ソードアート・オンライン 赤色の記録   作:Aa_おにぎり

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#36 漢の覚悟

「ーーーーというのはどうですか?」

「ふむ…」

 

ユージオの提案にベルクーリはしばし考えた。これなら行けるかもしれないと。

その間に、ベルクーリは腕の先を切られたシャスターに近づき、二本指を使い、腕を止血する。その瞬間、ベルクーリはシャスターを見た。彼はベルクーリを見た。彼の目には覚悟が浮かび上がり、ベルクーリにも同じものが浮かんでいた。

 

「(ヤツはこの世界に害をもたらす存在)」

「(生かしておけばそれだけで世界の脅威だ)」

 

たとえ共倒れでもこいつを倒さねば意味はない。

 

二人はそう再確認した。こいつが居る限り、自分を愛した者たちに平和は訪れない。男としての本能が働いた。

 

「(あとはユージオと嬢ちゃんをどう逃すか…)」

 

しかし、ベルクーリは此処で考えるのをやめた。

 

「こんな時だ…やるしかねえだろ」

 

武像完全支配術は使えない。体術も自殺と変わらない。此処に居る三人で、奴を倒す方法は一つだけだ。其れはユージオが提案したものだった。

 

『さっき、飛竜を堕とした技を使うんです。僕が注意を引いている間に…』

 

ベルクーリですら舌を巻いた。考えてはいたが、まさか年はも行かない小童が思いつくとは思わなかった。時穿剣の記憶解放術《裏斬》ならば、通用する可能性は高い。しかし、そこまで行くには多くの困難が待ち受けている。しかし・・・

 

「シャスター」

「何だ」

「俺に命を預けるか?」

 

その問いに自分はすぐに答える。

 

「…ああ、賭けてやるよ!俺の命をな!!」

 

賭けるは己の命、見返りは世界の安泰。シャスターは剣を向けた。その様子を見たベクタはシャスターを見ながら言う。

 

「ならばこうしよう…『暗黒将軍、皇帝に危害を与える行為を一切禁じる』」

「ぐっ…」

 

体が固まってしまった。ベクタはビクスル・ウル・シャスターの上位者。これは天地がひっくり返っても変わらない事実。

 

しかし、皇帝の命令を全て承諾できるかは別の話だ。

 

シャスターの右眼が赤く輝き、頭蓋の中に無数の針が刺し込まれたかのような鋭い痛みが襲い掛かる。右目が燃えているのかと錯覚するほどの熱さを感じた。思わず蹲りそうになるが、そこでユージオが叫んだ。

 

「シャスターさん!大事な人を思い浮かべてください!貴方が命に変えても守りたと思う人を!!」

 

ユージオはかつての自分のように、シャスターに向かって言った。ビクスル・ウル・シャスターが真に皇帝へと刃を向けるには、必ず《右目の封印》の壁を乗り越えなければならないから。

 

「俺の…大切な…人……」

 

シャスターは言われた通りのことを自問自答する。世界の平和?皇帝の討伐?自分が求めているのは…。

 

「リ…ピア……」

 

自分がかつて仕事を忘れてしまうほどに一目惚れし、帰った暁には共に暮らすと誓った愛おしき人だった。

 

「なるほど…俺の大切なものは……」

 

其れと同時に足に力が入り、剣を握った。体が動き、赤色の視界はついに銀色へと染まり、右目は激しく血を出しながら弾け飛んだ。

 

「っ!?」

 

その様子にベクタは驚愕の表情を浮かべ、ベルクーリはホッとした表情を浮かべた。右目を失ったシャスターはベクタに向けて剣を持った。

 

()()()()()()…平和な未来を…俺の愛した者を守るために此処で貴様を討つ!!」

 

剣を掲げ、そう叫ぶとベルクーリはシャスターを一瞥し、二人の男達は互いに剣を取っていた。

 

「(餓鬼に情けねえ物は見せたくねぇな……)」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

プレイヤーを突破し、アスナ達人界軍は七、八メートルほどの参道に陣を構えた。すると後ろから雄叫びに近い声が聞こえてきた。

 

「来たっ!!」

 

アスナ達は雄叫びが聞こえたのを確認すると人界軍は槍を持って前に構える。今や十八番戦術である密集陣形は接近してくるプレイヤー達の足を遅くさせていた。

 

「これが最後の戦いよ。キリト君のこと、お願いね」

「はい!お任せください、アスナ様!」

「必ずお守り致します!」

「どうかお気をつけて…!」

「命に代えても……」

 

