新潟の魚沼派出所*1に連絡を入れて、初心者用異界【黄泉比良坂】に一度潜ってみたいと連絡を入れたところ、さくっと予約が取れた。こういうときに黒札ってのは便利だね。
自身が異界【浦野牧】を管理しているからこそ分かるのだが、やっぱり地方の異界管理者にとって様子見でもいいから黒札が来てくれるというのは有り難いことだ。万が一にでもその異界を気に入って定着してくれれば最上で、そうでなくても地方遠征するような黒札は地方霊能組織の能力者と隔絶した実力を持っている(実力のない黒札は地方遠征しない)ので、コネを繋いでおいて損しない。
こっちが黒札ってことを最初から明かしたので、きっと最優先で処理してくれたに違いない。というか、派出所にそういうことが『分かっている』事務員がいるんだなと推測できるから、きちんと派出所を運営できているんだなと後輩*2の活躍ぶりを内心で褒める*3。
トラポートで魚沼派出所に飛んで、いきなり精神ダメージを受けた。トラポート移動先として魚沼派出所を登録したときには、公民館に小さく間借りしているだけで何もなかった*4が、今はまったくの別物だ。表向きこそ公民館のままだが、きっちり結界が張られ、防衛用のアガシオンも配備されており、地下には避難用のシェルターも用意されている*5。
「ま、負けた……」
うちの派出所は異界【浦野牧】への出入口という部分を重視しており、周囲の霊能情報交換の場とか【ガイア連合】メンバー限定の宿泊施設とか、そういうものは副次的という扱いだ。だから派出所というハコにあまり金を掛けていない。いや、うちの
「方向性の違いという奴ではないのか? しょげていないで、ほれ、行くぞ」
鬼女紅葉に発破をかけられて、魚沼派出所の中に入る。中を見回したが、地元霊能組織へのアイテム販売・レンタルという部分はうちも負けてないようで安心した…… いや、販売している属性弾(冷凍弾)の充実っぷりは完敗だわ。状態異常解除のアイテムはこっちが勝っているけど、攻撃は最大の防御という言葉があるように、状態異常解除アイテムは売れ筋じゃないからね…… くそぅ、負けっぱなしじゃ先輩のメンツが立たないじゃないか!
「すいません、ダンジョンアタックを予約している平田惟茂一行です!」
勝手に勝負を吹っかけて勝手に負けた気になっているうちに、<ヒメ>が受付嬢に声をかけていた。鬼女紅葉は俺の百面相を眺めてにやにやしていたが、ポンと俺の背中を軽く叩いて<ヒメ>の方へと向かっていく。そうだな、気持ちを切り替えないと。
*
俺達が異界【黄泉比良坂】に潜る目的だが、あの世との境界である大岩(千曳の岩)に触れて帰還することだ。『黄泉道からこの世に戻ってくる』という逸話を再現することで霊的経験を得られるし、オカルトなんてぶっちゃけ概念バトルなので、屁理屈でもいいから『死なずに生き返る』という経験をしたことが重要なのだ。
「そういう意味だと、長野市の善光寺にあるお戒壇巡りも同じような意味ですけどね。オカルトの霊的強度はこちらが段違いですけど」
「お戒壇巡りは確か、善光寺の地下に灯りのない回廊があり、その奥にあるご本尊と繋がった『極楽の錠前』に触れることでご利益があるという」
「そうです。真っ暗闇を進んであの世への一端に触れ、また現世へ帰ってくる
今回の異界探索には、九重静さんという女性が道案内として同行してくれることになった。
異界【黄泉比良坂】はショタオジとキクリヒメの二重結界により黄泉とはきっちり区切られており、低級の【餓鬼】が出てくるだけの初心者用異界となっている。俺は【ガイア連合】派出所の管理者として準幹部扱いされる程度にはレベルがあるのでこの異界を踏破するのに障害はない、彼女は道案内というよりは結界に悪戯しないよう見張るお目付け役なのだろう。
こちらとしては派出所運営について色々聞きたいのでとにかく話しかけたいのだが、ナンパと思われて不審がられたら逆効果だし、そもそも初心者用ではあっても異界内で気を抜いてお喋りなんてできないので、話しかけるタイミングが難しい。
そうこうしているうちに、千曳の岩に到着した。いやー、ショタオジとキクリヒメの二重結界は見事だね、これだけでも一見の価値あり。
「このままトンボ返りせずに、一休みしよう」
持ち込んだ荷物から封魔の鈴*6を取り出す。俺がLv30越えなので、一時的とはいえ初心者用異界なら完全に敵を出現させないようにできる。
ついでに荷物からレジャーシートを取り出して広げ、ちょっとピクニック気分。
「念のため持ち込んだけど使わなそうだし、持ち帰っても仕方ないからここで食べちゃおうか」
旬の時期から外れている*7ので高くついたが、桃の実を持ち込んでいたのだ。【黄泉比良坂】なら退魔アイテムとして通用するし、季節外れの果物が高くつくといっても退魔アイテムとして見るなら格安で入手できる。
「そう言えば、この異界には桃の木は植えないのですか? 黄泉比良坂の中で桃の実が生ることはイザナミ・イザナギ神話で語られており、ここの祭神キクリヒメは地母神の性質も持つ。桃栽培は勝算ありますよね?」
「……新潟では、異界内農業は米と酒を中心としており*8、果樹栽培は優先度が低いのですが、検討の余地はありますね」
「長野県は桃・葡萄・林檎などの栽培も盛んなので、異界内農業では負けたくないけど、神話補正には勝てないかなー」
九重さんの様子をうかがうが、こちらに悪感情は持っていないようだ。よし、楽しく話せたな!*9
今なら魚沼派出所のノウハウとか聞き出せるか?
