時は少し遡り、ブレイドがヴァサゴと対峙した頃まで戻る。
現実世界の修也の使用しているSTLの制御室。そこに一つの影があった。その影は片手に工具箱を持っていると取り付けられたデバイスを固定しているネジを簡単に外し、繋がれたコードを切っていく。
その影は肩に2の数字の入った機械だった。そのロボットはまるで人のようにデバイスとコードを切り、ものの数十秒でデバイスを切り離した。その機械の中でその人は思う。
「(分かれば単純な理由だったが…比嘉君は気づいたのだろうか……)」
そんなことを考えながら最後に切ったコードを再び繋ぎ合わせるとそのロボットはどこかに消えてしまった。
同時刻、比嘉の目はある変化を見逃さなかった。
「……えっ?!」
その変化に思わず変な声が漏れてしまう。ついさっきキリトのフラクトライトを活性化に挑戦したばかりだと言うのに・・・比嘉のパソコン画面に映るその数値に驚きを隠さなかった。
「40%…63%…89%……凄い、どんどん上がっていく……」
伸びていくその数値に比嘉は驚きを隠さなかった。そして最終的にその数値は100%で停滞した。
「一体何が…起こったんだ……?」
比嘉はパソコン画面に映る修也のフラクトライト活性化率を見ながらそんな事を考えていた。
気づいた時、自分は真っ白な世界にいた。先程まで最高司祭と文字通り死闘を繰り広げていたと言うのに・・・
ここはどこなのだろうと思っていると不意に声をかけられた。
「修也…」
「…兄さん……」
そこには久々に出会った兄がいた。そして兄の背後にはガラクタの山がいくつも積み上がっていた。それを見た自分は今どこにいるのかを理解した。そして誰がここに連れて来たのかと言うのも……。
「成程…
「侵入…か、あながち間違いではないな……」
そう言うと茅場は修也を見てまず最初に修也の頭を軽く叩いた。
「痛っ」
「はぁ……修也。理由はわかっているな?」
ややきつい目を向けて茅場は修也を叱る。すると修也は反省している様子で答える。おそらく、状況を把握できたのだろう。自分が何からが原因で生きていると言うことも。でなければもっと叱っていたからな。
「えぇ……軽率な行動だったと思っていますよ」
そう言うと茅場は『ならよし』と言った様子で修也に話しかける。
「STLのデバイスの件はこれで良いとして……修也、あれはどう言った意図で作ったんだ?」
「あれは……」
返答に少し困っていると茅場はそんな修也を見て理解し、一言呟いた。
「……ありがとう。私の夢を見せてくれて…」
そう言われただけで修也にとっては一番だった。そして、修也はそこで茅場に色々と聞いていた。
「…いつから居たの?」
「少し前からだな…STLの四台目ができた辺りだ」
「結構前じゃん、それ」
そう答えると修也は茅場に聞いた。
「じゃあ、記憶ロックが解けたりスーパーアカウントを適用したのは……」
「ああ、お前のバックドアを使わせて貰った」
「成程」
話を聞いて理解した修也はそこで茅場にある提案を持ちかける。それは人界とダークテリトリーの融和という物だった。
「なかなか面白い話を持って来たな……」
「でも、そこがリアルさがあるという物でしょう?それに、折角の異世界を戦争で破壊されるのは嫌だしね」
「それはそうだな、そこは理解できる」
修也の意見に茅場は頷くと二人はその場に座り込んで話をし出していた。
「今思えばこの時の計画は全部おじゃんになったな……」
空を飛行し、果ての祭壇を目指すブレイドはそう呟く。
まず初めにオーシャンタートルが襲撃されたところまで聞いていた。だが、まさかダークテリトリー側のアカウントを使うとは思わなかった。お陰で暗黒騎士を説得しようと奔走していたのがおじゃん。被害を減らす方向にシフト変更せざるを得なかった。その間に兄にはSAOのアカウントを使ってもらい、人界側で情報収集をお願いして貰っていた。途中、アスナにあったことを伝えられ、ついでにアリス達も見たと言う。そして、キリトの現状も……。
次に計画が狂ったのはアリスが自分がA.L.I.C.Eだと敵に公言してしまったことだろう。ここで兄はほぼ必然的にアリスを守らなければ行けなくなった。オーシャン・タートルでの襲撃を聞くに、相手はおそらくユージオのことを知らないと確信。
だが、二人の関係性を見てからどちらか単独と言うのも無理。情報収集からこのまま果ての祭壇に行くのであればそのまま行かせれば良いと考えていた。
しかし、そこであのコンバートプレイヤーが現れた。自分の能力とサーベルがあればなんとかなるとも考えていたが、数が多すぎて計画変更。そこで遺跡で兄と合流して相談し、そこでふとある提案が浮かんだ。
『入り口が閉じないなら出口を閉めればいい』
その発想に兄は笑ってしまっていたが。そのまま一旦果ての祭壇に行き、コンソールからバックドアを通じてダークテリトリー側のログアウト条件の体力を大幅に増量。とりあえずコンソールの0を押しまくったのだけは覚えていた。それが適応されるまでの短い時間で自分たちは移動しなければならなかった。
そこで兄がサーベルを渡そうとしたが、コンソールを触っている時にシノンやリーファがログインしているのを確認。自分の使っていたあの銃の武器IDを表示させて移動しているのを確認し、それがシノンが持っていったからだと推測して丸腰で行かせる訳には行かないと言って兄の提案を断った後、再び自分たちは別れた。
この時、自分の目的はキリトの治療だった。必要なものは彼に近しい者の記憶のコピー。各地を兄と協力して飛び回り、アスナ・リーファ・シノン・ユージオ・アリス、そして自分の記憶のコピーをかき集めて実体化した物を合流した際にキリトに預けた。
そして、シノンから小銃を返してもらい。ユージオ達の移動速度を考えてサトライザーの足止めできたと考え、もっと増援が必要と思わしき遺跡まで一気に飛び、そこで兄と再度合流。因縁の相手であるヴァサゴを倒し、後輩達と最後の別れをして現在に至る。
熱素で熱して膨張した空気を圧縮して後方に風素を用いて勢いよく噴射する。現代のジェットエンジンにも似た方式で飛ぶブレイドの速度はマッハを超えていた。途中でソニックブームが起こった辺り恐ろしい空気圧がかかる筈だが。そこは風素で体をコーティングし、弾丸の形を模しながら飛んでいた。
キィィィーーーーィィイイッ!
