「新潟・糸魚川シェルターを皮切りに始まった関西ガイアプロレス・信越巡業シリーズ。長野県上田市や、新潟県では上越・佐渡・長岡などで興行を打ち、魚沼シェルターで本日、最終戦となります。実況は私、聖園ミカ*1と」
「解説の田舎ニキ*2こと碧神凍矢です」
「ところで、なんで私が実況役なんですか?」
「ああ、最初は放課後スイーツ部に話を持って行ったら、ピンの仕事はメンバー間に亀裂が入ると拒否されてね」
「思ったより切実な理由でした! そういえば、上田市シェルターが擁するアイドルグループ『トラペジウム』も、メンバー間の人気格差で崩壊寸前と聞きます」
「余所様のゴシップをまき散らすのは止めよう」
「あっ、はい。田舎ニキさんが真顔なので、この話題はこれまでにします。えー、気を取り直して。田舎ニキさんはこれまでガイアプロレスのお仕事を多数こなしてますね」
「そうなんだよなぁ…… 霊山同盟のハルカ*3、上田市派出所の馬ニキ*4、十勝支部のウォレスニキ*5に関西ガイアプロレスのレスラーニキ*6、いずれも劣らぬ強敵だった」
「本職レスラーじゃないのに、これだけ試合に呼ばれる秘訣は?」
「支部長というネームバリューがあると、放映権料とかで短期に稼げるんだよね」
「えっ、田舎ニキさんって借金は返済した*7はずでは? 支部長という立場で左団扇な生活ではないのですか?!」
「魚沼シェルターに投資した分だけなら完済したけど、新幹線建設とかやりたいこと多いからね。自転車操業は相変わらず」
「はぁ、支部長といえど大変なんですね」
「今日は試合せずに解説役だから楽できる」
「(進行の指示ボードを見ながら)それでは、小粋なトークは中断していったんCMの時間です」
*
「いやぁ、放課後スイーツ部のCMはいつ見てもキラキラ青春してますねぇ。そんな放課後スイーツ部ですが、これからオープニングマッチの前に花束贈呈役でリングに上がりますよー、視聴者の皆さんは生スイーツ部をしかと見届けてくださいね。それまでのつなぎとして、田舎ニキさんが試合するわけでもないのに中継放送されるカラクリをお聞きしましょう」
「えーっとですね。関西ガイアプロレスは前回の定例興行で謎の覆面レスラー、ゼブラマンが登場して、興行のいつものメンツに新風を吹き込んだわけですが、ニューフェイスをいきなりビッグマッチに投入するのはリスクなわけですよ。今回の地方巡業はゼブラマンが関西ガイアプロレスに慣れてもらう準備期間でもある」
「新人査定なわけですね」
「ゼブラマンはその査定に合格したようで、この地方巡業で積み上げた遺恨を、次の大阪城ホール公演で清算するというストーリーラインが組み立てられました。そうなると、〆の大阪城ホール公演を盛り上げるため逆算してこの地方巡業はどう施策するかという問題で」
「なるほど。つまり大阪公演に集まるお客さんに対し、地方公演でこんな遺恨が積み重なったということを周知しておく必要があると」
「はい、地方巡業まで追っかけてリアルタイムでストーリーラインを体験する熱心なお客さんなんていませんからね。番記者が巡業に帯同して日刊タブロイド紙なり週刊誌なりを(DDS-net上での電子雑誌形態で)発刊するにしても紙面では限度があります」
「その延長で、DDS-net無料配信でこの地方巡業最終戦を中継。〆のビッグマッチ・大阪公演は現地観戦チケットを買うか、オンライン有料配信もあると、関西ガイアプロレスはそういう形で商売するんですね」
「また新潟で過去にガイアプロレスの中継をした実績があるので、機材やスタッフを手配しやすいという側面もあります」
