【カオ転三次】マイナー地方神と契約した男の話   作:れべっか

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Ex15 ロキ襲来

いつも通り、異界『浦野牧』の開拓に勤しんでいたところ、異界の主である馬背神から緊急通信が発せられた。

 

『メーデーメーデー、異界を乗っ取らんとする不埒な侵略者現る! 援軍求む!』

「ちっ、武器も防具もまともに用意してないが、どうする?」

「主様、いざとなればわたくしの拳で粉砕いたしますわ! 急ぎましょう!」

「分かった、<ヒメ>の判断を信じよう。行くぞ!」

 

俺専用の【黒札用高級式神】である<ヒメ>は、霊界通信をした結果この異界の主である馬背神と繋がり、今では馬背神の分霊でもある。

<ヒメ>なら俺より詳しい状況が分かるだろうから、装備の準備に時間をかけるより現場に急行すると判断したことに異存はない。

【ガイア連合】の黒札が管理する異界に攻撃を仕掛けるなど、ガイア連合そのものに喧嘩を売るに等しい。【多神連合】など情勢が理解できる悪魔ではなく、力はあるが知能の足りない悪魔が攻めてきたのだろう。

そう、このときの俺は楽観視していた。

 

*

 

「え?! ロキ?!」

 

敵対者は八本脚の馬(スレイプニル)を従えた、半獣半人の女性型悪魔だった。馬の耳と尻尾を生やした裸マントの肉感的な美女、これはロリショタニキから話に聞いた*1ことがある。

 

「ロリショタニキのところで引き取るに当たり、ガチガチに契約で縛った*2と聞いたけど……」

「ふふ、あちらとは違う分霊なのでな、あちらの契約には縛られぬ」

 

挑発的な笑みを浮かべペロリと舌で唇を舐める。そのロキの仕草がやけに蠱惑的に感じられ、雰囲気に飲み込まれないよう必死で声を張り上げる。

 

「異界を奪わんとする侵入者には、負けないっ!」

「強がりが透けて見えるぞ、素直に撤退するなら見逃してやろう。この異界は馬産に適した地、私と相性が良い故に争って荒らしたくない」

「冗談じゃありませんわ、一度ならず二度までも異界の主の座を追われたとあっては、馬背神(わたしたち)の面子が立ちません!」

 

<ヒメ>もいつになくヒートアップしている。今にもロキに殴りかかろうとしているのを俺が必死に押さえているが、正直いつ暴発するか分からない。

 

『不味いな…… パッと見でLv40前後の高位分霊*3、ろくな装備もなく勝てる相手じゃないぞ』

『不味いな…… こやつら弱すぎる』

 

実はこのとき、ロキも同じようなことを考えていた。

ロキとしても【黒札】が管理している異界を力づくで奪うのはガイア連合に喧嘩を売ることになるので、それはよろしくないと理解していた。ロキは黒札に喧嘩を売って暴れるも返り討ちにあう筋書きを準備しており、敗北後に降伏して配下になることでこの異界に定着する第一歩とするつもりだった。ロリショタニキのところと同様に、がちがちに契約で縛られてでもこの地に根付く自信があった。

しかし、ロキが見積もっていたよりも馬ニキは弱かった。鷹村はるかや田舎ニキの半分ほどしかレベルがなく、その上まともな装備なしで接敵するとは蛮勇を通り越して無謀である。更に、馬背神が一度異界のボスの座を追われたことがあり、面子として二度目の撤退が許されないのもロキにとって逆風である。

 

『黒札に勝つは悪手、しかし負けるにしてもあからさまな手抜きでは疑念を持たれる。口八丁手八丁でほどほどの落としどころを作れまいか?』

 

トリックスターとしての権能で何とか丸め込むことはできないか。内心の焦りを誤魔化すために作り笑いを浮かべるロキだが、笑顔がまるで牙を剝くかのようなプレッシャーとして襲い掛かる。その圧に負けたのか、<ヒメ>が暴発した。

 

