「ぐっ…がぁぁぁああああ!!」
ヴァサゴは孤軍奮闘でプレイヤーを倒していた。ブレイドの怨恨の心意により、ヴァサゴにプレイヤー達の攻撃が殺到する。それを躱しつつ、ヴァサゴはブレイドに近づく。徐々に距離を詰め、ヴァサゴは広範囲技でプレイヤー達を一掃する。プレイヤー側もヴァサゴの技を受けてログアウトしていく姿を見て『自分もあの技を受ければログアウト出来る』と思い、果敢に望みながら突貫していく。
「うぁぁぁああああ!!」
そして、肉切包丁を振り続ける事数十分。ヴァサゴはついにプレイヤー達の輪を突破した。
身体中を斬られ、背中には槍や剣が突き刺さり、血をボトボト流しながら血で濡れた髪が顔に掛かり、さながら亡霊のようだった。どうやら耳なし芳一にように耳を削がれたようだ。所々肉も抉れていた。
「ぜぇ…ぜぇ…赤い……雷鳴ぃぃぃぃいい!!」
そう叫ぶヴァサゴにブレイドは武器を持つ。
「予想以上のしぶとさだ…そこは称賛に値するな……」
聞こえているかは分からないが……。
そう思いながらブレイドは小銃の引き金を引いた。
ーードォォン!!
ヴァサゴはそれを避けることはなかった。左腕が吹き飛ぶ。
ドォォン!!ドサッ
ここで右脚を飛ばされ、ヴァサゴは地面に倒れる。そんなヴァサゴにブレイドは歩む。
「なんとも無様な姿だな。PoH……」
「ぜぇ…赤いぃ…雷鳴ぃぃぃぃいい!!」
ヴァサゴは呪詛のように叫ぶと最後に握っていた友切包丁を持ってブレイドの脚を斬る。しかし、一瞬で回復して元通りになる。そしてブレイドはヴァサゴの友切包丁を踏んづける。
「こんな物要らないだろう?」
そう言うとブレイドは友切包丁を強く踏む。
ーーミシッ!
そんな音と共に友切包丁にヒビが入る。そしてさらに圧をかけるとヒビは大きくなって行く。
ーーミシッ!…ピキッ!
そしてその圧に耐えられなくなって限界を迎えた包丁はついに……
パリィンッ!
ガラスの割れるような音と共に友切包丁は砕け散る。それを見たヴァサゴは絶望した表情を浮かべる。だが、内心では笑っていた。
このまま死んでまた戻って来れば良い。
普通のやり方で勝てないならゲームの世界だからできる再ログインをすればいいと考えていた。正直、襲って来たプレイヤー達は友切包丁の耐久値を減らす為の生贄にすぎないと、ヴァサゴはブレイドの策をそう予想していた。ヴァサゴは再ログインした時にまた武器のデータを復活させればいいと考えていた。
内心では、疲労が溜まっているであろうブレイドをどう倒そうか考えていた。するとブレイドは破壊したヴァサゴの武器が消えるのを確認するとヴァサゴの背中にサーベルを突き刺し、ヴァサゴの顔を見た。
笑顔だった。
これまでに無いほどブレイドは口角が上がっていた。その猟奇的な目にヴァサゴはある光景がフラッシュバックした。
記憶の片隅に、厳重に封じ込めていたその記憶が。その笑顔と共に一気に噴き出たのだ。
あれは仕事の関係でアメリカに戻っていた時のこと。小遣い稼ぎ程度に何処かの家の子供を誘拐しようと考えていた。
その時の仕事仲間と共にヴァサゴは適当な子供のいる家で、尚且つ誘拐しやすい場所を探していた。その時、ちょうど日本人の子供で、家にはシッターしかいないと言う場所を見つけたのだ。
日本人で尚且つ誘拐しやすい家と来てやらない訳がなかった。
金を得たらどう殺そうか、ヴァサゴは考えながらその家に向かった。無論返す気なんてさらさら無かった、同惨たらしく殺せば泣き喚くかが楽しみで仕方なかった。
仕事仲間が弾代をケチったため、拳銃一丁だったが子供と老人相手ならそれで十分だと思っていた。吹雪く中、その家を見つけて扉の前に立った。
