【カオ転三次】マイナー地方神と契約した男の話   作:れべっか

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外伝 魚沼で頑張るロバ霊能者の話7

新潟県と福島県の境、尾瀬地方。この秘境の奥、只見川の近辺には、江戸時代に銀鉱山が存在していた。1600年代中期に越後高田藩が開発を始め、上田銀山と呼ばれたいそう賑わったと言う。また只見川の向かい、会津藩の領地にも銀鉱脈があり、そちらは白峯(しらふ)銀山と呼ばれ、上田・白峯を合わせて大福銀山とも呼ばれた。

この上田銀山だが、なんだかんだ*1あって、魚沼支部では異界化させて銀を採掘する方針となった。既に佐渡島ではパピヨンニキが佐渡金山を異界化させて採掘*2を行なっており、田舎ニキもそれに倣った。

しかしここで問題が一つ。

 

「異界・上田銀山を成立させるためには、異界のボスが必要だけど……」

「だけど?」

「十二山神社の祭神様って、不確定なんだよね」

 

上田銀山復活に関して田舎ニキから目をかけられている才能ロバ地元霊能者・重下稔は、あるとき彼から呼び出された。

魚沼の地元霊能組織・九重家を引っ張る黒札から雑魚霊能者への呼び出しなど、一体何があったのだろうか。そう疑問に思いながらも公民館(ガイア連合魚沼支部)に馳せ参じた稔少年は、田舎ニキから愚痴を聞かされることとなった。

 

上田銀山は1657年に高田藩が鉱山開きを行った際に、現在の地名でいう魚沼市下折立樹海ラインに「大福銀山十二神社」を新造して銀山の守護神とした。異界ボスとして十二神社の祭神(の分霊)を置くことで、上田銀山を疑似的に再現するのが基本ラインだが、この十二神社の『ジュウニサマ』の正体が、微妙なのである。

魚沼地方には十二山神社または十二神社と呼ばれる神社は数多くあり、この神はジュウニサマ以外にもオサトサマ・サガミサマ・ダンナサマなどと呼ばれることがある。一般的には春に山から下りて田の神となり初冬に山へ戻る農耕神としての側面を持ち、山村では熊狩りと密接に関わるなど集落ごとの差が大きい。

山の神は男神とするところと女神とするところがあり、なかには夫婦神とするところもある。この男女二神は大山祇神と木花開耶姫命とされることが多く、新潟・魚沼でも旧・湯之谷村では基本的に女神とされている。

 

「佐渡金山の大山祇神社も大山祇命と木花開耶姫命を祀っていますし、木花開耶姫命で良いのではないでしょうか?」

「本命は木花開耶姫命だけどね、マギレの可能性がある」

 

奥只見湖の湖畔には白峯銀山側の方にも十二山神社があり、こちらは虚空蔵菩薩が本尊。しかも由緒として、尾瀬三郎伝説の尾瀬三郎房利が所持していた仏像を祀っているという。

 

「この奥只見の十二山神社は、尾瀬三郎伝説の悲恋物語に結びつけようとして、明けの明星は虚空蔵菩薩の化身と吹聴している。金星(ビーナス)、愛と豊穣と美の女神をプッシュしているんだ」

「金星を司る愛と豊穣と美の女神というと、自衛隊ニキネキ*3を思い出しますね」

「そうなんだよ、【ガイア連合】の【黒札】と結びつくことの味を一部の悪魔が覚えちゃってね、実はメソポタミア神話のイシュタルとローマ神話のビーナスから、こっそり打診が来ている。向こうさんも可能性が薄いことは承知しているからこそ、押しが強くてね……」

 

さすがに【堕天使】ルシファーからのオファーはなかったけど、と田舎ニキは肩をすくめる。

有力な霊能力者には悪魔の方から心霊通信を送ることがある。どうやら田舎ニキはそれが原因でここしばらく寝不足気味のようだ。

 

