時は少し戻り、場所は南方の山岳地帯に移る。そこではシノンがブレイドに担いでいた小銃を渡していた。
「これ、ブレイドのものでしょう?」
「ああ、感謝する。何せ、今まで丸腰だったからな」
そう言い、小銃を受け取ったブレイドはシノンを見た。
「シノン、行けるか?」
「ええ、勿論」
そう言うとシノンは両手に《アニヒレート・レイ》を握る。
「(できるかしら…)」
前にブレイドやキリトが教えてくれた。仮想世界はもう一つの現実、だからイマジナリーが起こってもおかしくはないと。
ブレイドがそばにずっと居た。
それだけでシノンは安心できた。『大切な思い出』を守る為に、二度とブレイドを危険な目に遭わせない為に。
そんなシノンの心意に応えるように《アニヒレート・レイ》は青く光り、形を変えた。
弓の色が黒へと変わり。鋼鉄の銃身、マズル、グリップ、ストックといった順番に姿を現し、最後の巨大なスコープが現れる。シノンの手に弓はなかった。現れたのはシノンが慣れ親しんだ銃。今まで共に歩んできた相棒だった。
「お前は、神でも、悪魔でもないわ!ただの……人間よ」
もう、恐れることはない。自分の後ろには常に彼がいる。こんな男よりもずっと頼もしい、強い男が。
それを見たブレイドはシノンを見据えると声をかけた。
「そうだ…思いっきり暴れてこい。シノン」
「言われなくても、勿論よ」
その瞬間、後顧の憂いがなくなったシノンはその引き金を引いた。シノンの動きに合わせるようにブレイドも小銃を持って接近した。初弾はサトライザーが手で抑え、効果はなかった。しかし、
ドォン!
シノンの影から小銃を持ったブレイドの二発目がサトライザーの右脚を貫通した。それを見てニヤリと笑うシノン。サトライザーは少し驚きの表情を出すも、負の心意を応用して回復する。
閃光と轟音、凄まじい反動がシノンを襲う。一発一発を慎重に狙い、引き金を引く。サトライザーはその様子を見ると持っていたクロスボウを持った。
シノンとブレイドは目を合わせ、確認を取った。
「(敵が銃を出す。注意しろ)」
「(了解、気を付けるわ)」
もはや会話をしなくても何を思っているのか分かる。だからこそ、私は出てくるであろう武器を注視した。
サトライザーはさっきのシノンを真似るようにクロスボウを負の心意で変化させる。クロスボウの形が変わり、現れたのはシノンと同じ50口径を使用する対物ライフル、バレットXM500だった。
「…上等じゃない」
「やってやろうじゃないか……」
そう呟き、三人はこの世界では貴重な銃撃戦を開始した。
二対一の戦いのはずだが、戦局は拮抗していた。三丁の銃が互いに弾丸を擦りながら軌道を大きく変えて飛んでいく。
三次元の戦闘は初めてで、制御をなんとかこなしながら銃撃を行う。
勝負は先に反動を抑え、相手より一瞬でも早く引き金を引けば勝ちだ。
そう感じた二人は互いに頷き、挟み込むように有働を開始する。しかし、サトライザーもわかっており、回り込ませないように移動していた。
激しい撃ち合いの中、ブレイドとシノンはレバーを引いてコッキングし、引き金を引いた。そしてサトライザーはシノンに銃口を向けた。
「(うまく避けてくれ…!!)」
そう願いつつ、ブレイドはコッキングをした。そして放たれた弾丸はシノンの左肩のアーマーを撃ち抜いた。
避けれたことにホッとしたブレイドはそこで大きな誤りに気がついた。
「っ!しまった!その銃は…」
その瞬間だった。サトライザーはコッキングを必要としないセミオートの引き金を引いた。
ーー直後、シノンの片足が吹き飛んでしまった。
シノンは片足が吹き飛んだ痛みよりも、まともに飛べなくなる事を危惧した。現在の状態では錐揉み回転となってしまっているからだ。
「くっ……」
シノンは歯噛みをしながらひたすら真っ直ぐ後退した。可能な限り、距離をとりつつ、サトライザーを照準し、三発目、四発目を放つ。相手も同じように同じ回数を発砲する。
相手は訓練を積んだ兵士。さすがのシノンもこれには苦戦せざるを得ない。後方からのブレイドの援護射撃ですら、サトライザーは弾丸を掴んで受け止めていた。
「(自分の残弾は四発…へカートも残弾三発…相手は六発……)」
ブレイドはおまけにセミオートな事にどうしようかと考えながら、血を流すシノンに動揺していた。その間にも五発目、六発目と弾丸が発射され、弾丸はそれそれか擦れ、あらぬ方向に飛んでいく。
「シノンッ!残弾を確認…ーーー」
「しろ!」と、ブレイドがそう叫ぶぼうとしたが、砲声で掻き消されてしまった。咄嗟に、シノンに近づこうとしたが、七発目の弾丸が発射されてしまった。そしてボルトを引いたシノンは引き金を引いた。
ーーカチンッ!
