オカルトアイテム製造は黒札の嗜み。ドクオニキが昔からオリジナル退魔祠を作っていた*1ように、だいたいの黒札は幼児が麻疹に罹るのと同程度に、オカルトアイテム製造にチャレンジする。
そのうちほとんどは、スタンクニキがシキガミをカスタマイズして乳盛っただけで飽きた*2ように、モノにならずに終わってしまうのだが。
本作の主人公、我らの馬ニキの場合はというと。過去にオカルトアイテム製造を頑張ったことがある*3ものの、その情熱は長続きしなかった。しかし、彼の醒めてしまった情熱に火をつけたものがある。それが。
「三宝荒神型のストーブと火鉢*4…… ぐぬぬ」
新潟・魚沼支部へいつもの荷運びをした彼は、金札・九重静から開発中のサンプル品だと火鉢を渡されたのだ。
上田派出所の上田原炭鉱で掘削・生成した炭団を燃料とするその火鉢は、竈の神であり九重家が奉じる三宝荒神の
さらに同じく開発中であるという三宝荒神型ストーブは、MAGを消費すれば石油石炭いらずで燃焼して暖が取れるという。こちらは火鉢と異なり霊能力者でないと使いづらいという制限があるものの、民生品の普及価格で売りに出されるなら是非とも買い込みたい品である。長野県も冬は寒いのだ。
そのような、お手軽で便利な品を自分で考えつかなかったという若干の悔しさと、自派出所の交易品を使ってくれるという嬉しさと、悲喜こもごもなごちゃまぜ感情を味わっているうちに、馬ニキはふと閃いた。
これ、改造できるんじゃね? ──と。
「この、三宝荒神の真言が刻まれている燃焼筒だけど…… 他の神霊の真言に置き換えできないかなぁ? そうすれば三宝荒神へ流れるはずの感謝のMAGがその神霊へと渡るかも?」
小出や十日町の総鎮守である諏訪神社の
だが、彼の仲魔であるタケミナカタは、その思い付きに対し首を横に振って否定した。
「火神・竈神でもないのに、常に火あぶりというのは、ぞっとする話だな」
「あっ、そうか。じゃあ止めよう」
馬ニキは素直に案を撤回したが、それに関することでふと別のことに思い当たった。
「他神話系統の竈神なら代替できるのか…… ギリシャ神話のヘスティアとか、田舎ネキのデメテルから縁をたどってやるかも?」
優れた製品をパクった無許可のパチモンが世に出回るのは、当然のこと。自分が製造するわけじゃないと馬ニキはそう割り切って、そこで思考を打ち切った。
「それはともかく。真言を刻んだ燃焼筒、これカスタマイズできそうだけど……」
燃焼すると空気が暖められる。暖められた空気は上に昇り、対流が発生する。火力発電であればそれがタービンを回す。
「回る…… マニ車!」
マニ車は主にチベット仏教で使われる宗教用具で、内部に経典が収められている。このマニ車を一回転させると、内部の経典を一回唱えたのと同じ功徳があるという。
ストーブ内で対流が起こるなら、それを受けて回転する風車のようなものを用意すれば良い。その風車に真言を刻んでおけば、勝手にぐるぐる回転して勝手に功徳が溜まっていく。三宝荒神へ流れるはずの感謝のMAGもうなぎ登りになるだろう。
「いける! いけるぞ!」
脳内でカチッと何かがハマった音がして、馬ニキは興奮気味に大声をあげた。
*
その後、馬ニキが実験と試作を繰り返した結果は、芳しくなかった。
風車の素材は、高熱耐性と軽量を両立する必要があったのだ。黒札が意地と酔狂でコストを度外視すれば作れないこともないが、民生品の普及価格で売りに出すなど夢のまた夢。
しかも燃料として石油石炭を使うのであれば、煤が付着するので風車を小まめに清掃する必要がある。刻んである真言に煤が付着して文字が隠れてしまうと、真言の霊的パワーが失われて回転しても功徳が溜まらない。それどころか、姦淫聖書のように特定の単語が消えることで逆の意味になってしまう可能性すらある。
失敗の数だけ強くなれるのさ。馬ニキはそう呟きながら悔し涙をぬぐった。