*
異界【黄泉比良坂】から脱出するまでに九重さんとある程度の話はできたのだが、彼女が言うには『人員が少なすぎる』とのこと。
「平田様が味方につけた地元霊能組織が、宮下父娘の二名だけというのは少なすぎです。馬背神社にはタケミナタカ神が合祀されているのだから、タケミナタカ神を主神とする諏訪大社系の組織から積極的に登用しましょう」
「あいつらプライドだけ高くて役立たない上に、色仕掛けばかりするから扱いに困ってるんだ」
「それはこちらに従うことで利があることを明確に示すことでコントロールできます。九重家では、最近採掘できるようになった石油利権や、シェルター・結界・街道などの建設で魚沼周辺の都市計画にまで食い込み*10、表の世界でも発言権を増やしましたが……」
「うちは異界【浦野牧】の発展が主軸だからあまり地域に資本投下してないし、表の発言権は宮下のおじさんが市会議員やってるくらいか」
「碧神様はガイア連合の【掲示板】を使って積極的に他の【能力者】と交流し、人手を集めて新潟全域を飛び回っていますが……」
「うちは上田市の西側を中心にした地域密着型で細々やってるだけだな」
「それは人数が少なすぎて、細々やらざるを得ない状態になっているだけです。Lv30越えの【黒札】が上田市限定とか、勿体なさすぎです。牛刀を持って鶏を割くに等しい」
「いやまぁ、人には向き不向きがあるから。俺はそんな大規模組織の音頭なんか取れないよ」
「平田様は【浦野牧】を大規模シェルターとして、いざというときには一般人を引き込んで農業させると仰いましたが、何人くらいを想定されていますか?」
「一万人くらいは収容して食わせていける」
「その一万人、収容した後に統制取れますか? 平田様含めて3人しかいないんですよね?」
「……無理です」
「断言します、その一万人は内乱で相当数が死にます。平田様にとっても不本意な結果になるだけかと」
「アッハイ」
「宮下市会議員に交渉を任せるにせよ、とにかく人を増やすことは急務と考えます」
「ソウデスネ」
正論パンチが痛いよ! 泣きそう!*11
「くくっ、言われっぱなしではないか、大の
味方のはずの鬼女紅葉まで! 俺の味方は<ヒメ>だけなのか?!
「私は組織運営など難しいことは分かりませんから、主様の役には立てそうもありません」
<ヒメ>も駄目だ、四面楚歌とはこのことか。
「其方のカリスマでは十人余を率いるがせいぜいよ、だがその十人がそれぞれ子分を率いる形ならば、其方が百人万人も率いると同じになろう」
「そのような組織形態もありですね」
「それが手っ取り早いからと其方が毎回出しゃばるのではなく、大したことがない仕事は【ガイア連合】の品を融通する形で地元霊能組織に恩と利を与える方針に切り替えるべきじゃ」
紅葉さん、助け舟を出すにせよもっと優しくですね…… ああ元から鬼だったな。
*
異界【黄泉比良坂】の探索は、俺が心にダメージを負った以外は無事に終了した。
属性弾の補充もできたし、田舎ニキこと碧神凍矢君もトラポート移動できるのでダンジョンアタックの助っ人依頼はスケジュール都合という点ではハードルが低いことも分かった。
王子塚古墳のダンジョン攻略は、下調べとして自分たちだけで一回潜って、ボス戦になりそうだったら助っ人依頼すれば良い。
そう考えればまあ、今回は実りある探索だったと言って良いのかも。
「あー、この心の傷は重傷だなー、帰ったら<ヒメ>に癒してもらわないと(棒読み)」
「もう、主様のエッチ!」
そういえばエッチ繋がりで思い出したけど、ミナミィネキがスケベ部の新・名誉顧問だとブーストニキ*12のこと褒めてたんだよな。
俺もスキルカード作成の技術について興味あるし、そのうち接触して教えてもらいたいな。(※ 平田君はアイテム作成の才能がそれほど高くないのでスキルカード統合は覚えません)