「いやぁ、ウェストニキとMTTニキがはっちゃけて*1ね…… 多脚戦車が暴発して巻き添えでスラム街が丸焼けになって、せっかく工房とか良い感じで育ってきたのに逆戻りだよ、とほほ」
新潟兼・魚沼支部の田舎ニキが愚痴をこぼす。それを聞いて、長野県上田市派出所の馬ニキも額に皺を作る。
しかし馬ニキの内心は嫉妬に塗れていた。
『スラム街なんて人口少ないウチじゃ形成することすら出来ないブツじゃねーか! 自慢か?! 自虐の皮を被った自慢なのか?!』
近隣の【黒札】と定期的な情報交換という名目で、二人はダラダラ飲みながら雑談している。
二人とも【トラポート】が使えるのでフットワーク軽く、なんだかんだで付き合いも長い。互いに【ガイア連合】支部or派出所のトップという同格、自シェルター運営という仕事に直接関わらないが間接的には関わる程度の距離感。うかつに零した軽口が側近金札の忖度により話が大きくなってしまうなんてこともなく、なんら気兼ねなく話ができるというのは、実は貴重なのである。
「ふーん、スラム街が焼け出されるねぇ。怪我人がいっぱい出て、救護ネキがさぞ張り切ったんじゃない?」
当たり障りのない返事をしながら、馬ニキは手酌でぐい呑みに酒を注ぐ。この酒も田舎ニキが手土産として持ち込んだもので、米どころ新潟の名に恥じぬ銘酒である。田舎ニキいわくローエンド*2と謙遜しているが、シェルター人口2000人規模で自前で酒蔵を抱え込むことすらままならない馬ニキとしては、これまた劣等感をくすぐられる代物だ。
「まぁ彼女はいつも通りさ。そんなことより聞いてくれよ、近くのスラム街に行ったんだよ、スラム街。そしたらなんか人がめちゃくちゃいっぱいで座れないんです……」
馬ニキの内心に気づいていないのか、それとも気づいているがあえてスルーしているのか。田舎ニキはテーブルに肘をついてウイスキーグラスを揺らしながら、妙なかすれ声で独白し始めた。
「もうね、アボガド! バナナと! スラム街ってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。Uの字テーブルの向かいに座った奴といつ喧嘩が始まってもおかしくない、刺すか刺されるか、そんな雰囲気がいいんじゃねーか」
某コピペを語り始めるうちに、自分に酔い始めた田舎ニキ。
その姿は某A級スナイパーのパチモノ、一世を風靡したFLASHアニメのゴ●レゴによく似ている。
「嫉妬の心は父心…… 押せば命の泉沸く……」
反射的に相槌を打ちながら心の暗黒面に堕ちていく馬ニキ。
二人の黒札は互いの話を聞かず、しかし傍から一見すると会話が噛み合っているかような、不思議なコントを繰り広げる。
「まあお前らド素人は、南米製マッスルドリンコでも飲んでなさいってこった」
「……あ、終わった?」
某コピペを最後まで完走した余韻に浸る田舎ニキと、会話が途切れたことで手元のぐい呑みから視線を上げた馬ニキ。
二人の間に微妙な間が空くが、酔いどれ二人はそれをまったく気にしない。仕切り直しとばかりに、今度は馬ニキが口を開く。
「スラム街かー。うちみたいな小さいトコだと、そもそも成立しないんだよね」
──全然、仕切り直しではなかった。
そして酔っぱらっている田舎ニキも、会話のループを全く気にしない。
「スラム街の住人というのは、既存枠からはみ出した者と相場が決まっている。そして『既存枠からはみ出す』というのは、【終末】後の悪魔が闊歩する世界において『悪魔祓いの結界の外に出る』と同意だ」
「悪魔と戦う力のある者は、どこのシェルターも欲しがるから、スラム街の住人にならない。では悪魔と戦う力のない者なら?」