「そしたら、他の大和神もワンチャン狙いで。鉱山神の金山毘古神・金山毘売神と、木花開耶姫命の姉である石長比売からも売り込みがあって」

「石長比売ですか? 大山祇神社と浅間神社では大山祇命・木花開耶姫命と一緒に祀られてはいますが」

「紀州の伝承では、山の神は醜い女性だからね。そこを重視すると木花開耶姫命より石長比売が相応しいとなって、しかも東北の某霊能一族がセツニキ*4経由でコンタクト取ってきて」

「うわぁ…… 人のシガラミまで使ってくるって怖いですねぇ」

 

稔少年としては、自身は魚沼支部・九重家の運営方針に口を挟めるほどの実力もないので、上位下達のいいなりになるだけと思っており、所詮は他人事の立場で相槌を返す。ところが田舎ニキはその態度が気に入らないようだ。

 

「稔くぅーん、相談事にはもうちょい親身になろう? 君にも深く関わることだからさ」

「へ? 深く関わるって?」

「上田銀山が異界化したら、ダンジョン探索は君が主軸になるんだから。尾瀬三郎から埋蔵金を探せって直々に言われてるだろ」

「それはそうですけど、異界ボスの選定に僕の意見が通るんですか?」

「一応は参考意見とするくらいだけどね。それとは別に、君にはこれからを左右する大きな選択がある」

 

思わせぶりなことを言う田舎ニキは、公民館の応接室から隣室に繋がる扉をひょいと開ける。するとその隣室には、テーブルの上に五体の人形が並べてあった。いずれもUFOキャッチャーの景品程度の手乗りサイズ、三頭身のデフォルメされた女の子のぬいぐるみだ。

 

「あら、ようやくお披露目? 待ちくたびれたわ」

「うわっ、喋った!」

 

稔少年がよくよく見ると、それらの人形は悪魔の宿っている、喋る人形ともいう存在だった。ちなみにこれ、ガイア連合が開発した【シキガミの義骸】*5の一種である。

 

「順に紹介すると、左から木花開耶姫命、石長比売、金山毘売、イシュタル、ビーナス。の超絶劣化分霊ね」

 

ぬいぐるみは田舎ニキの紹介に合わせて、それぞれぺこりと頭を下げたり手を振ったりして稔少年に挨拶する。

稔少年は予想だにせぬ出来事にピタリと固まった後、ぎぎぎ…… という擬音を出すかのように田舎ニキへ首を向けた。まさか、多数の悪魔からの申し出に困った田舎ニキが、異界ボス選出コンペを行い、それに自分を参加させるとは!

 

「少年! サモナーだけど手駒不足なんだって? 今ならこのイシュタル様を使役する権利を上げるわ! その代わり、異界ボスの座はよろしくね?」

 

朗らかな声を上げるイシュタル(ぬいぐるみ)。そのあまりの明け透けっぷりに、稔少年は緊張が解けて脱力しそうになった。

イシュタル以外の四柱は、稔少年を見定めようとじっと見つめていたが、そのうち金山毘売が小さく溜息をついた。

 

「劣化分霊をつけるにしろ、使役者にある程度の才覚がないと話にならぬ。妾は下りる」

 

そう言って、金山毘売のぬいぐるみは動きも喋りもしない、ただのぬいぐるみになった。

面と向かって『お前に才能はない』と罵倒されたも同然の稔少年は泣きそうになった。

 

「あんなにあっさり諦めるなんて、しょせんは腰掛といったところかしら。貴女も本命でないなら早々にギブアップしたら?」

 

ビーナスが石長比売を挑発するが、石長比売はまるっと無視して相手にしない。

 

「本命でないなら早々にギブアップしたら、だそうですよ?」

「シャーッ!」

 

木花開耶姫命がビーナスの発言をイシュタルにぶつけると、イシュタルは両腕を上げるレッサーパンダの威嚇ポーズで木花開耶姫命を睨みつける。

なお、手乗りぬいぐるみがちょこちょこ動いているその様子は、神々の喧嘩とはとうてい思えぬほのぼのっぷり。

 

