魔法使いと魔王の親   作:メンマ46号

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なんか思ったより長くなった。少しずつ凝縮してはあるんだけど。


5時間目 学園都市の昼休み

 4限目の授業が終わり、大半の学生にとって待ち遠しかった時間、昼休みが訪れる。

 だというのに麻帆良学園高等部1-Bの教室にて転入生、男鹿辰巳は燃え尽きたかのように、そして魂が抜けたかのように真っ白になって机に突っ伏していた。

 

「おーおー、これまで勉強してこなかったツケが一気に来たか」

 

 板書の書き写しをしようとして諦めた白紙のノートを見て京一は呆れ半分に呟く。小中と碌に勉強をしてこなかった馬鹿がいきなり高校で付け焼き刃の勉強をしようとしたところでできるわけがないのだ。

 

「授業で言ってた事が全然分からねえ……この学校の連中の頭ん中はどうなってんだ……!?」

 

「いやお前や石矢魔の生徒の知能レベルが低過ぎるだけだから」

 

 男鹿は小学生レベルのテストすら満足に解けないという恐ろしい頭脳の持ち主だ。普通に高校生レベルの学力を要求される麻帆良学園の授業に着いていけないのは当然である。

 

(バカレンジャーより酷いんだろうなこいつの成績……)

 

 次に古市が取ったノートを見て京一は素直に感心する。板書の内容を漏れなく書き取れていてノートも綺麗にまとめられており、古市は普通に授業を理解している事が伺える。

 

「古市はまぁ、充分追い付けるだろ。元々石矢魔に入って二週間もしねぇでこっちに転入したんだし、そこまで差は出てねぇ。合格してた第一志望校も中々の学校だったみたいだしな。後でこれまでの授業分のノートのコピーやるよ」

 

「サンキュ」

 

 ワナワナと震える男鹿は真剣な表情で古市に訴えかける。

 

「補習に留年……ヤバいぞ古市、このままじゃ俺はダブる事になる……!!」

 

「諦めかけんの早えな。いや、お前の場合当然なんだけどさ」

 

「つーかお前がダブりとかを気にするタイプだった事に驚きだわ」

 

 人を殴る事に全く躊躇いが無い手前、退学になっても平然としていそうなものだが、流石に体裁は多少気にしたりするのだろうか。

 

「っと、そんな話してる場合じゃねぇか。もう出遅れちまってるかな」

 

「出遅れ?」

 

 京一の言葉の意味が分からず、首を傾げる古市。京一は親指で廊下を指差しながら着いてくるようにジェスチャーして歩き出す。

 

「お前ら昼飯用意してねぇだろ。丁度良いからこの学園の昼について教えてやる。ある意味凄えぞ。気合い入れねーと食い逃すぜ」

 

****

 

「飯だ飯ーー!!」

 

 物凄い勢いで麻帆良学園都市の高校エリアの一角に点在する各学校の生徒達が昼食を求めて走り出す。その目的地は広場を中心にいくつか開かれている購買や学食だ。

 

 集まっている学生の数は優に数百人を超えているだろう。

 

「うおっ!?凄え人数!」

 

「朝の通学も凄かったけど昼飯時も凄いな……」

 

「朝の通学ラッシュに続いてこの昼飯のラッシュも麻帆良の特徴だな。いざ中等部以上に上がると初等部の頃の給食の有り難みが分かるぜ」

 

「はー」

 

 見れば学生達の集まる購買やらは既に惣菜パンの売り切れが起きてる店もあるし、今正に物凄い勢いで食べ物が売れ続けている店もある。これに乗り遅れれば昼食を確保できない学生も出て来るだろう。

 

「おばちゃん!タコス三つ!」

 

「グラコロ二つ!」

 

「あいよー!」

 

 学食のおばちゃんらしき人が鍋をお玉で叩きながら売り切れを宣言。周囲にいるお目当てのメニューを買えなかった生徒は膝から崩れて落ち込んでいる。

 

「スペシャル背脂つけ麺先着20終了〜!!」

 

「くっそ〜!」

 

「明日こそ!明日こそ!」

 

 流石にこの光景を見ては自分達も危ないと理解した男鹿と古市も飛び入りでまだパンとかおにぎりとかが余っていそうな店に駆け込む。数分後、何とか昼食を確保できた二人は疲れた顔をしながら歩く。

 

