【終末】後の世界において『ファミチキ』食べたいと言い出すような輩、それが【黒札】連中である。
季節の風物詩にして奇祭、春のヤマザキパン祭り── 彼ら彼女らがそれの復活をふと思いついたことを誰が責められようか。
いや、思いつくだけならセーフだけど、深く考えずに実行しようとして周りを巻き込むのは、責められてしかるべきだと思うけどね。
「もちもちの食パン、ソーセージやマヨネーズがこれでもかと乗せられた惣菜パン、これらは今や【ガイア連合】にしか製造できないと言っても過言ではないでしょう」
「個人消費するだけならともかく、大量生産という観点ではガイア連合が一番でしょうね」
「全国津々浦々の食品店に配送するのは流石に流通コストの面で無理ですが、通販という形で既存の流通経路に乗せるだけならまあなんとか。決算をガイアポイント限定にすれば、ガイアポイントカードのカードIDにポイントを紐づけして手間が減ります」
「あのシールと台紙は好きだったけど、偽造対策とか考えるとそれが簡単かな」
「ポイントを集めて貰えるお皿はKSJ研究所*1の特産品である蟲毒皿にしましょう。貰って嬉しい実用品ですよ」
「単なる食器よりは貰って嬉しい、か?」
「後は美味しいパンを大量に製造するだけ! まあそこが一番の難関だけど……」
ろくでもないことを考えつくのは定評があるが、実行力を伴わない駄目人間系【俺たち】。彼らの与太話で終わるはずだったこのアイデアは、闖入者により変な方向へと転がり込むのであった。
「話は聞かせてもらった! 我々に任せてもらおう!」ババーン!
「だ、誰だ?!」
「私は、愛と美の女神にしてパンと乳の権能を持つもの、【ハトホル】!」
「同じくエジプト神話の農耕神にして冥界神、【オシリス】! 人にパンとワインの製法を伝えたもの!」ドドーン!
「な、なんだって~~っ?!」
* * *
「という訳で、どう? 春のパン祭に馬ニキも一口噛んでみない?」
「うーん……」
エジプト関係の相談役に就任した脳缶ニキ*2が、協賛を募って手あたり次第あちこちに声をかけている。
「パンの権能・逸話を持つ神格なんか世界中にいるだろうし、エジプト神話だけ贔屓にしていいものなのかい?」
「心配ご無用! こういう愉快なイベントは早い者勝ちと相場が決まっているからね! それに星霊神社に出店したパン屋【パンでモーニング】の宣伝も兼ねていてね」
「うーむ、まあヒノエ米や蕎麦ばかり食べていると、たまにはパンも食べたくなるし、まあ協賛金を出すくらいなら構わないか……」
脳缶ニキは山梨の黒札用修行場異界深層でレベリングに励むだけあって、修行場異界の下層にようやく挑み始めた馬ニキではその圧に耐えられなかった。
「毎度!」
協賛を得られてニッコニコの脳缶ニキは、彼なりのサービス精神を発揮してとある懸案事項を処理することにした。
「じゃあちょっとサービスしちゃおうかな?」
「サービス?」
「馬ニキ、種付けファンドをこの前設立*3してたよね。【バステト】神がそれに興味示しててさ、近いうちに【猫又】を連れたエジプト女性が一人、君のシェルターを訪れるだろうから。よろしくね」
「え、よろしくって、あ、ちょっと!」
話が纏まったとばかりに脳缶ニキはDDS-netのオンライン会談を打ち切り、呆然とした馬ニキが後に残される。
「多数申し込みを絞り込んで、お断りメールを出しまくったばかりなのに…… 有力黒札が横から捻じ込んだって知られたら、また揉めるよ」
大きな溜息をついて項垂れる馬ニキであった。