ソードアート・オンライン 赤色の記録   作:Aa_おにぎり

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#42 阿鼻地獄

「イット・ショーウ・ターイム!!」

 

中国人・韓国人プレイヤーに囲まれたアスナ達はニタニタと笑うヴァサゴと、乱暴に押される車椅子を見るしかできなかった。それだけはやめてほしいと懇願するも、ヴァサゴは上体を覗き込んだ。

 

「……ンン?何じゃこりゃあ?おい、ブラッキー、起きろよ。聞こえてんのか?黒の剣士サマよ」

 

かつての二つ名で呼ばれるもキリトは反応しなかった。その様子を、アスナのそばに突き飛ばされたロニエが目を真っ赤にして小声で言った。

 

「キリト先輩…戦いの間、何度も、何度も立ちあがろうとして…そのうち力尽きたみたいに静かになって…でも涙が…涙だけが、いつまでも……」

「ロニエさん……」

 

そんなロニエにティーゼとマリーが近づいて慰め、アスナはキリトを見た。ヴァサゴは一切反応しないキリトに苛立ち始めていた。そんなヴァサ後にアスナは鋭い言葉を投げる。

 

「分かったでしょ!彼は戦って、戦って、傷ついてしまったの。だからもう構わないで!!キリト君を、そっとしておいて!!」

 

そんな投げかけに、ヴァサゴが気にするはずもなく……

 

「おいおいおい、嘘だろ!縞らねぇぜ。こんなんじゃよ!おい、起きろって!グッド・モー…ニン!!」

 

そう言い、ヴァサゴは乱暴にキリトの座っていた車椅子を蹴り壊す。

 

「なんだよ…マジでぶっ壊れちまってるのか?あの勇者様が、只の木偶かよ…ふざけんなよぉ、黒の剣士!?お前の横にあのガキがいたと思ったのによぉ…ガッカリさせんじゃねぇ!!」

 

そう言い、ヴァサゴがキリトに友切包丁を当てた時だった。

 

ーータタタタタタッ!!

 

赤鎧の軍勢の中から、一人の男が飛び出し、ヴァサゴの首を狙った。一瞬の事にプレイヤー達も反応できず、その男はヴァサゴが手放したキリトを受け止める。飛び退いたヴァサゴは武器を前に突き出しながら苛立って聞く。

 

「何だよ、テメェは…」

 

青年は抱えたキリトを優しく地面に下ろすと顔を上げた。その顔を見たクラインが驚いた声を上げた。

 

「ノーチラス…!!」

「すみません。遅れてしまいました」

 

そう言い、ノーチラスはキリトを見ると即座にソードスキルを発動し、ヴァサゴ剣撃を与える。しかし、ヴァサゴは愛武器に黒い心意を纏わせるとノーチラスの持っていた剣に強く当てた。

 

「雑魚が…引っ込んでな!!」

 

そう言い、剣を押し込むとノーチラスは落ち倒されてしまった。その様子を見て、扇動の心意を放とうとした瞬間。空から一本の白い光が降り立ち、ヴァサゴの前、ノーチラスの横に立った。その女性を見たアスナが歓喜に沸いた声を上げた。

 

「ユナさん!!」

「ごめん、ALOのデータをコンバートさせるのに時間がかかっちゃった」

「ユナ…どうしてここに……!」

 

少し驚きの声が入った様子でノーチラスはユナを見ていた。すると彼女はノーチラスを見ながら当たり前と言った様子で話しかけた。

 

「そんなの…決まっているでしょ?()()()()()()()()()()よ。」

 

そう言うとノーチラスは納得した様子を浮かべ、剣を握った。

 

「っ……そうか…そうだよな…」

「私だけ置いてきぼりにしないでよね」

 

そう言うと赤い軍勢に困惑と驚愕の色が浮かんでいた。

 

『嘘だろ……!?』

「おい、あれって本物…?」

「間違いない…あの人はユナだ!!」

 

様々な声が徐々に大きくなっていく中、参戦したノーチラス達はヴァサゴを見た。

 

「…さぁ、行こう。ノーチラス」

「ああ……」

 