「っと、そろそろオープニングセレモニーが始まりますね、私たちのお喋りはいったん中断して、かわいい放課後スイーツ部の鑑賞に集中しましょう」
*
興行はセミファイナルも終了して、いよいよメインの試合を残すのみとなった。
「さて、最後の試合ですが…… えぇっ! レスラーニキvsゼブラマンの一騎打ちをここで?! これは〆の大阪城ホール公演で決着をつける流れじゃないんですか?!」
「ほぉ…… ここでこのカードを切るのか、ストーリーラインを変えてきた?」
まずは挑戦者であるゼブラマンが、青コーナーから入場する。今までの地方巡業では傍若無人に暴れ回り、いつのまにか子分まで従えていたゼブラマンだが、今日のセコンドは一人だけだ。
「セコンドは着飾った和装美人が一人だけ、ゼブラマンも最終戦は正々堂々と戦うという意思表示でしょうか? ってあれ、魚沼シェルターの金札・九重静さんですよ?!」
「えーっ?! なんでゼブラマンのセコンドに?!」
「魚沼支部長の田舎ニキさんが知らないということは、サプライズ演出! いや、興行を主催する関西ガイアプロレスのレスラーニキじゃなく、
解説役の田舎ニキは押し黙って、食い入るようにリング側の九重静を見つめている。
実況のミカは、とにかく喋って場を繋ごうとした。
「えー、ゼブラマンのセコンドについた九重静さんですが、あれは十日町・機神社の麻績屋媛神が仕立てた振袖ですかね。白無垢でなく色打掛を羽織っていて、ゼブラマンと並ぶとまるで披露宴の主役みたいな雰囲気です」
「静、結婚したのか俺以外のヤツと……」
「田舎ニキさん、しっかり! ここは結婚式場ではありませんよ!」
「もちろん冗談です」
田舎ニキがハイライトオフした眼で力なく呟き、ミカは黒札の地雷を踏んでしまったのかと大慌て。
放送席がそのようなぐだぐだっぷりを晒しているところで、ゼブラマンはセコンドの九重静と一緒にリングに上がる。そして彼女はファッションショーよろしくリングの中央でひらひら踊り始めた。
「リングに上がった九重さんが、麻績屋媛神謹製の振袖をアピールしています」
「ねっ、ネトラレ~~っ!! NTR! BSS!」
「笑えないうえに心臓に悪いので、そのネタは止めてもらっていいですか」
そんなこんなでぐだぐだしているうちに、赤コーナーからレスラーニキの入場シーンは終わってしまった。
「試合開始です! レスラーニキとゼブラマン、両者がリング内で睨み合って…… 真正面からロックアップ! がっつり四つに組みます! おっと、ゼブラマンがアームホイップでレスラーニキを転がします!」
「アームホイップというか、相撲の小手投げっぽい動きだった」
「落ち着いてゆっくり立ち上がるレスラーニキ、どうする、もう一度組み合うのか? ゼブラマンがその場で垂直飛びからのドロップキックぅ! レスラーニキの胸板に突き刺します!」
「助走なしのその場飛びで、打点が高い。ゼブラの名の通り、馬のように脚力は強そうだ」
「今まで凶器攻撃をメインに暴れまわっていたゼブラマン、今日はうって変わって真面目にレスリングしています」
「真面目過ぎてレスラーニキが逆に戸惑っている」
レスラーニキとゼブラマンの二人は、組み合い関節を取り合い、ときにチョップや蹴りを応酬していたが、やはりレスリング技術はレスラーニキに一日の長がある。グラウンドで劣勢なゼブラマンは組むのを嫌がり、蹴りに活路を見出す戦法に変えてきた。
「10分経過して、中盤に入りました」
「ゼブラマンのドロップキックはノビとキレがあるねぇ。新日本の西村修がドロップキックを主軸に試合を組み立ててた時期があったけど、あれを思い出す」
「ロープに振られたレスラーニキが、ロープを掴んでタイミングをずらす! しかしゼブラマンのドロップキックが大きくノビて、レスラーニキの腹に着弾!」
