健康診断の結果、チーム東西南北の4人は全員が揃って【覚醒】した。生命の危機リスクを低く抑えたのんびり覚醒修行コースだったので、半年で誰か一人が覚醒すれば儲けもの、くらいの意識でいた馬ニキはスケジュール大幅見直しを迫られて頭を抱えることになった。
「とりあえず、オカルト知識の座学は継続。覚醒後の身体能力に慣れるという意味で、ヨガや富士山登頂などの運動も継続。金札用ダンジョンで最低限のレベリングと、仲魔の弁財天にボーカル・ダンス・ビジュアルの基礎レッスンを見てもらって、これで3か月くらいは時間稼ぎになるか」
彼女たち4人の霊能者としての才能限界はいずれもLv10程度。霊能力者一族という
「とりあえず、覚醒したからにはCOMPは各人に今すぐ支給。悪魔召喚しなくても各種アプリは便利だし、DDS-netアクセス端末としても必要だな。銀時ニキが【アガシオン】、【イヌガミ】、金札用【シキガミ】あたりを弟子用に手配していた*3から、彼女たちがLv5に到達するご褒美として見繕っておくか」
仮にアイドルプロデュースに失敗して彼女たちと別れることになったとしても、COMPなど貸与品を手切れ金代わりに譲渡すれば衣食住に困らない程度には自力で生きていける*4だろう。
まぁよっぽどの喧嘩別れでなければ貸与品を取り上げるつもりはないし、円満退社ならちゃんと餞別を渡してやるのが良識ある社会人ってものだ*5。
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終末前のガイア連合は芸能界にも強い影響力を持っていた。とある大手芸能事務所には黒札・星川リリィ*6を筆頭に覚醒済みの霊能者アイドルが複数存在し、彼らは90年代から00年代前半にかけて有名なアイドルグループとして名を馳せた。
星川リリィたちは地方ロケ・地方営業と称して全国各地の異界攻略や除霊を行っていた。元々は『アイドル活動の裏で実は化け物と戦っている定番の展開を俺たちの手で実現する』なんてトンチキなことを考えた転生者連中が悪ノリした結果だが。
ただし、彼らの活躍は無限に続いたわけではない。当初は珍しかった『戦うアイドル』が陳腐化して黒札スポンサーたちが飽きたこともあるし、彼らがある程度年齢を重ねることでジュニアアイドルの地方ロケという
【終末】を過ぎてTV業界・芸能界を支えるインフラは大きく破壊され、皆が生きることに精いっぱいになりアイドルという娯楽に向ける余裕が切り詰められる状況。星川リリィたちもTV放映からDDS-net配信に軸足を移し、今でも地方どさまわりツアーを続けているが、全国知名度という点ではかつての勢いはない。
このような斜陽のアイドル界に乗り込むに際し、馬ニキはとある黒札・素崎晴人(ヒッツニキ)*7に面会した。
「アイドルという文化が衰退・消失してしまうには惜しいですから、新規が参入して業界全体の裾野が広がることは喜ばしいことです。私で手伝えることがあるなら協力しましょう」
ヒッツニキはかつて小さな番組制作会社のプロデューサーとして働くと同時に、芸能事務所所属のタレントに対する異能者の指導役も務めていた。なぜ芸能事務所が異能者をタレントとして雇っていたのかというと、星川リリィの成功を見て二匹目のどじょうを狙ったかららしい。
終末後にTV業界・芸能界が崩壊した後は、彼は霊能者として悪魔と戦う傍らで、副業としてDDS-net配信に乗せる映像コンテンツの作成請負を細々と続けている。
ヒッツニキは馬ニキから渡された売り出し予定アイドルの資料を見て軽く頭を掻く。
「千葉県ローカルTVの深夜バラエティ番組でアイドルデビュー企画出身、一応は芸能事務所に所属してTVロケなどの経験あり。その番組エンディング曲を歌い、番組ソング集CDに収録という形でCD販売もしている。しかしローカルアイドルから次のステップに進む前に終末で芸能界そのものが崩壊して宙ぶらりん、何とか食いつなぐためにきりたんの悪趣味企画に応募したところで貴方の目に留まり、こうして再デビューのチャンスを得る、と。……なかなか数奇な転がり方をしている」