「っ!しまった……!!」
その瞬間、サトライザーの冷たい視線がシノンを見た。構えられた銃が火を吹く。
直後に残った右足が吹き飛び、徐々に体が落下し始めた。
サトライザーが最後の一撃を与えるべく右眼をスコープに当てた。
「(ーーーごめんね、アスナ。ごめんね、ユイちゃん。ごめん…ブレイド」
「さようならだ……シノン」
この言葉と共に引き金が引かれた。赤い螺旋を宙に引き、回転する銅製の弾丸がシノンの胸に…
ギィン!
「……何?」「……え?」
目の前を赤い影が立っていた。赤い人影は持っていた小銃を縦に振って弾丸を防いでくれた。呆然となった一瞬の隙に彼は叫ぶように言った。
「シノンッ!」
咄嗟にブレイドが小銃を私に投げてきた。私はそれを受け取るとブレイドが背中に回り込んで落下していく私の体を支えた。
「……ヤツの頭だ。体は
そう言い、ブレイドは左腕をお腹の部分に、右腕で小銃を持った。そうだ、自分には支えてくれる人がいるんだ。あんな空っぽな奴には負けないんだ。
私はブレイドが渡した小銃を二人で握る。サトライザーはブレイド用に残していた弾丸を使い、落下していく二人に照準を合わせる。
「(そうよ…今はブレイドが居るんだ…だから……)」
シノン達は落下していく状態を利用してサイト越しにサトライザーを捕らえた。直後に、小銃ひ光が集まる。周りの神聖力がブレイドの小銃に集まり、暖かな光を生み出していた。明らかな違和感にサトライザーも危機を覚え、引き金に指をかけた。
「…いっ、けえええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
その瞬間、本来は《アニヒレート・レイ》の能力であるはずの神聖力の吸収が起こった。放たれたライフル弾は虹色の光を放つ。しかしサトライザーは体を動かし避けた……が、弾丸は持っていた銃の機関部に接触。直後に爆炎と爆風が起こり、サトライザーを飲み込んだ。
爆風の影響でシノン達は思い切り地面に叩きつけられる。ブレイドがその衝撃で呻き声が出そうになったが、これを抑えるとサトライザーの安否を確認する。空中に蟠る黒煙が晴れ、現れたのは……
空中に浮かぶサトライザーの姿だった。
しかし無傷ではなかった。右腕は完全に吹き飛び、顔も右半分が焼け爛れていた。
初めてその顔に殺意が浮かんでいた。その様子に地面に落ちた二人は銃を構える。
「…来いよ」「何度だって、相手をしてあげるわ……!」
二人はサトライザーを見ると突如奴はくるりと方向を変え、南に飛んで行った。
その直後、限界を迎えたシノンは持っていた小銃を握っていた力を緩めた。ブレイドはそんなシノンの体を優しく地面に置くとシノンが話しかけた。
「…嘘つき」
そう言うとブレイドはしばしの沈黙の後、手を後頭部に当てながら答える。
「今回ばかりは言い返せないな…」
「まぁ…後で色々と聞かせてもらうから。
「…やれやれ、説教は勘弁だよ」
そう言うとブレイドの顔を見ながらシノンは言った。
「…あの二人は大丈夫かしら?」
「予定通りなら、もう果ての祭壇に着く頃だろう……」
「そう……」
そこでシノンはふぅ、と大きく息を吐くとブレイドに言った。
「じゃあ、先に向こうで待っているから……」
「ああ、必ず帰る」
「今度は嘘じゃない?」
「ああ、この命に誓ってな」
そう言うとシノンはそのままそっと目を閉じた。その後、アバターが消え、ログアウトを確認するとブレイドは残された小銃を持った。
さっき光に包まれた影響か、小銃はまた
「ヴァサゴ…貴様には死より重い刑を課してやる……じっくり待っておけ」