「ショボい謎パンしか手に入らなかった……。昼飯の争奪戦でこの騒ぎって……石矢魔の購買より凄いな……これが毎日続くのか」

 

「フジノのコロッケ食いてえ……」

 

「この学園の昼時は創立以来こんな調子らしいぜ」

 

 するといつの間にか別の店で昼食を購入していた京一がトレーを持ちながら話しかけてくる。流石に10年近くこの学園都市で暮らしているだけはあり、多少出遅れても食事の確保はできるようだ。

 

「早起きして自分で弁当用意する奴もいれば、放課後に惣菜パンでも買って明日の昼飯として確保する奴もいる。見ての通り学食だってある。けどこの昼休みでしか買えない購買スペシャルメニューなんかもあるからな。そのくせ予約とかはできねーのがいやらしいところ。一概にどれが賢い選択かは断言はできねーな」

 

 京一はその日の気分で決める派だ。京一にはこの混雑・混乱を潜り抜けて人気メニューを購入する事は容易いからこその余裕でもある。

 

「うおっ、赤羽お前なんか美味そうなのゲットしてんじゃん」

 

「コツがあるんだよ。カレーバーガー……やらねーぞ」

 

 さて、昼食を買った後の問題はそれを食べる場所だ。食べ歩くも良し、教室に帰るも良し、広場の座席で心地良い陽光を浴びながら食べるも良し。

 しかし大半の生徒は外の座席で楽しくワイワイ食べたいものだ。男鹿や古市もこんな天気の良い日は外で落ち着いて食べたい。故に座席を探すが、周囲の席は既に多くの生徒が座っていて、男鹿達が座る余裕は無い。かと言って他の生徒を殴ったり押し退けたりして横取りするわけにもいかない。

 

 いくら男鹿とて喧嘩を売られたわけでもないのに相手を一方的に殴ったりはしない。ただし古市は除く。

 更に10分程席を探し歩いて漸く、偶然世界樹近くのテーブル席を離れる生徒達がいたので、すかさず空いたその席に三人で座る。

 

「やっと座れた……。どんだけ生徒いんだよこの学園。飯買うのも席の確保も一苦労じゃねえか」

 

「なんつっても学園都市だからな。このエリアはまだ少ない方だぞ」

 

 ベル坊にミルクを飲ませながら男鹿もどうにか買えた具もなにも無いただのパンを頬張る。せめて好物のコロッケでも挟まっていればもう少し腹も満たされるのだが。

 

 足りない腹の分を誤魔化すようにヨーグルッチを一気飲みして一息。古市も買ったパンを咀嚼しながら話し始める。

 

「けどなんかイメージと違ったな」

 

「イメージ?」

 

「ああ。麻帆良学園ってここ一年弱ですっかり魔法使いの巣窟ってイメージが広まってるだろ?だから俺もみんな空飛んだりとか魔法バンバン使ってるイメージがあってさ。その通りならこの騒ぎも難なく潜り抜ける奴もいそうで……でもそんな事する奴はいなかったな」

 

 誰か一人くらいは魔法を駆使して昼食や席を手に入れる輩がいると思ったのだろう。

 

「元々魔法使いは秘匿された存在だからな。ある日突然知れ渡ったからって余程の事がない限り人前で魔法を使いまくる奴は俺くらいしかいねーよ。そもそも魔法関係者だって一握りだしな。知られたからって自分達から布教したりはしない」

 

「お前は使うのかよ」

 

「一番魔法使うとこ見られたのは多分俺とナギさんだし、もう今更だろ」

 

 それでも古市のイメージしたような使い方はしないが。そもそも京一の魔法における専門分野は戦闘だ。

 

「取り敢えずお前らはこれからこの昼をどう切り抜けるかも考えといた方が良いぞ。この騒ぎを潜り抜ける自信がねぇなら弁当作るとかな。保護っつってもそこまでは保証できねーぞ」

 

 カレーの良い匂いを漂わせて京一はバーガーを咀嚼する。それを羨ましそうに見てから男鹿は京一の発言の中に引っかかるものを見つけた。

 

「つーか俺を保護するってんなら、こいつの電撃どうにかなんねーのかよ」

 

 半ばボヤくように男鹿はミルクを飲むベル坊に視線を向ける。泣く度に電撃をお見舞いされてはたまったものではない。普通の人間ならとっくに死んでる。まぁ耐えられるだけの頑強さがあるからこそ、それが魔王の親の器と見做された原因の一つなのだが。

