ものの弾みで平氏の末裔と法螺を吹いたら、巡り巡って本当に平氏の末裔ということにされてしまった。まさに身から出た錆。
困ったことになったと頭を抱えた馬ニキだが、自分のケツは自分で拭く、そう自身に言い聞かせて顔を上げた。
桓武平氏の
そう決心した馬ニキは、さっそく桓武天皇を祀る神社を調べ始めた。
「神奈川県小田原市の宗我神社はキノネキの、宮城県仙台市青葉区の宇那禰神社は幼女ネキの勢力範囲か。この2つはさくっと済ませちゃうか」
手土産として上田市の地酒・亀齢の一升瓶を風呂敷に包み、【トラポート】でさくっと北神奈川支部へ移動することにした。
*
【ガイア連合】北神奈川支部は、相模原市を中心にして隣接する座間市・愛川町・清川村にまで結界が敷設されている*1。小田原市は結界の範囲外だが、バイクツーリング好きなキノネキ支部長が神奈川全域の道路を整備しているので、まっとうにLv上げしている黒札ならお遊び気分のツーリングで踏破できる。
「あっ、キノネキ。この前リストアしてもらった火縄銃*2、使い勝手最高ですよ」
「それは良かった。飾るのも良いですけど、実用されて褒められるのも良いですね」
馬ニキはたまたまそこに居たキノネキに挨拶して、彼女も自分の仕事が高評価されたことを喜ぶ。
「ところで、火縄銃の癖に連射できるのは何故です?」
「世界の理、神秘の力です」
「あっ、そうですか」
ふと疑問に思ったことを問うた馬ニキだが、キノネキはすっと表情を消してレイプ目になり、感情のない声で返答した。
だって世界がそのように出来ているのだから、仕方ない*3。
これ以上は追及しても無意味と悟った馬ニキはそこで話題を打ち切り、キノネキも表情が戻る。
「ところで、本日はどんな御用でこちらに?」
「ちょっと、小田原市の宗我神社まで参拝したくて」
「小田原ですか…… 座間の南から国道246で西に行くのが分かりやすいルートですね。道案内は必要ですか? バイクがないなら貸しましょうか? それとも私の運転するバイクのサイドカーに乗ります?」
余所の【黒札】を接待する名目で、ツーリングの機会を逃さないキノネキ。きっと支部長の書類仕事に飽きたに違いない。
「そうですね、道案内をお願いします。バイクは不要です、自前の足があるので。あ、私の荷物だけサイドカーにでも積んでいただけると助かります」
そう言うと馬ニキは【スレイプニル】にデビルシフトし、軽く嘶いて健脚をアピールする。
「おお、馬ニキも走る気満々ですね。こちらも本気を出さねば無作法というもの……」
キノネキは自らの相棒シキガミ《エミール》を呼び出し、彼をホンダのC95*4へ変身させた。
「小田原までなら近距離だからね、小型でのんびり行こうじゃないか」
*
「うーん、あんまり出てこないねぇ」
シェルター結界で覆われていない国道246号、キノネキが霊道として整備したとはいえ、野良悪魔の発生を完全に抑えることはできない。
ツーリングがてら、野良悪魔の湧き潰しの兼ねているのだが、【ターボばばあ】が一匹出現しただけの平穏な旅程である。
キノネキとしては【モヒカン】バイク野郎の入れ食い*5を期待していたのだが、何の仕込みもしていない状態では難しいようだ。
「ブルルッ」
およそ60km/hで並走する馬とバイク。
馬型悪魔に変身中の馬ニキが呆れたような声を出したが、キノネキはそれをすぱっと無視した。
「ん? おおっ、あれは?! やったぞ、レア悪魔だ! やはり馬と並走するレアイベントだからかな?!」
道路の先を、こちらの速度より遅く走っている悪魔。首無し馬二頭が黒塗りの木造四輪馬車を引き、御者には首無しの騎士。【デュラハン】と【首無し馬車】の組み合わせが、相対的にどんどん近づいてくる。
