新潟県十日町市の十日町シェルターは【金札】が管理運営しているシェルターであり、地元霊能組織・九重一族の重下某*1が現在の責任者である。九重一族は【黒札】田舎ニキこと碧神凍矢に早くから従ったこともあり、田舎ニキの本拠地である魚沼からすぐ近くにある十日町を任せられたという経緯がある。当初は魚沼に近いことしか取り柄のなかったこのシェルターだが、新潟から山梨までの霊道*2が敷設されて以降は、長野・山梨方面への街道の玄関口として存在感を増している。
黒札直営の支部でもでない限りは大型【ターミナル】を設置することは難しく、金札スヤリスが運営する三重第二支部には大ターミナルがない*3ように、十日町・直江津・糸魚川など新潟各地のシェルターにも大ターミナルは置かれていない。
【ガイア連合】技術部が【終末】後にも運転可能なオカルト自動車を生産*4しているだけでなく、新潟では石油が産出する*5こともあり、新潟県でのシェルターにとって物流・輸送と言えば基本はトラックになる。なかでも霊道として整備されており悪魔に襲われにくい新潟・山梨間ルートは、安全性という意味でトラックドライバーに人気がある。
この新潟・山梨間の霊道は、途中にある長野県上田市【派出所】の黒札・馬ニキの献身*6で維持されているのだが、さしもの彼でも天候はどうにもできない。季節が冬になり雪が降ると道路は使えない。いくら黒札といえど自然現象には手も足も出ない。
馬ニキは月二回のペースで
古来より人は寒くなると冬籠りして出歩かず、備蓄を食い潰しながら雪解けまで耐え忍ぶ。シェルターの結界周辺を不法占拠するような、いわゆるスラムの住人はまともに冬対策できていないだろうから、ばたばたと倒れていくだろう。スラム住人のうち目端の利く輩は静岡・霊山同盟支部など暖かい地域に脱出しているだろうし、どうしようもない無能が淘汰されるだけだと自分を慰めたところで、彼は念のため確認しておこうとCOMPを起動し、通信機能のショートメールで十日町近隣の積雪状況を馬ニキに向けて送信した。
「春になるまで暫しのお別れです…… 黒札相手の文面は気を遣うな、挨拶文はこれでいいか」
メール送信前に誤字脱字チェックを二回行った彼は、今まさに送信しようとしたところで、馬ニキからの返信を先に受信した。
『これくらいの積雪なら大丈夫です、いつも通り来週伺います』
「お前は何を言ってるんだ?」
積雪で道路が不通になると送ったら大丈夫と返された。メールの文面を読んでつい独り言でツッコミを入れた彼を責めるのは酷であろう。
*
一方そのころ、馬ニキは浮かれていた。
「俺の愛車がパワーアップして返ってきた!」
かつて、馬ニキの愛車ことリヤカーはキングギドラ退治の際にスクラップとなった*7。彼はそれを惜しんでガイア連合技術部に修理を依頼し、技術部の頭のおかしい連中が悪乗りして、トンデモリヤカーとして再生したのである。
「改造オボログルマの理論を使い、妖怪・火の車*8をベースに火属性を付与! オプションで除雪用ブレードをアタッチして除雪車仕様だなんて、これからの季節にぴったりじゃないか!」
馬の要素が強まったためか、荷車を牽いて疾走することに一層の楽しみを覚えた馬ニキは、新しいオモチャを使いたくてどうしようもない。
「うーん、【スレイプニル】に
デビルシフター能力を斜め上の方向に訓練し始める馬ニキだが、それを止める者は誰もいない。
「主様が嬉しそうならそれでいいんじゃないですかね」
付き合いの長い黒札専用シキガミのヒメはそう笑って見守るだけであり、他の仲魔たちや派出所運営の金札たちも専用シキガミがそう言うのならと口を噤む。
彼の努力が実を結ぶのか、それは誰にもわからない。