神奈川県小田原市の宗我神社へ無事(?)参拝を終えた馬ニキは、次なる参拝先として宮城県仙台市青葉区の宇那禰神社を選んだ。
仙台市は宮城支部のお膝元、シェルター結界内であり、北神奈川支部よりトラブル率は低いと見込んでいる。
「幼女ネキ、こんにちは」
【トラポート】で仙台に移動した馬ニキは、宮城支部のボスである幼女ネキに挨拶する。
「実は、葛葉キョウジから『平氏の末裔』であることを保証されまして*1。そのときに退魔一族・葛葉の保証も同然』と言われたので、念のため葛葉繋がりでライドウ*2にも話を通しておくべきかなって」
「ライドウの? 保証?」
「いやー、実は……」
馬ニキが恥ずかしそうに、自分のルーツがどこぞの馬の骨とも言えずに見栄を張った結果、平氏の末裔という家系捏造に至った経緯を説明する。
「ぷーくすくす。完全に自爆じゃん」
「なんともお恥ずかしい限りで」
「話を聞く限り、桓武天皇の分霊に認定されたんだから、葛葉の保証とか不要だと思うけど。うん、まあライドウとして追認しとくね」
自身にとって割とどうでもいい案件だったので、雑な返答をする幼女ネキ。しかし彼女の横に立つ幼女ネキの嫁六号、タマは、思うところがあるようだ。
彼女は肩をすくめ、馬ニキに苦言を呈した。
「『平氏の末裔』が嘘から出た
「?」
事態を深刻に捉えておらずのほほんとしている馬ニキに、タマは眼鏡くいっのポーズをして説明し始めた。
「信濃和田氏の流れを汲むと仰りましたね?」
「はい、そうですが。何か懸念でも?」
「和田氏と同じく平維茂を祖とする越後城氏はご存じですか?」
「通り一遍だけなら。すいません、末裔はニワカでして、詳しくは……」
タマは溜息をついて、馬ニキに憐れみの視線を向けた。
「鎌倉時代の歴史書『吾妻鑑』にこうあります──」
鎮守府将軍・平維茂の子、城繁成(平重成とも)は生まれてほどなく行方不明となった。人々が悲嘆に暮れること四年、夢のお告げに導かれて探し求めたところ、狐塚にてこの子を見出し、家へ連れ帰ったという。その折、狐が老人の姿に変じて現れ、刀と挿し櫛を子に与え、こう語った。
『この子を、老いた私が人里離れた地で育てていれば、日本を征服するほどの英雄となったであろう。しかし人の世に戻った今は、その位に就くことはあるまい。』
この子こそが、繁成である。城長茂はその血を継ぐ者として、今なおその刀を所持していると伝えられている。
「越後城氏は建仁の乱により鎌倉幕府軍に鎮圧され、歴史の表舞台から消えました。しかし城長茂の甥、城資盛が討ち取られた記録はなく、脱出して行方不明のままです。彼は同族である信濃和田氏に身を寄せ、城氏の血筋は和田氏と同化して残った…… ロマンある話だと思いませんか?」
「歴史ロマンある話ですが、それが史実かどうかは不確定ですね」
「でも完全否定出来ないでしょう? 和田氏と城氏はどちらも平維茂の子孫、同族です。それは
「確か、和田氏は維茂の長男・繁貞の血筋で、城氏は維茂の三男・重成の血筋です。和田氏が城氏の分家筋というならともかく、城繁成が受けた狐の加護が、和田氏の流れを汲むことになった私にも、という話であれば、言い掛かりにも程があります」
「でも貴方は和田氏と城氏の起点である平維茂の転生体でもあるのでしょう?」
うっと詰まって反論の言葉を途切れさせた馬ニキに、タマはこくりと頷き、屠殺場に送られる豚を見るような憐れみの視線を再び向けた。
「実利があるから、悪魔は高レベル黒札と縁を結びたがります。理屈と膏薬はどこにでも付く、と言いますが、ほんの僅かでも食いつく隙があるなら、狐の元締めである稲荷神が見逃すことがありましょうや。まして貴方は温厚ですから、交渉が失敗してもローリスク。私が稲荷神の立場なら駄目元でやります」
タマの正体は【神獣ウカノミタマ】であり、稲荷神の分霊であった。今は幼女ネキの仲魔という立場だからこそ、こうしてアドバイスしてくれる。
ちなみに彼女が馬ニキを温厚と評したところで、彼女がちらりと幼女ネキに視線を向けたが、誰と比較して温厚なのかは察して欲しい*3。
「平安神宮詣でのついでに伏見稲荷にでも行ってごらんなさい。散失した刀と櫛を再び、とばかりに差し出してきますよ」
「うへぇ」
「それを受け取ったら、中臣鎌足が稲荷神から鎌を授かった伝説の再来だと、そうこじつけて、次はどうなるのでしょうね」
こてんと小首を傾げながら、獰猛な笑顔を浮かべるタマ。まるで獲物の小鼠を追い詰めた肉食獣のような雰囲気だ。
馬ニキは救いを求めるように恐る恐る、幼女ネキの方をちらっと見た。
「なんだ、デビルサマナーが悪魔に隙を見せる方が悪いだろ。自業自得じゃないか」
さくっと切って捨てられ、馬ニキはがっくり項垂れる。
「稲荷神の分霊を一方的にボコれるくらい強くなれば、無理な要求を跳ねのけられるぞ。星霊神社ダンジョンの深層をしっかり探索してる? Lv上げ頑張ってる?」
「いやぁ、修羅勢と同じにしないで……」
詰問されて(なお幼女ネキは詰問しているつもりはない)呻くように声を絞り出す馬ニキに、仕方ないとばかりに幼女ネキは肩をすくめた。
「まあ、笑わせてもらったからな。稲荷神があまりに無体なことを言うなら、私がタマを通じて取りなしてやってもいいぞ」
「リンちゃんがデレました! ツンデレ! 駄目男を甘やかすバリキャリ女の図です!」
「やかましい!」
横からちゃちゃを入れたタマに幼女ネキがパシーンとツッコミを入れ、タマが衝撃でよろける。
「照れ隠ししなくていいのに……♡ もうっ♡」
変なスイッチが入ったのか、タマがくねくねし始める。
彼女から立ち上るラブの気配を察して、馬ニキは空気を読んだ。
「じゃ、私はこれで。ほな、さいなら」
怪しげな関西弁の挨拶を入れて、馬ニキはその場から脱兎のごとく逃げ出した。