帰還した英雄は地面に落としていた
「ブレイド…これ、お前のだろう?」
「あぁ…すまない……」
そう言い、キリトは地面に転がっていた小銃を拾うとブレイドに手渡した。それを受け取るとブレイドはキリトを見ながら言った。
「夢は覚めたか?」
「あぁ、バッチリとな」
そう言うと呪詛のような声が聞こえた。
「またか…また…テメェが…邪魔しやがって……!!」
そこにはヴァサゴがいた。体から滲み出るドス黒い心意に二人は警戒をした。
「ふざけんなぁぁぁぁああああ!!!」
「「っ!?」」
「赤い雷鳴…ブレイド……俺の楽しみを…あの鋼鉄の城のショーの続きを台無しにしやがって!!ふざけんじゃねぇぇぇぇえええ!!!」
怒鳴るヴァサゴにキリトは剣を抜こうとしたところでブレイドがその手を押さえた。
「ブレイド……?!」
「奴の相手はまかせろ」
「だが……」
「行きなさい。今はユージオ達の援護が最優先だ」
ブレイドのちょっとした圧にキリトは頷く。
「…分かった…ブレイドも気をつけろよ……」
「何、ケリをつけるだけだ。負ける気はさらさら無い」
そう言うとブレイドはアスナを見た。
「アスナ…キリトと一緒に行ってユージオ達の援護に回ってくれ。STLを介してのログインは果ての祭壇に行かないとログアウト出来ないからな」
「わ、分かった…ブレイドも気をつけて」
「あぁ」
そう言い、キリト達は飛んで行く。それをヴァサゴが逃すはずがなかった。
「おい…どこに行こうってんだぁ?逃げんじゃねぇよ!」
「フッ!」
カァンッ!
ブレイドのサーベルと肉切包丁が音を立てて擦れる。
「貴様の相手は私だ…」
「ちっ、邪魔すんじゃねぇ!!ガキィ!!」
そう言い、鍔迫り合いを押し返すとブレイドとヴァサゴは距離を取る。鬱陶しそうに睨むヴァサゴにブレイドは余裕そうに嗤う。
「…何だぁ?その目は?」
そう問いかけるヴァサゴにブレイドは自分の天命値を確認する。そして再びヴァサゴを見た。
「あれほど喚いて貴様が私に殺す気がないのであれば、私は貴様を殺す為に…
「はぁっ?」
するとブレイドは右手の人差し指と中指を合わせ、胸の前で十字架のサインを出した。現時点で心配事の無くなったブレイドは躊躇なくこの技を使う事ができる。
「ーー《零号術式》発動」
一言唱えた直後、ブレイドの周りから赤黒い心意が解き放たれる。赤黒い心意はブレイドの身体を包み込む。
目の前で起こっている出来事にクライン達は息を呑んで冷や汗を掻いてしまった。すると赤黒い心意が晴れるとそこからブレイドが出てきた。現れたブレイドは目の部分が赤く染まり、頭上には天使の輪のような白い光が現れる。その目はどことなくベクタにも似ているような気がした。ただ、彼と違ってこちらには温もりを感じ取れた。
すると彼はヴァサゴを見ると右手にサーベルを、左手に自動小銃を持ってヴァサゴと対峙し、ヴァサゴを見ていた。
「さぁ…殺し合いを始めようか……殺人鬼」
そう言いブレイドはサーベルを縦に、小銃を横にし、擬似的な十字架を作る。その唯ならぬ雰囲気にヴァサゴは冷や汗を流しつつも笑った。もはや気が狂っていたのかもしれない。
「へっ…へはははははははっ……!!」
その直後に肉切包丁を持ってヴァサゴはブレイドの喉元目掛けて走る。友切包丁はブレイドの喉を確実に切り落とそうとしたが、ブレイドの持つ小銃に脳天をぶち抜かれそうになる。
ーードォォン!!