そして、ユナは大きく息を吸い込み…歌った。

美しい歌声はエイジの周りを明るくし、SAOから得意だった《吟唱》を使い、ノーチラスに幾つものバフをかけた。

 

「っ…!!」

「(何だこいつ!さっきよりも早いぞ…!!)」

 

その早い剣撃に流石にヴァサゴも防御に徹せざるをえず、ジリジリとキリトから距離を離された。

 

「ちっ…テメェ……」

 

その件の動きはバフで強化されているとはいえ、ヴァサゴは見切れるものだった。足を狙われるもジャンプして避け、その隙に上から魔剣を入れるも防がれ、その隙にソードスキルを叩き込まれる。

 

「(あいつが歌い出してからやつの動きが早くなった…?)」

 

ヴァサゴは現れたユナという女性プレイヤーを一瞬だけ見るも、ノーチラスが腹を狙い、ゴォンと言う重い金属音と共に防いだ。その様子を見てノーチラスは……

 

「(行ける、もっと早くだ……)」

 

ーーユナを守ったあの人の剣はもっと早かった。もっと強かった。

ーー今度は自分が守る。

 

そこにあった確かな愛は温かい心意となり、周囲の興奮を鎮静化させていた。

 

「この歌は…間違いない!ユナだ!!」

「じゃあ、ここは本当に…」

 

徐々に沈静化するこの状況にヴァサゴは毒を吐く。

 

「(チッ、余計な真似を…!!)」

「余所見ですか?」ズォン!

「っ!?」

 

重いソードスキルが地面を抉る。その瞬間、ヴァサゴは距離をとるとノーチラスに叫んだ。

 

「お前は…何者だ…?!」

「僕は…僕は……」

 

あの時は言えなかった。

弱かった。

小さかった。

誰からも見てもらえなかった。

だから言えなかった。

 

だけど今なら胸を張って言える。自分は何者なのかを……。

 

「血盟騎士団の…」

 

その時、彼の衣装に大きな変化があった。その事にアスナやクライン達は二度目の驚愕をした。

 

 

 

「ノーチラスだぁぁぁぁあああ!!!」

 

 

 

己を鼓舞し、その心意が彼の身に纏う姿を変えた。その姿はかつて鋼鉄の城、アインクラッドにて自分が所属していたグループの装束だった。

 

「あれは…」「KoBの…」

 

純白の衣装に、赤い剣を模った血盟騎士団の団員服と、団員用の剣を持ったノーチラスはヴァサゴに斬りかかる。

 

「知らねぇな…テメェみてえな奴なんざ……」

 

ヴァサゴは魔剣を振るも素早く返され、足を蹴られてしまった。宙に浮いたヴァサ後は体勢を建て直し、上から直角に剣を落とすが防がれ、ノーチラスは素早く後ろに飛んだ。

一旦間合いをとったノーチラスか過去を思い返すと、口にする。

 

「確かに、あの頃の僕は、何もできない弱虫だった……安全なところで見ていることしかできない、只の臆病者だった。でも…!!」

 

直後に、剣が赤くなり、ヴァサゴに急接近する。その剣に、思わずヴァサ後は左に飛び避けるが、ポンチョの一部が切れた。剣を避けられたノーチラスはヴァサゴを見ると再び剣を握る。

 

「お前みたいに…アインクラッドで仲間やプレイヤーを殺しまくったお前なんかには…絶対に負けない!!」

「ぬおっ!?」

 

上から来た強い一発に、ヴァサゴは危機を覚えた。咄嗟に横に振るも、頭を下げて避けるとノーチラスはそのまま剣を地面に突き刺し、ヴァサゴを一本背負いして投げ飛ばす。宙に浮き、体勢が整っていない所をノーチラスは剣を抜いて接近する。

 

「(来るか?だったら……)」

 

上に飛んだヴァサゴは近づいてくるノーチラスに一回戦すると魔剣を向ける。

 

「「……!!ううおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」

 

互いにソードスキルを繰り出し、剣を交える。

 

「(もらったぁ…!!)」

 

ノーチラスは視界にヴァサゴを捉えると剣を振った。

 

