しばしの休憩時間も終わり、俺たちはこの異界を出ることにした。
馬背神からは、年に二回はこの異界の雑魚掃除を行うよう指示があったが、それは大した労力ではないので了承した。
異界から現世へと戻るときにふと空を見上げると、赤く染まっていた空の色が青に変わっていた。
この異界は正常に戻った、そう予感させる青空に、大きく安堵のため息が自然に出た。
「何だかんだで苦労もあったけど、終わり良ければ全て良しってか。<ヒメ>が居てくれて本当に良かった」
「主様のお役に立てることが私の喜びですわ」
「……ありがとうね、さ、戻ろうか」
*
現世に戻った俺たちは、宮下さんに討伐成功の報告をした後、別所温泉の宿に戻った。
疲労困憊なのでさっさと布団に潜り込んで疲れを癒すはずだったのだが。
「討伐お見事でした」
「はぁ、あ、加護ありがとうございます。あれが無ければ鬼女紅葉に勝てませんでした」
「それは重畳。温泉も気に入ってくれたようですね、もし貴方が引き続きこの地に拠点を持つというなら歓迎しますよ」
北向観音様が俺の夢に現れ、褒めてくれるのはともかく。え、勧誘されてる?
「私の氏子にコナかけるのは禁止です!」
「まあまあ、同じ仏法の守護神*1として、隣地区とも仲良くすべきです」
あ、夢の中に馬背神が乱入して来た。とはいえ北向観音様も馬耳東風とばかりに受け流している。
「そうじゃ、隣地区とも仲良くするなら、同じ国津神同士でえぇじゃろ」
新たに夢に乱入してきたのは、腕の長い老人と脚の長い老人の二人組。これは生島足島神社の祭神である生島神・足島神の二柱ですねぇ。
「同じ国津神というなら、祖父神に当たり神社に合祀されている吾が先であろう」
今度は諏訪大社の建御名方富命ですか。あーもう滅茶苦茶だよ、人の夢の中で喧嘩しないで貰えます?
「よう
その
「俺は諏訪神の子、馬背神は諏訪神の孫だし、諏訪一族ってことでよろしくな。どうだい、『スケベ部』なんて称号持ってるんだし、俺なんかぴったりだろ?」
あーもう滅茶苦茶だよ(60秒ぶり二回目)。
高位の霊能者は複数の神格から勧誘されることがあるって聞いたけど、体験するとウザいことこの上ない。
*
「……じ様、主様! 起きてくださいまし、緊急事態です!」
俺が夢の中で複数神格からの勧誘合戦に閉口していたとき、<ヒメ>が焦って俺を起こそうとしてきた。ナイスタイミングでのアシスト、ありがとう。
「すいません、現世に呼ばれているので先に戻ります、あと俺は馬背神の氏子ですんで」
そう言い残して、<ヒメ>の声がする方へと走り出す。夢の中からぐんと引っ張り上げられるような感覚で意識が浮上した。
「……酷い夢だった、起こしてくれてありがとう、<ヒメ>」
「随分とうなされていたようですが、それとは別に緊急事態です、近くに新たな異界が急速に生成されています!」
「は?」
<ヒメ>が指し示す方向をマグ感知すると、100mほど先で周囲のマグが急速に一点に集まっている。
時計を見ると時刻は草木も眠る丑三つ時、仮眠程度だが休息は取れてある程度は回復している。俺は腹を括った。
「この時間なら人目もない、装備を身に着けろ、闇に紛れて突入するぞ」
「分かりました、主様! あ、えぇと、こういうときは40秒で支度するのが『お約束』と聞いたのですが……」
うちの式神は順調に世俗に染まっているようですね! 誰だよ教えた奴!