 

「ベル坊の魔力を封じ込める方法はあるし、そうすりゃ泣いても電撃をぶっ放す事はなくなるが、そうなったらまだ赤ん坊のベル坊は自分の魔力を体外に出せずに溜め込んじまう。そうなるとその魔力のせいで高熱出したりするんだよ」

 

 人間でも似たような例はある。例えばネギは木乃香の治癒を過剰に受けて体内に魔力が溜まり込んでしまい、却って体調を崩した事がある。その時は小太郎を相手にある程度暴れる事で魔力を体外に放出・発散して、ことなきを得た。

 因みにベル坊の魔力を封じ込める方法とはかつてエヴァンジェリンが受けていた電力を使用した結界による封印。現在ヒルダの魔力を抑えているのもこれである。エヴァの力を抑えるだけの効果がある事からヒルダに加えてベル坊の力を抑えるのも容易いだろう。

 

 だが今京一が語った内容からその案は学園側で却下された。人間を滅しに来た魔王と言えどまだ赤ん坊なのだ。

 

「お前は赤ん坊が熱出してぶっ倒れて良いんですか?」

 

「お前は俺が黒焦げにされて良いんですか!?下手すりゃ死ぬぞ!!」

 

「安心しろ。隣のクラスに俺の幼馴染の凄腕の治癒術師がいる。本当にヤバい容態の時はそいつに治療して貰えば良い」

 

「そもそも電撃喰らうのが嫌なんだよ!!」

 

 ダメージを受ければ治せば良いという理屈は前提からして男鹿の望むものではない。当たり前だ。京一は子供の頃からエヴァのハードな修行を受けていた為、その辺の感覚が麻痺していた。

 

「くそっ、そもそもあの大きなおっさんのせいで俺がこんな目に……!!」

 

「あー、あの二つに割れたってやつ?でも割ったのお前だろ?」

 

 男鹿がベル坊を拾った経緯は川上から流れてきた大きなおっさんを引き上げ、二つに割ったら出て来たそうだ。何故割ったのか。

 

「話は聞いたけど、多分そいつは次元転送悪魔って奴だな。ベル坊を連れて魔界から旧世界に直接転移した事も考えると相当優秀な奴なんだろう。ベル坊を旧世界に送り込んだその次元転送悪魔の行方は関東魔法協会の方でも追っているが、次元転送悪魔の転送能力自体俺達魔法使いでも難度の高い転移魔法よりも優秀だ。仮にも魔王のベル坊の転送を任される程の奴ならそう簡単には捕まらないだろ」

 

 転移魔法には色々と条件や制約がある。例えばエヴァやその弟子である京一が使う影転移の場合、転移可能なのは影から影へのみであり、それも親しい知人もしくは視界内の影。あるいはマーキングを施した物体の影……といった具合だ。

 しかし次元転送悪魔の転送能力には基本的にそんな制約は無い。魔力次第で好き放題に瞬間移動などができる。

 

「ふーん、悪魔のヒルダさんに圧勝したお前ら魔法使いでも悪魔に負けてる所はあるんだな」

 

「魔法使いっつっても千差万別。全員が強いわけじゃない。俺だって苦手分野はある。治癒魔法とかな」

 

 一口に魔法と言っても色々ある。なんなら関西では魔力を使う魔法よりも気による呪術などが主流なのだから。

 古市はパンを食べながらここ数日、僅かに期待している事を聞いてみる事にした。

 

「なぁ、もしかして俺達にも魔法を教えてくれるのか?」

 

 魔法の存在は世界に知れ渡ってはいるが、それを一般人が学ぶ機関などは設立されていない。たった一年でそんなものを大々的に用意できるわけもないし、犯罪などに利用されてはたまったものではない。故にこれまで存在が秘匿されてきたのだ。

 

 そこは古市も理解している。しかし悪魔関係のトラブルを退けるには魔法は使えた方が良いのは明らかだし、やはり古市自身、魔法が実在すると知った時には自分も魔法を学んでみたいという年相応の好奇心は持ったものだ。

 

「わずかな勇気が本当の魔法だ」

 

「てきとー言ってんだろお前」

 

 しかし京一はたった一言で終わらせた。明らかに教える気は無いという表明であった。

 