「やっはーっ! 首置いてけーっ!」
「デュラハンに首はありませんよ」
「ブルルッ……」
レア悪魔に遭遇したからか、テンション爆上げで薩摩武士みたいな台詞を叫ぶキノネキ。冷静に突っ込むシキガミの《エミール》。平素はクールでお淑やかなキノネキの豹変した態度に若干腰の引けた馬ニキ。三者三葉である。
「
馬車に横並びになったスレイプニル(馬ニキ)に、キノネキがジャンプして飛び移る。鞍も手綱も鐙もないのに高レベル霊能者の肉体性能だけでなんなく乗りこなす彼女が隣りを走るデュラハンを挑発すると、デュラハンはピシリと鞭を入れて首無し馬にスピードアップを指示する。
「ヒヒン!(駆けっこじゃ負けないぜ!)」
突如として騎手が生えてきたが、馬の走るという本能が刺激されたのか、馬ニキも息を合わせてノリを合わせる。
しばらく首無し馬車とスレイプニルのマッチレースが繰り広げられたが、高レベルの黒札がデビルシフトしているスレイプニルは、首無し馬と格が違う。スレイプニルは馬車ときっちり一馬身差を保ち続けて余裕を見せつけると、限界がきたのか首無し馬車の速度がカクンと落ちる。
「ふっ、さらばだ」
キノネキが懐から豆鉄砲(コルト ウッズマン マッチターゲット)を取り出し、デュラハンに向けて撃つ。
本来であればさほどのダメージでないのだが、負けを認めたデュラハンはそれを喰らうとあっけなく消失した。
「まあ、あちらは馬車というデッドウェイトもありましたし」
乗り手が不在でも自動走行して二人を追尾していた《エミール》が突っ込むも、キノネキはそれを華麗にスルー。
「おっと、ストップ、ストップ! デュラハンがドロップアイテムを残したようだ」
スレイプニルは速度を落として停止すると、くるりと振り返って競り落としたデュラハンの方へと歩き出す。
「うーん、御者と首無し馬が消えて、木造四輪馬車が残ったか…… どうしよう?」
「ブルルッ(取り敢えず馬車は俺が引こう)」
「そうだね、小田原の目的地まであと少しだし、残りはバイクでなく馬車旅というのも悪くないかな?」
キノネキはシキガミ《エミール》に人型に戻るよう指示し、自身は四輪馬車の御者席にウキウキしながら乗り込んだ。
*
その後はトラブルもなく、宗我神社に到着した。
馬ニキがお神酒を供え二礼二拍手一礼を手早く済ませると、祭神である桓武天皇の分霊がさっそく霊界通信で彼にコンタクトしてくる。
「我は平朝臣が祖、桓武天皇である。汝を我が裔と認めよう。この地はガイア連合北神奈川支部により安定しているので特に要望はないが、平安神宮の分霊が依頼してくるものはなるべく受けて欲しい。後、七社全部巡る必要ないからね、巡れそうな所だけでいいよ」
「ええー」
最初は威厳を出そうとしたが、取り繕うのを止めてすぐにフランクになった桓武天皇の分霊。
まあ小さな社に居る末端の分霊なんてこんなものか、と馬ニキは割り切って、参拝を終えた。
「ところで、この黒塗りの木造四輪馬車、どうしましょう」
「自走しない車はうちの支部だと使い道ないんだよね…… 空間拡張されて多量の荷物を積めるわけでもないし。馬ニキは使う?」
「うちも、ガイア連合製リアカーの方が使い勝手良いんですよね、この馬車、サスペンションとか効いてなくて乗り心地悪いですし」
「壊せば薪になるかな?」
「流石にそれは、これを残したデュラハンが可哀想です。……でも使い道ないんですよねぇ」
「レア悪魔からレアドロップしたけどハズレでしたね……」
二人の黒札が、ドロップアイテムを前に困るのであった。