アスナはそういい、ロニエ達と合わせ、頷く。その心内、アスナは疑問を感じていた。

 

「(可笑しいな…ブレイドは此処にいると思っていたけど……)」

 

そう、此処の遺跡にブレイドは見当たらなかった。先回りして監視をしていると言っていたからてっきり此処で見張っているのかと思っていた。しかし、彼はここには居なかった。その事にマリーも少し落胆していた。

 

「(後でシノのんに言いつけてお仕置きしないとこれはダメね…)」

 

アスナはそう思っていながらふとブレイドの服装を思い出していた。そしてそこである違和感を感じた。

 

「(あれ?そう言えばブレイドの格好…あれって確か……)」

 

そう思った時、レンリが叫び、敵が来たことを知らせた。その事にアスナは意識を前に向け、ラディアント・ライトを抜いた。

激突する人界軍とプレイヤー達、それぞれに命が散っていく中。アスナは剣を振る。鬼のような覇気を纏い、思わず怯んでしまうプレイヤー達に慈悲など与えず、瞬時に切り裂く。

リアルな血、悲鳴を求めてやって来た愚か者はこの世界を本気で守り通すと誓った者達の心意の前にはあまりにも無力であった。

 

 

 

 

 

そんなアスナを見下ろす一つの影があった。

 

「くくっ、相変わらずキレると容赦ないな」

 

彼はヴァサゴ・カルザス。一度やられた彼はSAOのアカウントをコンバートさせ、再びこの世界にやってきた。ログイン直後のシノンの攻撃を避け、残った人に紛れて囮部隊を追った。そしてこの神殿の壁をよじ登り、特等席からの見物を決め込んでいた。

 

「さて…()()()は何処だ……」

 

何処か狂気的な笑みを浮かべながら彼は必ず居るはずの誰かを探していた。

 

 

 

 

 

下では肉厚の剣がアスナの右腕を掠める。現実と同じように痛みが走り、一瞬だけ表情が歪む。

 

ーーこれっぽっち、痛くもない

 

キリト達が受けて来た痛みに比べれば……

 

それに、後方から投石器がやってくれば状況は一変する。ブレイドが設計したという大きな投石器は現在、東の大門を出て、こちらに向かっていると言う。それまでの辛抱だ。それまで、私たちは剣を振り続ける。

 

「はぁぁぁぁああ!!」

 

敵の重装兵の鎧を破り、敵を斬る。無作為に命を奪おうとする誰かしらぬ人を、逃げようとするプレイヤーを後ろから刺し、体を真っ二つにしてポリゴンへと変化させる。

死力を尽くす事数時間、アスナの体は至る所に傷をつくり、足元には大量の血が流れていた。剣を地面に突き刺し、其れを支えにアスナは立つ。

 

ーーこの身体が倒れるのは、心が折れた時だけ。二人が守ったこの世界を壊させはしない。

 

そう思い、アスナは剣を持つ。其れと同時に、第二陣のコンバートプレイヤーが突撃を開始した。その時だった……。

 

「っ…あれは……あの光は…また敵の、援軍……!?」

 

アスナは上空から降りてくる青い光に絶望を抱いた。そこには諦めもあった。アスナはただ結果だけを待っていた。

青い光は空中で分散し、人の姿へと変わる。その瞬間、竜巻が起こり、足元で歩みを止めていたプレイヤーを切り刻むように吹き飛ばす。

竜巻の中から現れたのは和風の鎧に刀を持った細身の男だった。

 

「おう、待たせたな。アスナ」

「な、んで…」

「何でって、同郷の嘉じゃないの」

「リズッ!」

 

赤髪に似合わないバンダナを巻いた男と、ピンクの髪に盾とメイスを携えた少女が話しかける。その間も、次々と青い光は形造り、アバターとなっていった。するとアスナに、薄紫色の髪に両手にMG42を持った少女が話しかけてきた。

 

「やれやれ、マスターの癖が染っているよ。アスナさん」

「ストレアちゃん!!」

 

そう言うとストレアの後ろに同じく、銃を持ったプレイヤーが多く現れた。その様子をみたリズベットがアスナを見て笑みを浮かべながら言った。

 

「みんなで助けに来たよ」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そこでは世にも珍しい歴史に残る戦いが起こっていた。二人の団長は剣を振り、傷を受ける。

 

ーー斬りかかり

ーー意識が薄れ

ーー痛みで覚醒する

 

