「ステージ衣装を奪い合うって……」「敗者は観衆の前で裸にされるってこと?」「羅生門もかくやの鬼の所業」「服を剥ぐ鬼なら奪衣婆でしょうか」
ヒッツニキとの打ち合わせを終えて、チーム東西南北の面々にこれからの予定を伝えると、まあ当然の反応が返ってきた。普通はそう思うよね。
「正確には、奪い合うのは衣装の形をした
それを聞いて一同は安心したようで、気楽な雰囲気になる。
「それじゃ、次。みんながアイドルをやっていくうえで必須の物を貸与します」
【ガイア連合】製のスマホ型COMPを4人に手渡すと、それぞれ感慨深い表情でそれを見つめる。
「セキュリティの個人霊気パターン登録を忘れないように。そのCOMPからDDS-netにアクセスできるから、いわゆる『SNS上でのアイドル活動』も解禁。ただしDDS-net使用料の支払いは君らの口座*1に紐づいているから、計画的にね」
軽く脅しておくが、【覚醒】した彼女たちには【金札】として一部【黒札】に準じる権利を持たせている。彼女たちはシェルター運営については特権を持たないが、DDS-netアクセスに関しては料金割引など優遇されるように設定しておいたので、【DDS動画サイト】*2にチャンネル開設することも可能だろう。
これらサービスを継続利用するには【ハンターランク】を維持する必要があるが、彼女たちをいっぱしの霊能力者として鍛えてやれば良い。【終末】後のこのご時世、純粋なアイドル活動だけで食べていけるほど甘くはないが、兼業デビルハンターとして身の丈に合ったマグ稼ぎをすれば生活費もハンターランクも賄えるだろう。
何なら、上田市【派出所】で【デビルバスター協会】の窓口やっているから、割りの良い仕事の斡旋しても良いし*3。
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今日は『東西南北(仮)』から改名した『トラペジウム』の4人をパワーレベリングする日。山梨支部の金札用修行異界*4は黒札身内を雑に安全にレベル上げするためだけの養殖場であり、戦い方を学ぶには不向きであるが、覚醒したばかりの素人はまず悪魔相手にちゃんと相対できるようになるところからがスタート。
前回は目をつぶってキャーキャー言いながら【清めの塩】をやたらめったらばら撒いただけで【悪霊ディブク】と【外道スライム】を退治できちゃった*5くらいなので、引率する側としても考えないといけない。
今回は【アタックナイフ】と【アゲハドレス】*6を装備させ、COMPに地図アプリを入れてマッピングさせること── つまり悪魔が出るような異界に慣れてもらうことを主眼としている。武器防具はどちらもガイア連合製の良質な逸品で、防具は製造班の黒札が気合い入れて作成した低価格高品質の代名詞ハイレグアーマー*7と迷ったのだが、アイドルで売っていくのだからエッチな服は出し惜しみすべきと判断した。
4人とともに修行場へ向かっていると、途中の広場でみくにゃん*8を見かけた。
今日はみくにゃんがおめかししているなと思ったら、彼女もこちらを見つけて近寄ってきた。
「お、そっちもドレスで着飾っているなら丁度いいにゃ。みくとライブバトルで勝負にゃ!」
「なんで?」
みくにゃんはこちらの話をまったく聞こうとせず、騒ぎを聞きつけて集まってきた周囲の人だかりに見せつけるようにくるっとターンした。
「新衣装、ロッキングスクール*9! かわいいにゃ? かわいいって言うにゃ!」
野次馬に圧を掛けるみくにゃんと、それに応じて囃し立てる見物客ども。みくにゃんはそれに満足したのか、こちらをびしっと指さして大きく宣言した。
「アイドルの道は一日にしてならず! みくが手本を見せてやるにゃ! チュートリアルだと思って*10、どーんとぶつかって来いにゃ!」
こうしてなし崩し的に、アイドルグループ『トラペジウム』はいきなり初ライブバトルをすることになった。
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みくにゃんが『おねだりShall We~?』を、トラペジウムが『なりたいじぶん』を、路上ライブ形式でそれぞれ持ち曲を1曲歌った*11が、ライブバトルの結果は一目瞭然だった。
歌もダンスも、出来ばえという意味では両者に大きな差はない。しかしカリスマというか人を惹きつける魅力というか、目に見えない『存在感』が大きく違う。
「ふふん、まだまだ未熟! このロッキングスクールを奪うには、もっと精進するにゃ!」
みくにゃんはすっかり勝った気で、着ている衣装を盛大にアピールしている。
だが、彼女を囲む観衆の中に、不穏なことを口走った奴がいた。
「アイドルライブバトル、それは敗者が衣装を剥ぎ取られる修羅の道」「え、それって、ここでみくにゃんが負けたら衣装を脱ぐってこと?」
野次馬どもは途端にざわざわしはじめ、それを聞きつけたみくにゃんは目を三角に釣り上げて怒りだした。
「こらーっ! そこ、みくを脱がそうだなんて不埒にゃ!」
空気が変わったことを察知した馬ニキは、収拾がつかなくなる前にと大声を張り上げた。
「観客のみなさーん! ただいまのライブバトル、みくにゃんが勝ったと思う方は拍手を!」
すると先程みくにゃんが歌っていたときは手拍子掛け声でノリノリだった観衆が、誰一人として拍手しようとしない。
「なっ、誰も拍手しないなんて、薄情にゃ!」
「では、トラペジウムが勝ったと思う方は拍手を!」
今度は万雷の拍手が湧き上がる。
「みくにゃんvsトラペジウムのライブバトルは、トラペジウムの勝利! みなさま、ありがとうございました!」
「な、なんでにゃ~~っ!」
観客のジャッジに不服の叫びを上げるみくにゃんと、ノリで彼女に『脱げ』コールを投げつける野次馬たち。
みくにゃんは怒り心頭という感じで爆発した。
「そんなにみくの裸を見たいなら、見せてやるにゃん!」
今まで人間の姿だったみくにゃんは、変身を解いてネコマタの獣モードになった。
「さあさあ、みくの美麗なボディを堪能するがいいにゃ!」
「人の姿じゃないんかーいっ! 詐欺だこんちくしょーっ!」
「みくは嘘は言ってないにゃ! 文句があるならこうにゃ!」
彼女は煽っている観衆のところに飛び込んで次々とネコパンチを浴びせていく。
ギャグマンガのようにすぽぽぽーんと人が吹っ飛ばされていくのを、馬ニキとトラペジウムの4人は、黙って見守ることしかできなかった。
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その後、DDS-netの匿名掲示板に『みくにゃん、ライブバトルで無様な敗北』というスレッドが立ち、なかなかの賑わいを見せたとか。
アイドルプロデュースの話はここでいったん一区切り。