「悪霊退散! ですわーーっ! 超!プリンセス☆パーンチ!」

 

『あ、終わった……』

『あ、終わった……』

 

まともに戦えばロキが勝つと共通認識していた馬ニキとロキの内心がシンクロしたことなど露知らず、<ヒメ>の渾身の拳がロキのボディに突き刺さる。

その結果は、ダメージを与える有効打ではあるが、大ダメージというほどではなかった。

 

「北欧神話の大物を悪霊呼ばわりした割には、さほどでもない。この身の程知らずめ!」

 

身動きせずにわざと一撃を喰らったのは、実力差を知らしめるため。ロキはそのように振舞い、<ヒメ>を無視して馬ニキをターゲットと定めた。

 

「サモナー狙いとは面倒くさいが、<ヒメ>の攻撃は通る! <アグネス>は【スクカジャ】を俺に、紅葉は壁になってくれ!」

 

ロキは<ヒメ>の攻撃を意に介さず、全体攻撃も使わずに*4執拗に馬ニキだけを狙う。馬ニキはロキの攻撃を喰らって大幅にHPを減らすが【ディアラハン】で耐え、ときに道敷大神の【リカーム】で瀕死状態から復活し、馬ニキが粘っているうちに<ヒメ>が少しずつロキを削っていくという泥沼の戦いを繰り広げる。

 

*

 

「これが最後の【リカーム】じゃ、大事に使え!」

 

MP切れになった道敷大神が俺を守るようにロキの攻撃を受け、行動不能となる。既に鬼女紅葉とコカクチョウ<アグネス>も俺の盾となって戦闘脱落しており、半死半生の俺と、威勢は良いが空元気なのがばればれの<ヒメ>の2人だけになる。

ロキも<ヒメ>の攻撃を喰らってそれなりに削れており、概算で残りHP30%というところだろう。とはいえその残り30%が果てしなく遠い。

 

「うぅ…… 立て続けの【リカーム】は気持ち悪い……」

 

これが一番効率良いと某黒札が推奨する方法だけあって、瀕死状態から復活するたびに死にたくないと悲鳴を上げる魂が周囲の【マグ】を無理やり吸収しようとしているのが自覚できる。とはいえ漫画のように戦闘中にパワーアップというということもないのだが。

しかも吸収した【マグ】にはロキ由来のものも含まれている。<ヒメ>の攻撃で削れたものが周辺の空気に溶けているのだろう。<ヒメ>や鬼女紅葉など使役している仲魔の【マグ】なら日ごろから慣れ親しんでいるので気にならないが、敵として戦っているロキの【マグ】はやけに鼻につく。

単に悪魔と戦闘して自身が成長(レベルアップ)するだけでは、こんなに濃密に悪魔の【マグ】が身に沁み込む感じはしない。やはり生と死の間を反復横跳びしている今の状態だと魂と肉体の結びつきが緩んでおり、魂が【マグ】の影響を受けやすいのだろう。

 

「あ、これ、臨死体験による【覚醒】と同じプロセスだ」

 

魂がロキ由来の【マグ】に汚染されることで幻覚が脳裏に浮かぶ。もしかして俺は、前世がロキだったのでは?

いや、そんなことはない。何かおかしい、なぜロキの【マグ】だけこんなに染み入るんだ。

 

「────ああ、そうか」

 

ロキと視線が合った。心身に沁み込んだロキの【マグ】が、彼女の意図を教えてくれる。

そうか、そうだったのか、ゲッター線とは…… おっと、違うものが混信したかな?

ともかく、ロキの書いた筋書き(ブック)に従って、彼女とプロレスしなくては。ここで俺達が敗北するのはお互いに都合が悪い、しかしロキとしても格を落とさない負け方が必要、でも俺達はぼろぼろの敗北寸前。ここからどうやって逆転もしくは相打ちという結末に持ち込む?

