新潟・魚沼の地に【ガイア連合】魚沼支部を設立し、地元霊能組織・九重一族を配下に取り込んでこの地に根ざそうとしている黒札、田舎ニキ。
彼は今やこの地のオカルト的キーパーソンとして、戦国時代に都落ちするもそこで戦国大名に等しい権力を振るった土佐一条氏に例えられるほどである。
彼は資金を惜しむことなく九重一族へ投資し、ガイア連合製のオカルト武器が配備されたことで九重一族は黒札の助けなく異界攻略に成功する*1など、新潟県ではオカルト組織として頭一つ抜けた状態である。
そんなイケイケの雰囲気の中、田舎ニキが抱えている悩みの一つに、先に名の出た重下稔少年の扱いがある。
重下稔は中学二年、ひょんなことから霊能に目覚めた少年である。彼はガイア連合【ホビー部】のTCGシステムを使って悪魔を召喚・使役するサモナーであるが、在野霊能者であるため才能限界が低い。田舎ニキとしては彼に重要なポストを任せるために、才能上限の引き上げを画策しているのだ。
今まで田舎ニキが試みた才能上限の引き上げ策は、ガイア連合【スケベ部】の手練れによる房中術である。男性優位プレイネキを招いてお試しでは、彼の才能上限が1から2に上がったものの、田舎ニキはこの手段で彼を強化することを諦めた。
理由は二つ。歪な方向に成長してしまっては困るというものと、田舎ニキの貞操のピンチが発生したからである。どれくらいピンチかというと前門の狼後門の虎ならぬ前門のサバト後門の菊と表現できるのだが、田舎ニキはその危機を間一髪で切り抜けることに成功したものの、いまだ男性優位プレイネキは諦めていない状態である。
それはともかく。
ガイア連合はTS魔人雪女郎ニキネキのせいで、かなり初期の段階で【シキガミパーツ】を使った【蘇生】や【移植】は技術として確立している*2。
基本的に【転生者内での秘密】扱いであり、無才能の現地人にパーツ移植してお手軽【覚醒】とはいかないが、黒札内では公然の秘密となっている。
重下少年は既に覚醒しているので、覚醒うんぬんについては影響なし。シキガミパーツというか霊的存在物質を埋め込むと外付け強化パーツとして機能し、現地民に使うと疑似的に霊的限界含め強化される*3ことが分かっている。
「重下君のパワーアップなんだけどさ。シキガミパーツ移植はありですか?」
「そうですね…… ありなしの二択なら
それに活路を見出した田舎ニキが、ミナミィネキに相談する。
今まで重下少年についてミナミィネキと幾度もやり取りしているし、やはり彼女は霊質改造の第一人者である。スケベなことは横に置いても、彼女に頼るのは手堅いのだ。
「田舎ニキもご存じかも知れませんが、移植で重要なのは本人の霊質とパーツの相性の良さ*4ですからね。安物パーツでも強い人は強いし、高級パーツでも覚醒できないひとも多い」
「相性ですか…… 私みたいに【ブフ】系特化なら分かりやすいけど、重下君はなんだろう?」
「彼はサモナーとして悪魔を使役できていますから、前衛特化のパーツでなければ何でも良いと思います。むしろ彼は才能上限が2と低いので、移植したパーツの特徴に引きずられる可能性が高いでしょう」
「ふむ、汎用パーツの方が良いと。彼の所属している九重一族は三宝荒神を奉じているけど、火と竈の神という性質は特化系だから不向きかな……」
田舎ニキは指で額を押さえて考え込むが、ミナミィネキはふんわりとそれを笑い飛ばした。
「現地霊能組織が後生大事に抱えている霊遺物など、さして役に立たない骨董品ですよ? 性能的にも、組織のしがらみに捕らわれない的な意味でも、ガイア連合で流通している素材を見繕うほうが良いでしょう」
「ふむ、そうなると…… 彼は手足や眼などに肉体的欠損があるわけではないから、健常な一部をシキガミパーツに置き換えるのではなく、しかも汎用性のあるもの。それはそれで悩ましい」
「必ずしもシキガミパーツである必要もないのでは? 霊的素材を外付け強化にするなら宝石・宝珠でも良いし、単に強力な霊的素材というなら黒札の肉体の一部でも良いです」
「んー、黒札の肉体の一部は、どうなんでしょう。黒札専用シキガミの素材として、シキガミの主たる黒札が自身の肉体の一部を提供することもあるとは聞きますが。提供元である黒札と提供先の現地人が強い縁で結ばれてしまうのは、良し悪しだと思います」
田舎ニキは黒札と彼/彼女専用シキガミがいちゃいちゃする光景を脳裏に思い浮かべ、自分と重下少年がそのような関係になってしまったらどうしようと身震いした。
「一品物であればそうかも知れませんが、量産品向け素材であればそんなことはありませんよ。デビルシフター黒札の肉体の一部、例えば竜の鱗とか、そういうのは生産素材としてけっこう流通してます*5から、移植パーツとして狙い目でしょう」
「ああ、なるほど。でも竜の鱗って前衛戦闘職向けっぽいなぁ」
「私のお勧めは真珠…… 人魚の涙ですね。宝石宝珠のたぐいなら汎用性ありますし、人魚のデビルシフターなら安定して生産できます*6から、入手しやすくお値段もお手ごろです」
それを聞いて、田舎ニキは蒙を啓かれたかのように感じた。
「真珠! いいですね。別名は月の雫、月になぞらえるのは魚沼地方に合ってます。二十三夜塔があちこちにあるから月は馴染み深いですし、銀を月のシンボルとするなら上田銀山も概念の範囲に入ります」
「じゃあ、それで行きましょうか。
話が纏まったので、田舎ニキはミナミィネキに深くお辞儀して、その場は終了となった。
「ん? ミナミィネキがパーツ移植に慣れてるって、一般人への心霊手術もお手の物ってことかな? 悪魔の霊質改造に長けているのは知っているけど、それの延長ってこと? さすがだよな」
浮かび上がった疑問に、一人勝手に納得する田舎ニキ。
もしこの疑問を彼女に投げかけていたら「真珠を埋め込むなんて陰茎増大手術に決まってます」と返されていたであろう。
知らないことは幸せなことなのだ……