そして剣が交え、金属音と共に互いにすれ違った。

 

 

 

 

一瞬の間の後、勝敗は決した。ヴァサゴは頬を切られ、ノーチラスの片腕が切られてしまったのだ。

 

「ッ…!!」

 

その後、もう片方の腕を切られたノーチラスはヴァサゴによって投げ飛ばされた。

 

「ノーチラス…!!」

 

飛ばされたノーチラスに駆け寄るクライン。それを見たヴァサゴは剣を肩に担ぐと言った。

 

「そろそろ消えな…」

 

誰もが絶望に満ちた顔をした時、ノーチラスは叫んだ。

 

「ぬわぁぁぁああ!!」

 

そして、ノーチラスは残った力を使い、ヴァサゴの首元に噛みついた。首元を噛みちぎられたヴァサゴは剣を振った。

 

「がぁ!?……うるせぇんだよぉぉ!?」

「がぁっ!」

 

するとヴァサゴはノーチラスを睨みつけながら魔剣を向けた。

 

「いいぜぇ、だったらここで切り刻んでやる…泣き喚けよぉ……っ!!」

「エー君!!」

 

咄嗟にユナが走って近づいた時。ノーチラスは口角を上げた。

 

「ーー来た」

「はぁ?……っ!!」

 

ヴァサゴが疑問に思った時だった。

 

 

 

 

 

「ーー武装完全支配術(エンハンス・アーマメント)!!」

 

 

 

 

 

どこからともなく、まるで黒曜石のように重く鋭いその声が響いた途端。空が明るく灯り、そこから炎を纏った数メートルはあろうかと言う隕石が厚い雲を突き破り、大勢降ってきた。降ってきた隕石は赤鎧のコンバート軍に襲い掛かり、熱と衝撃波をもたらした。

 

「う、うわぁぁぁあああああああああぁぁぁあぁぁあぁぁぁあぁ!!!!」

「あぁ、熱い!熱い!熱ぁああぁぁあぁああぁぁ!!」

「誰か!誰かぁ!!」

「ごほっ、ごほっ。痛ぇ、痛ぇよぉ……」

 

隕石群は赤い軍勢を燃やす。様々な場所から悲鳴や怒号が上がるも、アスナ達人界軍の周りには一切落ちて来ていなかった。

熱波が、彼らの喉元を焼くかのように熱くなり、目の前の至る所にクレーターと炎が燃え上がり、多数の赤い兵士が炎を体に纏わせて『熱い熱い』と阿鼻叫喚していた。一瞬で目の前が地獄と化し、声が出せないでいるとアスナ達の周囲で彼らを抑えていた赤い兵士が切れると音と共に悲鳴をあげた。

 

「ガァッ!」

「ぬおあぁあぁ!!」

「あぁぁあああ!!目が!目がぁああ!!」

 

首や足にナイフやトマホークが、両目にピックが刺さり血を流しながら赤い兵士が倒れる。一瞬で周りにいたヴァサゴ以外の赤い兵士は全て倒され、武器を落とした。そしてアスナ達の目の前に一人の男が片手にサーベルを持ってヴァサゴの前に立った。彼を見たノーチラスが一言言った。

 

「…随分派手な登場ですね。貴方らしくない」

 

すると青年がこちらを振り向きながら答える。

 

「…何、ちょっとしたデモンストレーションさ。私の真心籠ったプレゼントが受け取られているかの……ね」

 

そう答える青年は赤を基調とした軽装備で、頭には赤色のフードをかぶっていた。それを見たヴァサゴは驚愕をしたのち、狂気的な笑みを浮かべ、アスナ達は涙をこぼした。

 

「……やっと来やがったか…この馬鹿野郎!!」

「遅い、遅いよ…」

 

するとアスナとヴァサゴが不思議と声が被った。

 

「ブレイドさん…」「赤い雷鳴…」

 

するとブレイドはフードを取るとアスナ達を見て短く、そして力強く話しかけた。

 

 

 

「……遅くなってすまないな…」

 

 

 

絶望的な戦場に、一筋の光線が差し込んだ。

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