【カオ転三次】マイナー地方神と契約した男の話   作:れべっか

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新年あけましておめでとうございます(大遅刻)。
今年もよろしくお願いします。


余話81 続・上田原炭鉱

長野県上田市の浦野牧【派出所】、ここにはデビルハンター窓口が設置されている。

ここのデビルハンター窓口は主に長野県東部を縄張りとし、派出所の結界の見回りから悪魔の跳梁跋扈する地での悪魔討伐・フォルマ納品まで、様々な難易度の案件がある。規模こそ小さいものの、【黒札】直営の拠点であるため高品質な【ガイア連合】製の武器防具・医薬品などが入手可能(注:これは金を積めば購入できるという意味であり、【多神連合】や【メシア教】の運営するシェルターではそもそも物がないことも多い)であり、デビルハンターたちにとって『まあ悪くはない』場所である。

そんな浦野牧【派出所】だが、近頃はデビルハンターたちに"ホット"な案件が定期に出ている。それが上田原炭鉱の仕事だ。

シェルター運営の黒札・馬ニキの肝いりで開設されたこの上田原炭鉱だが、シェルター結界外ではあるが上田市街から徒歩30~60分というそこそこ近い距離と、露天掘りであり坑道崩落や酸素欠乏などの危険がないことから、当初は日雇いの肉体労働者向けの仕事と考えられていた。

シェルター外であるため悪魔が出没するという危険があるのだが、炭鉱近くに神社を勧請したことが功を奏したのか、高レベルな悪魔は出現せず、低レベルな悪魔──Lv1~3程度のスライム、餓鬼、スダマなど──しか出てこない。これにより低レベルなデビルハンターも炭鉱労働者の護衛仕事で安定して稼げると分かる。

そしてデビルハンター・カツが構築したキャリーシステムがハマった。未覚醒・半覚醒能力者は鉱夫として働くが、自分たちでも倒せそうな最弱悪魔を護衛デビルハンターが残してくれるので、皆で悪魔を袋叩きにして倒して霊能者としての成長が見込める。護衛デビルハンターとしても、【アナライズ】して悪魔の実力を見極める必要はあるが、悪魔を倒すのを鉱夫たちが手伝ってくれるので、楽ができる。

シェルター運営側としても、デビルハンター見習いたちが成長して一端の戦力になってくれるなら、と炭鉱夫・護衛とも日当に色を付けて、三方良しのwin-winな関係になっていた。

 

まあ、好事魔多しという言葉もあるのだが。

 

 

「おはようございます!」

 

午前九時、上田原炭鉱の仕事始めの時間。

デビルハンターとしては半覚醒能力者であるカツが、鉱夫の代表として護衛に挨拶する。今日の護衛はチーム『妊活騎士団』*1女四人組、前回のチーム『婚活戦士団』となにかと張り合う仲である。

 

「うむ、我の下で労働できることを喜ぶがよい」

 

ふんす、と鼻息荒く返答するのは妊活騎士団のリーダー、ネプ。有翼馬(ペガサス)に跨り馬上槍(ランス)ほどの長さの三又戟(トライデント)を抱える、南欧系のアラサーの女戦士。見た目はピカイチだが口を開くと残念美人という評価で、自身は神に選ばれたエリートであり愚民を導くという選民思想の持ち主である。ただし上に立つ者には責務が伴うというノブレス・オブリージュ思想も持ち合わせており自身を律しているので、周囲から嫌われているわけでもない。チームメンバーも彼女を上手くおだててコントロールしているようだ。

 

「今日もよろしくねー」

 

ミドルティーンの日本人の女の子、クラリス(洗礼名)がネプの隣りでにこやかに手を振る。彼女はガイア連合のデュエルアカデミアを卒業したデュエリストで、メシア教穏健派である。なお、メシア教の中では長崎隠れキリシタンというマイナー派閥に所属しており、太平洋戦争後に日本の霊地管理をずたずたにしたアメリカのド阿呆どもとは系統が違うという理由で、何かと風当たりの強いメシア教信者の中では例外的に受け入れられている。

 

「よろしくです」

「……(ぺこり)」

 

クラリスに続いて朗らかに挨拶するのがミサカ2号、アメリカ・ラスベガスのメシア教過激派拠点で製造され裏ラスベガスに『保護』されたモブ異能者であり、チーム『婚活戦士団』にもいるミサカとどちらが1号かを争っている。