かつての女優・アイドルが地獄湯支部の周りに勝手にできたスラム街の娼館に在籍*8という噂があるように、終末後に身持ちを崩した芸能人は多い(死亡した人はもっと多い)。
「このご時世、事務所は潰れているでしょうが、関係者の生き残りがいるかもしれません。再デビューを妨げられることはないと思いまずが、曲の使用なども含めて権利関係で揉めないようこちらで当たってみます」
「そこら辺はお任せします。もしゴネるようであれば札束ビンタしてください。アイドルプロデュースの実務に使える人材なら雇っても良いし」
「ただグループ名が『東西南北(仮)』とデビュー企画そのままなのはちょっと。再デビュー時には(仮)を取るか、まったく違うものに改名するかが必要ですね」
ヒッツニキはそこでいったん言葉を区切り、馬ニキの瞳をじっと覗き込んだ。
「私たちの足並みを揃えるために、まずは目的を定めましょう。アイドルという手段でもって成したいことは何か、という話です」
「ふぅむ、歌い踊ることで喝采を浴びるってのが目的と言えば目的ですが。その一段階上、
「そうなります。星川リリィを例にとるなら、彼はアイドルライブを祭礼とみなし、観客の熱狂をマグに変えてその地の浄化・活性化や観客の無事・幸運を願いました」
「それはもうアイドルの枠を超えた、シェルターの守護神あるいはそれを代行する巫女では?」
「霊的才能に優れる黒札だからこそ可能な
馬ニキは額に手を当てて考え込む仕草をし、ため息をついた。
「正直、トップスタァの称号を獲るとかあんまり真面目に考えていないんですよね。あくまでも派出所・シェルターの運営が主で、アイドルプロデュースは副業の範囲。きりたんやアマッカスニキ*9のような己の趣味に全ツッパするガチ勢ではなく、スマホゲームに例えるなら自然回復分を消費するだけのエンジョイ勢です」
「それが悪いとは言いませんよ、人生を賭けた計画が失敗するなんて珍しくもないことですし、失敗して早期撤退されるよりは細く長く続けてもらう方が業界全体の益になりますからね」
ヒッツニキは馬ニキへの視線をそらさず、淡々と提案する。
「まずはローカルアイドルとして地元に定着することから始めましょう。ローカルアイドルの概念は分かりますよね?」
「それくらいはさすがに。北海道・苫小牧の星ホッコータルマエ*10とか、千葉のロックスター・ジャガーさん*11とかは存じてます」
「ふつうは国営放送の朝ドラ『あまちゃん』とか、AKBから派生したNGT・NMB・HKTなどが例に上がるんですけど…… それはともかく、公民館のホールなどを常打ち小屋にして定期公演が目標ですね」
「常小屋! 浪漫ありますね」
脳内で何かイメージを描いてニヤけている馬ニキだが、終末前の日本では地方でも人口100万都市でないとロコドル*12の経済活動が成り立たないということを知らない。
そこら辺はそのうち現実を知るだろうと、ヒッツニキはスルー。
「ローカルアイドルとして地に足が付いたら、全国各地のご当地アイドルの所にツアーを組みます。こちらから出向いたり、向こうから来るの迎えたりして、対バン…… 自衛隊ニキネキの根拠地・上野シェルターで女神イシュタルと女神イズンが美の権能バトルをした*13ことをモチーフに、神ではない人でそれを再現する、『ライブバトル』*14を開催します」
「全国ツアー?! ライブバトル?!」
ヒッツニキの構想に馬ニキは興味津々の様子で食いついた。
「さすがに権能バトルによる信仰の奪い合いは神ならぬ人の身には再現できないので、代わりにアイドル衣装を奪い合う*15予定です」
「衣装を? 奪い合う?」
途端に胡散臭くなった説明を聞いて、理解の及ばない馬ニキは首を傾げた。
モバマスのシステム、wiki見ても全然思い出せない。