放たれた小銃の弾丸をヴァサゴは頬を斬りつつも避ける。逸れた弾丸はそのまま背後の岩山に着弾し、砲弾の如き爆炎と衝撃波を生み、一撃で山を粉砕していた。
「っーー!!」
普通ではあり得ない威力に何かあると踏んだヴァサゴはブレイドを見る。するとブレイドは小銃の照準をこちらに合わせながら言った。
「どうした?この程度の事で驚くとは貴様らしく無いぞ?…さぁ、来い!貴様には死刑より重い罪を与えてやる!!」
「っーーー!!ぜらぁぁぁあああ!!」
ヴァサゴが再び技を繰り出した時、ブレイドに取り憑いていた赤黒い真意がヴァサゴの腹部を貫通した。
「何っ!?」
その瞬間、ヴァサゴの脳内に怨嗟の声が響き渡る。
『殺してやるー殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるーー!!』
『彼奴のせいだ!彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだ彼奴のせいだーー!!』
『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いーー!!』
永遠と続く怨嗟にヴァサゴは頭痛が激しくなり、思わず手で押さえてしまう。
「ぐっ…ぐぁぁぁぁああああ!!」
思わず膝を突きそうになってしまうとそこにブレイドが立った。腹に刺さった赤黒い心意を抜くとヴァサゴはブレイドを睨みつけた。
「貴様…何を見せた……?!」
「お前の罪の数だ。今までにここで死んだプレイヤー達の
そう言うとブレイドの周りの心意…《怨恨の心意》はヴァサゴのフラクトライトをすり潰す勢いで襲いかかった。さっきの攻撃で危険を判断したヴァサゴはそんな心意の攻撃を避ける。するとブレイドは流星のサーベルを掲げながら言う。
「心意は避けたか……だが、これは避けられるかな?ーーエンハンス・アーマメント」
その直後、またもや今度は小さめだが隕石が炎を纏って降って来る。落着する隕石群を避けながらヴァサゴはブレイドに肉切包丁を当てようとする。しかし、怨恨の心意やこの隕石の影響で近づくことすら叶わない。やがて攻撃が止んだ時、ヴァサゴはブレイドの方に足を踏み込んだ。しかし、その瞬間ーー
ザシュッ!
腹から血濡れて光る金属が貫いた。
「ーーーは?」
ふと振り向くとそこには戦斧をヴァサゴに突き刺す赤鎧のプレイヤーの姿があった。プレイヤーの周りにはブレイドと同じ色の心意が渦巻き、怨声を呟く。
「お前のせいで…お前が扇動したから…俺たちはこうなったんだ…泣けよ…苦しめよ……!!」
その叫びが聞こえたのだろう。逃げ回っていたプレイヤー達は一斉にヴァサゴを見ると徐に地面に落ちていた武器を手に持つ。そして同じように怨声を連ねる。
「そうだ…彼奴だ」
「元はと言えば彼奴が言ったから……」
「あの男が叫んだから……」
「彼奴のせいだ……」
「そうだ、彼奴が悪いんだ」
「俺たちの悪魔め……」
そして武器を持ったプレイヤー達はジリジリとボロボロの体でヴァサゴに剣を向ける。そして最後の力を使ってヴァサゴに叫びながら走り出す。
「「「死ねぇぇぇええええ!!」」」
仲間だった筈のプレイヤーから武器を向けられたことに咄嗟にヴァサゴは叫ぶ。
「よく聞け!お前らがやられているのはこの男の……「この、大嘘つきアメリカ野郎が!二度と喋るな!」っ?!」
扇動の心意を発動しようとした所で一人のプレイヤーに遮られる。するとそのプレイヤーは叫んだ。
「この状況で、何人が苦しんだ?!戦車で吹き飛ばされ、戦車に踏み潰され、爆撃機で飛ばされ、掃射で身体中を撃たれ…多くの仲間が泣きながら死んでいった。
『痛い。助けてくれ』と言いながら……今まで多くの…多くの友人がそんな声を上げて苦しんでいったんだ……。
全部…全部お前が仕込んだ事なんだろう……?!
