【終末】前にメシアンvs多神連合の決戦がエジプトの地で行われ*1、エジプトは神殿や霊地がまとめて吹き飛んだ。エジプト神たちは地上を去って魔界に撤退し、現世には信徒である墓守の一族がほんの僅か残された。
故郷の神々に見放されたエジプト一族の代表は【ガイア連合】に泣きつき、ショタオジの計らいで日本に避難所が建設された。これがガイア連合設立後のかなり早い時期で、それ以来エジプト陣営は故地奪還よりも残っている信者の安全確保と地位向上を主目的として行動し、関東近辺にピラミッドとスフィンクスを建築して安全圏の確保と他シェルターとの交易、ガイア連合の人間とも何名かは結婚している。*2
結果として、日本におけるエジプト陣営は残された女神【ハトホル】と信徒代表である【クレオパトラ】転生体霊能者が幅を利かせており、それ以外のエジプト神は肩身が狭い。
「はじめまして、スティと申します。相棒の【猫又】テトともども、よろしくお願いいたします」
脳缶ニキ*3の粋な計らい(当人の主観)により、【バステト】神から派遣された女性と対面し、馬ニキはバレないよう小さく溜息をついた。
事前に渡されたプロフィールでは、彼女はアラサーで子を産むことに支障はないとされていた。しかし実際に顔を合わせてみれば、(日本と比較して)劣悪な環境で生活していたためか、アラフォーどころか初老と言われても納得するほどに老化している。おそらく生理も止まっているであろう。霊能者として最低限の覚醒を済ませているだけマシだが、この女性が妊娠可能になるまでは一手間も二手間も掛ける必要がある。
もっとも、馬ニキはバステト神に文句を言うつもりはない。エジプト陣営では非主流派のバステト神にとって、これでも手持ちの中の最上なのだから。
それに、個人の好みに合わなくても契約遵守してしっかり孕ませるのが種馬に課せられた使命であり、僻地・極東に派遣されるような『ワケあり』相手でもきちんと仕事をこなすのが評価を上げる確実な方法である。
「ようこそ『浦野牧』へ。あなたを歓迎します」
握手を交わした後、馬ニキは彼女を椅子に座らせて事務手続きに入った。
「まずはこのガイアポイントカードを、身分証明書としてお渡しします。あなたは今日から二年間、私が身分を保証します。──私に不利益をもたらさない限り、ですが」
スティはカードを押し戴くように受け取り、それをまじまじと見つめた。これが(最低でも)今後二年間を保証してくれるものであり、日本における最低保証がエジプトでの最高ランクと考えれば、我が身の幸運を噛みしめざるを得ない。
「あなたは最低限覚醒しているようですが、高レベル能力者の子を妊娠するには身体が耐えられません。まずはガイア連合長野県上田市派出所付きのデビルハンターとして働いてください。レベルアップすれば肉体の若返りも発生するでしょうし、あなたの収入に直結しますし、当シェルターへの貢献度合いとしても一番わかりやすい。貢献が認められれば、種付けしましょう」
ここら辺は事前説明でスティも同意していることだが、それでもデビルハンターという命懸けの商売を強制されるのは並大抵の覚悟ではない。異国の地に一人、守護霊兼相棒の猫又がいるとはいえ、身震いするのも仕方ない。
「最初の三か月はウチの職員寮に空き部屋があるので、そこに入りましょう。そこなら衣食住のうち食・住の心配は不要です。お渡ししたカードには支度金代わりのガイアポイントも入っているので、それで装備を整え、三か月でデビルハンターとしてやっていけるようになってくださいね。それから」
馬ニキが合図をすると、ドアが開いて面談していた部屋に数人が入ってきた。
「はいはーいっ、ミサカでーす!」
頭に小鳥を乗せた少女が元気よく腕を振り上げる。なお小鳥の外見は日本アルプス連峰に生息するライチョウに似ている。
彼女はアメリカ・ラスベガスのメシア教過激派拠点で製造され裏ラスベガスに『保護』されたモブ異能者であり、異能者を増やす母体として多神連合に『買われ』た存在である。ミサカはぱっと見で10~12歳ほど、人間が子を産める下限にぎりぎり足りているかいないかというところ。
「私のことはヴィーと呼んでくれ。君が新しい仲間か、よろしく頼む」
ドルフィンヘルムならぬ馬ヘルムを被った東欧・ロシア系女性が次に挨拶する。ロシアの女性は若いうちは妖精に例えられ年を取るとビア樽に例えられるが、半妖精半ビア樽といったところか。被っている馬ヘルムに守護霊が宿っているようである。
「タネです、よろしく」