最後に無言でお辞儀をしたのがアダ、中東系のアラサー女性で陰気・寡黙な性格のため、ネアカでお喋りなミサカと足して二で割れば丁度いいと言われるくらいである。

彼女たち四人の実力は婚活戦士団と同程度、Lv2~3の悪魔と一対一で戦ったら無傷ではないがそこそこ安定して勝てるくらい。

これくらいでも、上田市派出所に腰を据えて活動しているデビルハンターとしては上位陣である。

 

「あ、さっそく悪魔はっけーん! アナライズして…… Lv2とLv1の地霊が2体ずつ!」

「ふむ、ならば1体は男衆に残すか」

 

ミサカがCOMPを操作してアナライズ結果を伝えると、ネプは三又戟を小脇に固定して馬の腹に足でこつんと合図する。馬はそのまま走り出し、騎兵突撃で地霊1体を突き飛ばした。

 

「おお! 凄ぇや、姐さん!」

「今だ! 囲んで袋叩きぃ!」

 

カツを始めとする鉱夫の男たちは、スコップやつるはしといった獲物を手にしてネプを追いかけ、残った悪魔に群がる。

男たちのうち半分以上は無能力者であり、悪魔にダメージを与えるどころか視認すらまともにできておらず、悪魔の反撃一発に吹っ飛ばされて重傷を負うことも珍しくない。それでもカツを含む半覚醒者たちによる数の暴力で、地霊は少しずつ削れていき、やがて現世での受肉を維持できなくなった悪魔が塵となって消滅する。

 

「やった!」

「俺たちの勝ちだ!」

「まだレベルアップしないぜ、コンチクショウ!」

 

勝どきをあげる男たちに混じってぴょんぴょん跳ねるミカサと、それを離れた場所から見ながら【ディア】で大きく負傷した男のケアをするアダ。

地味に野郎どもからの好感度を無意識に稼いでいるが、それはともかく。

 

「アイテムはドロップしなかったな。おら、野郎ども、少し休憩したら石炭堀りに取り掛かれよー!」

 

カツが大声で音頭を取ると、鉱夫たちは三々五々と散っていく…… はずだった。

 

突然、大地が揺れた。

 

「なんだっ?! 地震か?!」

「おいっ、あっち見ろ! デカい悪魔()が出たぞ?!」

 

蛇のようなミミズのような、馬一頭をペロリと飲み込んでしまいそうな巨体がぐねぐねと体をしねらせながら、こちらに襲い掛かってきた。

 

「アナライズ結果…… 【ノヅチ】! Lv23、今の私たちじゃ逆立ちしたって勝ってこない!」

「撤退! てったーい! 獲物は捨ててとにかく神社まで逃げろ!」

「うわぁぁぁぁ! なんでこんな大物がぁーーっ?!」

 

尻に帆掛けて遁走する者、恐怖に腰を抜かして動けない者、統制も何もなくてんでばらばらに動こうとする鉱夫をどうにか守ろうとする妊活騎士団。

しかし味方のバフ支援を受けた騎兵突撃(ランスチャージ)ですらノヅチの鱗に一筋の薄線を刻むのが精々で、お返しとばかりにノヅチが大口を開けガブリと噛みつくと、ネプは愛馬と共に上半身と下半身が泣き別れた。

メインアタッカーをあっさり失い、妊活騎士団は総崩れとなってノヅチに蹂躙される。彼女たちが犠牲になる間にどうにか鉱山神社まで撤退できた鉱夫たちも、ノヅチがその巨体で神社をぐるりと取り囲むと、それ以上はなにもできなかった。

 

「お助け、どうかお助けをーっ」

 

生き残った男たちが土下座してノヅチに命乞いすると、ノヅチはゆらゆらと小刻みに体を揺らした。

 

「我は古くよりこの山に住まう野の神、我を敬え、我に従え、さすれば汝らは生かしてやろう」

「しゃ、喋ったーっ?!」

「我に忠誠を誓う証として、汝らの手でその余所者の社を壊すのだ」

 

鉱山神社とその近くに設置された炭団製造機には、小さな結界が張られているためノヅチも直接は手を出せない。

正確には、ノヅチはその結界を破壊することも出来るが、手間を惜しんで人間にやらせようとしている。

 

「へ、へへへ、蛇神様とお見受けいたします。その、なんと言いますか…… お名前を頂戴しても、よろしいでしょうか?」

 

