【ガイア連合】は転生者、いわゆる【黒札】の互助組織(一応)である。過保護な
そのため黒札が恩恵を受けるためには何かしらを提供するのが基本である。その
ただし、転生者は霊的才能の素質がSSRでも、しっかり修行して【覚醒】し才能を開花させた者と、ろくに修行せず【未覚醒】のままの者との、二種類に分かれる。そして種馬として子作りしても、生まれる子の霊的才能は前者の方が高い。覚醒者の子供というのは効率的に力を受け継ぐので、同じ種馬でも覚醒している方が良い*3のだ。
馬ニキは【終末後】に遅ればせながら種馬ビジネスに参入したのだが、そこは既に多数の同業他社がひしめく、まさにレッドオーシャンと呼ぶに相応しい業界だった。彼としては、有象無象のクズ黒札と異なり、自身が高Lv霊能者だから生まれる子の才能上限が高いという部分で差別化できるはずだった。それに種馬ビジネスに全振りするのではなく、ガイア連合【派出所】運営の片手間に行なうサイドビジネスのつもりだった。
だがまあ、楽して稼げるなんて美味い話は転がっていないのが現実である。
なにせ、実績がないので孕ませる母体も相応のものしか来ない。これは競馬用の馬産ビジネスでもそうなのだが、未実績の種馬に全てを賭けることは普通は行なわず、挑戦・冒険は損切りしてもいいよう余禄で行なうのが常識である。そのため年齢的に妊娠出産の旬を過ぎていたり、それまでの『生産物』の質(才能上限)が悪いなど、言ってしまえば粗悪な見切り品しか選ぶ余地がない。
種馬としての価値を上げれば、より良い母体が集まって『生産物』の質が上がり、さらに自身の価値が上がるという上昇スパイラルが発生する。逆に種馬としての価値が下がれば下降スパイラルが発生する。あくまで副業だから赤字にならないならそれで良いという考えもあるが、馬ニキはそこで妥協しなかった。
種を蒔く畑が貧弱で実りが見込めないなら、土壌改良して畑の地力を増進させればいいじゃない。土壌改良にかかる費用が持ち出しになっても、種馬としての価値が上がれば将来的にペイできる。そう考えるに至ったのは、派出所運営するような黒札は真面目な一面を持っていることが多いからか、それともスケベ部所属のメンツにかけて孕ませ行為に妥協できなかったからか。
彼が最初に着手したのは、孕み袋である母体の霊的才能上限アップである。これは彼がLv60弱と(終末後基準で)黒札内でもそれなりの強者であり、精を受ける側が未覚醒あるいは低Lvだと『ぱぁん』*4してしまうという切実な問題があった。
『ぱぁん』対策としては【房中術】でわざと精液に含まれるMAG濃度を薄めて放出するというテクニックもあるが、生まれる子の才能上限に影響するので種馬ビジネスの評価を上げるためには使いにくい。またコンドームによる避妊率が100%でないのと同様に、精液を薄める方法も100%安全ではなく事故の可能性はついて回る。
繁殖母体にはまず派出所付きのデビルハンターとして活動させ、Lvアップしやすい環境に置く。Lv上限が10未満の母体(集まった母体のほとんど)については週一回のペースで房中術によるLv上限緩和*5の施術を行ない、とにかくLv10未満の者は孕ませよりLv10到達を優先させる。デビルハンター発動中に死なないよう初期装備を費用負担するなど、マキマネキ*6の野良覚醒者育成に負けず劣らずの手厚い支援。
それだけ手間を掛けても、妊娠後の母体は派出所に居つくとは限らない(契約により母方の守護霊コミュニティーへ戻ることが許されている)あたり、赤字垂れ流してでも種馬評価を高めたいという男の意地だろうか。
種馬稼業をやると、【マリンカリン】【ダストマ】などの魅了・幻術系や【ディア】【一分の活泉】などの回復・スタミナアップ系のスキルを覚えることが多い。
しかし馬ニキはちょっと特殊なスキルを覚えてしまい、スケベ部総大将であるミナミィネキに相談することにした。
「【エナジードレイン(逆)】と【生命魔脈の泉(瞑想)】ですか。いやはや、種馬稼業には有用ですが、悪魔と戦うには使いづらそうですね」
ミナミィネキがスキル効果の検査結果を見ながら、顎に手を当てて考え込む。
エナジードレイン(逆)は、自身が少量のHP/MPを失う代わりに味方単体が少量のHP/MP回復する。発動条件として互いの素肌を密着させる必要があり、回復効率の面から見ても戦闘中には使えない。
生命魔脈の泉(瞑想)は、【生命の泉】+【チャクラウォーク】の効果で、歩く代わりに瞑想することが条件。こちらも時間当たりの回復量は少な目で、偽マフティーニキの奥義ダンス*7に比べて回復効率は劣る。少なくともダンジョン内で使用するには敵の出現しないセーフティエリアに留まる必要がある。
「そうですねぇ…… 平田さんは一般スキル【瞑想】を鍛えましょう。あ、【だいそうじょう】が使う【エナジードレイン】の名前違いではなく、座禅とかの方ですよ。禅には座って行う座禅の他に、歩禅・走禅など身体を動かしながら行うもののありますので、セックス禅とでも言うべきでしょうか。それを習得すれば、理論上は永久機関ですね」
「永久機関、ですか」
「はい、世界に満ちる
「駄目じゃん」
「というか、この方法は霊能者を強化するには効率悪い部類ですよ。悪魔と戦ってMAGを吸収するとか、シキガミパーツを移植するとか、手っ取り早い手段は他にいくらでもあります。命の安全とかパーツ相性とかそういうリスクを減らした『ゆっくり覚醒修行』の部類では高効率でしょうけど、高能力の修行補助者に頼ったごり押しという見方もできますね」
ミナミィネキは真面目な表情を作って馬ニキの顔をじっと見つめる。
「エナジードレイン(逆)は多用すると自身のレベルダウンに繋がるから注意してくださいね。低Lv相手なら分け与えるMAGもさほどではありませんが、多数相手となると塵も積もればなんとやら。平田さんは黒札専用修行用異界・下層に出入りできるので稼ぎ場に困らないのでしょうけど」
ミナミィネキも条件付きとはいえレベルドレインクラスのエナジードレインを使える*8ので、アドバイスを一応はしておく。
その裏で、彼女は馬ニキの特性に眉をひそめていた。
そもそも吸うんじゃなくて与えるのは、
黒札がシェルター守護神の一部権能(氏子スキル)を使えるようになるのはマシュさん*9とかもいますので、その延長と言えなくもないのですが。単なるMAG分譲に留まらず才能上限(Lv上限)アップまでとなると何らかの霊的概念をも譲渡していることになり、シェルター守護神(馬背神)の『代理人』の範疇を越えている?
馬・家畜という特性上、人に奉仕することが苦じゃないという面はあるのでしょうけど。
「まあ、【終末後】の今更になって種馬ビジネスというレッドオーシャンに参入したので、何らかのウリ・差別化が必要だと思いまして。とにかくスタートダッシュで種馬としての評価を得られれば、優秀な母体が集まるようになるのでいずれやらなくても良くなると思うんですけど」
「どうでしょうかね。低Lv能力者支援を無償でやっているからこそ、繁殖母体に低素質者が集まり続けるかも知れませんよ?」
「脅かさないでくださいよ」
「いえ、脅しじゃなくて、本当に心配しているんです」
ミナミィネキが本音であることを伝えると、馬ニキは甘柿と間違えて渋柿に齧りついたかのような顔になった。