【終末】後のとある冬の日、節分(立春)を過ぎて寒さが少し和らいできた頃。
長野県上田市【派出所】の馬ニキこと平田維茂は突然の来客を迎えていた。
「いらっしゃい、田舎ネキ*1。ノーアポですが何かありました?」
新潟県魚沼【支部】の田舎ニキこと碧神凍矢は、Lv100を越えてもはや現人神とも言うべき高次存在になっているため、分霊も性転換も可能となっている。で、目の前にいる田舎ネキはそのような存在だ。田舎ニキの本霊が冬将軍からデメテルにランクアップしたときになんやかんやあったらしいが、馬ニキは詳しいことは知らない。
なお、現人神黒札は人魚ネキ*2など何人もいるし、山梨の黒札用ダンジョン上層(浅層)をクリアしてLv20に到達した黒札は下級神と表現しても間違っていないので、馬ニキはそこら辺を深く考えていない。とにかく、自分が何者であるかの自認が大事。
「うっふーん♡ デメテルよ~ん♡ ハッピーバレンタイン! チョコをどうぞ♡」
「変なネットミームに汚染されました? それに眼鏡どうしたんですか? 今までしてなかったですよね?」
出会い頭にクネクネしなを作る田舎ネキに、呆れながらもチョコを受け取る馬ニキ。差し出されたそれは一口サイズの包みで、田舎ネキの視線に負けて馬ニキはその場でそれを開封する。中から出てきたのはクルミをチョコでコーティングしたお菓子であった。
「へえ、このご時世にチョコレートなんて入手するのも一苦労でしょうに…… いただきます」
田舎ネキの『早く食べろ』という無言の圧に負けて、馬ニキはそれを自身の口に放り込む。
「もぐもぐ…… 美味しいです!」
「ふうん、貴方のお母さん度数は32ね」
「お母さん度数?!」
いきなりトンチキなことを言い出した田舎ネキに、馬ニキは目を丸くした。
「そう、お母さん度数。ちなみに琉球ニキ*3は63と貴方の倍近く、以外にもクロマニキたち三人*4は揃って40前半ね」
「さ、三馬鹿ラスに負けた、だと?! この俺が…… orz」
意味不明な尺度であるが、とにかく三馬鹿ラスに負けた、という事実にがっくり膝をつく馬ニキ。
なお、三馬鹿ラスを内心で見下していたので負けて悔しいとかではなく、単に田舎ネキ(デメテル)のノリに合わせただけである。
「おーい、馬ニキ! って、間に合わなかったか」
丁度そこへ田舎ニキが息を切らしながらやって来て、田舎ネキと馬ニキのコントが始まっていたことに大きな溜息をついた。
「あれ、田舎ニキも、どうしたの?」
「いやあ、アレだよ、アレ。馬ニキも鬼女紅葉や黒姫で経験してる、アレ」
「ああ、アレか…… 今回はデメテルか……」
「そう。数日もすれば霊気も落ち着くし、そこまで酷い変質じゃないから、しばらく好きにさせてやって」
「了解」
田舎ニキと馬ニキが『アレ』で通じ合ったのは、共通認識による概念の変質である。
例えば、古代オリエント世界において広く信仰されていた神バアルは、キリスト教の台頭により悪魔ベルゼブブに変質した。それと同様に、多数の人間が『この悪魔はこうである』と認識すれば悪魔はその影響を受ける。
そして、その共通認識というのはとある平行世界*5を発端として爆発的に広がることもあるのだ。
馬ニキが仲魔にしている鬼女紅葉がある日突然、恐竜の姿に変身できるようになったり、同じく仲魔にしている黒姫弁財天が日本刀を持った黒髪ロングセーラー服姿に変わったり、そのようなことが起きるのだ。
「つい前日まで、小泉小太郎伝説の母親はハクジョウジというのが通説でしたが、一月後半から妖怪『蛇女房』という概念に取って代わられそうです」
「うーん、スマホゲーなのに恐るべし、運命グランドオーダー*6」
田舎ニキと馬ニキは二人してしみじみと語り合う。
「そのスマホゲーの今後のイベント展開次第では、デメテルがもっとハッチャけた存在になってしまう可能性も……」
「おいおい、怖いこと言わないでくれ。噂をすれば影という諺もあるんだよ?!」