していた。
「さぁ、もっと飲ませてくれ」
そう言い、気負いなく剣をぶら下げながら微笑む皇帝に、ベルクーリは意を決して駆け出す。シャスターもユージオも、それに倣うように駆けだした。
全てのものを凍らせるが如く、ユージオは青薔薇の剣を持って、ベクタに接近する。
「まだ若く、新鮮で熟成を始めたばかりだが、後味に印象を残す。…悪くない」
ベクタが氷を吸い取り、欠片が残らず吸い込まれていく。直後に、背後から、ありったけの心意を詰めた一本の太刀がベクタの首を狙う。
「こっちは喉を灼くように熱く、濃密だ」
青紫色の燐光を纏った剣がそれを容易く受け止める。しかし、シャスターはそんなことに驚く間も無く、ある現象に巻き込まれた。
剣の燐光がシャスターに生き物のようにまとわりつき、赤い燐光が萎びるように消えていく。
「(これは…其れに俺は一体…)」
誰なのかと思った時、ベルクーリの声が轟く。
「何している!シャスター!!」
その瞬間、反射的に後ろに飛び、距離をとる。止まっていた数秒で、自分の右腕の先が切り落とされる。追撃をしようと試みるベルクーリにシャスターが忠告を入れる。
「気をつけろ…ヤツは剣越しに心意を喰らう……」
「何っ!?」
その時、技を出したユージオが止まってしまった。目の光が消え、その瞬間。皇帝が剣を持ち上げた。
その瞬間に、ベルクーリはユージオを掻っ攫うように飛び、斬撃を避ける。ユージオを突き飛ばすように逃したベルクーリはユージオの頬を軽く叩きながら聞いた。
「おい!ユージオ!」
「は…い…」
目に光が戻り、意識が回復したユージオを見てベルクーリはベクタの危険度を一段階あげた。
「剣すら寄せ付けんか…こりゃ厄介だ」
純粋な剣の戦いではベルクーリはベクタに勝っていると感じた。しかし、心意での技を封じられており、ベルクーリはどうしたものかと思うとユージオが意見を述べた。
「ベルクーリさん…僕にある提案が……」
「…何だ?」
ベルクーリはそう聞くと彼はある提案を持ちかけた。
作者からのお願い。
今、作者が過去の回を読んで誤字を直しております。
が、絶対見逃していると思いますので、もし発見された場合は誤字報告欄でご報告をお願いします。