 

そうだ、ロキがこの異界に攻め込んできたとき、スレイプニルを連れていたじゃないか。今までロキが優勢だったからわざと戦闘に加えずに控えさせていたけど、馬背神が同じ馬という縁でスレイプニルを説得・使役して土壇場でロキを裏切るという形なら何とかなるか?

 

『──というわけで、この案はどうでしょう?』

『ふむ、急ごしらえではあるが、これ以上の案はこちらも出せない。よかろう』

 

「<ヒメ>! 【食いしばり】で耐える前提の、一か八かで【チャージ】からのプリンセス☆パンチだ!」

 

スレイプニルが乱入して場を掻きまわしてくれるので、それに合わせてアリバイ工作の指示を出す。

 

『そうそう、あのスレイプニルはこの牧場で末永く可愛がっておくれ』

『もちろんです、強敵撃退の功労者を下に置くことはしません』

『ならばよし。……こうして私と思念通話ができるほどに私の【マグ】も馴染んだようだな、ではこの茶番も幕引きとしようか』

 

「そのような破れかぶれの大博打など、私が食い破るだけの価値もない。スレイプニル、踏みつぶせ。……スレイプニル? あーっ?!」

「今だ! <ヒメ>!」

「これが最後のぉーっ! 超! プリンセス☆パァーンチッ!!」

 

スレイプニルの意図せぬ動きで意識を逸らしたロキの無防備なボディに、<ヒメ>のとっておきの拳が突き刺さる。

これには堪らず、ロキも膝をついた。

 

「おのれ、最後の最後で身内に裏切られるとは…… いや、切り崩したそちらの手腕を褒めるべきか。此度はこちらの負けとしてやろう」

 

ロキは負けを認め、分霊という意志ある【マグ】の集合体から単なる【マグ】の塊に変じ、そのボディは空に溶けて消えていく。

 

「か、勝ちましたわーっ! 主様! やりました!」

「ああ、今までで一番の苦戦だったかもな……」

 

ロキだったものの【マグ】が形を失い、この異界の一部となる。その光景を俺はぼんやりと見ていた。

 

*

 

難敵(ロキ)を下したがこちらの疲労も甚だしく、祝勝会などは行わずに大人しく寝ることにしたその日の夜。

俺は夢の中でロキと再会していた。

 

「私の【マグ】を吸って魂が変質したから、そなたの前世は私が乗っ取ったと言っても過言ではない」

「あー、やはりそうですか」

「とはいえそなたの自我に強い影響を与えるほどではないのも事実。私は残滓でしかなく、このままではそなたの内で眠ったまま、いつしか溶けて同一化して消えていくだろう。そなたが積極的に私との縁を活用するなら話は別だが」

「すいません、大人しく眠っていてください。俺は馬背神の信徒という立場を崩すつもりはありません」

「つまらん男よのう、せっかくの黒札という立場、もっと勝手気ままに振舞っても良いのだぞ。田舎ニキとはライバルではなかったのか、このままでは差は埋まらないぞ」

「……もっと強くなりたいと、今回の件で痛感しましたよ。でも立場ってもんがあって戦闘一辺倒ともいきません」

「大いに悩むが好い、若人の特権ぞ。基本的には見守るだけだが、呼びかけるなら応じよう。では、またな(・・・)

 

そういうとロキは俺の中に吸い込まれるように消えていった。

 

*

 

・・・魔界悪魔用掲示板・・・

 

423:名無しの神

それなりに高位の分霊を一つ使い潰したが、ガイア連合の黒札にがっつり食い込んでやったぜ。

 

424:名無しの神

>423

豚神が加護を渡して半殺しにあった事例があったな、どうやって掻い潜ったのか興味ある。

 

425:名無しの神

>423

マジで? やり方教えて

 

426:423

>425

頭が高い、平伏して教えを乞うべき

*1
なろう系な俺たち 孤児院経営物の俺たち その8

*2
なろう系な俺たち オマケ メス堕ちロキ襲来 のその後

*3
真5の魔神ロキはLV56

*4
真5の魔神ロキは【マハブフダイン】を使う

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