馬背神社は本殿が裏山を少し上った所にあり*1、社務所は山を下りた地元の公民館に併設されている。
そのため普段の神社は無人であり、小学生が山遊びのついでに境内で休んでいるか、大晦日から初日の出までの二年参りのときに焚火を監視する人がいるか、人がいるとしたらその程度である。今日は祇園祭(子供の部)なので子供がいるはずもなく、ここで里を一望しながらゆっくり日が傾くのを待つつもりだ。
今日は神社のお祭りだからなのか、注連縄にぶら下げられた
<ヒメ>と並んで二礼二拍手一礼。
『三月に出ていくと挨拶しましたが出戻りました、明日お神輿を担がせて頂きますがよろしくお願いします。それから無事覚醒できました、これも神様のおかげでしょうか、ありがとうございます。できれば<ヒメ>が人外とばれずに何事もなく終わりますように』
内心で適当に(この場合はアバウトにという意味で)報告と簡素な祈りを込め、下げていた頭を上げる。
神前から下がるついでに、以前に見つけたこの神社の異界を検分する。
「あれ、前より結界の綻びが大きいような気がするな。<ヒメ>は何かわかる?」
常人が見れば何もないところでしゃがみ込んで首をかしげる。前回は応急手当としてないよりまし程度の補修をしたはずだが、それは跡形もなくなっている。緊急ではないが、以前より注意ランクを一つ上げた方が良さそうだ。
「ほう、それを見抜くとは、此度の氏子は優秀だの」
「?! 誰だ?!」
<ヒメ>が<ヒメ>ではない。表情も声音も仕草も、<ヒメ>のはずなのにまったく違う。
「そう警戒するでない、
「げぇーーっ?!」
ショタオジ、高級式神はハッキング対策ばっちりって言ったじゃないですかーっ! 乗っ取られているんですけど?!
「案ずるでない、其方の式にいっとき憑依しているのみ。吾の氏子が使役している式といえど、
「つまり、俺が
「其方に分かりやすい表現ならそうなる。さらに言えば、其方がこの式を何とかしてくれと吾に願ったからこそ成立している」
あっ、これ源氏ニキの式神<ライコー>が源頼光と本霊通信したのと同じパターンか?*2
「そう警戒するでない。吾が忌々しい天使どもに封印され、才ある氏子たちが根切りされて以来、還暦ぶりの見込み有る氏子。別に取って食ったりせぬ」
「はぁ、では、馬背神様はいかなる御用で顕現なされたので?」
俺の腰の引けっぷりが可笑しかったのか、馬背神はくすりと笑ってからお願いという形の命令を口にした。
「其方にはこの異界を攻略して貰いたい」
「えっ?!」
「吾が天使どもに封印された後、ここは吾の庭として我の分霊が管理していたのだがな、近年の地脈の乱れ、其方にはゲートパワー増加と言う方が伝わるか? により、望まぬ野良悪魔が湧くようになって、恥ずかしながら異界ボスの座を奪われてしまった」
「ええっ?!」
「吾が結界を維持しているので今はまだ悪魔が現世に溢れることはないが、それも時間の問題よ。季節が一巡りするまでにこの異界のボスを討伐するのだ、頼んだぞ、我が氏子よ」
最後の方はこちらに分かりやすい表現に寄せてくれた*3馬背神は、言いたいことを言い終わったのか、<ヒメ>への憑依を止めて気配が去っていく。<ヒメ>の体勢ががくりと崩れたので慌てて支えると、眠りが必要ない式神のはずなのに深い眠りについているようだ。なんだろう、低レベルの式神では神降ろしに負荷が掛かったのだろうか。
とりあえずは実家に連れ帰って布団に寝かせてやらないと。熱中症とか適当な嘘ついて仮病させるつもりだったが、瓢箪から駒になってしまった。