エロゲの痕を覚えている人は何人いるのだろうか。
「いやまあ、別所温泉のご当地萌えキャラが出てきた時点で予想できたと言われれば、そうなんだけど」
溜息をつく馬ニキの前でニコニコしているのは、二人の美少女。片方はボーイッシュ系、もう片方はミステリアス系と違いはあるが、どことなく共通した雰囲気を持っている。
ミステリアス系は上田市別所温泉の温泉むすめ・
「うむ、北条まどか・八木沢舞の上田電鉄コンビに対してこちらが一人ではいささか分が悪くてな。相方を呼び出すべく鹿教湯の地脈を活性化したら妙な所に繋がってしまった」
「こっちに迷惑かけないと言ったはずでは?」
「てへ☆」
ちっとも悪いと思っていない表情と声音で、別所愛染がペロリと舌を出し笑って誤魔化す。
これ以上追及しても無駄だと悟った馬ニキは、鹿教湯万美に視線を向ける。
「まず、鹿教湯温泉の近くに大塩温泉と霊泉寺温泉があり、昭和31年に国民保養温泉地として指定された時には、この三つを合わせた内村温泉という扱いだった。それはいいか?」
人差し指をピンと上に立てて解説を始める鹿教湯万美と、それにふむふむと頷く馬ニキ。
「霊泉寺温泉の霊泉寺には創建由来の社伝があってな。平安時代、平維茂が戸隠の鬼女紅葉を退治した後、丸子の地に来て『柏木の鬼』もついでに退治したが傷を負い、この地の湧き湯を発見して傷を癒した。そして霊験あらたかな湯を守るために寺を建立し、それが金剛山霊泉寺」
「んん~? 鬼女紅葉伝説の拡張だとー!」
「霊泉寺は明治10年の火災で大半が消失したゆえに、記録類もほぼ残っていないのだが、この伝説は今も細々と語り継がれている」
かつて、馬ニキは地元のローカル伝説を再現する霊障事件に見舞われたことがあり、鬼女紅葉を討伐して仲魔にしたことがある。
そこから導かれるものは──
「俺に『柏木の鬼』を討伐しろって?」
「いや、まずは『柏木の鬼』の正体を探ってもらうところからだ。まだ『柏木の鬼』が出現して被害が出たという報告もない」
「うーん。上田市丸子には柏木という地名はないですよね」
「うむ、上田市近隣の小諸市に柏木という地名はあるが距離がある。だから柏木が地名という説は考えにくい」
「そもそも丸子の地に鬼の伝説があったか?」
「砂原峠に住む鬼婆の『小鍋立の湯』ならあるが……」
馬ニキ・鹿教湯万美・別所愛染の三人が揃って首を傾げる。
「地名ではない柏木と言えば、源氏物語の巻名が思い浮かぶが」
「こんなド田舎に源氏物語なんて雅な京物語が関係するわけないでしょ」
「頭中将の長男、柏木衛門督か。あれは『柏木』が衛門府、衛門督の雅称から来ているが、そっちの筋からは?」
「戦国時代、丸子地域の土豪だった丸子氏には、丸子三左衛門という武将がいたが、『衛門』がかすっているだけで鬼とは関係なさそう」
上田市のローカル伝承を思い出しながら、やいのやいのとブレインストーミング。
しかし『柏木の鬼』についてはさっぱり見当がつかない。三人は気を抜いて、だらだらした雰囲気で雑談に流れた。
「そういえば、話は変わるのだがな。霊泉寺温泉は寂れた保養地で立派なホテルなどなく、しょぼい民宿が数件あるだけなのだが」
「しょぼい言うな」
「つい最近、どこぞから四姉妹が流れて来て、新しく温泉宿の女将として働き始めたと聞いた」
「へぇ」
「四姉妹の名前は上から千鶴、梓、楓、初音と言うそうだ」
「ん?」
それを聞いた馬ニキは、脳内に引っかかるものを感じた。
「柏木── 鬼── 千鶴、梓、楓、初音の四姉妹──
「何ぞ思い出したのか?」
「あれは能登の和倉温泉がモデルのはず── 耕一さん、あなたを殺します── 長瀬ちゃん、電波届いた?── あっこれは違う」
頭を抱えてうんうん唸りだした馬ニキを見て、温泉むすめ二人は困ったように目を見合わせた。