「しかし方便だけでなく、人間の魔法使いとしての心構えでもありますな。そういう教えを忠実に守る様は中々好感が持てますぞ」

 

 パラパラのピラフを掬い上げたレンゲを口に運びつつ、感心した様子を見せるおっさん。

 

「まぁ、心構えはともかく方便とかはそうだよな……。そもそも魔法が世界に知れ渡ったのだって、その魔法で人間を滅ぼそうとした魔法使いがいたからな訳だし……」

 

「ちっ、案外ケチな連中だ。ザラキとかやってみたかったんだけどな」

 

「それドラクエの呪文じゃねーか。しかもなんで即死系?」

 

 魔法を教えては貰えないと言われた古市と男鹿は落胆しつつも昼休みの終わりも近い事があってか食べ終わったパンの袋を捨てる為に立ち上がる。そして……

 

「「って誰だーーー!?」」

 

 いきなり会話に加わっていたおっさんに今更ながら大きく驚く。

 

「アハハ、私ですよ。私」

 

「いや!知らん!全く!」

 

「……あっ!!テメェあん時の大きなおっさんじゃねーか!!」

 

 ここで男鹿はおっさんの正体に気付く。そう、ベル坊を拾った時の川から流れてきたおっさんだ。

 そんな中、おっさんの会話への乱入に最初から気付いていた京一は彼の手元を凝視していた。

 

(このおっさん……このエリアでも屈指の人気メニュー、超包子直伝海老ピラフを手に入れてやがる!!……こいつ、できる!!)

 

 そう、彼が食べていたのはこの昼休みの学食名物。超包子が発案して特定の店にのみレシピを伝授した特製の海老ピラフ。当然、超人気メニュー。この飯争奪戦に慣れている京一でも手に入れるのが難しい一品。それをこのおっさんは恐らく初めての参加で買えているのだ。

 

「そうです。次元転送悪魔のアランドロンと申します。……フフ、貴方の事が気になってね……少し様子を見に来たのですよ。ヒルダ様が捕まってしまったのは予想外でしたが……」

 

 話の途中で男鹿はアランドロンの顔面を掴み、アイアンクローで握り潰そうとする。その顔は当然鬼のようなド怒りの形相だ。

 

「次元転送だぁ?この野郎、今頃ノコノコと……!てめーのせいで俺がどんだけ……!!毎日電撃喰らって15m離れたら即死!挙句の果てに転校させられてこれから毎日勉強地獄だぞ!!?」

 

「うんうん。良いですよそーゆーとこ。でもちょっと話は聞いてくれます?」

 

 勉強地獄と言うが、一般的な高校生の生活に格上げしたのだが。ついでに言えば学歴など男鹿の将来関連では間違いなくプラスになっている。

 取り敢えず離して貰ったアランドロンは人差し指を立てて今回の件に関して説明を始める。

 

「良いですか?私とて闇雲に二つに割れた訳ではありません。坊っちゃまはなんせ魔王ですからね。まず強い者にしか惹かれません」

 

「……いや、ま……ね」

 

(あ、緩んだ……)

 

 一応不良な男鹿としても腕っぷしの強さを正面から認められるのは悪くない気分なのである。しかしここで上げて落とすのは悪魔として当たり前。

 

「そして更に、凶悪で残忍で、傍若無人で人を人とも思わぬクソ野郎であれば最高です」

 

「お前じゃん」

 

 魔王の親に選ばれるというのは最低な奴という烙印でもあった。流石にちょっとショックだったのか、男鹿は停止している。

 

「ええ。私も川で薄れゆく意識の中、男鹿殿が大勢の人間を土下座させて高笑いしているのを見て確信しました。あぁ、この男になら坊っちゃまを任せられると。力を使い果たしてその後寝ちゃったんですよねー」

 

(あれが原因かーー!!!)