そして家のドアを蹴破り、中に入るとシッターと思わしき初老の女を容赦なく撃ち殺す。その場に子供はいなかったが、家にいるのは確認済み。だから家の中を探し始めた。二階を探していると一階から仲間の悲鳴と乱射する銃声が聞こえ、一階に降りると仲間が震えた声で話しかけていた。
『ば…化け物が……!!』
その床には空薬莢と空っぽの拳銃、斬られたように割れた弾丸が転がり、その餓鬼は片手に薪割り用の斧を持っていた。
『た…助けて……』
そう言った時だった。持ち上げられた斧は容赦なく仲間の脳天に振り下ろされた。
『うごっ……!!』
メシメシッ、っと骨が砕ける音と仲間の最後の声と共に仲間は頭から血を流して目を見開いたまま死んだ。
そこに躊躇はなかった。
一切なかった。
目の前にいるのは十ほどの歳の子供だったはず。なのに、仲間がこうも簡単にやられるとは思わなかった。
逃げろ。
本能がそう呼びかけた。目の前にいるのは普通の子供じゃ無いと、無垢で純粋な殺人鬼だと……
すると仲間を撲殺した餓鬼はこちらを振り向く。
笑っていた。
子供の笑顔だ。単純で無垢で無知な子供のする笑顔だった。
だが、ヴァサゴにはそれが猟奇的にしか見えなかった。身長は170ほどと予想よりも大きく、誘拐なんてもってのほか。すると目の前の餓鬼は自分を見るとまるでおもちゃを見たかのような目をし、仲間の頭から斧を抜いた。
ブチブチッ
嫌な音と共に抜かれた斧は血に濡れ、床に刺さる。
「う、うわぁぁぁあああ!!」
俺はそこで逃げ出した。幸い指紋も残していない。髪の毛もマスクを被っていたから残っていない。
証拠は残していない。だからとにかく早く逃げたかった。あの化け物から。子供の皮を被った殺人者から。
蹴破ったドアから飛び出し、雪の中を走り抜ける。
追って来ていないか。
逃げ切れたのか。
そんな感情で頭は埋め尽くされていた。追いかけて来ていないとわかっても息は荒かった。
そして、今目の前にその時の笑みと同じ顔がこちらを覗いていた。息が思わず荒くなる。すると目の前の青年はヴァサゴを見て囁く。
「ーーお前は処刑が終わったと思っているのかい?」
「……は?」
するとブレイドはヴァサゴに突き刺したサーベルを見ながら言う。
「私がここから貴様を逃すと思うのかね?」
「っーーー!!」
するとブレイドは心底良い笑みを浮かべると唱えた。
「ーーリリース・リコレクション」
うっすらと灯った淡い光がヴァサゴの身体を包み込むとヴァサゴは驚愕した。
「っ!!テメェ!!」
体が徐々に灰色のゴツゴツとした岩となっていき、思わずブレイドを見る。するとブレイドはいつもの表情を浮かべるとヴァサゴに言った。
「ーーこの流星のサーベルは遥か彼方から何万光年と言う時間をかけてアンダーワールドに落着した隕石から作られている。リソースに乏しい宇宙空間である生き残る為に自らを変化させ、ある物全てを吸収するようになった」
「何を言って……」
そう呟くとブレイドはヴァサゴを見て再び呟く。
「まぁ、要するに貴様に与えられる判決は
するとブレイドは最後にヴァサゴに向かって言った。
「永遠の夢を見ると良い…果てしない、誰もいない、何もない宇宙空間で……一人で永遠と放浪するんだな」
そう言うと全てを見通すような目でヴァサゴを見た。そこでヴァサゴは全てを察知し、大きく目を見開いて最後に叫んだ。
「赤い…雷鳴ぃぃぃーー……!!」
最後にブレイドの足を掴もうとしたヴァサゴは腕をの出した時に全身が灰色になり、声が消え、完全に固まってしまった。そんなヴァサゴを見てブレイドは振り向きざまに言う。
「いつか…お前を囲う石を壊してくれる者が現れる事を祈るよ……」
そう言うとブレイドは自身に掛けていた覚醒魔法を解く。零号術式は天命を大幅に消費する代わりに反応速度を大幅に増やすとこの出来る能力だ。