「すげぇ、今の届くんだ。ドロップキックすかしが効かないとか、なんという跳躍力」
「でも着地タイミングをずらされたので、ゼブラマンも受け身失敗しましたね。仕掛けた側のダメージも馬鹿になりません」
二人してリングの中をごろごろ転がっていたが、先に起き上がったのはレスラーニキだった。彼はゼブラマンの背後に回ると、その胴体に両腕を回す。
「ぶっこぬきジャーマン! 大技が決まってゼブラマンは大の字! レスラーニキが珍しくコーナーポストに登ります!」
「あれだけ飛び跳ねたゼブラマンへの意趣返しかな。レスラーニキも飛べるって示したいんだろう」
「おっと、普段は飛ばないレスラーニキがポストに登るのを手間取っているうちに、ゼブラマンも息を吹き返しました。どうするレスラーニキ?!」
ゼブラマンも大の字から上半身を上げて尻もち状態になるが、そこからコーナーポストに駆け寄ってレスラーニキのダイビングアタックを防ぐだけの余裕はない。
「レスラーニキ、コーナーポスト最上段からのダイビングボディプレス、飛んだーっ!」
そこでゼブラマンはついに切り札を切った。
「
顔面どころか全身を赤く染めたレスラーニキは、リングに無残に墜落すると、そのままごろごろとリング外に転げ落ちた。
「モロに食らいましたね、今のはゼブラマンの作戦勝ちです」
毒霧が目に染みて痛みにのたうち回るレスラーニキは、レフェリーが場外20カウントを数える中、ついぞ復帰することなくリングアウト負けとなった。
「レスラーニキまさかの敗北! え、これ〆の大阪公演どうなっちゃうの?!」
会場内が予想外の結末に騒然とするなか、ペットボトルのミネラルウォーターで顔を洗い流してようやく動けるようになったレスラーニキが、マイクを取る。
「おい、ゼブラマン。お前、平田だろ」
その瞬間、会場がどっと湧いた。
「レスラーがマスクマンの正体に言及する、掟破りの爆弾発言! これはマズいですよ!」
「藤波辰巳の迷言リスペクトかもしれないよ」
リング上で勝ち誇っていたゼブラマンは、首を横に振ってノーの意を示す。
しかしレスラーニキの怒りは止まらない。
「平田だろお前! 平田だろ! もうわかってるんだ正体は! お前の正体を暴いてやる! 次の大阪城ホール、勝ってお前のマスクを剥いでやる! その代わり、俺が負けたら坊主頭になってやる!」
「ああっと、レスラーニキ、怒りのマスカラ・コントラ・カベジェラを要求! マスクマンの命である覆面を剥ぎ取るか、屈辱の髪の毛丸刈りか、究極の二択を叩きつけます!」
ゼブラマンはその申し出にしばらく逡巡していたが、やがて観客に向けて耳をそばだてるポーズをする。観客は大いに沸いて、レスラーニキとの決戦を後押しする声援でいっぱいになる。
それで決心がついたのか、ゼブラマンはレスラーニキに向けて首を一つ縦に振った。
「ゼブラマン、受けました! 大阪城ホール公演、まさかのマスカラ・コントラ・カベジェラ戦が決定!」
「決着を単なるシングルマッチで終わらせずに覆面剥ぎマッチにするのか、ゼブラマンは思った以上に高評価されたね」
「そろそろお時間です、関西ガイアプロレス信越巡業シリーズ最終戦、実況は私、聖園ミカと」
「解説の田舎ニキでした」
「さよなら、さよなら、さよなら*8」
ゼブラマンと九重静のNTR匂わせ、実は田舎ニキのTS分身体が仕組みました。
田舎ニキ(本体)と九重静の仲がマンネリなので、間男のスパイスを投入し、TS分身体が本体に精神干渉して嫉妬心を煽る予定でした。
余所から借りたキャラの扱いがさすがにライン越えだったので、そこは丸ごとカットしました。