 

(なるべくしてなったんだなー)

 

(普通そんな奴、まず真っ先に虐待される可能性の方が……あぁ、泣いたら電撃の報復があるんだったな)

 

 アランドロンが男鹿にベル坊を託した(押し付けた)選考基準を聞いて男鹿は頭を抱え、古市は納得。京一は一瞬疑問を感じたが答えが既に出ていた。同時に悪魔の価値観が非常に危ないものであると判明した。

 

「うっし、話終わったな?」

 

「ゴハァッ!?」

 

 話が終わったと判断したら京一は即アランドロンの頬をぶん殴って気絶させる。スマホを取り出して学園長の近衛近右衛門へと電話をかける。

 

「ジジイ、男鹿の前に例の次元転送悪魔が現れたのでぶちのめして確保した。引き取ってくれ」

 

「流れるように殴って捕獲したな」

 

「ヒルダさんが負けて捕まったのにノコノコ現れる辺りアホなのか……」

 

 京一はアランドロンを魔法陣で捕縛し、男鹿は溜め息を吐いてもう一度テーブル席にドカッと座り込む。

 

「ったく、冗談じゃねーぜ。大勢の人間殴って土下座させたくらいで人間滅ぼす魔王に懐かれて、毎日電撃の毎日勉強……俺が何したってんだ」

 

「いや人殴って土下座させてんだろ。これまで病院送りにした人数も考えると明らかに天罰じゃねーか」

 

 古市の当たり前のツッコミにも反応しない辺り、本当に精神的に参っているようだ。

 

「……ん?て事はアレか?俺より強くて凶悪なクソ野郎がいたらそいつが親に選ばれるって事か?」

 

「……理屈としちゃ間違っちゃいねーと思うが、そう上手くはいかねーと思うぜ?」

 

「どういう事だ?」

 

 アランドロンの捕縛を終えた京一が答えると古市がその意図を尋ねる。

 

「まず悪魔が契約する人間にも色々条件があんだろ。悪魔が契約を結ぼうとしても人間の方が強けりゃ契約する隙なんて見せねー。つまり魔法も気も使えねーレベルで強い奴じゃなきゃ基本的に主導権が握れない」

 

 元々魔法が使える強者なら悪魔と契約するメリットがまるでない。契約内容が分からずとも何かしらのリスクはあると見るのが普通だ。そんな契約に態々手を出す者は少ないだろう。

 

「その上で悪魔を惹きつける程度には性根の腐った奴じゃなきゃいけない……そんな奴をピンポイントで見つけんのは難しいと思うぜ」

 

 そういうクソ野郎は吐いて捨てる程にはいるだろうが、男鹿より喧嘩の強さが上という条件とセットではかなり難しいだろう。

 

「つまりそんな都合の良い奴はいねーって事だな。で、魔法使いじゃなくても強過ぎると気ってのが使える可能性があるのか」

 

「そ。基本的に魔力と気は反発するからな。悪魔の事を知らなくても気が使えるような奴じゃ契約しても触媒の役割を果たせない。結論、性格の悪さと丁度良い強さの奴を狙って探すのはかなり難しいって訳」

 

「触媒?」

 

「ん?ああ、そういやこーゆータイプの悪魔の契約の意味を教えてなかったな」

 

 京一と古市が話す中、男鹿はその小さな脳味噌をフル稼働させ、どうにか代わりの親をベル坊に充てがう策を練る。

 

(どっかにいるはずだ……俺よりちょっとだけ強くて凶悪なクソ野郎が。そいつに必ずベル坊を押し付ける!!)

 

****

 

 何処の県なのかはいまいち良く分からないが、県内に海がある関東圏らしいので神奈川か千葉辺りだと思われる石矢魔ーーーその地元でも有名な不良校、石矢魔高校。

 

 ヤンキー率120%だの、チンピラ予備校だの、裏社会への登竜門だのと言われるこの学校である話題が上がっていた。

 

「アバレオーガが転校したぁ?」

 

「ああ。教師共がそんな事を話してた」

 

「ありえねーだろ」

 

「けど確かにここんとこ全然学校来ねえから変だとは思ってたんだよな……」

 

 硬中のデーモン、石高のアバレオーガなどと悪名がこの石矢魔にすら轟く無敗伝説の不良、男鹿辰巳が石矢魔高校から転校した……という噂だ。

 こんな不良校に入って名を上げる奴が入学して二週間足らずで転校……いくらバカな石矢魔の生徒でも不自然に思わないはずがなかった。どうせすぐに忘れるだろうが。

 

「ま、良いじゃねーか。奴がいなくなってくれたんなら俺達も名を上げ……」

 

 目障りな目立ちたがり屋が消えたのを良い事に今度は自分がその立ち位置を手にしようと画策するも、すぐにその考えが頭から消える。それは目の前で更なる大物が配下を引き連れて歩いていたからだ。