そんな繰り返しを続けていた。その様子に、ユージオは二人から『手出し無用』の意思を受け取って、剣を鞘にしまいつつも、柄を握りながら戦局を見ていた。

 

『子供は親より早く死んではいけない』

『親は必ず先に逝ってしまうもの』

 

そう思う彼らはただ無心にベクタ相手に剣を振り続けていた。

 

「(まだか!?)」

「(あと二〇秒だ!!)」

 

二人は今までの経験から無言の会話をする。ベクタはただただ殺すことだけを考えて突撃してくる二人に呆れ始めていた。

 

「…つまらん」

 

二人が作った血溜まりを踏み、一歩前に出る。

 

「お前達の魂は重く、濃すぎる。そして私を殺す事しか考えていない」

 

平板な声で皇帝はさらに近づく。

 

「もう消えろ」

 

そう言い、剣を振ろうとした時。ユージオが走った。その事にベルクーリ達は驚愕する。彼は青薔薇の剣を持ってアインクラッド流ヴォーパル・ストライクを繰り出す。高速の剣技は皇帝まであと数ミリと逝ったところで受け止められる。

その瞬間、またあの感覚に飲まれる。意識を問答無用で闇へと突き落とすような皇帝の心意は、騎士長や暗黒将軍ですら抗えない。圧倒的な強さに、ユージオは現実を見せつけられる。

 

「…さない」

「?」

 

一瞬の呟きにベクタは疑問を浮かべる。意識がないと思っていた《人工フラクトライト》が何か喋ったのだ。

 

「…渡さない」

「何…?」

 

朧気な瞳をしつつも話した事に疑問に思っていると次の言葉で全てが吹き飛ぶ。

 

「お前なんかに!アリスは渡さない!!」

「っ!?」

 

その瞬間、太陽のように眩い光が放たれ、ベクタは目の前のフラクトライトを瞬時に殺そうとした。その時だった。

 

「…危ねぇことしやがって小童が……だが…ありがとよ」

 

ベルクーリが駆け出す。彼の持つ時穿剣の刃には、記憶開放術の発動を意味するシステムコマンドが浮かび上がっていた。

 

「これで終わりだ…」

「やらせはせん……!!」

 

ベクタは咄嗟にユージオを放り出して駆け出す。その瞬間、ユージオが唱える。

 

「エンハンス…アーマメントォッ!」

 

転瞬、ベクタを覆うように永久凍土の氷が襲いかかる。それを逃さずシャスターが飛ぶ。

 

「はぁぁぁあああ!!」

 

そしてシャスターはベクタの背中に剣を切り付け、動きを止めた。そして・・・

 

「時穿剣……裏斬りぃぃィィィィィィィィィィィィィ!!!!」

 

何もない空間を斬ったベルクーリ。何をしたのかを思ったその瞬間。体に変化があった。

 

「こ、れは…」

 

ひび割れる体にベルクーリは言う。

 

「へっ…斬ってやったのさ…お前の過去をな……」

 

時穿剣の《裏斬》は十分前の過去を斬る技。ユージオが提案したのはこの技ならばさしものベクタも所詮は人間、対応できまいと踏んだのだった。

 

「ぬううぅぅうう……うぉおおおおああぁぁあああぁぁぁあああ!!!!」

 

全身がひび割れし、ベクタは今までにないほどの絶叫をあげな上げながらアバターは消滅した。

 

「これが俺たちの力ってもんだ…」

 

ベルクーリは最後にそう言い残すと時穿剣を地面に落とした。

 

「ベルクーリさん!!」

 

倒れたベルクーリにユージオが駆け寄る。するとベルクーリはある方を指差しながらユージオに言った。

 

「少し疲れただけだ…それよりユージオ…ほれ、早く嬢ちゃんの元に行って来い」

「はっ…ハイっ!!」

 

そう言うとユージオはアリスの元に向かって走って行った。ベルクーリの横で同じようにシャスターも倒れていた。

 

「ハハハ…流石に俺も疲れたな……」

 

スゥ、と大きく息を吸うとシャスターは呟く。

 

「まさか、生き残るとはな…」

「ああ、全くだ。あの青の坊主には驚かされてばかりだ……」

「老兵は去るのみか……」

 

そう言うと二人はアリスに駆け寄る金髪の青年を見ると頼もしさを感じていた。

兎も角、巨悪が去った事に二人は確かな勝利を確信していた。

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