その直後に辺りに赤黒い心意が彼の周囲を取り巻くと、ブレイドは非常に甲高い音と共に北の方角へと飛び立った。
「ガァ…!!」
体に突き刺さる刃を抜き捨てる余裕すら、リーファにはなかった。全身の痛みが解け合い、剥き出しになった神経を刺激されているかのようだった。いくつかの傷は致命傷とも言える傷だった。一本は心臓を貫いていた。
「う……おおぉぉぁぁああ!」
大量の鮮血と共に気合を迸らせ、何度目かもわからないソード・スキルを発動させる。
そして敵兵が一瞬で細切れとなり、その後の硬直時間を狙って数人の敵が殺到した。攻撃の大半は避けたものの、ハルバードが背中に突き刺さった。
「ぜやあああ!!」
衝撃で倒れそうになるも横薙ぎで三人を倒す。リーファは地面に落ちた左腕を拾い上げ、傷口に押し当てながら強く右足を踏み込んだ。緑の閃光と共に地面に草木が生え、消えていく。天命が回復し、傷は消え、腕も修復されていた。
もはやこの状態では無限回復能力も神の恩寵では無かった。これは呪いだ。どれほど傷つき、激痛を味わおうとも、倒れることすら許されない。想像を絶する責め苦であった。
リーファを支えているのは一つの信念だけだった。
ーーお兄ちゃんなら。
どんな敵でも絶対斬り倒す。たかが三千人、一人で切り伏せてやる。だって自分は…お兄ちゃんの…《黒の剣士》キリトの・・・
「ーーーー妹なんだからぁぁぁぁあああ!!」
左手につがえられた長刀の切り先が真紅の輝きを迸らせる。重い金属音と共に戦場を真っ直ぐ一〇〇メートル貫く。円状に敵兵が体を捻じ曲げられ、飛散する。
「はぁ…はぁ…」
酷く息を吐き、鮮血を出す。口元を拭い、ふらりと立ち上がったところを、敵の槍が右目から後頭部を貫く。しかしリーファは倒れなかった。よろめきながらも左手で柄を握り一気に引き抜く。
「う…おおぉぉぉおお!!」
叫びながら足を踏み込み。天命を回復させ、左手を前に伸ばす。接近してくる集団に向けて、長刀を振りかぶる。
「いぇ…あああああ!!」
一閃
鮮血を吹き上げ集団が斬られる。しかし、敵はまだ残っていた。
「ま…だまだぁ…!!」
そう言い、二激目を放とうとした時。目の前を赤黒い、透明な何がか集団を襲い込んだ。赤黒い何かが晴れるとそこに集団はなく、代わりに一人の男が立っていた。
「あなたは…」
立っていた男を見たリーファは急激な疲れと共にガクリと膝を地面に下ろし、仰向けに倒れるとその男を見た。
「ブレイド…」
「…よく頑張ってくれたな…リーファ」
そこでリーファは現れたブレイドに気になっていた事を聞いた。
「……ここに送ったの。貴方の仕業?」
「…さぁな?」
「……わざとらし」
やや不満げにブレイドを見るとブレイドはリーファに話しかけた。
「君のおかげで色々と助かった…ありがとう……」
「別に、アンタの為じゃないわよ?」
「ああ、分かっている」
その目を見たリーファはブレイドに話しかける。
「…今度新品の竹刀奢って。貴方、お金持ちだからそれでこの件はチャラよ」
「それは良いが…程々にしてくれ」
そう言うとブレイドはリーファの肩に手を当てた。彼の右手が淡く光るとリーファに溜まっていた天命値が急速に減り始める。そこに痛みは無かった。最後にリーファはブレイドに話しかける。
「帰ったらみんなで説教だってさ」
「……それは勘弁してくれ…」
「無理だと思うよ?」
「……はぁ」
彼は深いため息を吐くとリーファの天命値がゼロになり、ログアウトが始まった。
「(…あたし…頑張ったよね…お兄ちゃん……)」
そう思いながらリーファはそっと目を閉じるとアバターが消滅し、不服だが最後にブレイドに見送られた。