新潟・魚沼支部で異界・上田銀山を作成・管理するにあたり、【黒札】田舎ニキは木花開耶姫命を異界ボスに選定した。
そのときの余禄で、重下稔は石長比売とサモナー契約を結ぶという棚ボタを得たわけだが。才能ロバの彼は大和神話におけるビッグネームをまともに使役できない。そのため以前に姥神明神と契約したときと同様に、【ガイア連合】が悪魔をデチューンして格を落とすことで使役しやすくすることになった。
「という訳で、稔君の新たな召喚カードが、こちら!」
人差し指と中指の間にカードを挟み、ひらひらとこれ見よがしにするのは【スケベ部】のミナミィネキ。なぜ彼女がここにいるのかというと、姥神明神のデチューンも彼女が行ったからだ。
ミナミィネキから恭しくカードを受け取った彼は、しけしげとそれを眺め、恐る恐る疑問を口にした。
「あの、これ、本当にイワナガヒメなんですか?」
ガイア連合ホビー部が開発したTCGカードには、封じられた悪魔のデフォルメ絵が描かれている。しかしそれはぴっちりしたハイレグレオタードを身に着けた褐色巨乳の女性と、どう見てもアメコミの女性超人であり、日本人女性には見えない。
「そうですよ、実際に顕現させてみましょう」
ミナミィネキに促され、稔少年はTCGカードを自分の目前にかざした。
「恵みをもたらす山の神よ、我が求めに応じて来たれ!
気合を込めてそう叫ぶと、カードから閃光が走って、それに封じられていた超常存在が幽世から現世に降臨する。
「イワナガヒメ、契約者の求めに応じ、今ここに」
「……うわぁ、マーベルのストームじゃん、これ……」
カードイラストがそのまま実体となって出現したことに、あんぐりと口を開ける稔少年。思わず余計なことをぽろっと漏らしてしまうが、イワナガヒメは苦笑しただけて、彼の無礼を咎めなかった。
「少し前に、信徒の前にこの姿で顕現したことがあってな*1。新しい姿を取るのが面倒だった」
ちなみに、この姿はセツニキが主導する石長比売・美女改変計画*2と無関係ではない。大和神話において妹より醜いとされている石長比売だが、誰もが目を背けるようなブスではなく、『エラが張って顎のラインもくっきり出ているバタくさい顔』となっている。日本人には受けが悪いが西洋では美人とされる造形、と言ってもいい。
ここら辺、カード化の際にセツニキとミナミィネキの間で何やらあったのだが、そんな裏話は聞かせる意味もないので、イワナガヒメは余計なことは口にしなかった。
「あっ、はい」
そのような言い訳も耳を素通りするかのように、稔少年は生返事を返す。
イワナガヒメ(アメコミの姿)は褐色巨乳の巨女で、中学二年の重下稔より背が高い。具体的に言うと、稔の目の高さに2つのスイカが鎮座している。薄手のレオタードに包まれたそれらが小刻みにぷるんぷるん揺れているとなっては、思春期まっただなかの男の子には目の毒としか言いようがない。
「ふふふ、ファーストインプレッションは性交もとい成功ですね。それでは両者の相性を詳細調査しましょう」
「え、それって?」
ミナミィネキはにっこり笑うと、イワナガヒメとアイコンタクトする。
それに不穏なものを感じた稔少年は、姥神明神という前例を思い返しながら、恐る恐る訊ねる。
「もちろんセックスの相性ですよ。低位の霊能力者が高位悪魔を使役するとなれば、通常の契約で結ばれるパスとは別に使役者がセックスで追加の魔力供給するのが当然ですからね」
「あの、霊格をデチューンしたと聞きましたが、また【オバタリアン】と合体させたのですか?」
「いいえ、今回は【オニ】をベースにしたので《肉便器な》の称号はついていません」
ミナミィネキの回答にほっと安堵したのはほんの束の間であった。
「たいへん申し訳ないのですが、《淫乱な》の称号しかありません」
「全然申し訳そうな顔じゃないですね!」
「親子ほどの年齢差があるおねショタも良いものですが、ショタ×洋ピンもまた良いものです」
「話聞けよ!」
少年の渾身のツッコミもどこ吹く風とばかりに、ミナミィネキは平然としている。
彼はこのままではらちが明かないと、イワナガヒメに向き直った。
「そんな改造されて、納得できるんですか?!」
「まあお堅いのは磐長一族の方に任せて、義理で出しただけの投資回収も見込めない泡沫分霊の一体くらい、奔放でもいいかなと」
「それ騙されてるよ絶対!」
オニと合体して霊格を低くした弊害で、頭のネジも緩くなったのでは?