「身を寄せ合って、数を力とするしかない。だけど群れても小規模じゃ、悪魔に殺されるか、殺される方がマシな目に合わされるかの、どちらか」
「うん、これ以上は酒が不味くなるから、止めようか」
「そうしよう」
そういうことになった。
「話題を変えよう、こう、なんかゲラゲラ笑えるやつ」
「じゃあガンダムの話をしよう、ガンダム」
「おっ、いいねぇ。ああ、前に馬ニキは派出所に設置するシキオウジロボの外見をガンダムにするって言ってたけど、進展あった?」
「おうともよ。仁王像のように阿吽の二体を設置することに決まってね、これデザイン案」
馬ニキがどこからともなく取り出した紙を手渡し、田舎ニキがそれを食い入るように見つめる。
「面長の異形、ぼろぼろの装甲板と剥き出しの動力パイプ、手にするはヒートホーク。結局、1日ザクではなくドアン・ザクにしたんだ?」
「ああ、対になるガンダムのデザインが運良く手に入ってね」
「へぇ、これが…… ? うーん、白と青のカラーリングはガンダムだけど、ビームサーベルは一本しかないし、腰と膝関節は明らかにジムⅡだよね、これ? 偽ガンダムかい?」
「一目でそこまで見抜くとは、田舎ニキもやるねえ。確かにそれは偽ガンダム。だが、エンデにとっては……」
「! まさか! 突貫工事でガンダムヘッドを据え付けただけで、片目が死んでいるし首元に繋がれていないケーブルが数本露出している! これは、エンデの『ガンダム』!*3」
「ご名答! ドアン・ザクと合わせて、量産機(モブ機)だけど主人公機というコンセプトさ!」
打って変わってニッコニコの馬ニキと、素直にそのアイデアを賛辞する田舎ニキ。
先程までの湿った雰囲気とは一変し、陽気な空気に包まれる。二人は手にしたぐい呑み/ウイスキーグラスを軽く掲げ、ぐっと飲み干した。
「あぁ~酒が美味い!」
「あれ、でも今のはゲラゲラ笑える話じゃないよね?」
「うん、笑えるガンダムの話ってのは、宮城の幼女ネキのところへ行ってあっちで開発しているガンダムを見せてもらったときのこと」
「気になるなー」
「彼女がね、自信満々に『クロスボーンガンダムX-1だっ!』てお出ししてきたものがね、デモニカだった*4ときの衝撃、もとい笑撃。お台場に18mの巨大ロボを見に行ったはずが、段ボールでガンダムのコスプレしてる人が出てきたくらいのギャップでさ、もう臍で茶が湧くと思ったわ」
「いやほら、幼女ネキはミノフスキードライブとか真面目に開発してるから笑わんどいて」
宮城や呉と提携して魚沼ロボ部でもガンダムを開発しようとしている魚沼ロボ部でもガンダム開発している*5ので、田舎ニキは幼女ネキを擁護しに回る。
「それにデモニカ型ガンダムも、SDガンダムだと思えば愛嬌ある形だと思えません?」
「SDは武者頑駄無のイメージが強くてな…… SDガンダムとクロスボーンが同列なのは、納得いかないというか」
「SDガンダムにもクロスボーンX1はありましたよ?」
「……え?」
「2018年に発売され、2021年にはクリアカラー版も出ました。ひょっとしてご存じない?」
馬ニキの瞳が困惑に揺れた後、田舎ニキの言葉を噛みしめるようにじっと固まった。
「……俺は前世で、SDクロスボーン発売前に死んでるかも」
「じゃあ知らなくても仕方ないですね!」
田舎ニキは朗らかに笑い飛ばし、馬ニキはバツ悪そうに愛想笑いした。
「俺の無知で幼女ネキには悪いことをした」
「シキオウジロボが完成して配備されたら、お披露目で彼女も呼びましょう。巨大ロボを見ながら飲む酒はきっと美味いですよ」
九重静「男二人の差し飲み、何も起きないはずがなく…… わ、私が身体を張ってお止めします!」
破裂の人形「キャラが外伝に引っ張られてますよ。主を信じましょう」