ついでに言うとブレイドは流星のサーベルの能力である全てのものを吸収する能力を使って最高司祭アドミニストレーターの持つ物質変換能力をノスフェラトゥに取り込んでいた。ノスフェラトゥが元々持つ天命操作能力とこの能力を組み合わせるとどんな物も天命さえあれば呼び出すことができるのだ。そこでブレイドはログインして来たアメリカ人プレイヤーや中韓プレイヤー達の天命を回収して戦車や爆撃機を作り出していた。
流星のサーベルは斬った相手の天命のおよそ六割を自分の体に回収することができる。単純計算で一人頭六十万、それに×人数分となればそう言った細かいパーツの多い戦車達を作るのには十分だった。
ログアウト条件を変更したのもどちらかと言うとこっちでの意味合いが強かったりする。
そして、ほぼ二年越しの因縁が終わったことを実感しているとブレイドにマリーが近づいた。
「先輩!!」
「マリーか…心配かけたな……」
半年ぶりとはいえ、弟子を一人にした事。その事は悔いていた。
「良かったです…無事で……本当に……」
思わず泣きつかれているとブレイドはその後ろから走って来たロニエ達を見た。
「君たちも、よく頑張った…キリトを守ってくれてありがとう……」
そう言うと両手で二人の頭をぽんぼんと優しく撫でると二人はやや辿々しく返事をする。その様子に若干笑いが込み上げて来そうになるとブレイドは胸元で泣いているマリーの肩を持った。するとマリーは若干涙がみながら言う。
「…行ってしまわれるのですか?」
「ーーあぁ、この世界を守る為にな……」
「そうですか……」
ブレイドの返事を聞き、残念そうにするマリーに自分は持っていた小銃をマリーに渡す。
「これは…」
「私から贈れる最後の餞別だ……使い方はこうだ、一度しか言わないからよく覚えておけ」
「…はい」
そう言い、簡単に照準と撃ち方、装填方法を教えるとブレイドはマリーに小銃……神器《始まりの銃》を渡した。そして、小銃を渡すと自分はマリーの背中に腕を回し、言い残す。
「マリー。君は賢く、良い女性になりなさい。……おそらくこれから時代が変わる。その大波に飲まれないように強く生きなさい」
「はい……」
そう言うとブレイドはロニエ達を見ながら言う。
「ロニエ、ティーゼ。ユージオとキリトの事は任せろ」
「「は、はいっ!」」
そう言い、ブレイドはロニエ達と別れると今度はクライン達の方に向かった。
「帰ったら色々聞きたいことがあるから」
「はぁ、了解……」
初っ端にリズベットからそう言われてしまった。まぁ、そう言われるだろうとは思っていた。だからもう諦めの声で返事をすると突如耳元に知らない声が聞こえた。
『赤羽君…赤羽修也君?聞こえている?』
「はい、赤羽です。……貴方はどちらで?」
初めて聞く女性の声に疑問を浮かべると、その人は教えてくれた。
『私は、神代凛子よ』
「(神代…この人が……)」
名前を聞き、少し納得の表情を浮かべると神代さんは事情を説明する。
『時間がないからよく聞いて。オーシャン・タートルを襲撃した部隊がFLTを最大まで加速したの。だから……』
「事情は把握しました。キリト達に報告はしましたか?」
『き、菊岡さんがやってくれているはずよ』
「了解しました。こっちも直ぐに果ての祭壇に向かいます」
『……宜しく頼むわ』
向こうで驚愕するような声がしつつも通信が切れ、クライン達が怪訝な目で見たので事情を話した。
「みんなよく聞いてくれ。今直ぐにこの世界からログアウトしなければ
ブレイドの唯ならぬ雰囲気に全員が頷くと一斉にログアウトが開始された。それを見た自分は方角を南側に向くと近くでじっと見ているマリー達に忠告した。
「ーー気をつけなさい。近くにいると吹き飛ばされるぞ」
そう言うと足元から甲高い音がし出し、一気に上昇して飛んで行った。その後には一筋の赤い線が残り、さながら赤色の彗星であった。