間高いジェットを纏うブレイドは視線の先でブレイドはドス黒い心意を見た。
時は戻り、ブレイドとヴァサゴの決闘が終わりを迎えた頃。
南でユージオ達は果ての祭壇を見た。空中に浮かぶ小島がそうだろう。どう言う原理かはわからないが、少なくとも目的地には到着しそうだった。
そして背後から迫る気配も感じた。
「…ユージオ」
「うん……」
互いに顔を見合うと頷く。ここで無理に戦うよりは地面に降りて二人で戦おうと。
二人はそのまま地上に降りると今まで乗っていた飛竜から降り、アリスは雨縁。ユージオは滝刳にそれぞれ言った。
「ここまででいいわ雨縁。これから最後の命令を伝える」
「このまま滝刳は西の竜の巣に向かって」
「そこで雨縁は旦那さんを。滝刳はお嫁さんを見つけていっぱい子供を作りなさい。強い子に育てなさい。いつかまた騎士をその背に乗せる日が来た時、私にしてくれたように沢山空を飛べるように。強い子どもたちを…」
『グルルル……』
途中で遮るように二匹の飛竜は鳴く。
「とても短い間だったけど…僕をここまで信頼してくれて。ありがとう……」
そう言い、ユージオは滝刳の頬に頭を当てて感謝の意を示す。エルドリエの飛竜だった滝刳。しかし、主人を失った後。命令を受けていたかのように、ユージオを背中に乗せて今まで戦ってきた。
二日間だけだったが確実にユージオの飛竜として戦ってくれた相棒だった。
ずっとこのままにしておくことも出来ず、アリスが強く命じる。
「……さあ、行って!」
『『……グルルル!!』』
二匹の飛竜は接近してくる敵を一瞥するとその方に向かって飛んでいった。
「まさか……!?」
「っ!!駄目!二人とも!!」
そう言い、二人が動く前に二匹の飛竜は飛んでいってしまった。風圧に耐えるだけで精一杯で、動けず。飛び立った飛竜達は接近してくる皇帝ベクタに似た気配に向けて熱線を放った。有翼の怪物に乗った敵はその熱線を避けようともせず、受け止める。
指から放たれる黒い渦が二本の熱線を吸収するとお返しと言わんばかりにそこから黒い稲妻を飛ばし、二匹の兄妹飛龍を貫く。
主人の元には行かせまいとそこから動こうとしない飛竜達にアリスが叫ぶ。
「雨縁ぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいい!!」「滝刳!もういい!いいから離れて!!」
そう懇願するも、敵はお構いなしに飛竜を光素に変換し始める。見ていてこちらが痛くなってくるその現状にユージオはそこで気を取り戻し、アリスの腕を引っ張って果ての祭壇まで神聖術で飛ぼうとする。
そして、敵が闇のベールに包まれた時。
星が降った。
赤い空から、二つの煌めく光が恐ろしい速度で落下してくる。
一つはこっちに、もう一つは空中でとまる。
包まれていた光が解け、現れたのは人影だった。
少し長めの黒髪に、同じ漆黒のコートが風に翻る。背中には一本の長剣を差し込み、両腕を前で組み、迫り来る闇色の轟雷を平然と見つめている。
バチバチと稲妻が剣士を打つ。しかし、見えない障壁で雷は散っていった。
アリス達は息を止め、目を目一杯開いた。
「ねぇ、ユージオ…私、夢を見ているの……?」
「僕も…そう思った…。だけどこれは……」
帰って来たんだ。ユージオはそう実感した。溢れる涙を拭いながらユージオは空に浮かぶ影を見る。かつて同じ飯を食べ、剣を教わった友人を見ながらアリスと共に言う。
「「おかえり(なさい)……キリト」」
「あぁ……只今。ユージオ、アリス」
半年間の眠りから覚めた剣士はそう二人に恥ずかしげに笑みを浮かべた。