カツは男たちの代表として一歩前に出た。彼の全身は恐怖でがくがく震えているが、交渉の余地があるならと一縷の望みに賭けた。

 

「我は蛇ではない! 龍だ! この無礼者!」

「おみそれいたしやしたーっ! すいません! すいません!」

 

ノヅチの怒りに触れて身体がこわばるが、カツは気合いでそれを押し込めて喉を震わせた。ここで声すら出せないようでは、言い訳すらできずに殺されてしまう。とにかく話が通じそうな相手なのだから時間稼ぎでワンチャンあるかも、カツはそう直感した。

 

「で、その、龍神様のオーダーは、その、神社(これ)を壊すので……?」

「うむ。余所者が我が縄張りで大きな顔をするなど、とうてい許せぬ」

 

ノヅチを直視できず、顔を伏せたまま視界の隅にノヅチをぎりぎり捉えるようにして、カツはどうにか言葉を繋ぐ。

ノヅチの返答に、次はどうしようと頭の中で言葉を探していたところ、いきなり第三者が割り込んできた。

 

「ふん。他人の縄張りを掠め取ろうとするなど、けち臭い小者は龍でなく蛇で充分よ」

「何っ?!」

 

カツが声のした方に振り返ると、神社の屋根に腰掛ける老人が目に入った。

 

「あ、あなた様は?!」

「儂はオオヤマツミ、ここの祭神よ」

 

翁はニヤリと余裕たっぷりに笑い、カツからノヅチへと視線を移した。

 

「ここは古より我の縄張りぞ!」

「ふん、儂がここへ正式に勧請されたときには何も言わず、炭鉱が稼働し始めてから縄張り主張とは。初期投資が終わってから美味しい所を横取りかね? そんな都合の良い話など通らぬ」

「うるさい、うるさい! 小さき者どもよ、この神社を壊すのだ!」

「ほほほ、あのチンケな蛇の言うことなど聞かずとも良い。しばらく籠城しておれば、あの蛇も尻尾を巻いて逃げるしかないからの」

 

ノヅチとオオヤマツミの板挟みになってオロオロするばかりのカツたち。業を煮やしたノヅチがその巨体でとぐろに巻き付き、尻尾をバシンバシンと叩きつけて神社の結界を壊そうとする。

鉱夫たちは恐怖に顔を引きつらせて身動きできないが、オオヤマツミは涼しい顔を崩さない。

 

「道成寺の鐘に隠れた安珍の気分が味わえるかのう? だがアヤツは清姫ほどの力はない、このまま籠城しているだけでいい」

「籠城って…… 援軍の当てがあるってことですか?」

「そうとも。儂を勧請した、現人神とも言える存在。ガイア連合の幹部と言えば分かるじゃろ」

「ガイア連合……」

 

言葉の端を拾ってオウム返しすることしかできないカツを一瞥して、オオヤマツミは視線をノヅチに向ける。怒り狂ったノヅチが蛇体で結界を締め付けるとミシミシ嫌な音がして、どうにも心臓に悪い。

カツは悪魔同士の縄張り争いに巻き込まれたことをようやく認識して、頭を抱えた。

 

「一時間もすれば援軍が来る、それまで我慢じゃ」

「蛇神の殺意に晒されながら、ここに一時間も閉じ込められるんですかぁ!」

「それだけ文句が言える元気があるなら大丈夫じゃろ。寝ておれば楽になるぞ」

 

そう言われてカツが周りに目を向けると、彼以外の鉱夫はみな恐怖に耐えきれなかったのか失神して倒れていた。

 

 

オオヤマツミが面白がってときおり話しかけるので、カツは失神もできずにノヅチの恐怖にひたすら耐えていた、彼にとっては半日にも感じられた長い時間。それがついに終わるときが来た。

 

「お、援軍が到着したぞ」

「ホントっすか?! た、助かるんですね! ……えぇー」

 

オオヤマツミがそう言うのと同時に、ノヅチの包囲が解かれた。カツが恐る恐る顔を上げると、ノヅチと対峙している四人のデビルハンターが目に飛び込んでくる。

この上田市派出所でローカルアイドル兼デビルハンターとして活動しているチーム『トラペジウム』、二十歳前後の女性四人組。黒札お気に入りで下駄を履かされているが、装備込みであればその実力は妊活騎士団や婚活戦士団より一枚も二枚も上ともっぱらの噂だ。