 

「さ、三年の神崎!?」

 

「東邦神姫の一角じゃねえか!!」

 

「今最も石矢魔統一に近いと言われる男……」

 

「何で一、二年校舎に!?」

 

「決まってんだろ!二年連合が正式に神崎の勢力下に入ったんだ!遂に姫川との全面戦争の準備って事だろ……」

 

 神崎と呼ばれた男が側近の城山、夏目、そしてその他大勢を引き連れて廊下を行進していたのだ。

 

 東邦神姫…それは石矢魔高校の四大勢力。東条、邦枝、神崎、姫川。それぞれの頭文字を取って石矢魔東邦神姫と呼ばれる勢力だ。

 彼らがそれぞれの勢力のトップとして君臨するのには当然それだけの理由がある。

 

 東条英虎の場合、圧倒的な強さだ。他の追随を許さぬ喧嘩の腕っぷしからほぼ単独で四大勢力の一角を担う程。しかしそれ故に彼の勢力は東条の強さこそ最強と疑わない気心知れた仲間のみという小規模な物。そもそも東条達はそんな勢力争いに興味は無いのだが……。

 

 邦枝葵は関東最強と謳われるレディース、烈怒帝瑠(レッドテイル)の三代目総長。石矢魔高校の女子生徒ほぼ全てが彼女の派閥の一員であり、彼女自身、石矢魔高校の不良男子から女子生徒達を守る為にリーダーの座に就き、他の勢力を制裁、牽制している。ある意味保守的な派閥と言えるだろう。

 逆に言えば女子生徒に危害を加えなければ勢力争いにわざわざ割り込んで来たりはしない。

 

 姫川竜也の場合、そもそも実家が姫川財閥という雪広財閥にも劣らぬ大金持ち。彼は金と権力、更に情報を駆使して罠を張り、装備を整え、人質を取る事すらある。勝つ為には手段を選ばない男だ。そしてその財力と智謀を使い、人を集めて勢力を組み立てた。

 

 そして神崎一の場合、ヤクザの家系によるバック。そしてそれ以上に人柄だった。神崎自身、そこそこに強くはあるのだがそれ以上に不良ならではの圧倒的なカリスマによりこの石矢魔の荒くれ者共を纏め上げ、人数だけなら最大の勢力となった。

 

「良かったんですか、神崎さん……放置しておいて」

 

 そんな神崎に話しかけたのは側近の城山だ。

 

「あ?しょーがねーだろ。こっちの校舎にしかねーんだヨーグルッチ。偶に無性に飲みたくなるのよ」

 

「いや、そうではなくて……」

 

 神崎は城山の問いの意味を一、二年校舎に来た理由だと思ったようだが、城山の出した話題は最近石矢魔から転校したルーキー、男鹿についてだ。

 

「実際男鹿とかいう小僧は相当強かったらしいですよ。一度潰して下に付けておけばかなりの戦力として期待できたと思いますが……」

 

 勢力争いを制し、石矢魔統一を成すには相応の戦力が要る。

 

 そんな情勢下、男鹿はある意味不気味な存在だった。一年生らしからぬ暴れっぷりと強さ。下手に刺激すれば自陣の勢力に大打撃を受けるだろう。だがそれ故に他の勢力には取られたくないというのが各勢力の実情でもあった。

 

「はっ、どれだけ腕っぷしがあろうと所詮はこの石矢魔から逃げ出した腰抜けだろうが。そんな奴必要ねぇよ」

 

 だが神崎は城山の意見を一蹴する。この石矢魔では喧嘩の強さが全て。そこから去った者に価値など無いのだと。

 そして先日、二年連合を神崎一派の傘下に付けた。これで本格的な戦争の準備が整おうとしていた。

 

「まずはあのフランスパンリーゼントを潰す。次に邦枝。最後に東条……石矢魔を獲るのは、この俺だ」

 

 男鹿辰巳の離脱により、激化していく石矢魔高校の勢力争い……まぁ別に人類の未来に影響しないし、四大勢力の内二つがそんな争いに興味を持ってないから残り二つがぶつかったらすぐ終わるだろうし、一般の人に迷惑をかけたりしないのならどうでも良いので放置。

 

「なんか雑じゃね!?」




さて、A組の女の子達をどう話に絡めていくか……ヒルダの振り回されっぷりでも描こうか……
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