そう思った彼だが、さすがにスケベ部ボスに面と向かって文句を言う度胸はなかった。
ちなみに、劣化させすぎた分霊が本霊に逆らうこともままある話*3で、岩手支部の分霊と性格が異なる理由は彼の推測通りである。
「まあまあ、落ち着いて。そう活きり猛るのは股間だけにしておきましょう」
ミナミィネキが下ネタ交じりのジョークをかますと、稔少年は圧倒的レベル差から生じるオーラに気圧されて押し黙る。
「稔君はこれから、姥神明神とイワナガヒメの3Pも当たり前のようにすることになります。いえ、やらざるを得ないというのが正しいですか。今なら私がハウ・トゥー・複数人プレイの手ほどきをしてあげますよ?」
夜魔の王に匹敵するとまで言われるスケベ部ボスのミナミィネキからすれば、低Lv霊能者を手のひらで転がすことなど造作もない。
それこそ赤子の手をひねるがごとく、スマイル一発で稔少年の反骨心は溶けて消えた。
「百合の間に挟まるショタ、というのも趣がありますねぇ」
ミナミィネキは舌なめずりしながら、稔少年とイワナガヒメを個室に誘った。
*
一方そのころ。田舎ニキは本拠地の新潟・魚沼でごろごろしていた。
ここ最近の悩みであった異界・上田銀山の異界ボス選定はコンペを開催し、半分ほど見切り発車であったが無事に終了した。ボスは本命の木花開耶姫命に決定し、横槍を入れてきたイシュタルなど海外勢も当人(当霊?)の納得ずくで排除できたし、駄目元だった重下少年の戦力増加も石長比売が仲魔になって、百点満点の結果と言ってもいいだろう。
石長比売をTCGカード化するために重下少年をガイア連合ホビー部へと送り出し(なお、田舎ニキは彼がホビー部からスケベ部へたらい回しされたことを知らない)、肩の荷が下りた田舎ニキは、自身の趣味に向き合っていた。
「ああ、地球環境改善用・光増幅照射装置イオマグヌッソ。字面だけで格好いいよね! ロボ部で作れたりしないかなぁ……」
前世で流行した
「その、ウオヌマグッソ? ですか? 何やら怪しげな響きですが」
「ウオヌマじゃない、イオマグヌッソ。……いや、発音しにくいのは分かる」
懇意にしている地元霊能力者の九重静が彼の独り言を聞きつけ、なんとなしに質問する。
田舎ニキはそれまでぼんやりしていたところから一変して背筋をシャキッとさせ、ロボのロマンをどう語ろうかと思案する。
「アルファベットだとYomagn'thoと綴って、ヤマンソと読むこともあるんだが、元ネタはクトゥルフ神話でね」
「まあ、クトゥルフ神話! うかつに口にすると無貌の神・這い寄る混沌が出現するので注意しろと、ガイア連合の渚カヲル様から警告が回って来たばかりです」
「あ、うーん。噂をすれば影、そういうことも、有り得るかもね……」
カヲルとニャルの因縁*4は黒札に広く知れ渡っており、少しでもニャルの被害を減らすためにと黒札と仲の良い地元霊能組織にも通達されているようだ。
「うぅっ、ロボの浪漫を追い求めるとニャル出現のリスクかぁ……」
某アニメを再現するなら、イオマグヌッソは極めて危険な兵器になりうる。そのようなシロモノにクトゥルフ神話由来の名をつければ、ニャルが出張ってきてオモチャにする可能性も高い。ニャルが姿を変えて開発メンバーに参加し、イオマグヌッソを完成させて試射イベントで暴走させてその地が丸ごと消滅とか、ありそうなパターンだ。
魚沼の地を預かる立場としては、それだけのリスクを抱え込むのは難しい。
「勿体ないけど、諦めるしかないのか、これは……! いや、ネーミングを魚沼グッソにすれば誤魔化せるか?」
浪漫とリスクの狭間に苦悩しながら、未練たらたらの田舎ニキ。彼がこの件を吹っ切るにはもう少し時間がかかりそうである。
イオマグヌッソは一発ネタで終わります(余所の三次作者様がネタを引き取るのは歓迎します)。