カツは彼女たちと共同戦線を張ったことがないので、彼女たちの実力に半信半疑であり、命懸けの戦場にそぐわない装備をしている彼女たちについ疑いの声が出た。

 

「なんで四人揃ってスクール水着?」

「あれでもガイア連合の技術の粋を集めた一張羅らしいぞ? うーむ、覚悟のハイレグ角度に逆行する余裕の布地、僅かにはみ出る尻肉のチラリズムがそそるのぅ」

 

スケベ爺と化したオオヤマツミが下卑た解説をしてくるが、カツは援軍がノヅチに勝てるのか気が気でない。トラペジウムの四人はそれぞれ使役している悪魔を盾役として前面に出し、彼女たちは後ろから銃で攻撃しているが、彼女たちも使役悪魔も、いずれもノヅチと比べて一枚劣るように感じるのだ。

 

「あの四人で勝てますか?」

「んー…… 使役しているのは【魔獣タンキ】【霊鳥スパルナ】【魔獣ネコマタ】【龍神マカラ】、いずれもLv15といったところか。単体ではノヅチのLv23に勝てないが数で勝るから、どっこいどっこいだな」

「勝てるかどうか分からないのに、どうしてそんなに余裕なんですか?!」

「いやぁ、援軍はあの四人だけじゃないし」

 

余裕しゃくしゃくのオオヤマツミが指差した方を見ると、トラペジウムの四人とは反対の位置に男女二人が立っていた。

カツはその両者の顔に見覚えがあった。上田市派出所の事実上の支配者、黒札の平田維茂と彼専用シキガミだ。上田市派出所で活動するにあたり、決して怒らせてはいけない要注意人物として頭に叩き込んだ人物を目にして、カツは息を呑んだ。

 

「ああ」

 

黒札も黒札専用シキガミも、存在感がまるで違う。半覚醒者である自分と比べて、覚醒済みである妊活騎士団や婚活戦士団のメンバーは格が違うと感じていたが、あれは人の枠を越えたナニカだ。オオヤマツミが"現人神とも言える存在"と評したのは誇張でもなんでもない。

 

アレに比べれば、ノヅチなんか大人と子供。

何かがストンとカツの腹に落ちたところで、戦況が動いた。見た目だけならハイティーンから二十歳くらいの可愛いお嬢さん、その実は前衛担当の黒札専用シキガミが、常人には出せない速度で駆け寄ってノヅチにパンチを一撃。ただそれだけ。

ドゴン、とかボゴォとか、漫画の擬音みたいな音がして、馬を一口で飲み込むノヅチの巨体は二つに千切れた。

後はもう、戦いではなくただの後始末でしかなかった。

 

 

「ああ~、風呂って命の洗濯だよな~」

 

結局、ノヅチは退治された。ノヅチに殺された妊活騎士団メンバーや炭鉱夫働きしていた男たちは、黒札が地返玉を大盤振る舞いしてみな蘇生した(未覚醒者であった鉱夫には蘇生出来ずに死亡認定された者もいた)。

カツは無事に生き残り、臨時ボーナスを貰った。上田原炭鉱はしばらく閉鎖するがいずれ再開するとのことで、とりあえず彼が今日明日の生活に困ることはない。

カツは同じく生き延びた同僚の炭鉱夫働きを引き連れて、上田市内の別所温泉に泊まった。ここは霊泉として名高い温泉保養地でもあり、上田市シェルターでも重要拠点に位置づけられている。ここで英気を養って、デビルハンター活動を再開するための糧とするつもりでいた。

 

熱めの湯に漬かって、手のひらで掬ったお湯で顔をじゃぶじゃぶ洗う。霊泉に含まれた謎パワーがミヅチ騒動でガタガタになった心身を癒してくれるような気がして、カツは何も考えずに湯の中を漂った。

 

「ん?」

 

ふと、脱衣所の方で物音がしたようで、カツは湯船を独り占めする時間が終わったことを悟った。

そして、自分の感覚はこんなに鋭かったか? と疑問を覚えた。

 

「覚醒すると身体能力も上がるって話だし、あの騒ぎで俺もレベルアップできたんかなー、そうだといいなー」

 

カツは我がことながらお気楽に、温泉休暇が終わったら自身のレベル測定をやり直そうとぼんやり考えた。

*1
本作「余話70 当派出所のデビルハンターは国際色豊かです」

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