「そもそも貴女たちは鉱山の守護者に相応しくない。虚空蔵菩薩の化身が金星というのも出鱈目です」

「最初は出鱈目でも、言い張り続け世間の認識が変われば正となるのがオカルトの常識。それとも、私たちの美しさに嫉妬してます?」

 

民俗学的には、古代メソポタミア神話のイシュタルはギリシャ神話のアフロディーテ、ローマ神話のビーナスと信仰が変遷していったとされ、根が同じとされている。そのためこの場ではイシュタルとビーナスがタッグを組み、それに対抗するため木花開耶姫命・石長比売の姉妹がタッグを組む形になる。美と愛を司るイシュタル&ビーナスに対し、(姉に比べて)美しいとされている木花開耶姫命がライバル心をむき出しにしている。

 

「ローカルな神格をパートナーにしてまぐわっても、才能を引き上げるという意味では役に立ちませんよ? 主神格である私を性パートナーもとい正パートナーにすれば貴方のチンケな才能上限も上がりまくりモテまくり!」

 

イシュタルは頭の悪いメスガキ風に挑発する。稔少年の懐にしまったTCGカードから、彼の契約悪魔である姥神明神が怒り狂っているのが分かるが、逆に彼は超絶劣化分霊であると色々劣化するんだな、と冷めた視点で捉えている。だって手乗りぬいぐるみがちょこちょこ動いてもシュールギャグの絵面にしかならないし。

稔少年はもう一度、田舎ニキと視線を合わせた。田舎ニキはうんとひとつ頷いた後、ポンポンと手を叩いて醜い口喧嘩に割って入った。

 

「はいはい、周囲全方向に喧嘩を売るようじゃ駄目です。和を以て貴しとなすとも言いますし、異界ボスは大和神にします」

「しょんにゃー」

 

田舎ニキの裁定にがっくりするイシュタル。ビーナスは金山毘売と同様に使役者の低才能が気に入らなかったのか、特に食い下がることなく退去し、二体目の動かぬ人形が出来上がる。それを見て、二対一では敵わぬと悟ったイシュタルも渋々といった態で憑依を止め、ころりとぬいぐるみがその場に転がった。

 

「茶番などせずとも、最初から本命を選べば良かったであろうに。ほれ、ほれ」

 

木花開耶姫命が喜色露わにぴょんぴょん跳ねる。石長比売は相変わらず一歩引いたままだ。

 

「じゃあ最後に。彼と契約しますか?」

 

田舎ニキがそう問いかけると、木花開耶姫命は急に動きを止めて渋りだした。

 

「その、劣化分霊をつけて人の魂を育てるのはメジャーな手法*6ではあるが、な? 投資に見合わないのはちょっと……」

 

金山毘売に続き、木花開耶姫命にまで才能クソ雑魚と言われ、ショックを受ける稔少年。膝をついて四つん這いで失望を表現する彼に、憐みの言葉が投げられる。

 

「ガイア連合のメンツを立てぬはさすがに不義理、妾で良ければ契約しよう」

「ほんと?! お姉ちゃん、助かる!」

「都合の良いときのみ囃し立てよって、この馬鹿妹は……」

 

石長比売のお情けが身に染みて、号泣しながらありがとうございますと繰り返す少年の姿があったとかなかったとか。

*1
本作の「魚沼で頑張るロバ霊能者の話1~6」

*2
ファッション無惨様のごちゃサマライフ「アルカトラズ・レポート」

*3
カオス転生ごちゃまぜサマナー 小ネタ「たのしい上野シェルター」

*4
最速で出会った俺らのガイア連合活動記録

*5
カオス転生ごちゃまぜサマナー 16話 小ネタ 中編

*6
カオス転生ごちゃまぜサマナー 小ネタ「投資戦士ニンフちゃん」

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