私が編集に係わった同人誌もよろしく!(ダイマ)
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新潟・魚沼地方の名家である九重一族が集まる大広間。そこに繋がる廊下で、一人の中学生男子が緊張を隠せずにいた。
「稔君、武者震いですか? 失敗しても取って食われるわけではありませんから、気負わずに。はい深呼吸」
「あ、静姉さん……」
重下稔、九重一族の中では分家のひよっこである。しかし彼はとあることから【覚醒】し、【黒札】碧神凍矢の伝手で【ガイア連合】へ霊能修行に行き、ひとかどの霊能力者としてこの地へ戻ってきた。このたび、彼の能力を凱旋披露する場として、一族が集結しているのである。
すぅはぁと幾度か大きく呼吸して、彼は覚悟を決めたのかきりっと口元を固く結ぶと、静に無言で軽く頭を下げ、くるりと振り向いて大広間へと歩みを進めた。
静は、ずっと自分の腰巾着だった彼が一皮剥けて成長したことを内心で喜び、これまた視線で彼の背中へ応援のエールを送った。
「重下稔です! 若輩者ですが、よろしくお願いします!」
彼は大広間に集った人間たちから容赦なく浴びせられる視線に怯むことなく、直立不動の構えで先達に礼をする。そして彼は、着用している学ランの第一・第二ボタンを外し、懐に手を入れると一枚のカードを取り出した。
彼の人差し指と中指の間に挟まれたカードは、クレジットカードとほぼ同等サイズの、一般的なトランプと言って差支えないものだった。彼はそれを片手で高く掲げ、まるでテレビ特撮番組のヒーローであるかのようにビシッと決めポーズを取った。
「ああ、あれが噂の……」「この距離からでも凄い霊力を感じるぞ」「本当に制御できるのか?」
曲がりなりにも地元霊能組織として成立している九重一族、最低限の見鬼能力しか持たない者ばかりだとしても、それなりの人数がいる。彼ら彼女らは、稔の持つカードが『本物』であることを察した。
「遥か都からこの地に流れし貴種にして守護神よ、我が求めに応じて来たれ!
彼が持つカードは、一見するとただのトレーディング・カードである。しかしその実態は、ガイア連合ホビー部の技術の結晶であり、管狐を封じる管と同様の効果を持つ、使役悪魔を封印するオカルト道具であった。
彼は掲げたカードを己の顔の前に引き戻し、額にカードの隅を軽く当てると、気合を込めてそうはっきりと口にする。すると、カードから閃光が走って、それに封じられていた超常存在が幽世から現世に降臨する。
「うぉっ、眩しっ!」「目が、目がぁ……」「ほぅ、あの短い祝詞で」「でっか……」
彼の一挙手一投足を見逃さまいと凝視していた者たちは、その閃光に目を焼かれる者、彼の召喚術に感心する者、あるいは廊下から後方腕組みして可愛い弟分を見守る者など、様々であった。しばしのち、カメラのフラッシュ程度の光量の目つぶしから回復した一同は、彼の隣りに佇む存在に目を奪われた。
「姥石明神、契約者の求めに応じ、今ここに」
姥石明神は、ぱっと見で年のころは30代後半の女性である。存在の由来は平安時代の伝承なのに、当時の上流貴人の
しかし、地元霊能力者としてオカルト騒ぎを飯のタネとし、命のやり取りさえ幾度もしてきた古強者からすれば、話は変わる。ここで彼が『この場にいる人間を皆殺しにしろ』と命令すれば、少なくとも半数はなすすべもなく死ぬだろうし、一対一で真正面から戦えば当主の静がぎりぎり辛勝できるくらいであろう。彼らは固唾を飲んで、彼我の実力を把握すべく凝視していた。
「お披露目はこれくらいで良いでしょう」
パンパンと手を叩きながら、当主の九重静が後から入ってきて、場の緊張を崩す。
「これが、ガイア連合から、碧神様から齎された力の一端。備前の短刀や霊銃トカレフなど、みなにも順次行き渡るでしょう」
静の『お前たちにもそのうち恩恵あるから、焦って変なことするなよ』という釘差しに、稔少年も九重一族もみな揃って頭を下げる。
こうして稔少年のお披露目は無事に終わり、ガイア連合と縁を結ぶことの利点をはっきり示した静の権威も高まった。
*
お披露目が無事に終わった後、九重静と碧神凍矢は余人を介さずに打ち合わせしていた。
まずは軽く雑談から、と先程の稔少年の益荒男ぶりを二人で誉め合う。
「ところで、彼の学ランですが、明らかに改造されてましたよね? あれもガイア連合が?」
「ああ、学帽と外套も合わせて、大正時代をイメージしたとか」
「まるで、そのころに活躍したという葛葉四天王のおとぎ話のようでした」
「服飾部は多分そのつもりで改造したんじゃないかな。まあ身の丈に合わない装備は持たせない方針だから、一騎当千の葛葉四天王の装備品と比べたら、月とスッポンの性能差があると思うけど」
「それでも、九重家の秘伝の品よりずっと上ですけどね」
静は苦笑と共に小さな溜息を零し、少しだけ間を置いた。凍矢は彼女の顔に浮かぶ憂いに気づいたが、黙したまま彼女の次の言葉を待つ。
「ガイア連合から、新しい引きが来ているのです。九重一族の若手、主に未覚醒の小中学生を修行させてやるって」
「それは……美味い話に聞こえるな」
凍矢を通さずに直接九重静にオファーがあったことに、彼の警戒心が反応する。凍矢は片眉だけ上げて、無難な返事をするに留めた。
「ちなみに、その引きはどこから?」
「重下君を預けた新田美波さんからです」
「あっ(察し)」
おそらく、スケベ部のボスであるミナミィネキは、九重静と碧神凍矢へ同時に連絡したのだろう。彼女は凍矢の頭ごしに交渉するような不義理な人間ではない。ただ受け取るタイミングの都合で、静の方に先に話が通ったのだ。
「俺のところにも同じ話が来ているはずだから、俺の方から詳しい条件を詰めとくよ」
「お願いします。こちらは誰を送るかのリスト作成だけ準備しておきますね」
スケベ部と静が直通で交渉することに強い危機感を覚えた凍矢は、仲介役を買って出た。
『やべえよやべえよ、スケベ部からのオファーなんて絶対ロクなことにならないだろ! 少なくとも静だけは俺がガードしてやらないと!』
凍矢はこうして、現地霊能者の九重静へまた一つ肩入れするのであった。
なおスケベ部からすれば、俺たちが凍矢と静のキューピッド役だぜぇと思っていたらしい。