宿から出て100mほど、別所温泉の観光客用無料駐車場のすぐ近くにある『将軍塚』が異変の中心地だった。
これは古墳時代の遺跡だが、この地には一つの伝承が伝わっている。鬼女紅葉を退治した平維茂だが討伐時に負傷し、別所温泉で湯治するが甲斐なく死亡し、ここに葬られたという内容だ。ちなみに歴史的には平維茂はここで死んでいない。
つまり、鬼女紅葉の伝承再現イベントが連鎖したと見ていいだろう。
「できたばかりの異界だ、低レベルの敵しかいない。このまま踏み込んで制圧する」
「主様、お任せください!」
本日二回目の異界突入(午前零時は過ぎているが夜が明けていないので一日扱いだ)、想像通り生成されたばかりなので出てくる敵が弱い。大半はLv1未満の【スライム】か【ディブク】、稀にLv1の【餓鬼】。北向観音から授けられた武器への加護は失われているが、敵の弱さはそれを必要としない。
ダンジョンとしての規模も小さく、30分ほどで最深部へとたどり着く。そこで待ち受ける異界ボスとは──
「ここが汝の死地ぞ、余五将軍*2」
十二単を身に纏った【鬼女紅葉】再び。それは容易に想像できたことだが。
前の彼女が二十代半ばの大輪の牡丹を思わせる美女とするなら、今の彼女は十代半ばの咲きかけの百合を思わせる美少女だ。
「ちっちゃいですわーっ!」
「ああ、縮んでるな」
やはり討伐され異界ボスの座を追われたことで、パワーダウンしているのであろう。
鬼女紅葉は俺たちの素直な感想を聞き、屈辱にその身を震わせた。
「妾が力を失いしは事実、だが汝の神仏の加護が失われたからには、汝の血肉を喰らいて力を取り戻そうぞ」
「そいつは御免被る」
【アナライズ】した結果、鬼女紅葉はLv10と半減している。耐性は物理耐性、破魔弱点、呪殺無効と変わりない。
「さっきの戦いは格上だったから通用しないと思って使わなかったけど、格下なら通用するかな」
俺はガイア連合製【退魔銃】を取りだし、破魔弾が込められているそれの引き金を引いた。
*
サイゲームスの二次創作ガイドラインに従い、暴力的シーンはカット。
<ヒメ>の活躍シーン(二回目)は各自で脳内補完していただくようお願いします。
*
「おのれ、平維茂…… 妾を二度も打ち破るとは……」
再び倒れ伏した鬼女紅葉が苦悶の表情で呪いの言葉を吐こうとしたが、<ヒメ>が止めを刺そうと近づいたので口をつぐんだ。うーん、美少女化した紅葉だと凄んでも迫力ない、むしろ逆に微笑ましく感じる。
「嫌じゃ嫌じゃ、死にとうない、現世に
「あら、命乞いですの?」
血と泥にまみれた紅葉の顔に浮かぶ雑多な感情と、その瞳から流れる一滴の涙。俺はそれを勿体ないと感じた。
俺は<ヒメ>に指示して下がらせ、代わりに紅葉に近づいた。
「俺は
ミナミィネキから貰った封魔管(脆)を取り出し、紅葉の瞳をじっと見つめる。
「俺に従え、俺のものになれ。俺の使い魔となれば、今しばらくの現世を過ごせるぞ」
「───────汝に降ろう。妾は鬼女紅葉、コンゴトモヨロシク」
「ああ、今後ともよろしく」
「私は
「……コ、コンゴトモヨロシク」
紅葉は<ヒメ>の勢いに押されたまま封魔管(脆)の中に入った。あの短い間に、<ヒメ>と紅葉の力関係が決まったのかもな。
異界ボスを失った異界は消滅するので、急いで脱出したところ、まだ夜明け前だった。
人目がないうちに宿に戻り、軽く仮眠をとって、北向観音へ願解きの参拝をしたら、これ以上の
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv13
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)、氷結弱点(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ、チャームディ、トラポート、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(弱)、スケベ部幹部*2
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、ブラッドデューク一式*3、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ
予備装備:ソニックナイフ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、呪殺無効、精神状態異常無効、破魔耐性
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の小息吹、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、勝負服*4、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン<アグネス> Lv6
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー、念動
仲魔3:鬼女紅葉 Lv10
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、変化、酒の宴(劣化)*5