そこの青年の言っている事が嘘だったとしても、この痛みの原因を作ったのはどう足掻いてもお前なんだよ……!!」
「っ!?」
そこからそのプレイヤーは悲痛を訴えて武器を持って振りかぶる。残った体力と気力を振り絞っての怨嗟だけの攻撃。
「それなのにお前は泣いてない、痛みを感じていない…俺たちはそれが許せねぇんだよ…だから…だからぁ……!!」
するとそのプレイヤーは雄叫びを上げながら突撃する。それに呼応する様に他のプレイヤー達も武器を持って突撃し出した。
「「「「「うわああぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁあ!!!」」」」」
大勢のプレイヤーが武器を手に走り出す。ヴァサゴはそのプレイヤー達の対処に専念せざるを得なかった。するとブレイドが拡声魔法を通じて戦場に呼びかける。
『生き残ったプレイヤー達に次ぐ。ーーー今この場所に、この惨状の原因を作った男が居るぞ。この惨状を高みの見物をして自分は苦しみから逃げた愚者がな』
その声と共にブレイドは手に信号拳銃を作ると引き金を引いて信号弾を撃って戦車の攻撃を辞めさせる。攻撃が止んだことにホッとするプレイヤー達は次に憎悪と怨恨に支配され、落ちていた武器を片手にヴァサゴへと近づく。生き残ったプレイヤー達、数千人は一斉にヴァサゴ目掛けて武器を振った。そこに強い憎悪を乗せて。
「お前のせいで…俺の恋人が…泣き叫んだんだ!!」
「苦しめよ!逃げんじゃねぇぇぇ!!」
「死ね!死ね!死ねぇぇぇえ!!」
怒りに任せて振られる武器は滅茶苦茶で統率なんて無かったから、ヴァサゴはヒラリと避けるが・・・
ザッ!「ゴフッ!」
避け斬れなかった直剣がヴァサゴの背中を斬りつける。単独でこの数の相手は出来ない。このままではジリ貧である。打開策としてはおそらくこの現象の源であるブレイドを叩く事。自分の欲望の為に、この状況を打開する為にヴァサゴはソードスキルを繰り出してブレイドに一直線に向かう。
「うらぁぁぁぁぁああああ!!」
血が流れ、プレイヤーが悲鳴を上げながら倒れ、アバターが消滅する。続々と襲いかかる中韓プレイヤー達を斬りつけ、前進する。目指すは視線の先にいる赤い悪魔に向けて…
するとブレイドはプレイヤーを斬りつけるヴァサゴを見ると再び拡声魔法を使った。
『見ろ、あのプレイヤーを。自ら苦痛から逃れる為に他人を犠牲にしている。そんな奴を許せると思うか?』
そう言うとプレイヤー達はさらに憎悪を含ませてヴァサゴを見る。
なぜ今まであんな奴に乗せられていたのか。その愚かしさを反省しながら死んでいった仲間達のために武器を持ってヴァサゴの行手を阻みながらヴァサゴを斬りつける。
ヴァサゴもこんな相手に遅れをとるわけではないが数が多い。時々死角から斬られ、痛みを感じる。しかし、ヴァサゴは止まらない。
ブレイドを斬り裂く。
それが今のヴァサゴの唯一の望みであった。奴が泣き叫ぶのを聞けばあとはどうなってもよかった。どれだけ身体を斬られようと、蹴られようと、ブレイドを捕まえればそれだけで十分だった。
「邪魔だぁ!雑魚がぁあ!!ゔぉらぁぁぁぁああああ!!!」
目の前に迫るプレイヤーをヴァサゴは斬り続けていた。その様子を見ながらブレイドは高みの見物をする。
「どうだ?今までの仲間から襲われ、形勢が逆転した気分は・・・?」
眼下ではヴァサゴが友切包丁をソードスキルと共に振っていた。そしてブレイドはそれはそれは愉快そうにヴァサゴを見る。
「せいぜい足掻け…処刑はまだ始まっていないのだからな……」
その時のブレイドはまるで人のようでは無かったと、リズベット達は記憶していた。