最後に言葉少なく挨拶したのは、こちらも推定アラサーのポリネシア系年増女。彼女が連れているのは羽根が退化して歩くのに特化したダチョウのような鳥であるが、サイズ的には鶏よりちょっと大きい程度か。
「よし、これでデビルハンターのチーム予定メンバーが揃ったな。後は彼女たちに聞いてくれ」
馬ニキはそう言うとそそくさと部屋を退出し、部屋には四人の女性が残された。
スティは三人をぐるっと見回し、何となく不安に感じる。それが表情に出たのか、ヴィーが軽い口調で話しかける。
「大丈夫だ、我らは『ハズレ』ではないぞ」
「そうそう、ハズレってのは堂々と【ペガサス】を引き連れてきたイカレポンチ女郎のようなことだからね」
「ペガサスを?」
大和神が主導する黒札種付けファンドは、日本の宗教観に沿った八百万の神(妥協しても日本仏教まで)でないと参加できない。
スティの猫又を始め、いずれも他神話体系の神格の劣化分霊を日本用にカスタマイズしてようやく許されたのであり、ギリシャ神話の存在であるペガサスが許されるなどルール破りもいいとこである。
「それがさ、聖徳太子伝暦や扶桑略記によると甲斐の黒駒は聖徳太子を乗せて空を飛んだのだから、空を飛ぶ馬がいても問題ないって。その論法で押し切られる方も悪いんだけどね」
何が可笑しいのかケタケタ笑うミサカ。それにつられてスティも曖昧な笑顔を浮かべ、思ったよりはフレンドリーに接してくれることに少しだけ安心した。
「我らはいずれも黒札の種を貰う役を課せられたが、限られた種を取り合うような蹴落とすべきライバルではないからな。チーム全体で息の合った動きができれば、デビルハンターとして長生きできるし貢献度も稼げる。結果として目標達成できるのだから、君とも仲良くできると思っている」
そう言われると、スティとしても身構えているばかりでなく襟を開いても良いかと思えてくる。
「今日の夕食は新人歓迎会として盛大にいくとして、それまではどうする?」
「温泉で旅の垢を落としましょう」
「はーい、ミサカはショップ巡りを提案! 品揃えの豊富さやしっかりした品質を見たら、もう闇市には戻れないこと請け合いだよ!」
海外から来た出自の異なる凸凹四人組が新米デビルハンターとしてデビューする話、続き…… ません。
今回登場したデビルハンターたちは、基本的にモブであり、今後登場することは(多分)ありません。
みな厄ネタを抱えたワケありで、僻地・極東へ飛ばされるに相応しい者ばかりです。こんなのばっかりで馬ニキの心労は絶えない。
チーム『婚活戦士団』
スティ(3x歳・女) Lv1 中東系 エジプト神話バステト神の加護。相棒は猫又。
大年増。レベルアップによる若返りだけでなく、青森・恐山の若返りの水も必要(と馬ニキは推測している)。
ミサカ(11歳・女) Lv1 ??系 ネイティブアメリカン・大自然の精霊(サンダーバード)の加護。相棒は送り雀。
デビルハンターとして稼いで寿命延長処理を受けない限り、20歳ほどで死ぬ。雷撃アタッカー。
ヴィー(3y歳・女) Lv1 東欧系 スラブ神話スヴェントヴィトの加護。相棒はおしら様。
スヴェントヴィトは白馬がシンボルなのでそれ繋がり。スヴェントヴィトは戦神でもあり、パーティでは物理アタッカーの役割。スティほどではないが年増。
タネ(3z歳・女) Lv1 ポリネシア系 マオリ神話で森とそこに生きるすべての生命の支配者、タネ・マフタの加護。相棒は青鷺火。
ニュージーランドにかつて存在した恐鳥モアが青鷺火の原型。カヌーを操るのが上手い。スティほどではないが年増その2。
チーム『妊活騎士団』
??(??歳・女) Lv1 南欧系 ギリシャ・ローマ神話ポセイドン/ネプチューンの加護。相棒はペガサス/甲斐の黒駒。
周囲からイカレポンチ女郎と評される、残念美人。
??(??歳・女) Lv1 中東系 メソポタミア神話アダトの加護。相棒は牛痘児。
アダトは牡牛がシンボルなのでそれ繋がり。アダトはウガリット神話のバアルと同一視され、スティと同じく脳缶ニキの口利き。
??(??歳・女) Lv1 ??系 マヤ神話チャクの加護。相棒は夜刀神。
チャクは雨と雷の神であり、アステカ神話トラロックと同一視される(女神転生シリーズには幻魔トラロックとして登場済)。ミサカ2号。
??(??歳・女) Lv1 日本人 メシア教穏健派デュエリスト。相棒はサン・ジワン(隠れキリシタンの崇拝する天使)。
ガイア連合ホビー部のデュエルアカデミア卒業生。